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旅籠編

945.怒りの矛先

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 地下へ降りてからは元々が宿であっただけに、そこまでコウゾウの居る場所が分かりにくいワケでは無く直ぐに見つかった。

「こちらに、コウゾウ、様、は、いま……す」

 ヌーが『金色の目ゴールド・アイ』で操った男は、ここまでの道案内を終えてコウゾウが今居る部屋の扉の前で止まり、何処かカタコトで教えてくれた。

 同じ『魔瞳《まどう》』であっても、操る者が違えば多少は効果が違う。ソフィがいつも使っている『金色の目ゴールド・アイ』よりもヌーは、この男を雑に操ったのだろう。

 この練度の魔瞳であれば、ただの人間でも何処かおかしいと気づけるだろう。ヌーは道案内をさせる為だけに、この男を操っただけだから別にその後にバレようとどうでもいいと考えたのだろうか。

「うむ、ご苦労だった」

 ソフィがそう言うと男は役目を終えたと判断したのか、そのまま虚ろな目になったまま、虚空を見続けて停止した。ヌーはその男を無視したまま、コウゾウの居る場所へと向かっていく。

「ヌーよ少し待て、こやつの洗脳は解かぬのか?」

「ああ? そうだったな、後々めんどくさそうだな。この場で自害でもさせておくか?」

「お主、まだ機嫌が悪いのだな」

 溜息を吐いてソフィがそう言うと、そっぽを向いて鼻を鳴らしながらヌーは指をパチンとならして、部屋の中へと入っていった。

 慌ててヌーの後をテアが追いかける。

 次の瞬間、虚ろな目を浮かべていた男はドサリと糸が切れたかのように、床に倒れ伏せるのであった。

「殺さなくなっただけ、あの頃よりはマシと考えるとしよう」

 過去のアレルバレルの世界でのヌーと比較したソフィは、今はこれでもだいぶ丸くなったと感じるのであった。そしてソフィもヌーに少し遅れて部屋の中へと入っていった。

 最後に残されたエイジは、倒れている男を見て思う。

(『予備群よびぐん』とはいえ、サカダイの『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織の者をこのようにあっさりと操ってしまうとは、魔族というのはかくも恐ろしいものよ……)

 エイジはそう考えた後に何かに頷くように首を縦に振って、そしてソフィ達の後を追いかけるのであった。

 ……
 ……
 ……

 ソフィ達がまだ地下へと降りてくる前、先に捕えた男たちの部屋に戻ってきたコウゾウは、再び男たちに質問を続けていた。しかし先程の返答以降、要領を得ない返事すらされず、どうやらこれ以上は真面目に答える気が無いのだろうとコウゾウは思うのであった。

「もういいだろう? これからは喧嘩もせず大人しくしておくよ。俺達は明日も仕事もあるんだ、さっさと釈放をしてくれよ」

 彼らが人攫いだという明確な証拠も無い為、このままでは彼らは単に旅籠で喧嘩騒動を起こしただけの輩として、釈放せざるを得なくなるだろう。

 もし彼らが本当に人攫いだった場合、再び事件を起こされる可能性もある。何としてもここで真実を洗っておきたいと考えるコウゾウであった。

 コウゾウがもう少し違う側面から尋問を続けようとしたところに、がちゃりという扉が開く音が背後から聞こえてくる。コウゾウは開きかけていた口を閉じて音のする方を振り返ると、そこには地上に居る筈のソフィ達がその姿を見せるのであった。

「お、お主達! どうしてここに居る?」

 この場所はただの宿であった場所を護衛隊達の屯所にした為、こうして人攫いの疑いのある者達や、罪人を閉じ込める為に、地下に取調室を無理やりに作っている。

 この場所へは普段は隠されている隠し階段からでしか辿り着けない造りとなっている筈の為、旅籠の護衛隊以外の人間は入ってこられない筈なのである。

 そのような場所に何食わぬ顔で入ってきたソフィ達に、コウゾウは驚きを隠し切れなかった。ソフィとエイジは驚いた顔を浮かべているコウゾウと、その前に居る男たちを一瞥した後、この場所に来た説明を行おうとしたが、一番最初にこの部屋にやってきたヌーは、そんなソフィ達を無視してトコトコと男たちの前に歩いて行くのであった。

「お、おい……」

 コウゾウは何をするつもりだとばかりに近寄って来る長身の男、ヌーに声を掛けようとしたが、その前にヌーはオーラを纏わせながら口を開いた。

「てめぇらが、テアを襲った連中で間違いねぇな?」

 ……
 ……
 ……
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