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旅籠編
950.煌鴟梟の企み
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ソフィ達が護衛隊に連れられて屯所の中へと入って行くところを見ている者達が居た。それは酒場の主人にしてソフィ達を宿へと誘導した『ミヤジ』であった。
彼はヌー達が酒場に入って来るまで店で待っていたが、その確認が取れた後はこうして屯所の近くに待機して計画の第一段階が失敗したときの為に準備を行っていた。
本来の計画は宿までソフィ達を誘導した後、用意していたもう一つの仕事の方の仲間達に連絡を行い、部屋を襲わせて上玉の娘を攫う事であった。
そこで成功してあの娘を攫う事が出来ればそれまでだが、万が一失敗した場合は、グルである宿の主人に旅籠町の護衛隊に報告をさせて、喧嘩が行われていると情報を流して人攫いでは無く、あくまで喧嘩沙汰という事件に変えさせる。これが第一の失敗を帳消しにする為の第二の計画であった。
喧嘩沙汰にさえしてしまえば、今回は上手く行かずともまた次の機会を待てばいいだけの話である。宿の主人の男もミヤジも表立っては姿を見せてはいない。あくまで喧嘩を引き起こした連中が、勝手に暴れて捕まっただけである。
そして屯所の様子を窺っていたミヤジは、残念ながら第一の計画は失敗して、あの可愛らしい娘を攫い奴隷にして商品にする事は出来そうになかったが『煌鴟梟』の同志達は上手く喧嘩沙汰に出来たようで、彼らを屯所へと運ばせる事に成功したようだ。
捕縛されたと言っても罪状は喧嘩である。長くても三日程で彼らは釈放される事だろう。その後に勤めを終えた彼らを労って金子をある程度握らせれば、奴らも納得する事だろう。
次にまた仕事をまわしてやるとでも言えば、喜んでまた話に乗って来る事だろう。
「頭を使えばいくらでも金は手に入るんだよなぁ」
ミヤジは屯所の様子が見える位置に隠れ潜みながらほくそ笑む。金を稼ぐなら実行する側では無く、そう言った連中を上手く使って自分は安全な位置から右から左へと流動させた金をごっそりと頂く。
後は事を起こした時の失敗が無い様に気を付ける事と携わった者達へと、アフターケアを忘れずに行う事で万事解決である。そしてそれらで得た金を全て懐に入れるのではなく、更なる仕事へつなげる為の手段の資金として扱えばいくらでも権力を買う事が出来る。
彼はそうしてこれまでも組織で上手く立ち回り、今では『煌鴟梟』の幹部にまでのし上がって見せた。少し前に彼の属する組織の頭が変わり、新しく組織のボスとなった男は、金も無いただの強盗や強請だけの乱派集団だった『煌鴟梟』の一部をミヤジのような悪知恵を働かせる者達を使って資金を稼ぎながら『組織』を大きく変えていっている。
今でもこうして強盗や人攫いのような事を変わらずに続けてはいるが、昔とは違って今はもうその標的となる商人が利用する施設をこれまで蓄えてきた資金を使って買い取り、怪しまれずに表では真面目に働くように見せかけて、狡猾に仕事を最適化して更なる資金を生み出していっていた。
現段階ではまだ、一部の宿や裏通りにある酒場の主人程度だが『煌鴟梟』はいずれ裏社会を牛耳る程の組織にする為、潤沢に集めた資金をばら撒きながら活動範囲を広げるつもりである。
「後は捕まった彼らが俺達の事を喋らないように祈るだけだが、ここまで上手くやっているようだ。問題は無いだろう」
ミヤジは第二計画が成功していると疑いを見せず、屯所に入っていったのを確認した今、ミヤジは宿の主人と合流して数日後に釈放された者達を捕まえて事情を聞きだそうと考えるのであった。
「ミヤジ様ですね?」
屯所に意識を向けていた所為で自分の近くに忍び寄ってきていた連中に気づかず、慌ててミヤジは声を掛けられた方を見る。
「何だお前は?」
ミヤジが訝しそうな目で声を掛けてきた男を睨みつけると、その男は両手を上にあげた。
