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旅籠編
940.護衛稼業の者達
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この屯所に居る者達はコウゾウを含めて全員が『サカダイ』と呼ばれる町からこの旅籠町からの要請を受けて、この旅籠町の護衛という役割を担う為に派遣されてきた者達である。
元々旅籠は旅人達の憩いの宿として、これまでは活用をされてきたようだったが、記憶に新しい『妖魔団の乱』以降、妖魔達に怯える者達が増えて、町の外は危険だという認識が比例するように広まっていき、気軽に別の町に移動する者や、出歩く人々が減っていった。
現在ではそういった者達を相手に商売を生業とする物売りが増えて、こういった旅籠の町は、旅人というよりは商売人が多く利用する事となった。
しかし更に今度は、そういった商人を狙って窃盗する盗人や直接物売りに、暴行を働いて強盗をする人種が旅籠町を襲う事案が増えていき、この町のように護衛を依頼するようになった。
そしてその依頼先というのが『サカダイ』に居る『妖魔退魔師』達である。厳密にはその『妖魔退魔師』達の下部組織として存在している『予備群』と呼ばれる者達が、町の護衛や人の護衛依頼を受けて、あらゆる場所に派遣されている。
元々『妖魔退魔師』達がケイノトの町で『妖魔召士』の組織と行動を共にしていた時には、このような護衛業は行ってはいなかった。しかし現在は互いの組織は袂を分かち、それぞれが別組織として機能している。
この世界の中心街というべき『ケイノト』は『妖魔召士』側の組織が根付いた為に『妖魔退魔師』側の組織は、運営を続けていく為に新たな稼業に手を出す他なくなった。
組織の運営には金子が必要不可欠であり、組織が組織として成り立たなくなれば、解散せざるを得なくなる。
そこで『妖魔退魔師』側の組織は『予備群』を使った新たな稼業である「護衛」という職に手を出したのである。
この世界は魔族や魔物というような生物は存在しないが、その代わりに妖魔が蔓延る世界である。そんな妖魔達を相手にこれまでの長い歴史、滅殺してきた『妖魔退魔師』の組織は、実績は確かなものである。
そんな組織から派遣された護衛隊の需要は高く、あらゆる町で重宝されているというワケである。
『妖魔団の乱』以降、今ではもう『妖魔退魔師』達の組織には、この『予備群』を使った『護衛』稼業は、無くてはならない大きな収入源となっていた。
当然『妖魔召士』側の退魔組のように、これまで第一線で活躍していた戦士達ばかりでは無いが、それでも退魔組に居るような『下位』や『中位退魔士』の者達とは比較にならない程『妖魔退魔師』の予備群は力を有している。
単なる盗人や強盗崩れの人間を相手にするだけならば『予備群』の者達でも過剰戦力と呼べるほどである。
「それではお前達が泊まっていた宿に男たちが踏み込んできて、そこの女を捕らえようとしたわけだな?」
そしてそんな予備群の護衛隊が派遣されている旅籠屋の町にある屯所で『コウゾウ』という、この町の警備を行っている男からソフィ達は、事情聴取という名の取り調べを受けていたのだった。
「うむ、我らは自衛の為に手を出したにすぎぬ」
「ふーむ……」
この旅籠に来た後の経緯を包み隠さずに伝え終えたソフィ達。喧嘩をしていたわけでは無くて、襲撃されたから手を出した事。それらをすべてコウゾウに伝えると、彼は参ったとばかりの表情を浮かべた後に溜息を吐いて何やら考える素振りを見せるのだった。
守秘義務とやらで誰から報告があったのかは分からないが、どうやら彼らの元に届いた報告と、こうしてソフィ達が話す内容に大きな乖離があったらしいのは、彼の態度からも見て取れるのであった。
「お前、襲われたのか?」
「――!」(ああ、そうだよ! お前が大好きな酒を楽しくたらふく呑んでいる時にな!)
