975 / 1,906
旅籠編
960.ヌーの呆れと、気になる言葉
しおりを挟む
「まぁアイツが魔族だってんならよ、逆にやりやすいな」
旅籠町の出口まで歩いて行く彼らを見ながらヌーがそう言うと、ソフィも同意するように頷く。
「奴の魔力はもう覚えた。後はこのまま気づかれぬように尾行を行って奴らのアジトとやらについて行くだけなのだがな」
「どうするんだよ? てめぇは『隠幕』が使えねぇし、このまま出て行ってもう直接アイツを洗脳させて案内するしかねぇか?」
ソフィが『隠幕』を使えないというのを強調するかのように言葉に出しながら、ニヤニヤとソフィをからかうように笑うヌーを無視して、ソフィは悩む素振りを見せる。
「ひとまずは、コウゾウ殿と合流しよう。もうあやつらは、何処へ行っても分かる事だろうしな」
「お前、本気で言っているのか?」
しかしそこで揶揄うように笑っていたヌーは真顔になりながらソフィに、こいつは正気かと疑うような視線を向けて来るのだった。
今回は揶揄っているワケでは無く、心配するような口調に変わったヌーに、ソフィは首を傾げながら本当に分からないといった視線をヌーに向けると、ヌーは眉を寄せながら溜息を吐いた。
「今ハッキリと分かった事があるんだがな」
「む?」
何やらソフィに向けるヌーの視線が少し侮るように変わった為に、あまり良くない事を言われそうだと身構えるソフィであった。
「お前はあれだ。先を見渡す能力は必要以上にありやがるようだが、一度見渡した視界に特質すべき事は無いと判断した後は、もうその同じ視界の風景をそういうものだとして、その後の事は気にしやがらねぇ。つまりそういう固定観念に囚われる傾向にありやがるんだな」
「それは、どう言う事だ?」
ヌーは長年の疑問をソフィに抱いていたが、ここにきて一緒に行動をするようになって、何やら明確に理解を示した様であった。
「まだ分からねぇのか? どうでもいい事にはすぐに気づく癖に、本当に自分に関係の無い事については機転が利かない野郎だな」
「……」
ヌーは先程までのように揶揄うでも無く、心底呆れるようにソフィを見た後、やがてソフィにも分かるように説明を始める。
「この世界に来た時に俺はお前に『次元防壁』やその他『時魔法』に比べたら『隠幕』は会得するのに簡単な魔法だと告げたな?」
「うむ。確かにお主は『隠幕』という新魔法は、覚えるのが容易いと言っておったな」
それはここ『ノックス』の世界に来た後、ヌーがソフィに向けて言った言葉である。
「まだ俺の言いたい事が伝わらねぇのか。さっきの野郎は『金色の目』を使っていたんだぞ?つまりあの野郎は最低でも『真なる魔王』から上の『大魔王』の領域ってわけだ」
「うむ。それはそうだろうが、それがどうしたのだ?」
ヌーは大きく溜息を吐きながら、もう諦めたような表情を浮かべる。
「『金色の目』を扱える者で、大魔王領域であるならば、当然、奴は『隠幕』も使えるかもしれないだろう? つまりこのまま奴の魔力を追えるからといって放置した場合、こちらの尾行に気づいた瞬間に『隠幕』を使われて、後を追えなくされる可能性があるってわけだ。悠長にお前が護衛隊のなんちゃらって野郎と合流している間に、奴を見失ってしまえば、いつ『隠幕』を使われて逃げられるか分からねぇだろうが」
つまりヌーがソフィに言いたかった事は、先程の男が魔族である事で『魔力』を持っており、そのまま追えるからといって、この場から離れた所に居るコウゾウの元へ悠長に行っている間に、今も遠ざかって行っている男から目を離せば、いつ魔族が『隠幕』を使って『煌鴟梟』の男もろとも姿を晦まされるか分からないだろうとヌーは、ソフィに説明したつもりだったのである。
「おお、なるほど! 先に奴の居場所を完全に突き止めろと、お主は言いたいわけだったか」
「そう言う事だ。俺が『隠幕』の話をお前に振った時点で普通は客観的に、あの野郎が『隠幕』を使って逃げるかもしれないってピンと来るもんだろうが、お前は自分が使えないから、完全にあの野郎が『隠幕』を使うっていう意識に辿り着かなかったんだろうよ」
ヌーがソフィに固定観念に囚われやすいと述べた理由がまさにこの事だったのだが、ようやくソフィは先程ヌーがその事を話していた理由に行き着いたようであった。
「成程、しかし回りくどすぎやしないか? もっと簡単に説明してくれたらいいだろう」
「ちっ、てめぇは本当に要領がいいのか、それとも悪いのか分からねぇ野郎だな」
ソフィもヌーも互いの顔を見ながら溜息を吐くのだった。
「――」(なぁなぁ。ヌー)
「何だよテア。いま俺はコイツに一から十まで説明して疲れてんだよ」
ヌーは舌打ちしながらもテアの言葉に耳を傾けるヌーであった。
「――」(悠長に話をしている間に、奴らの姿が見えなくなったぞ)
「どうしたのだ?」
「俺達が話している間に、奴らが行っちまったってよ」
「……」
「……」
ソフィとヌーは顔を見合わせた後、直ぐに同時に魔力探知を使って先程の魔族の位置を確認するのであった。
……
