最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
913 / 1,985
ケイノト編

898.煽りの劉鷺

しおりを挟む
 突如として現れた背中に羽を生やした人型の存在は『退魔組』の退魔士『イバキ』を抱き抱えて逃亡を続けている。イダラマ一派最大の護衛剣士である『アコウ』と『ウガマ』。彼らは敵方の『スー』を倒した後、逃亡する二人を追いかけて森の中を駆け走っていた。

「中々に距離を詰められんな……」

 大男の『ウガマ』がそう言うと、並走している『アコウ』から返答があった。

「人を一人運んだ状態で俺達から逃げ遂せているのは大したものだが、そろそろこの展開は飽きたな」

 サカダイが管理する森の中を長い間走り続けている二人だが、全くスタミナが落ちておらず、会話を行う程の余裕を見せている。

「もうすぐ森を抜けてしまう。奴らの目的は『加護の森』へと誘い込んで『ケイノト』の連中に『結界』を通じて俺達の事を知らせようとしているのだろう」

「どうする? イダラマ様が何もしなかったという事は、このまま取り逃がしても問題はないと判断されたからだと思うが」

 劉鷺りゅうさぎたちが走り去った後、直ぐに追尾を開始した二人だったが、イダラマの思惑は理解しているようであった。

「まぁ、このまま逃がしてやってもいいんだがよ」

 そう言いながらも長いピアスを耳につけた男『アコウ』は腰鞘から刀を引き抜いた。

「イダラマ様の古参護衛が二人揃って追いかけてむざむざと逃したとあったら、他の奴らに示しがつかねぇだろう?」

 そう言って走りながらアコウは刀に力を込め始める。

「うむ、正にお主の言う通りだな」

「へっ、ようやく気が合ったじゃないのよ」

 並走しながら二人は笑みを浮かべ合う。

「いいか? 俺が仕掛けるから貴様は、奴の態勢が崩れたところを狙え!」

「合点承知!」

 ウガマからの返事を受け取った後、アコウはその場で立ち止まり、目を瞑って精神を統一させる。その間にも並走をしていたウガマは、その先を行く劉鷺りゅうさぎたちを追いかけて行く。一人その場に取り残されたアコウだったが、一切の意識を断ち切るかの如く、自分の刀以外に意識を向けない。

 ――やがてアコウは目を見開き、手にかけていた刀を前方へと振り切った。

 アコウの放ち切った衝撃波はあっさりと、自分を置いて前へ向かっていったウガマを追い抜き、恐るべき剣圧を以て、その更に前方に居る劉鷺りゅうさぎたちの元へ向かっていく。

 後ろを振り向かなくても『劉鷺りゅうさぎ』は迫りくる敵の一撃を察知する。イバキは『解放の行かいほうぎょう』を行ってくれている最中だったが、間に合うかどうかは微妙である。

 必死に『劉鷺りゅうさぎ』は脚に力を入れて走りながら、空へ跳躍する為に背中の羽を羽搏かせ始める。

「律」

 真後ろというところまでアコウの放った衝撃波が迫った瞬間。イバキは『解放の行かいほうぎょう』の詠唱を終えて『劉鷺りゅうさぎ』との『式』が解除された。

 ――この瞬間。本来の妖魔としての劉鷺はその力を取り戻した。

「主殿、しっかり捕まってろよ!」

 『式』であった頃の劉鷺りゅうさぎと、本来の妖魔に戻った劉鷺りゅうさぎ。同じランク『3』である以上、そこまで大きく力が変わったわけではない。

 しかし僅かに『式』であった頃より、微々たる差ではあるが今の方が力がある。だが、その微々たる差が結果を変える。

「逃すかっ! とった!!」

 羽を使って空へと飛翔してみせた劉鷺りゅうさぎの元に、大男『ウガマ』が、劉鷺りゅうさぎの脚を掴もうと迫ってきていた。

劉鷺りゅうさぎ!!」

 両腕に抱き抱えられていたイバキが、背後から跳躍してきたウガマを見て大声をあげる。

「分かっているさ、主殿」

 羽を使って空中に浮いている状態でくるりと体を一回転させながら、自分の足を掴もうと手を出してきていたウガマの顔を劉鷺りゅうさぎは思いきり足蹴にしながら衝撃波を躱す。

「うぎっ!」

 そして反動を利用して更に高く飛び上がって見せる。

「ふははははっ! 人間、!」

 鼻血を出しながら地面へと落されていくウガマに、煽り散らかすようにそう告げた後、翼をバサバサとはためかせて、一気に鷺の妖魔『劉鷺りゅうさぎ』はその特性を生かすように、天空を駆け抜けて森から恐るべき勢いで離脱していった。

「ぐ、ぐぅううっっ!!」

 まるで猫のように空中で体を器用に回転させて、地面に着地をした大男の『ウガマ』は、もう見えなくなった空を仰ぎ見て自分を利用されて逃げられた事を悔しそうに呻いた。

 そしてようやくウガマに追いついたアコウは、悔しそうにしているウガマに声を掛けた。

「あーあ。してやられたな。おい……! もう追いつけねぇんだ、さっさと頭を切り替えろ」

「うるせぇっ! あの野郎は次にあったら……! 俺が殺す!」

 普段であれば逆の立場であり、キレやすいアコウをウガマが宥める間柄だったが、今回ばかりは空を睨み続けて悔しそうにするウガマを逆にアコウが落ち着かせるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

異世界の生き物が全員可愛すぎるので動物園ならぬ魔物園を開こうと思います!

パクパク
ファンタジー
動物を愛してやまない相原直樹(あいはら なおき)は、28歳の独身サラリーマン。 自宅で柴犬とゴールデンレトリバー、黒猫と三毛猫の計4匹を飼いながら、休日には動物園やアニマルカフェを巡るほどの筋金入りの動物好きだった。 そんな彼が、有給を使って向かったのは ケニアのサファリツアー。 野生動物たちの雄大な姿をこの目で見たい――そんな夢を叶えるはずだったが、予期せぬ事故に巻き込まれ、命を落としてしまう。 だが、次に目を覚ますと――彼は異世界の貴族の赤ん坊「レオン・フォンティナ」として転生していた。 厳格ながら優しさを秘めた父、天使のように甘やかしてくれる母、過保護な兄、ツンデレな姉に囲まれながら、貴族としての生活を送ることになったレオン。 しかし、彼が最も気になったのは――この世界に「動物」が存在しないことだった。 だが、その代わりに存在するのは 「魔物」と呼ばれる生き物たち。 猫のような羽を持つ魔物フェルミナ、荷物を運ぶ獣バルガン、芸をする猿のような魔物トゥリック……。 かつての愛した動物たちの真実を求め、魔物たちの秘密を解き明かすため―― レオンの魔物探求の旅が、今始まる! 動物好き転生者が異世界で魔物と絆を築く、知的冒険ファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。

あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。 後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。 その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。 世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。 王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・ ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

処理中です...