上 下
901 / 1,915
ケイノト編

886.鬼頼洞

しおりを挟む
  「ぐっ……ぎぎっ!!」

 『鬼頼洞きらいどう』の唸り声が少しずつおさまっていく。それに伴って赤い一本角が更に輝きを増したように感じられる。そしてランク『3』程であった鬼頼洞の能力が一気に増幅されるのだった。

 既にこの場に居た『退魔組』よりも強い力を持っていたであろう、イダラマ一派の護衛剣士達でさえイダラマの『結界』の影響下でなければ『鬼頼洞きらいどう』の力の余波にあてられて、気を失っていてもおかしくなかった。

「……」

 先程『鬼頼洞きらいどう』の戦力が大したことがないと言っていた『九大魔王』としての力を有する大魔王エヴィは、その存在を信じられないといった様子で睨みつけていた。

 エヴィはちらりとイダラマを見つめた後、イダラマの結界がどれくらいの規模かを把握し、自分が今から『漏出サーチ』を『鬼頼洞きらいどう』に向けて使用しても大丈夫かを判断し始める。

 何故なら、、その力を測ろうと強引に『漏出サーチ』を使ってしまうと、力の差が大きすぎる相手であった場合、下手をすれば脳が焼き切れて絶命するからである。

 当然『エヴィ』程の大魔王であればそれくらいの事は熟知している。馬鹿みたいに相手を判断せずに『漏出サーチ』を使うようなそんな基本も分からないような魔族ではないのだった。

 だがそんな彼でも『イダラマ』の結界を把握しなければならない程に『鬼頼洞きらいどう』の放つに懸念を示したようである。

「『漏出サーチ』」

 そしてようやくエヴィは、イダラマの結界の影響下であれば、鬼頼洞に対して『漏出サーチ』で能力を推し量っても問題は無いと判断したようである。

 【種族:鬼人 名前:鬼頼洞 状態:覚醒(解脱状態)
 魔力値:150万 戦力値:測定不能 所属:イダラマの式神】。

「成程……。これが本当の妖魔か」

 『漏出サーチ』によって表記されたという文字と、自分の今の状態では『鬼頼洞きらいどう』の戦力値が測れない事でこの世界の主な生物である、妖魔の強さを実感するエヴィであった。

 『九大魔王』という大魔王領域の最上位に位置するエヴィは、敵の力が自分を上回っていたとしてもそこまで狼狽ろうばいする様子を見せなかった。 今の『オーラ』を纏っていないエヴィの状態で、鬼頼洞の戦力が測定不能だからというワケではなく、例えエヴィが本気の状態で鬼頼洞に『漏出サーチ』を使って測定不能と表記されたとしてもエヴィはそこまで焦る姿は見せないだろう。

 これはソフィやヌーも実際に言っていた事だが、あくまで『漏出サーチ』で割り出される数値、その戦力は目安であり、実際の戦闘となればあらゆる要素がプラスされる。

 ――単に相手の数値を見て、慌てふためいているようでは一流とは言えない。

 戦い方や過去から来る経験則。それに運といった要素を踏まえた上で『特異』や『能力』の戦い方次第で結果はいくらでも変えられる。

 その事を熟知しているエヴィは、あくまで目安として鬼頼洞を通して『妖魔』というその存在を脳裏に焼き付けるのだった。

 エヴィが『妖魔』という存在をインプットしている様子を見せている隣で、イダラマが静かに口を開く。

「あの状態となった『鬼頼洞きらいどう』はランク『5』といわれる領域だ。ランク『5』がどれ程の力を持っているか、その目で確かめるといい」

「ランク『5』……か」

 先程までの退屈そうな表情を周囲に見せずにエヴィは、鬼頼洞とスー達の様子を真剣な顔で見つめるのだった。

 ……
 ……
 ……

「駄目だ……。結界の中でこれだけの圧力を感じる以上は戦いになどならない……。スー。辿り着けないかもしれないが、ここはいちかばちか『加護の森』まで退こう」

「……」

 どうせ逃げられないと分かった上で、イバキがそうスーに提案するが、スーは動こうとしない。それどころか無言でイバキを守るように立ったままだった。

「スー……?」

 いつまでも返事が無い為、イバキは再びスーに話しかける。

「先程申した通りだイバキ。劉鷺が戻って来るまでこの場から動く事は得策ではない」

 そう言って精神を統一させていたのか、目を瞑ったままゆっくりと息を吐いた後、ゆっくりとイバキを一瞥しながらそう告げた。

「スー……」

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...