上 下
897 / 1,906
ケイノト編

882.青い目

しおりを挟む
 『退魔組』に属する一人の退魔士に向かって、イダラマ一派の男が襲い掛かっていった時であった。青い目をしたイバキが、その同志に迫る剣士を睨みつけると可視化出来る程の迸る魔力が、イバキから放たれる。

「!?」

 退魔士に襲い掛かっていったイダラマの一派は、そのままイバキの魔力圧に吹き飛ばされて、その場の地面に転がされる。更にそれだけでは留まらず、何やら詠唱を呟き始めるイバキ。

「ちぃっ! これ以上面妖な事はさせぬぞ!」

 イバキとやり合っていた大男の『ウガマ』は、自分を差し置いて他の戦闘に手を出そうとするのを見て、そのイバキを止めようと構えていた刀を頭上高く掲げた。どうやらウガマは袈裟斬りでイバキに斬りかかろうとしたのだろう。

 しかしその瞬間、反応したイバキがウガマを見る。

「!?」

 構えた刀を斜め上から振り落とそうとしたウガマに向けて、先程から行っている詠唱とは別に、両手で何やら手印を高速で結び始めた。

 そしてウガマの袈裟斬りがイバキに届くより先に、イバキは高速で動かしていた指が、最終形である『日輪印にちりんじるし』に辿り着く。

 イバキが『印行』を完成させた瞬間に、ウガマの腕から先が硬直して動かなくなる。イバキは完全にウガマが『術』に掛かったのを確認した後、直ぐにウガマから視線を外して、襲われている多くの退魔士達に向き直る。

「律」

 そして先程の詠唱が完成したのか、そちらを発動させる。発動のキーとなる言葉はたった一言だった。
 イバキの『青い目ブルー・アイ』がこれまで以上に輝き始めると、先程の迸るほどの魔力が吹き荒れた後に、周囲一帯の敵に向けてイバキの結界が展開される。

 次の瞬間には複数人といたイダラマの護衛剣士たちが、一斉に先程のウガマのように、手足が拘束されたかのように全く動けなくなった。

 直ぐに行動してイバキの束縛から回避出来た者は、スーと戦っていた長いピアスの男『アコウ』。
 彼はその場から離脱して、自分の主であるイダラマの元へ移動する。

 当然イダラマの居る場所もイバキの結界の範囲内な為に、吹き荒れる結界と追尾するように、結界の後を追いながら魔力圧がイダラマ本人にも向かっていく。

「ふふふ、中々見事な『捉術』だ」

 イダラマがそう呟いた直後、自身に迫りくるイバキの術に向けて、唇を動かして高速で詠唱する。

「律」

 そして同じように短く発動キーを呟くと、どんっという衝撃音が辺りに響き渡り、イダラマに向かって放たれた魔力圧は消え去り、イバキの術である結界は無効化された。

「くっ……!!」

 イバキはイダラマの様子を確認した後、直ぐに先程の襲われていた退魔士の元へと移動を始める。

「律」

 イダラマが再び発動キーを呟くと、この場の結界は全て解除される。

 自由に動けるようになったイダラマの一派たちは、再び襲おうとしていた対象へと向き直り行動を再開する。イバキは早く移動を開始していたおかげで、襲われそうになっていた退魔士の元に間に合い、敵の攻撃を何とか術式で防いで見せる。そしてイバキが再び手印を結び始めるとが発動される。

 この場に目や手といった部位が無数に現れ始めた後、イダラマ一派に襲い掛かっていった。

「う、うわああ!!」

 突如現れた多くの手や目を見て、イダラマ一派側だけでは無く、退魔士の同志達も一斉に悲鳴を上げるのだった。


「イダラマ、アイツのこれは一体なんだ?」

 イバキの術によって出現した手が『エヴィ』にも当然襲い掛かってくるが、その手首を片手で掴み『終焉の炎エンドオブフレイム』で一瞬で燃やし尽くす。そして燃やしながらも目線を横に居るイダラマに合わせながらエヴィはそう口を開くのだった。

「お主の察しの通りであるが、この目や手は幻覚の類だ」

 イダラマがエヴィに種明かしをしようと再びイバキの術を解除しようとするが、その隙にイバキは再び行動を開始する。退路を断つように道を塞いでいたイダラマの妖魔の鬼の元に近づき、イバキは札を燃やしながら何やら呟くと妖魔は苦しみ始める。

「お前達! 今だ、早くここから逃げろ!」

 イバキの生み出した目や手に驚き、悲鳴をあげていた退魔士達は、イバキのその声に足を動かし始める。

「し、死にたくない!! に、逃げろおお!!」

 口々に他の者達に恐怖心を煽るような言葉を吐きながら、イダラマが出した妖魔が苦しんでいる横をひとり、またひとりと駆け抜けて逃げ出していく。

「律」

 イダラマがそう呟くと、この周囲に影響を及ぼしていたイバキの術が解除されて、目や手が消えていき、人体の形を模した紙がぱらぱらと至る所に舞い始めた。

 どうやら先程の超常現象ともいうべき目や手は、イバキが形代と呼ばれる人の形をした紙を用いて、幻覚を見せていたようである。

 イバキの術がイダラマの術によって解除されたその場には、幻覚を見せていた数体の狐の妖魔が残ったが、その狐の妖魔達をイダラマが睨みつけるとボンッという音ともに消え去った。どうやらイダラマに消される前に、イバキが式札に戻したのだろう。

「成程。アイツの術とアイツの使役した妖魔の幻覚が、あの不思議な空間を生み出していたという事か」

 合点が言ったとばかりにエヴィがそう言うと、イダラマは正解だとばかりに頷く。

「さて、ではそろそろ遊びはこの辺にして私も動くとしようか、あまり離れられると逃げられる恐れがあるからな」

 そう言うと『妖魔召士ようましょうし』の『イダラマ』は、懐から『式札』を二枚取り出した。そして薄く笑みを浮かべたイダラマは、その取り出した『式札』を投げると、ボンッという音と共に、人型の妖魔と、顔は猿、体はタヌキ、そして手足は虎といった妖魔の二体が森の中に出現するのだった。

 自分がかつて使役していた『式』と、似た体つきの妖魔の出現を見た『ミカゲ』は、現在使役している『式』に命令を出せず、驚きで目を丸くしてその場に立ち尽くすのであった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...