974 / 1,906
旅籠編
959.魔瞳を使う男
しおりを挟む
セルバスがミヤジの酒場を出た頃、すでに釈放された『煌鴟梟』の男が旅籠町の裏通りに差し掛かる辺りで足を止めて立ち止まった後、そのまま周辺を見回し始める。
捕らえられていた男はこの辺に居れば『煌鴟梟』の仲間が、自分に声を掛けて来るだろうと判断したようであった。
当然コウゾウ達は、離れた場所からその様子を窺っていた。直接尾行をするような真似はしていないが、屯所の二階の窓やこの旅籠町全体の宿に護衛隊が潜んで見張っている。
『妖魔召士』や、ソフィ達のように相手の魔力を探る事が出来ない為、これまでもコウゾウ達はこのように『人海戦術』を用いているようであった。
確かに相手の魔力を測れなければ、ひとたび隠れられでもすれば探すのに苦労する事だろう。ソフィ達も屯所から出た後に、建物の陰に移動して男を見張っている。
『煌鴟梟』の者達が、男に接触をしてきたところを一目でも見て確認が出来れば、後はもう煌鴟梟の者達が逃げようとしても魔力を調べられるソフィ達であればどうにでもなる。
まだソフィ達を宿へと誘導してきたミヤジという男が『煌鴟梟』の者だと断定しているワケでは無いが、この場所に再び現れるようであれば、奴は間違いなく黒であろう。
そうなればもうミヤジを捕まえて『金色の目』でも使って操り、組織のアジトへと案内させて全員捕らえて護衛隊に突き出せばいい。
そう考えながら、男に接触する者達の出現を待つソフィ達であった。
…………
そして一人の長身の男が、捕らえられていた男の元に向かって来る。どうやら酔っぱらっているようで、覚束ない足取りでフラフラとしていた。
「あやつが『煌鴟梟』とかいう人攫い集団の男か?」
「まだそこまでは分からねぇが、あの男の顔をよく見てみろよ」
ヌーがソフィにそう言うと、ソフィも長身の酔っぱらいを注意して見てみる。視線の先のその男は捕らえられていた男を視界に入れるなり、ニヤニヤと男を見ながら笑っていた。嫌悪感を催すような笑みを浮かべたその男は、捕らえていた男の前で止まった。どうやら彼が『煌鴟梟』という組織の者達で間違いが無さそうであった。
ソフィが少し離れた場所で同じように、潜伏しているコウゾウの居る場所を一瞥すると、コウゾウもどうやら長身の男に気づいていたようで、ソフィの視線に対してコクリと頷いた。
まだ決定的な証拠が無いが、もう取り押さえても構わないかもしれないと、そういった思考がソフィの頭を過ったが、そこで驚く事が起きた。
――何と長身の酔っぱらいの目が、唐突に金色に輝いたのであった。
……
……
……
「ん? あいつ、かなり挙動不審な野郎だな……」
時は少し遡り、セルバスがミヤジの酒場から屯所へ向かう途中、裏通りから表通りに差し掛かる手前付近で、一人の男が何やら人を探しているような素振りを見せていた。
「あいつが捕らえられていた男か? 確か話では数人で行動していたと聞いていたが……」
ミヤジの話では確かに捕らえられた連中は、釈放をされたからといって、直ぐに潜伏先のミヤジの酒場や、サノスケの宿に直接来ることは禁じている為、この旅籠町ではちょうどあの男が居るあたりでウロウロしていろと伝えられていたようであったが、聞いていた人数が違っていたのである。
「時間差で一人ずつ釈放しているって事かもしれねぇな。まぁいいだろう。アイツを操って直接、聞き出せば言いだけの事だ」
セルバスはそう言って、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら男に近づいて行った。
「よう、てめぇが無様にも捕まったマヌケか?」
話し掛けられた男はどきりと驚きながらセルバスを見上げる。男も背が低くは無かったが、セルバスは男よりも数十センチ程高く、見上げなければいけない程の長身の男であった。
「お、お前は誰だ?」
「うるせぇよ、黙って俺の目を見やがれ」
――魔瞳、『金色の目』。
キィイインという甲高い音が辺りに響いたかと思うとセルバスは、目を金色に輝かせながら目の前の男と視線を合わせる。すると次の瞬間、男は虚ろな目を浮かべ始めるのであった。
「よし、じゃあさっさと俺について来い」
セルバスはそう言った後、一人でさっさと町の出口へ向かって歩いて行く。その後ろを何も考えられなくなった男は、セルバスの後をついて行く。
「何だ? 何であの男は何も合図を出さない!? アイツが例の組織の一味の男ではないのか?」
コウゾウは物陰から身を乗り出して慌ててそう口にする。他の護衛隊の男も何が何やら分からないと言った様子で、コウゾウが表通りに出ようとするのをなんとか押さえる。
このまま護衛隊であるコウゾウが表通りに姿を出せば、直ぐに尾行している事が、男たちにばれてしまうからである。
『金色の目』という『魔族』が使う『魔瞳』の存在を知らなければ、男は操られて連れ去られて行っているのだと分からないだろう。
傍から見れば長身の男に勝手について行っているだけにしか見えないのだから、あの長身の男を捕らえようとしても難しい。
……
……
……
「ふんっ! まさかこの世界で魔族に出会うとはな」
「うむ……。エイジ殿や退魔組の連中は我達のような魔族を見たことがないと言っていた筈だが、これまで身を隠して生きてきたのだろうか?」
今はまだあの『煌鴟梟』の男に魔瞳を掛けた男が、ソフィ達の世界で生きて来た煌聖の教団の大幹部。大魔王『セルバス』だという事を知らない為に、見当外れな事を言うソフィであった。
