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ケイノト編
893.イダラマの新術式
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(ば、馬鹿な……!!)
イバキ達の前に立ちはだかっている妖魔『鬼頼洞』と呼ばれる鬼人を見て劉鷺は驚く。鬼頼洞はこのような森で出会うような妖魔では無く『妖魔山』に生息する鬼人であった為である。
『妖魔山』はこの世界の妖魔達の総本山というべき場所であり、この森や『加護の森』とは比べ物にならない程の恐ろしい強さを持つ妖魔達の総本山である。
当然、ただの人間が近づいていい山では無く『退魔組』の『特別退魔士』でさえ、余程の任務で無ければ入る事を拒む程の場所である。
そして今この場に居る『鬼頼洞』は、鬼人の中でも上位に入る部類で少なく見積もっても野良の状態でもランクは『3』を下回る事は無い筈である。
(な、何故、鬼人がこんな人里近くの森に居る!?)
当然周囲の人間を見れば直ぐに『鬼頼洞』が『式』にされて使役されている事は容易に考えられる筈だが、その鬼頼洞が人に素直に従っているという事が、にわかには信じられなかったようで驚いた目で木の陰から鬼頼洞を見つめるのだった。
…………
「イバキ、劉鷺はいつ頃戻る?」
「何だって? 何で今劉鷺の事を聞く」
…………
木の裏で気配を隠しながら、劉鷺はイバキ達の会話に耳を傾ける。
…………
「あいつの速度ならば、今頃はもうこちらに戻ってきてもおかしくはない」
「よし、それじゃあ久々に本気でやるか」
…………
二人の会話を聞きながら劉鷺は、もうこの場に居るとイバキ達に伝えたいところではあった。しかし、今この瞬間に二人の前に出ていく事は出来ない。そんな事をすれば周囲に居る人間達や『鬼頼洞』の餌食となってしまう。
どうやら主であるイバキと常に行動を共にしているあの剣士は、これからあの『鬼頼洞』と戦って時間稼ぎをしようとしているようだった。
そうであるならば、その戦いに乗じて『鬼頼洞』に隙が出来るのを待ち、その隙を突いてイバキ達の助けに入り全速力で空を駆け抜ける。
あの場に居る人間達はもとより、自分よりランクの高い妖魔の『鬼頼洞』であっても、鷺の自分の全力飛翔の速度には追いつけないだろう。
何とか今は機を待ってイバキ達を助けに入るしかない。劉鷺は木の裏で生唾を呑み込みながら、命をかけた戦場に身を投じる覚悟で睨みつけるのだった。
…………
そしてどうやらあの赤い狩衣を着た男の『式』となった鬼頼洞は、式契約の時にその能力を著しく低下させられていたようだが、スーと戦う事となった後に、どうやら人間達の術式を使われた事で大きく力が上昇していった。
「グググッ! い、いクゾ!」
イダラマの術式によって力が上昇した事には間違いないが、その様子を木陰で見ていた劉鷺は訝し気に眉を寄せた。
(妙だな……。能力が向上した割には鬼人の意識は残っているし、それに今の状態でも本来のあの鬼人よりも力が弱く感じられる……)
この世界に相手の魔力を測ったりする『漏出』などという魔法は無く、そもそも妖魔である劉鷺がその魔法は使える筈が無いのだが、使えないからこそ自分より相手が強いか弱いかは、ある程度気配で理解出来る。
そんな彼が『鬼頼洞』の今の術式が加えられた状態を見て、まだ野良の時の『鬼人』の方が強かったとそう感じるのであった。
そして彼のその感覚は間違ってはいない。イバキやスーは『鬼頼洞』に『縛呪の行』を使ったと思っているが、厳密には少し違う。
ゲンロクが編み出した『縛呪の行』は『式』にした妖魔の意識を失わせて本能で強制的に戦わせる。そのメリットとしては、本来の妖魔達が無意識の内に制御している力を100%開放させて全力で戦わせられる。
デメリットとしては、それ以後妖魔達は本能に従って暴れる為、あまり難しい命令を出せなくなる事にある。しかし結果として、妖魔のランクを一つ二つ程あげる事が出来る為、かなり強い術式である。
だが、今の『鬼頼洞』に施されている術式は、劉鷺が感じた通り『ゲンロク』の『縛呪の行』とは違う。
そのゲンロクの『解放の行』に更に変化を加えて、編み出されたイダラマのアレンジした『新術式』なのであった。
その効果としては今の『鬼頼洞』のように、完全に理性や意識を失ってはおらず、普段の『鬼頼洞』から少し、興奮状態になっているに留まっているようであった。
そしてその分ランクも二つどころか、ギリギリ一つ分程の上昇しかしていない。
分かりやすく数値で表すならば、ゲンロクの新術式が力の100%上昇だとすれば、イダラマの新術式は力の50~80%の上昇といった所だろうか。
つまり今の『鬼頼洞』は本来の理性を持ったまま、力の上昇を果たしたという事であった。
イバキ達の前に立ちはだかっている妖魔『鬼頼洞』と呼ばれる鬼人を見て劉鷺は驚く。鬼頼洞はこのような森で出会うような妖魔では無く『妖魔山』に生息する鬼人であった為である。
『妖魔山』はこの世界の妖魔達の総本山というべき場所であり、この森や『加護の森』とは比べ物にならない程の恐ろしい強さを持つ妖魔達の総本山である。
当然、ただの人間が近づいていい山では無く『退魔組』の『特別退魔士』でさえ、余程の任務で無ければ入る事を拒む程の場所である。
そして今この場に居る『鬼頼洞』は、鬼人の中でも上位に入る部類で少なく見積もっても野良の状態でもランクは『3』を下回る事は無い筈である。
(な、何故、鬼人がこんな人里近くの森に居る!?)
