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ケイノト編
869.複雑な退魔組の組織図
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一方その頃、総勢二十人程の人間達が『ケイノト』の門から次々と出て行く姿が見えた。軽装で腰に刀を差すものや、狩衣を着た退魔士の姿もある。彼らは『ケイノト』を拠点に活動を行う『退魔組』の者達であった。
「よし、それでは各々『式』を展開しろ」
二十名程の人間が列をなしているその中段後方に居た人間が、そう口に出すと一斉に狩衣を着て狐の面を付けた者達が詠唱を始める。この集団に号令を出したのは『上退魔士』と呼ばれる領域に居る男『ミカゲ』であった。
本来であればこの規模の人数で行動をする時は、一番クラスが上の人間が指示を出す為、最後尾付近に居る『特別退魔士』である『イバキ』が指示を出すのが通例である。
しかしミカゲは『加護の森』に現れた妖魔と直接戦い、その相手の顔を見ている為、この作戦の指揮を執るようにとこの討伐作戦の命令を下したサテツに言われたのであった。
それでも『イバキ』を差し置いて『ミカゲ』に指揮をとらせるなど、これまでの『退魔組』の方針では有り得る事では無かった。直接手を交えようが、妖魔の顔を見ていようが、自分よりクラスの高い『退魔士』と同行するのであれば、その上の者に作戦を引き継がせるものだった。
だがそれをしない大きな理由が実は『退魔組』の頭領の座に居るサテツにはあったのである。
その理由の原因は何を隠そう、現在この集団の最後尾に居る『イバキ』と『スー』の両名の事であった。
『特別退魔士』としての力を持つイバキと、そのイバキの護衛を務めるスーは確かな力を持ち、これまでも『ケイノト』に生きる町の人間の為に身を粉にして守ってきた者達である。
当然そんな彼らは『退魔組』にとっても対妖魔に関しては、イバキ達は貴重な存在であった。しかし『イバキ』は、人間を守る為に動く退魔士ではあるのだが、そんな彼はサテツの命令に対して反抗的な態度をとる事が問題視されていた。
『イバキ』はゲンロクが編み出した新術式を使う気が無く、相当の魔力を携えているというのに『イバキ』の持つ『式』は、とある一体を除きほとんどがランク『1』やランク『2』であった。
実力も同じ『特別退魔士』であった『タクシン』よりも上であり、新術式を使う事を認めればイバキは『動忍鬼』と同じランク『4』の『鬼人』級でさえ『式』にすることが出来る類まれなる『退魔士』である。
当然『サテツ』はそんなイバキに新術式を使わせて、もっとランク『3』やランク『4』の『式』を持つようにと口が酸っぱくなる程に命令をしているにも拘わらず、イバキは聞く耳を持たずに『式』を強引に操る新術式を使わずにいたのである。
そうなれば当然サテツは、自分の命令を聞かないイバキを邪魔に思っていて、これまでも何度か『退魔組』から追放しようとさえ考えていたのだが、この『退魔組』の創設者である『ゲンロク』によって、イバキは使える退魔士だからという理由でこの『退魔組』の一員と認められているのであった。
上がそう決めた以上、サテツは従う他無くイバキを置いているが、当然サテツはイバキを邪険に扱い、これまでは同じクラスである『特別退魔士』の『タクシン』や、他の任務に就いている『特別退魔士』に重要な作戦に使っていたのであった。
しかしその『タクシン』がやられた今、直ぐに使える人材が少なくなってしまい、渋々とイバキとスーを使わざるを得なくなったのである。だがそれでも、作戦の指揮を担う役に使いたくはなかったのか、クラスの劣る『ミカゲ』を指揮官としたのであった。
「い、イバキ様! この後はどう動かしますか?」
『擬鵺』を失ったミカゲは、ランク『1』の妖魔の背に乗りながらイバキに指示を仰ごうと声を掛けた。
「それを俺に聞いてもいいのかい? 今この場での指揮官は、俺では無く君の筈だよ? 自由に指示を出してくれていいし、俺もその指示に従うよ」
細い目をしたイバキにニコリと笑ってそう言われたミカゲは、困った表情を浮かべながら、分かりましたと小声で呟き、そのまま他の隊士達に指示を出しながら列の前方へと走っていった。
その光景を見ていたイバキの護衛であるスーが、静かに口を開いた。
「この場に頭領殿はいないんだ。別にあんな意地の悪い言い方をしなくてよかったんじゃないか?」
「意地が悪い? 分からないな。俺の言い方のどこが意地が悪かったのかな」
先程と変わらない細目のままでイバキは、スーにニコリと笑いながらそう言う。
