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ケイノト編

888.薄れゆく意識の中

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 イバキは横たわりながらも何とか『結界』を張り直した事で、死の淵に立たされながらも命は永らえている。だが『|鬼頼洞《きらいどう』と戦い吹き飛ばされたスーは『本鵺ほんぬえ』の呪詛をその身に浴びて意識を失いかけていた。

 顔色は悪く体は痙攣を引き起こし、口元からは涎が漏れ出ている状態であり、このままで居続ける事になれば、命すら危ない状況に陥るだろう。スーは自力で立つことも出来ず、呻き声をあげる事しか出来ない。

 既に横たわるイバキとスーを見て勝敗は決したと判断したイダラマは『本鵺ほんぬえ』を戻した後『鬼頼洞きらいどう』にかけた術式を解除してみせる。そしてゆっくりとイダラマは、横たわるイバキの前まで歩いていく。

「一応聞いておいてやるが、お前俺達と一緒に来る気はないか?」

 イバキはこちらを覗き込みながらそんな事を告げて来るイダラマの顔を見る。すでに体中は『本鵺』の呪詛にやられてしまい、現在は身動きが取れずにイダラマを睨むことしかできない。

「ああ、無理に声を出す必要はないぞ。お前にその気があるなら首を動かすだけでよい。来る気が無いならそのままでいろ、直ぐに殺して楽にしてやる」

 イダラマが何の突拍子も無くそんな事を言った為、彼の周囲に居た護衛達は、互いに顔を見合わせていた。ただ『アコウ』や『ウガマ』それに『エヴィ』は驚いた様子も無く、無言でイダラマを見つめていた。

 どうやら彼らもこんな風に、唐突に仲間にならないかとイダラマに声を掛けられたのだろう。自分達の時と同じように勧誘をし始めるイダラマに、境遇を照らし合わせて考えるのだった。

 断れば単に死ぬだけの不都合な状況下に陥れられた以上、。アコウやウガマ達はやれやれといった様子で新たに同志が誕生する事を疑わずに溜息を吐いた。

 ――しかし。

 イダラマに見下ろされた状態で、地面に横たわり満身創痍の身体のイバキは、ゆっくりと動かせる範囲で首を……

「……」

「!?」

 直接イバキに断られたイダラマに驚いた様子は無い。むしろ同志となるだろうと予想していたアコウ達の方が驚きが強かった。

「ふっ、そうか……。まあいい。理由くらいは聞いてみたいところではあるが、お前がそう言うつもりであるならば、それならそれで構わない」

 イダラマはもうイバキに興味が無くなったのか、そのまましゃがみこんでいた体を起こした後、イバキから背を向けた状態で無表情のまま口を開いた。

「もういい。殺せ」

 イダラマがそう命令すると、直ぐに周囲の護衛剣士達が刀を抜いた。そしてその様子を一瞥もくれずにイダラマはエヴィ達の元へと歩いて戻っていく。

(自分は大義を通す事が果たして出来ただろうか。、お前の無念を少しは晴らす事が出来ただろうか。皆を守れるだけの力がなかったお前の兄を許してくれ)

 イバキは薄れゆく意識の中で最後に頭で考えた事は、自分がこれまでしてきた事にはあったのだろうか。とそして、であった。

 ……
 ……
 ……

 イダラマとイバキが交戦を行い始めた頃、ケイノトにある『退魔組』の事務所内では、サテツとそのサテツによって任務に就いていた派遣先から呼び戻された『特別退魔士とくたいま』達とその護衛達が、一堂に会していた。

 少しだけ造りの良い椅子にサテツが座り、テーブルを挟んでその向かい側の長椅子に、退魔組の特別退魔士が座っていた。そして『特別退魔士とくたいま』達の護衛を務める三人は、その彼らの背後の壁に並び立っている。

 さらにこの会議の司会役を務める『イツキ』が、サテツの隣に立って集まった者達の顔を見ていた。そこにサテツが軽く手を振って、始めろとばかりにイツキに指示を出すと、イツキは直ぐに頷きながら口を開いた。

「それではこれより今起きている出来事と、皆様に集まっていただいた理由を話させて頂きます」

 サテツの付き人を務める『イツキ』がそう言うと、その場に居る『特別退魔士とくたいま』の三人がコクリと頷いた。

 一人目は額に目立つ傷を持ち、長髪で齢は三十路程の男『クキ』。二人目は身体が病的に細く三白眼が印象的な二十歳程の青年『ヒイラギ』。

 そして最後の三人目。この『退魔組』で最初に『特別退魔士とくたいま』に認定された白髪交じりの初老の男『ユウゲ』。

 この『退魔組』で在籍する『タクシン』と『イバキ』を除いた、特別退魔士とくたいま』の三人であった。

 ……
 ……
 ……
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