当然周囲の人間を見れば直ぐに『鬼頼洞』が『式』にされて使役されている事は容易に考えられる筈だが、その鬼頼洞が人に素直に従っているという事が、にわかには信じられなかったようで驚いた目で木の陰から鬼頼洞を見つめるのだった。
…………
「イバキ、劉鷺はいつ頃戻る?」
「何だって? 何で今劉鷺の事を聞く」
…………
木の裏で気配を隠しながら、劉鷺はイバキ達の会話に耳を傾ける。
…………
「あいつの速度ならば、今頃はもうこちらに戻ってきてもおかしくはない」
「よし、それじゃあ久々に本気でやるか」
…………
二人の会話を聞きながら劉鷺は、もうこの場に居るとイバキ達に伝えたいところではあった。しかし、今この瞬間に二人の前に出ていく事は出来ない。そんな事をすれば周囲に居る人間達や『鬼頼洞』の餌食となってしまう。
どうやら主であるイバキと常に行動を共にしているあの剣士は、これからあの『鬼頼洞』と戦って時間稼ぎをしようとしているようだった。
そうであるならば、その戦いに乗じて『鬼頼洞』に隙が出来るのを待ち、その隙を突いてイバキ達の助けに入り全速力で空を駆け抜ける。
あの場に居る人間達はもとより、自分よりランクの高い妖魔の『鬼頼洞』であっても、鷺の自分の全力飛翔の速度には追いつけないだろう。
何とか今は機を待ってイバキ達を助けに入るしかない。劉鷺は木の裏で生唾を呑み込みながら、命をかけた戦場に身を投じる覚悟で睨みつけるのだった。
…………
そしてどうやらあの赤い狩衣を着た男の『式』となった鬼頼洞は、式契約の時にその能力を著しく低下させられていたようだが、スーと戦う事となった後に、どうやら人間達の術式を使われた事で大きく力が上昇していった。
「グググッ! い、いクゾ!」
イダラマの術式によって力が上昇した事には間違いないが、その様子を木陰で見ていた劉鷺は訝し気に眉を寄せた。
(妙だな……。能力が向上した割には鬼人の意識は残っているし、それに今の状態でも本来のあの鬼人よりも力が弱く感じられる……)
この世界に相手の魔力を測ったりする『漏出』などという魔法は無く、そもそも妖魔である劉鷺がその魔法は使える筈が無いのだが、使えないからこそ自分より相手が強いか弱いかは、ある程度気配で理解出来る。
そんな彼が『鬼頼洞』の今の術式が加えられた状態を見て、まだ野良の時の『鬼人』の方が強かったとそう感じるのであった。
そして彼のその感覚は間違ってはいない。イバキやスーは『鬼頼洞』に『縛呪の行』を使ったと思っているが、厳密には少し違う。
ゲンロクが編み出した『縛呪の行』は『式』にした妖魔の意識を失わせて本能で強制的に戦わせる。そのメリットとしては、本来の妖魔達が無意識の内に制御している力を100%開放させて全力で戦わせられる。
デメリットとしては、それ以後妖魔達は本能に従って暴れる為、あまり難しい命令を出せなくなる事にある。しかし結果として、妖魔のランクを一つ二つ程あげる事が出来る為、かなり強い術式である。
だが、今の『鬼頼洞』に施されている術式は、劉鷺が感じた通り『ゲンロク』の『縛呪の行』とは違う。
そのゲンロクの『解放の行』に更に変化を加えて、編み出されたイダラマのアレンジした『新術式』なのであった。
その効果としては今の『鬼頼洞』のように、完全に理性や意識を失ってはおらず、普段の『鬼頼洞』から少し、興奮状態になっているに留まっているようであった。
そしてその分ランクも二つどころか、ギリギリ一つ分程の上昇しかしていない。
分かりやすく数値で表すならば、ゲンロクの新術式が力の100%上昇だとすれば、イダラマの新術式は力の50~80%の上昇といった所だろうか。
つまり今の『鬼頼洞』は本来の理性を持ったまま、力の上昇を果たしたという事であった。
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