「すまなかったな、俺の勘違いだった」
「そうだと思ったよ」
再びニコリと笑うイバキを見て『スー』は溜息を吐いた後、懐から艶やかな櫛を取り出して、自分の髪の毛を弄り始めるのだった。
……
……
……
「よし、それでは各々『式』を展開しろ」
二十名程の人間が列をなしているその中段後方に居た人間が、そう口に出すと一斉に狩衣を着て狐の面を付けた者達が詠唱を始める。この集団に号令を出したのは『上退魔士』と呼ばれる領域に居る男『ミカゲ』であった。
本来であればこの規模の人数で行動をする時は、一番クラスが上の人間が指示を出す為、最後尾付近に居る『特別退魔士』である『イバキ』が指示を出すのが通例である。
しかしミカゲは『加護の森』に現れた妖魔と直接戦い、その相手の顔を見ている為、この作戦の指揮を執るようにとこの討伐作戦の命令を下したサテツに言われたのであった。
それでも『イバキ』を差し置いて『ミカゲ』に指揮をとらせるなど、これまでの『退魔組』の方針では有り得る事では無かった。直接手を交えようが、妖魔の顔を見ていようが、自分よりクラスの高い『退魔士』と同行するのであれば、その上の者に作戦を引き継がせるものだった。
だがそれをしない大きな理由が実は『退魔組』の頭領の座に居るサテツにはあったのである。
その理由の原因は何を隠そう、現在この集団の最後尾に居る『イバキ』と『スー』の両名の事であった。
『特別退魔士』としての力を持つイバキと、そのイバキの護衛を務めるスーは確かな力を持ち、これまでも『ケイノト』に生きる町の人間の為に身を粉にして守ってきた者達である。
当然そんな彼らは『退魔組』にとっても対妖魔に関しては、イバキ達は貴重な存在であった。しかし『イバキ』は、人間を守る為に動く退魔士ではあるのだが、そんな彼はサテツの命令に対して反抗的な態度をとる事が問題視されていた。
『イバキ』はゲンロクが編み出した新術式を使う気が無く、相当の魔力を携えているというのに『イバキ』の持つ『式』は、とある一体を除きほとんどがランク『1』やランク『2』であった。
実力も同じ『特別退魔士』であった『タクシン』よりも上であり、新術式を使う事を認めればイバキは『動忍鬼』と同じランク『4』の『鬼人』級でさえ『式』にすることが出来る類まれなる『退魔士』である。
当然『サテツ』はそんなイバキに新術式を使わせて、もっとランク『3』やランク『4』の『式』を持つようにと口が酸っぱくなる程に命令をしているにも拘わらず、イバキは聞く耳を持たずに『式』を強引に操る新術式を使わずにいたのである。
そうなれば当然サテツは、自分の命令を聞かないイバキを邪魔に思っていて、これまでも何度か『退魔組』から追放しようとさえ考えていたのだが、この『退魔組』の創設者である『ゲンロク』によって、イバキは使える退魔士だからという理由でこの『退魔組』の一員と認められているのであった。
上がそう決めた以上、サテツは従う他無くイバキを置いているが、当然サテツはイバキを邪険に扱い、これまでは同じクラスである『特別退魔士』の『タクシン』や、他の任務に就いている『特別退魔士』に重要な作戦に使っていたのであった。
しかしその『タクシン』がやられた今、直ぐに使える人材が少なくなってしまい、渋々とイバキとスーを使わざるを得なくなったのである。だがそれでも、作戦の指揮を担う役に使いたくはなかったのか、クラスの劣る『ミカゲ』を指揮官としたのであった。
「い、イバキ様! この後はどう動かしますか?」
『擬鵺』を失ったミカゲは、ランク『1』の妖魔の背に乗りながらイバキに指示を仰ごうと声を掛けた。
「それを俺に聞いてもいいのかい? 今この場での指揮官は、俺では無く君の筈だよ? 自由に指示を出してくれていいし、俺もその指示に従うよ」
細い目をしたイバキにニコリと笑ってそう言われたミカゲは、困った表情を浮かべながら、分かりましたと小声で呟き、そのまま他の隊士達に指示を出しながら列の前方へと走っていった。
その光景を見ていたイバキの護衛であるスーが、静かに口を開いた。
「この場に頭領殿はいないんだ。別にあんな意地の悪い言い方をしなくてよかったんじゃないか?」
「意地が悪い? 分からないな。俺の言い方のどこが意地が悪かったのかな」
先程と変わらない細目のままでイバキは、スーにニコリと笑いながらそう言う。
「すまなかったな、俺の勘違いだった」
「そうだと思ったよ」
再びニコリと笑うイバキを見て『スー』は溜息を吐いた後、懐から艶やかな櫛を取り出して、自分の髪の毛を弄り始めるのだった。
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