……
……
旅籠町の出口まで歩いて行く彼らを見ながらヌーがそう言うと、ソフィも同意するように頷く。
「奴の魔力はもう覚えた。後はこのまま気づかれぬように尾行を行って奴らのアジトとやらについて行くだけなのだがな」
「どうするんだよ? てめぇは『隠幕』が使えねぇし、このまま出て行ってもう直接アイツを洗脳させて案内するしかねぇか?」
ソフィが『隠幕』を使えないというのを強調するかのように言葉に出しながら、ニヤニヤとソフィをからかうように笑うヌーを無視して、ソフィは悩む素振りを見せる。
「ひとまずは、コウゾウ殿と合流しよう。もうあやつらは、何処へ行っても分かる事だろうしな」
「お前、本気で言っているのか?」
しかしそこで揶揄うように笑っていたヌーは真顔になりながらソフィに、こいつは正気かと疑うような視線を向けて来るのだった。
今回は揶揄っているワケでは無く、心配するような口調に変わったヌーに、ソフィは首を傾げながら本当に分からないといった視線をヌーに向けると、ヌーは眉を寄せながら溜息を吐いた。
「今ハッキリと分かった事があるんだがな」
「む?」
何やらソフィに向けるヌーの視線が少し侮るように変わった為に、あまり良くない事を言われそうだと身構えるソフィであった。
「お前はあれだ。先を見渡す能力は必要以上にありやがるようだが、一度見渡した視界に特質すべき事は無いと判断した後は、もうその同じ視界の風景をそういうものだとして、その後の事は気にしやがらねぇ。つまりそういう固定観念に囚われる傾向にありやがるんだな」
「それは、どう言う事だ?」
ヌーは長年の疑問をソフィに抱いていたが、ここにきて一緒に行動をするようになって、何やら明確に理解を示した様であった。
「まだ分からねぇのか? どうでもいい事にはすぐに気づく癖に、本当に自分に関係の無い事については機転が利かない野郎だな」
「……」
ヌーは先程までのように揶揄うでも無く、心底呆れるようにソフィを見た後、やがてソフィにも分かるように説明を始める。
「この世界に来た時に俺はお前に『次元防壁』やその他『時魔法』に比べたら『隠幕』は会得するのに簡単な魔法だと告げたな?」
「うむ。確かにお主は『隠幕』という新魔法は、覚えるのが容易いと言っておったな」
それはここ『ノックス』の世界に来た後、ヌーがソフィに向けて言った言葉である。
「まだ俺の言いたい事が伝わらねぇのか。さっきの野郎は『金色の目』を使っていたんだぞ?つまりあの野郎は最低でも『真なる魔王』から上の『大魔王』の領域ってわけだ」
「うむ。それはそうだろうが、それがどうしたのだ?」
ヌーは大きく溜息を吐きながら、もう諦めたような表情を浮かべる。
「『金色の目』を扱える者で、大魔王領域であるならば、当然、奴は『隠幕』も使えるかもしれないだろう? つまりこのまま奴の魔力を追えるからといって放置した場合、こちらの尾行に気づいた瞬間に『隠幕』を使われて、後を追えなくされる可能性があるってわけだ。悠長にお前が護衛隊のなんちゃらって野郎と合流している間に、奴を見失ってしまえば、いつ『隠幕』を使われて逃げられるか分からねぇだろうが」
つまりヌーがソフィに言いたかった事は、先程の男が魔族である事で『魔力』を持っており、そのまま追えるからといって、この場から離れた所に居るコウゾウの元へ悠長に行っている間に、今も遠ざかって行っている男から目を離せば、いつ魔族が『隠幕』を使って『煌鴟梟』の男もろとも姿を晦まされるか分からないだろうとヌーは、ソフィに説明したつもりだったのである。
「おお、なるほど! 先に奴の居場所を完全に突き止めろと、お主は言いたいわけだったか」
「そう言う事だ。俺が『隠幕』の話をお前に振った時点で普通は客観的に、あの野郎が『隠幕』を使って逃げるかもしれないってピンと来るもんだろうが、お前は自分が使えないから、完全にあの野郎が『隠幕』を使うっていう意識に辿り着かなかったんだろうよ」
ヌーがソフィに固定観念に囚われやすいと述べた理由がまさにこの事だったのだが、ようやくソフィは先程ヌーがその事を話していた理由に行き着いたようであった。
「成程、しかし回りくどすぎやしないか? もっと簡単に説明してくれたらいいだろう」
「ちっ、てめぇは本当に要領がいいのか、それとも悪いのか分からねぇ野郎だな」
ソフィもヌーも互いの顔を見ながら溜息を吐くのだった。
「――」(なぁなぁ。ヌー)
「何だよテア。いま俺はコイツに一から十まで説明して疲れてんだよ」
ヌーは舌打ちしながらもテアの言葉に耳を傾けるヌーであった。
「――」(悠長に話をしている間に、奴らの姿が見えなくなったぞ)
「どうしたのだ?」
「俺達が話している間に、奴らが行っちまったってよ」
「……」
「……」
ソフィとヌーは顔を見合わせた後、直ぐに同時に魔力探知を使って先程の魔族の位置を確認するのであった。
……
……
……
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる