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旅籠編

970.無茶苦茶

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 セルバスに操られた男は虚ろな目を浮かべながら、フラフラとしながらも命令通りに、アジトの方へと向かって歩いて行く。

 このまま行けばソフィ達にアジトの場所を知られてしまうだろうが、セルバスはもう『煌鴟梟こうしきょう』の事などどうでも良くなっていた。

 体力の回復を待つ間はこの世界でゆっくりと過ごすつもりだったが、今の彼はもうそんな悠長な事をするつもりは無くなっており、一刻も早くこの世界から離れて教団の仲間達の元へと向かうつもりであった。

 アレルバレルの世界では自分を屠ったリーシャや他の九大魔王達も居たが、その魔王達に引けを取らないハワードや、ルビリス殿に『神の力』を手になされたミラ様も居る以上、もう今頃は全てが片付いている筈である。

 自分だけが情けなくも『代替身体だいたいしんたい』の身となってしまうが、このままここに居れば、存在そのものが消されかねない。

 まだ仲間達にイジられようとも、このままこの世界に居て殺されるよりはマシである。 

(何故この化け物とヌーが共に行動をしているかは分からないが、この世界に大魔王ソフィが居る事を一刻も早くミラ様にお伝えをしなければ)

 セルバスはそう考えた後『煌鴟梟こうしきょう』のアジトへ向かっていく男の反対方向、旅籠町の近くまで戻ってから『アレルバレル』の世界へ戻ろうと考えていた。

 そしてセルバスがゆっくりと行動を開始しようとした瞬間、まるでその行動を予見していたかのように、突然『ヌー』はこちらを振り向いたかと思うと何やら魔力を高め始めた。

(なっ!?)

 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。

 セルバスが居る方角の前方の道が突如、ヌーが放った魔法によって爆発を引き起こした。どうやら威力自体は大したことは無く、殺傷能力も無いような程度であったが砂煙が巻き起こり、辺り一面が砂塵に包まれる。

 しかしそこでヌーの行動は止まらなかった。むしろそこからが『セルバス』にとっての地獄の始まりであった。


! ! 離れやがれ!!)

 ヌーは言葉は短いが『念話テレパシー』を二人の波長に合わせてその後すぐに視線を空へと向けた。

 ただそれだけで両者はヌーの視線の意味を悟り、次の瞬間には照らし合わせたかのように、上空に向けて飛翔する。

 ――神域魔法、『禍々崩オミナス・コラップス』。

 ソフィ達が上空へ飛び上がったのを見計らい、ヌーは直ぐ様続けて汚染魔法である『禍々崩オミナス・コラップス』を放ち始めた。

 既に先程の大魔法『万物の爆発ビッグバン』を放つ瞬間に『禍々崩オミナス・コラップス』の『スタック』も同時に行っていたのだろう。

 まさに一瞬と呼べる時間で『アレルバレル』の世界の『ことわり』が描かれた魔法陣が出現して、そのまま高速回転を始めたかと思えば、直ぐに魔法は発動された。

 まだ周囲が砂塵に包まれて見えない中、空気が汚染されていき、辺り一面が気持ちの悪い色へと変わっていく。

(くっ、くそっ……!! 一体何が起きていやがるんだ!?)

 『万物の爆発ビッグバン』の所為で砂煙や爆撃音が鳴り響いて、セルバスは視界や聴覚を狂わされて、辺りの確認が出来ていない。

 そして次の瞬間には、汚染された空気を思いきり吸い込んでしまう。

「うっ……!! ぐぁああっっ……!!」

 『セルバス』は激しい嘔吐感に襲われて口元を押さえながらその場に蹲る。耳はヌーの超越魔法によってまだ耳鳴りが続いており、一体何が起きているのか『セルバス』は分からないままに苦しみ始める。

 そして次の瞬間には『隠幕ハイド・カーテン』を解除されて、セルバスはその場に姿を現す。

「どうやら

 先程旅籠町に居た長身の魔族が地面に蹲っている姿を見て、ヌーはにやりと笑いながらそう口にするのであった。

 …………

 舞い上がっていた砂煙が落ち着き、上空に居るソフィ達も地面に手をついて苦しんでいる魔族の姿が視界に収められた。

「本当にあやつは、無茶苦茶な事をする奴だ」

「――」(本当にアイツは、平気で無茶苦茶な事をやるよねぇ)

 ソフィとテアは互いに言語が分からず、瞬時には意思の疎通が出来ていなかったが、互いに全く同じような言葉を同時に口にするのであった。
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