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旅籠編
981.煌鴟梟のアジト
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準備を整えたユウゲはイツキから言い渡された任務を遂行する為、本当に夜の内にケイノトを出る事となった。イツキが退魔組の事は何も心配はいらないと告げた以上、ユウゲはサテツの追求等もされなくて済むだろう。
そんな心配はイツキがあの笑みを浮かべて送り出した時からしていないユウゲではあったが、少し複雑な思いをしなが『煌鴟梟』のアジトへ向けて歩いていた。
「しかし本当にこの辺に限らず、妖魔の出現が増えたな……」
ケイノトからアジトまではそこまで遠くは無い距離にあるが、それでもすでにユウゲは三度程に渡って妖魔に襲われていた。
『特別退魔士』であるユウゲにとって、この辺のランク『外』やランク『1』の妖魔にいくら襲われようとも何も脅威を感じはしないが、それでも煩わしさは感じてしまう。
所謂『妖魔団の乱』以降『妖魔山』はおろか人気の少ない場所には、必ずといっていい程に妖魔が蔓延っている。
今はまだ町の中や旅籠のような宿場を狙って来ることは少ないが、それでも今後はどうなっていくかは分からない。
すでに妖魔召士と袂を分かつ事となった『妖魔退魔師』の組織は『予備群』と呼ばれるうちのような『退魔組』のような存在を各町に護衛隊と称して派遣を行う稼業も仕事として成立してきている。
あれだけ大きな組織となっている以上、運営していく為には金子の問題は避けられない事だが、時代は変わったものだなとユウゲは溜息を吐きながら道を歩いて行く。
やがて完全に日が上る頃、煌鴟梟のアジトにユウゲは到着した。
その『煌鴟梟』のアジトの場所は、ケイノトから道なりに進んだ後、森をいくつか抜けた先の辺鄙な所にあった。
ぽつんと僻地に建つ『煌鴟梟』のアジトは、何の手入れもされていない施設の廃墟のような場所であった。
アジトの周りは何もなく広大な道が続いているだけであり、ユウゲが来た方向と反対方向の道も地平線が広がっている。ゲンロクの居る里から南下してぐるりと一周するように反対方面からここに向かってくるならば『旅籠町』などに辿り着けるだろうが、盆地地帯を抜けて来なければならない為、わざわざ危険を冒してまでここを目的としてくる者は居ないだろう。
そしてユウゲが来た方向からも森を経由して来なければならない為、妖魔が増加している現在では、近くに旅籠も町もないこんな辺境にある場所に、わざわざ足を運んでくる者は居ない。明確な目的がなければ、ここに辿り着く事はないだろう。
周囲に何もなく、山や森に囲まれた広大な地である為、まさに『煌鴟梟』のような組織にはうってつけのアジトであるといえる。
普段から誰も来ない為か、それとも下手に見張りなど用意している方が不自然な為なのか、ユウゲには分からないが、施設の入り口には誰も立っている様子もなく、単に門扉があるだけだった。
「いや、これは『妖魔召士』クラスの結界が張られているな……」
どうやら門の前に誰も立っていない理由は、この結界に全幅の信頼がおかれているからだったのだろう。
少しの間、逡巡するように考えていたユウゲだったが、仕方無く何かをぽつりぽつりと呟きながら目を『青く』させた。
すると次の瞬間には『結界』が最初からなかったかのように消えていく。
どうやら『青い目』と彼の『捉術』を使って結界を解除した様子であった。
(何とかなったが、俺でぎりぎり解除が出来る程の物か)
『妖魔召士』が張ったかと思える程のレベルの結界ではあったが、この施設は煌鴟梟のものである為、結界は当然『妖魔召士』が張った物ではない。
つまりこの『煌鴟梟』に属する誰かが張った結界なのだろうが、相当に魔力に自信がある者が張った結界なのだろう。
ユウゲもまた『特別退魔士』に選ばれる程の魔力量を有している。しかしそれでもギリギリだった為、結界を解除出来てほっとするのであった。
ここまで来て『結界が解除出来なかったので戻って参りました』とイツキに報告に戻っていれば、最悪殺されてしまっても文句は言えない。
「やれやれ……。俺は結界を壊す事が出来ても張り直すのは苦手なのだがな」
帰りにも代わりとなる結界を張らなければならないなと、そう考えながらユウゲは門扉の引き戸を開けて中へと足を踏み入れるのであった。
門扉の中は大きな庭となっており、玄関までの間に大きな池があった。
ユウゲはその池の前まで歩いていき、小さな橋の前で足を止めて辺りを見回した。
「ここが『煌鴟梟』のアジトだと知る者でもなければ、無人の廃墟にしか思えないだろうな」
池を渡す橋の前でそう呟いていたが、やがて視線をあげて橋を渡る。
そしてそのまま中庭を歩いて『煌鴟梟』のアジトの玄関前に向かうと、そこで中から数人の男が出て来た。
「何だお前は? ここをどこだと思っている」
男たちは勝手にアジトの中庭に入って来た『ユウゲ』を見ながら侵入者だと判断したのだろう。各々の男たちの手には他者を傷つける為の道具を持ってユウゲの居る場所の前に現れると、そのまま今度は背後にも気配が感じられた。
ユウゲが振り返ると何処から現れたのかいつの間にやら、先程まで池の様子を眺めていた橋の前に、別の男たちが現れる。ユウゲは中庭の真ん中で、逃げ場所を失って立ち尽くす。
(どうやらずっと監視されていたわけか……)
「『煌鴟梟』の先代ボスから言伝を預かって来ている。ミヤジ殿かサノスケ殿を呼んでくれないか?」