……
……
……
捕らえられていた男はこの辺に居れば『煌鴟梟』の仲間が、自分に声を掛けて来るだろうと判断したようであった。
当然コウゾウ達は、離れた場所からその様子を窺っていた。直接尾行をするような真似はしていないが、屯所の二階の窓やこの旅籠町全体の宿に護衛隊が潜んで見張っている。
『妖魔召士』や、ソフィ達のように相手の魔力を探る事が出来ない為、これまでもコウゾウ達はこのように『人海戦術』を用いているようであった。
確かに相手の魔力を測れなければ、ひとたび隠れられでもすれば探すのに苦労する事だろう。ソフィ達も屯所から出た後に、建物の陰に移動して男を見張っている。
『煌鴟梟』の者達が、男に接触をしてきたところを一目でも見て確認が出来れば、後はもう煌鴟梟の者達が逃げようとしても魔力を調べられるソフィ達であればどうにでもなる。
まだソフィ達を宿へと誘導してきたミヤジという男が『煌鴟梟』の者だと断定しているワケでは無いが、この場所に再び現れるようであれば、奴は間違いなく黒であろう。
そうなればもうミヤジを捕まえて『金色の目』でも使って操り、組織のアジトへと案内させて全員捕らえて護衛隊に突き出せばいい。
そう考えながら、男に接触する者達の出現を待つソフィ達であった。
…………
そして一人の長身の男が、捕らえられていた男の元に向かって来る。どうやら酔っぱらっているようで、覚束ない足取りでフラフラとしていた。
「あやつが『煌鴟梟』とかいう人攫い集団の男か?」
「まだそこまでは分からねぇが、あの男の顔をよく見てみろよ」
ヌーがソフィにそう言うと、ソフィも長身の酔っぱらいを注意して見てみる。視線の先のその男は捕らえられていた男を視界に入れるなり、ニヤニヤと男を見ながら笑っていた。嫌悪感を催すような笑みを浮かべたその男は、捕らえていた男の前で止まった。どうやら彼が『煌鴟梟』という組織の者達で間違いが無さそうであった。
ソフィが少し離れた場所で同じように、潜伏しているコウゾウの居る場所を一瞥すると、コウゾウもどうやら長身の男に気づいていたようで、ソフィの視線に対してコクリと頷いた。
まだ決定的な証拠が無いが、もう取り押さえても構わないかもしれないと、そういった思考がソフィの頭を過ったが、そこで驚く事が起きた。
――何と長身の酔っぱらいの目が、唐突に金色に輝いたのであった。
……
……
……
「ん? あいつ、かなり挙動不審な野郎だな……」
時は少し遡り、セルバスがミヤジの酒場から屯所へ向かう途中、裏通りから表通りに差し掛かる手前付近で、一人の男が何やら人を探しているような素振りを見せていた。
「あいつが捕らえられていた男か? 確か話では数人で行動していたと聞いていたが……」
ミヤジの話では確かに捕らえられた連中は、釈放をされたからといって、直ぐに潜伏先のミヤジの酒場や、サノスケの宿に直接来ることは禁じている為、この旅籠町ではちょうどあの男が居るあたりでウロウロしていろと伝えられていたようであったが、聞いていた人数が違っていたのである。
「時間差で一人ずつ釈放しているって事かもしれねぇな。まぁいいだろう。アイツを操って直接、聞き出せば言いだけの事だ」
セルバスはそう言って、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら男に近づいて行った。
「よう、てめぇが無様にも捕まったマヌケか?」
話し掛けられた男はどきりと驚きながらセルバスを見上げる。男も背が低くは無かったが、セルバスは男よりも数十センチ程高く、見上げなければいけない程の長身の男であった。
「お、お前は誰だ?」
「うるせぇよ、黙って俺の目を見やがれ」
――魔瞳、『金色の目』。
キィイインという甲高い音が辺りに響いたかと思うとセルバスは、目を金色に輝かせながら目の前の男と視線を合わせる。すると次の瞬間、男は虚ろな目を浮かべ始めるのであった。
「よし、じゃあさっさと俺について来い」
セルバスはそう言った後、一人でさっさと町の出口へ向かって歩いて行く。その後ろを何も考えられなくなった男は、セルバスの後をついて行く。
「何だ? 何であの男は何も合図を出さない!? アイツが例の組織の一味の男ではないのか?」
コウゾウは物陰から身を乗り出して慌ててそう口にする。他の護衛隊の男も何が何やら分からないと言った様子で、コウゾウが表通りに出ようとするのをなんとか押さえる。
このまま護衛隊であるコウゾウが表通りに姿を出せば、直ぐに尾行している事が、男たちにばれてしまうからである。
『金色の目』という『魔族』が使う『魔瞳』の存在を知らなければ、男は操られて連れ去られて行っているのだと分からないだろう。
傍から見れば長身の男に勝手について行っているだけにしか見えないのだから、あの長身の男を捕らえようとしても難しい。
……
……
……
「ふんっ! まさかこの世界で魔族に出会うとはな」
「うむ……。エイジ殿や退魔組の連中は我達のような魔族を見たことがないと言っていた筈だが、これまで身を隠して生きてきたのだろうか?」
今はまだあの『煌鴟梟』の男に魔瞳を掛けた男が、ソフィ達の世界で生きて来た煌聖の教団の大幹部。大魔王『セルバス』だという事を知らない為に、見当外れな事を言うソフィであった。
……
……
……
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる