最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

旅籠編

922.神々の邂逅

　死神のテアはヌーの言葉に腹を立てていたが、そんな自分に対して何かを告げるソフィを見て我に返った。死神であるテアであっても、ここに来るまでに何度かソフィの恐ろしさを肌で味わっている。

　そんなソフィが何かを自分に伝えようとしているのだが、テアは契約を行っている者か、若しくは神格を持つ同じ神々の言葉しか分からない。

「――」（すみません、私では貴方の言葉は分からない）

　申し訳ないという気持ちで謝罪を行うが、ソフィにも私の言葉は分からないであろう。

　私が謝罪を行ったのを見て、やはり彼は首を傾げていた。こんな時にこそ、ヌーに居てもらいたかったが、あのバカは苦い飲み物とか、そういうお酒の類を呑みに行きやがった所為でここには居ない。困ったなとテアは思いながらソフィの顔を見ていると、ソフィはそんなテアに首を傾げ始める。

　……
　……
　……

　ソフィが怒っていたテアに落ち着けと声を掛けたのだが、やはり伝わっていないようで、何を勘違いしたのか彼女は自分に対して頭を下げて謝罪を始めるのだった。

「何を頭を下げておるのだ？　いかぬな、このままでは本当に何も分からぬ」

　ソフィはテアが何を言っているのか分からず、首を傾げながらそんな事を呟くのだった。

「だがまずは、折角エイジ殿が気を利かせて旅籠を案内してくれたのだ。居場所は出来るだけ隠しておきたいところだな」

　ソフィはそう言うと精密に魔力コントロールを行い、今から発動させる結界の消費魔力分を正確に放出した。すると宿のこの部屋分にだけ、結界が施されるのだった。

「――！！」（か、完璧だ、すげぇ！！）

　今ソフィが行った結界の発動を見ていたテアは、自分の目の前で行われているというのに、視線を逸らしていれば同じ部屋に居てもソフィが『結界』を張った事にすら気づかなかったもしれない。それ程までの緻密な魔力コントロールからの結界の発動であった。

「よし、ひとまずはこれで魔神を呼び出してもこの町に居るヌー達にも気づかれる事は無いだろう」

　ソフィはこの結界を張った理由にヒュウガ達からの追手の事もあるが、それ以外にもヌーに出来るだけ気づかれないように魔神を呼び出して、とある事をテアに伝えたかったのであった。

　手を叩いて凄い凄いと目をキラキラさせながらテアはソフィの結界発動を見ていたが、そこでようやく『何でいきなりこのタイミングで、結界を張ったのだろう？』という事に思い当たるのだった。

「――？」（どうして今、結界を張ったのですか？）

「？　何を言っておるのか分からぬが、何か驚いている様子に見えるな」

　互いに疑問を顔に張り付けたような表情で視線を交差させていたが、やがてソフィは魔神を呼び出せば、彼女の言葉が分かるようになるだろうと判断をするのだった。

「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」

　ソフィが先程の『結界』を張った時とは比較にならない程の恐ろしい程の魔力を使って、何やら神格を持つ神々を呼び出す。その崇高たる召喚の詠唱が行われた事を察知した神格持ちのテアは、もしかして自分は今から消滅させられるのでは無いかと、そういう発想に行き着くのだった。

「――！！」（ちょ、ちょっと、待ってください！！　私は何か粗相を致しましたか！！）

　必死にテアが何かを言っていたが、空間に亀裂が入ってそこから膨大な魔力を持って出現しようとする『魔神』にソフィは注目していた為に、必死の形相を浮かべるテアの様子に気づく事は無かった。

　そして遂に『力』の魔神はその姿を現世に体現させる。絶世の美女と呼べるほどの見目麗しい女神がそこにいた。空間の歪みから出現した力の魔神は、ソフィを見てにっこりと笑いかける。

「うむ。久しぶりだな、魔神よ」

　自分よりも遥かに神・位・が上である神。魔神の更にその領域の上位に位置する力の魔神が現れた事で、口をあんぐりと開けながらテアは、茫然と魔神を見つめるのであった。

　……
　……
　……