「おっと! お待ちください、私は敵ではありませんよ。私の主に貴方を呼んでくるようにと頼まれた部下です」
「ああ。なんだ『サノスケ』の遣いか?」
サノスケとはソフィ達の宿の主人であった男で『煌鴟梟』に属する商売人である。サノスケとミヤジは同じ『煌鴟梟』という組織の仲間ではあるのだが、サノスケは表稼業として旅籠以外にも別の町の宿を経営しており、生粋の商売人であった者である。
ミヤジは実行犯では無いが『煌鴟梟』の元々の稼業の一つである『強請』や『人攫い』を生業としている為、普段は一緒に仕事をする事はない。
同じ『煌鴟梟』の組織内であっても部門が変われば仕事の内容は大きく変わる。
この『煌鴟梟』という組織には『人攫い』を実行する者に、その攫った者達を『商品』として扱い売りさばく『売人』に、何かあった時に間に入る『調整人』の存在も居る。
――ありとあらゆる専門を売りにしている人間達。
『金子』を稼ぐ事や、一つの目的の為に部門に長けたその筋の人間達が集まっている集団で、個々の活動が組織全体を動かしている謂わば『約縁集団』それが『煌鴟梟』なのであった――。
縁があって『サノスケ』と『ミヤジ』は同じ旅籠で同じ組織で働く仲間という事であり、連携を取り合っているという間柄である。そして今ミヤジの前に居る男はその『サノスケ』を主と呼んでいた。
つまりこの後に合流する予定であった『サノスケ』からの遣いの者と言うのは間違いはないのだろう。
「ええ、その通りです。この旅籠の護衛隊が『予備群』のコウゾウだという事で、少し落ち合う場所を変更されたいそうです」
「今更か? この旅籠の護衛が『妖魔退魔師』の手の者だという事は、数日前から知っていた筈だが、何故このタイミングなんだ?」
「いえ……。それは私には知る由もありません。あくまで私は、主が決めた事をミヤジ様に伝えに参っただけですので……」
確かにそれはそうだ。ただ遣わされたこの男に、何故だと問い質したところで意味はない。
「そうだな……。仕方ない、分かった。案内してくれるか」
「ありがとうございます、ではこちらへ……」
ミヤジは男についていきながら、ちらりと最後に屯所を一瞥するのであった。
……
……
……
彼はヌー達が酒場に入って来るまで店で待っていたが、その確認が取れた後はこうして屯所の近くに待機して計画の第一段階が失敗したときの為に準備を行っていた。
本来の計画は宿までソフィ達を誘導した後、用意していたもう一つの仕事の方の仲間達に連絡を行い、部屋を襲わせて上玉の娘を攫う事であった。
そこで成功してあの娘を攫う事が出来ればそれまでだが、万が一失敗した場合は、グルである宿の主人に旅籠町の護衛隊に報告をさせて、喧嘩が行われていると情報を流して人攫いでは無く、あくまで喧嘩沙汰という事件に変えさせる。これが第一の失敗を帳消しにする為の第二の計画であった。
喧嘩沙汰にさえしてしまえば、今回は上手く行かずともまた次の機会を待てばいいだけの話である。宿の主人の男もミヤジも表立っては姿を見せてはいない。あくまで喧嘩を引き起こした連中が、勝手に暴れて捕まっただけである。
そして屯所の様子を窺っていたミヤジは、残念ながら第一の計画は失敗して、あの可愛らしい娘を攫い奴隷にして商品にする事は出来そうになかったが『煌鴟梟』の同志達は上手く喧嘩沙汰に出来たようで、彼らを屯所へと運ばせる事に成功したようだ。
捕縛されたと言っても罪状は喧嘩である。長くても三日程で彼らは釈放される事だろう。その後に勤めを終えた彼らを労って金子をある程度握らせれば、奴らも納得する事だろう。
次にまた仕事をまわしてやるとでも言えば、喜んでまた話に乗って来る事だろう。
「頭を使えばいくらでも金は手に入るんだよなぁ」
ミヤジは屯所の様子が見える位置に隠れ潜みながらほくそ笑む。金を稼ぐなら実行する側では無く、そう言った連中を上手く使って自分は安全な位置から右から左へと流動させた金をごっそりと頂く。
後は事を起こした時の失敗が無い様に気を付ける事と携わった者達へと、アフターケアを忘れずに行う事で万事解決である。そしてそれらで得た金を全て懐に入れるのではなく、更なる仕事へつなげる為の手段の資金として扱えばいくらでも権力を買う事が出来る。
彼はそうしてこれまでも組織で上手く立ち回り、今では『煌鴟梟』の幹部にまでのし上がって見せた。少し前に彼の属する組織の頭が変わり、新しく組織のボスとなった男は、金も無いただの強盗や強請だけの乱派集団だった『煌鴟梟』の一部をミヤジのような悪知恵を働かせる者達を使って資金を稼ぎながら『組織』を大きく変えていっている。
今でもこうして強盗や人攫いのような事を変わらずに続けてはいるが、昔とは違って今はもうその標的となる商人が利用する施設をこれまで蓄えてきた資金を使って買い取り、怪しまれずに表では真面目に働くように見せかけて、狡猾に仕事を最適化して更なる資金を生み出していっていた。
現段階ではまだ、一部の宿や裏通りにある酒場の主人程度だが『煌鴟梟』はいずれ裏社会を牛耳る程の組織にする為、潤沢に集めた資金をばら撒きながら活動範囲を広げるつもりである。
「後は捕まった彼らが俺達の事を喋らないように祈るだけだが、ここまで上手くやっているようだ。問題は無いだろう」
ミヤジは第二計画が成功していると疑いを見せず、屯所に入っていったのを確認した今、ミヤジは宿の主人と合流して数日後に釈放された者達を捕まえて事情を聞きだそうと考えるのであった。
「ミヤジ様ですね?」
屯所に意識を向けていた所為で自分の近くに忍び寄ってきていた連中に気づかず、慌ててミヤジは声を掛けられた方を見る。
「何だお前は?」
ミヤジが訝しそうな目で声を掛けてきた男を睨みつけると、その男は両手を上にあげた。
「おっと! お待ちください、私は敵ではありませんよ。私の主に貴方を呼んでくるようにと頼まれた部下です」
「ああ。なんだ『サノスケ』の遣いか?」
サノスケとはソフィ達の宿の主人であった男で『煌鴟梟』に属する商売人である。サノスケとミヤジは同じ『煌鴟梟』という組織の仲間ではあるのだが、サノスケは表稼業として旅籠以外にも別の町の宿を経営しており、生粋の商売人であった者である。
ミヤジは実行犯では無いが『煌鴟梟』の元々の稼業の一つである『強請』や『人攫い』を生業としている為、普段は一緒に仕事をする事はない。
同じ『煌鴟梟』の組織内であっても部門が変われば仕事の内容は大きく変わる。
この『煌鴟梟』という組織には『人攫い』を実行する者に、その攫った者達を『商品』として扱い売りさばく『売人』に、何かあった時に間に入る『調整人』の存在も居る。
――ありとあらゆる専門を売りにしている人間達。
『金子』を稼ぐ事や、一つの目的の為に部門に長けたその筋の人間達が集まっている集団で、個々の活動が組織全体を動かしている謂わば『約縁集団』それが『煌鴟梟』なのであった――。
縁があって『サノスケ』と『ミヤジ』は同じ旅籠で同じ組織で働く仲間という事であり、連携を取り合っているという間柄である。そして今ミヤジの前に居る男はその『サノスケ』を主と呼んでいた。
つまりこの後に合流する予定であった『サノスケ』からの遣いの者と言うのは間違いはないのだろう。
「ええ、その通りです。この旅籠の護衛隊が『予備群』のコウゾウだという事で、少し落ち合う場所を変更されたいそうです」
「今更か? この旅籠の護衛が『妖魔退魔師』の手の者だという事は、数日前から知っていた筈だが、何故このタイミングなんだ?」
「いえ……。それは私には知る由もありません。あくまで私は、主が決めた事をミヤジ様に伝えに参っただけですので……」
確かにそれはそうだ。ただ遣わされたこの男に、何故だと問い質したところで意味はない。
「そうだな……。仕方ない、分かった。案内してくれるか」
「ありがとうございます、ではこちらへ……」
ミヤジは男についていきながら、ちらりと最後に屯所を一瞥するのであった。
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