心配そうにテアに声を掛けたヌーに対して、人攫いの者達に自分の身体を触られそうになった時の事を思い出したのだろうテアは、皮肉たっぷりに答えるのだった。
「そいつは、すまなかったな」
テアに素直に謝罪をして見せるヌー。流石にぷりぷり怒っていたテアも、いつものヌーと違う事に気づいて、上目遣いをするように、不思議そうに下からヌーの顔を覗き込む。
しかし次の瞬間、テアは慌てて身を引いた。
別にヌーは何かを言ったり、オーラを纏ったりしたわけでは無い。少し離れた場所に居るエイジやコウゾウ達には、ヌーの様子は変わりなく、大人しく座っているだけに見える事だろう。
「むっ」
ソフィは腕を組んで座りながら、何かに気づいたように視線をヌーに向けた。曲がりなりにもヌーという男を知るソフィや、この世界に来てからずっと、ヌーと接してきたテアにだけは、今のヌーの様子を理解出来たのだった。
――どうやってテアに手をかけようとした『屑共』を殺してやろうか。
冷静に落ちついて座っているだけに見えるヌーだが、その目には冗談ではすまされない、明確な殺意がこもっているようであった。
……
……
……
元々旅籠は旅人達の憩いの宿として、これまでは活用をされてきたようだったが、記憶に新しい『妖魔団の乱』以降、妖魔達に怯える者達が増えて、町の外は危険だという認識が比例するように広まっていき、気軽に別の町に移動する者や、出歩く人々が減っていった。
現在ではそういった者達を相手に商売を生業とする物売りが増えて、こういった旅籠の町は、旅人というよりは商売人が多く利用する事となった。
しかし更に今度は、そういった商人を狙って窃盗する盗人や直接物売りに、暴行を働いて強盗をする人種が旅籠町を襲う事案が増えていき、この町のように護衛を依頼するようになった。
そしてその依頼先というのが『サカダイ』に居る『妖魔退魔師』達である。厳密にはその『妖魔退魔師』達の下部組織として存在している『予備群』と呼ばれる者達が、町の護衛や人の護衛依頼を受けて、あらゆる場所に派遣されている。
元々『妖魔退魔師』達がケイノトの町で『妖魔召士』の組織と行動を共にしていた時には、このような護衛業は行ってはいなかった。しかし現在は互いの組織は袂を分かち、それぞれが別組織として機能している。
この世界の中心街というべき『ケイノト』は『妖魔召士』側の組織が根付いた為に『妖魔退魔師』側の組織は、運営を続けていく為に新たな稼業に手を出す他なくなった。
組織の運営には金子が必要不可欠であり、組織が組織として成り立たなくなれば、解散せざるを得なくなる。
そこで『妖魔退魔師』側の組織は『予備群』を使った新たな稼業である「護衛」という職に手を出したのである。
この世界は魔族や魔物というような生物は存在しないが、その代わりに妖魔が蔓延る世界である。そんな妖魔達を相手にこれまでの長い歴史、滅殺してきた『妖魔退魔師』の組織は、実績は確かなものである。
そんな組織から派遣された護衛隊の需要は高く、あらゆる町で重宝されているというワケである。
『妖魔団の乱』以降、今ではもう『妖魔退魔師』達の組織には、この『予備群』を使った『護衛』稼業は、無くてはならない大きな収入源となっていた。
当然『妖魔召士』側の退魔組のように、これまで第一線で活躍していた戦士達ばかりでは無いが、それでも退魔組に居るような『下位』や『中位退魔士』の者達とは比較にならない程『妖魔退魔師』の予備群は力を有している。
単なる盗人や強盗崩れの人間を相手にするだけならば『予備群』の者達でも過剰戦力と呼べるほどである。
「それではお前達が泊まっていた宿に男たちが踏み込んできて、そこの女を捕らえようとしたわけだな?」
そしてそんな予備群の護衛隊が派遣されている旅籠屋の町にある屯所で『コウゾウ』という、この町の警備を行っている男からソフィ達は、事情聴取という名の取り調べを受けていたのだった。
「うむ、我らは自衛の為に手を出したにすぎぬ」
「ふーむ……」
この旅籠に来た後の経緯を包み隠さずに伝え終えたソフィ達。喧嘩をしていたわけでは無くて、襲撃されたから手を出した事。それらをすべてコウゾウに伝えると、彼は参ったとばかりの表情を浮かべた後に溜息を吐いて何やら考える素振りを見せるのだった。
守秘義務とやらで誰から報告があったのかは分からないが、どうやら彼らの元に届いた報告と、こうしてソフィ達が話す内容に大きな乖離があったらしいのは、彼の態度からも見て取れるのであった。
「お前、襲われたのか?」
「――!」(ああ、そうだよ! お前が大好きな酒を楽しくたらふく呑んでいる時にな!)
心配そうにテアに声を掛けたヌーに対して、人攫いの者達に自分の身体を触られそうになった時の事を思い出したのだろうテアは、皮肉たっぷりに答えるのだった。
「そいつは、すまなかったな」
テアに素直に謝罪をして見せるヌー。流石にぷりぷり怒っていたテアも、いつものヌーと違う事に気づいて、上目遣いをするように、不思議そうに下からヌーの顔を覗き込む。
しかし次の瞬間、テアは慌てて身を引いた。
別にヌーは何かを言ったり、オーラを纏ったりしたわけでは無い。少し離れた場所に居るエイジやコウゾウ達には、ヌーの様子は変わりなく、大人しく座っているだけに見える事だろう。
「むっ」
ソフィは腕を組んで座りながら、何かに気づいたように視線をヌーに向けた。曲がりなりにもヌーという男を知るソフィや、この世界に来てからずっと、ヌーと接してきたテアにだけは、今のヌーの様子を理解出来たのだった。
――どうやってテアに手をかけようとした『屑共』を殺してやろうか。
冷静に落ちついて座っているだけに見えるヌーだが、その目には冗談ではすまされない、明確な殺意がこもっているようであった。
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