「な、何だって?」
ユウゲが『煌鴟梟』の組員達に囲まれている中でも何一つ臆することなく、堂々とした態度でそう告げると、男たちは互いに顔を見合わせるのであった。
……
……
……
そんな心配はイツキがあの笑みを浮かべて送り出した時からしていないユウゲではあったが、少し複雑な思いをしなが『煌鴟梟』のアジトへ向けて歩いていた。
「しかし本当にこの辺に限らず、妖魔の出現が増えたな……」
ケイノトからアジトまではそこまで遠くは無い距離にあるが、それでもすでにユウゲは三度程に渡って妖魔に襲われていた。
『特別退魔士』であるユウゲにとって、この辺のランク『外』やランク『1』の妖魔にいくら襲われようとも何も脅威を感じはしないが、それでも煩わしさは感じてしまう。
所謂『妖魔団の乱』以降『妖魔山』はおろか人気の少ない場所には、必ずといっていい程に妖魔が蔓延っている。
今はまだ町の中や旅籠のような宿場を狙って来ることは少ないが、それでも今後はどうなっていくかは分からない。
すでに妖魔召士と袂を分かつ事となった『妖魔退魔師』の組織は『予備群』と呼ばれるうちのような『退魔組』のような存在を各町に護衛隊と称して派遣を行う稼業も仕事として成立してきている。
あれだけ大きな組織となっている以上、運営していく為には金子の問題は避けられない事だが、時代は変わったものだなとユウゲは溜息を吐きながら道を歩いて行く。
やがて完全に日が上る頃、煌鴟梟のアジトにユウゲは到着した。
その『煌鴟梟』のアジトの場所は、ケイノトから道なりに進んだ後、森をいくつか抜けた先の辺鄙な所にあった。
ぽつんと僻地に建つ『煌鴟梟』のアジトは、何の手入れもされていない施設の廃墟のような場所であった。
アジトの周りは何もなく広大な道が続いているだけであり、ユウゲが来た方向と反対方向の道も地平線が広がっている。ゲンロクの居る里から南下してぐるりと一周するように反対方面からここに向かってくるならば『旅籠町』などに辿り着けるだろうが、盆地地帯を抜けて来なければならない為、わざわざ危険を冒してまでここを目的としてくる者は居ないだろう。
そしてユウゲが来た方向からも森を経由して来なければならない為、妖魔が増加している現在では、近くに旅籠も町もないこんな辺境にある場所に、わざわざ足を運んでくる者は居ない。明確な目的がなければ、ここに辿り着く事はないだろう。
周囲に何もなく、山や森に囲まれた広大な地である為、まさに『煌鴟梟』のような組織にはうってつけのアジトであるといえる。
普段から誰も来ない為か、それとも下手に見張りなど用意している方が不自然な為なのか、ユウゲには分からないが、施設の入り口には誰も立っている様子もなく、単に門扉があるだけだった。
「いや、これは『妖魔召士』クラスの結界が張られているな……」
どうやら門の前に誰も立っていない理由は、この結界に全幅の信頼がおかれているからだったのだろう。
少しの間、逡巡するように考えていたユウゲだったが、仕方無く何かをぽつりぽつりと呟きながら目を『青く』させた。
すると次の瞬間には『結界』が最初からなかったかのように消えていく。
どうやら『青い目』と彼の『捉術』を使って結界を解除した様子であった。
(何とかなったが、俺でぎりぎり解除が出来る程の物か)
『妖魔召士』が張ったかと思える程のレベルの結界ではあったが、この施設は煌鴟梟のものである為、結界は当然『妖魔召士』が張った物ではない。
つまりこの『煌鴟梟』に属する誰かが張った結界なのだろうが、相当に魔力に自信がある者が張った結界なのだろう。
ユウゲもまた『特別退魔士』に選ばれる程の魔力量を有している。しかしそれでもギリギリだった為、結界を解除出来てほっとするのであった。
ここまで来て『結界が解除出来なかったので戻って参りました』とイツキに報告に戻っていれば、最悪殺されてしまっても文句は言えない。
「やれやれ……。俺は結界を壊す事が出来ても張り直すのは苦手なのだがな」
帰りにも代わりとなる結界を張らなければならないなと、そう考えながらユウゲは門扉の引き戸を開けて中へと足を踏み入れるのであった。
門扉の中は大きな庭となっており、玄関までの間に大きな池があった。
ユウゲはその池の前まで歩いていき、小さな橋の前で足を止めて辺りを見回した。
「ここが『煌鴟梟』のアジトだと知る者でもなければ、無人の廃墟にしか思えないだろうな」
池を渡す橋の前でそう呟いていたが、やがて視線をあげて橋を渡る。
そしてそのまま中庭を歩いて『煌鴟梟』のアジトの玄関前に向かうと、そこで中から数人の男が出て来た。
「何だお前は? ここをどこだと思っている」
男たちは勝手にアジトの中庭に入って来た『ユウゲ』を見ながら侵入者だと判断したのだろう。各々の男たちの手には他者を傷つける為の道具を持ってユウゲの居る場所の前に現れると、そのまま今度は背後にも気配が感じられた。
ユウゲが振り返ると何処から現れたのかいつの間にやら、先程まで池の様子を眺めていた橋の前に、別の男たちが現れる。ユウゲは中庭の真ん中で、逃げ場所を失って立ち尽くす。
(どうやらずっと監視されていたわけか……)
「『煌鴟梟』の先代ボスから言伝を預かって来ている。ミヤジ殿かサノスケ殿を呼んでくれないか?」
「な、何だって?」
ユウゲが『煌鴟梟』の組員達に囲まれている中でも何一つ臆することなく、堂々とした態度でそう告げると、男たちは互いに顔を見合わせるのであった。
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