最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
875 / 1,985
ケイノト編

860.建前ではなく本音で

しおりを挟む
「ど、動忍鬼はランク『4』の妖魔とされている筈だが……!

「お主達が先程から言っておるランク『2』やランク『4』とやらは、一体何なのだ?」

「すまぬソフィ殿、その質問に答える前に小生に聞かせて欲しいのだが、タクシンはそこに居るヌー殿が倒したと聞いたが『動忍鬼』……。鬼人の妖魔は自由になった後、何故殺さずに山に返したのかを聞かせてくれるか?」

「それはあやつが悪い奴ではなかったからだが?」

 あっさりと短い言葉でそう告げたソフィに、質問をしたエイジは目を丸くして、今度こそ誰が見ても分かる程に驚いて見せるのだった。

「は、話を聞いていたか、ソフィ殿? お主が相手をした妖魔は、この『ケイノト』を襲撃してきた妖魔の軍勢の者だ。人間を襲う妖魔をお主は、悪い奴ではないと言ったのか?」

 ソフィはジッとエイジの表情を窺う。

 この質問の意図を探ろうとするが今のエイジは無表情のままであり、流石のソフィから見てもどういう意図でこの質問を行っているか、それを表情と言葉のトーンだけでは読み切れなかった。

 仕方なくソフィは自分の本音で語り始める。

「あやつは『タクシン」とやらに術を施されて、無理矢理襲うように指示をされておった。それに本当は我と戦いたくはないとあやつは言っておったのだ」

 タクシンに自我を失わされる前に動忍鬼と『念話テレパシー』で会話を交わしたソフィは、タクシンの命令で嫌々従わされていたという事を知っていた。

「だが、その鬼人は『ケイノト」の町を襲いに来た妖魔団の一員の妖魔だぞ? 悪いか悪くないかで言えば、悪い奴なのではないか?」

「無論、襲撃行為自体は悪い事ではあるだろう。しかしそれも我には

「そのとはなんだ?」

「無理矢理妖魔を『式』にし強引に従わせて奴隷のように扱う『妖魔召士ようましょうし』という者達から同胞を救い出すという理由だ」

 ソフィは動忍鬼からこの町を襲った理由を直接聞いている。そしてその理由を聞いたソフィは、動忍鬼を『』ではないと判断した。報復行為自体許されないと思う者もいるだろうが、それは奪われた事がない者だから言える事であり、ソフィにとっては動忍鬼の告げた理由は、であった。

「ソフィ殿……。勘違いしてほしくないのだが、決して『妖魔召士ようましょうし』は、妖魔を奴隷に扱う者達ではないのだ……!」

「お主はそう考えておるやもしれぬが、あやつはこうもいっておったぞ」

 ――『人間達は自分達の私欲の為に、我々妖魔達を従える事を目的としている』

「!」

 動忍鬼との会話で彼女がソフィに言っていた言葉をそのままソフィが告げると、エイジは辛そうな表情を浮かべるのだった。そして言葉に詰まった彼の代わりに、横に居た『シュウ』が口を開いた。

「その妖魔が言っている『妖魔召士ようましょうし』は、エイちゃんみたいな本当の『妖魔召士ようましょうし』の事ではないのだろう。それこそ、アイツラ……『退魔組』の連中の事を言っているんだと思うぞ」

 俯きがちにソフィにそう伝えるが、彼は内心ではエイジを想っての発言だったのだろう。言葉に出した後にシュウは隣に居るエイジの顔を見るのだった。

「奴に……『動忍鬼』にしてみれば、契約を用いて『式』に変える人間は、皆『妖魔召士ようましょうし』に映っていたという事だろうが、同胞を助けに行く為に行動を起こしたという理由を聞いて我はあやつを自由にする為に山に返したというワケだ」

「成程、理由を話してくれて感謝する」

 ソフィが動忍鬼という鬼人の妖魔を山に返した理由を聞き、エイジは顔をあげた後に理解したとソフィに礼を言うのだった。

「『退魔組』に居る者達も決して全員が悪者というワケでは無いのだ。この『ケイノト』に住む町人たちを守る為にあらゆる方法を模索し、町を去った『妖魔退魔師ようまたいまし』の代わりに少しでも悪しき妖魔たちと戦えるようにと生み出された組織が『退魔組』なのだ……」

「だが、中途半端に退魔士増えすぎた結果。変革を恐れた『妖魔召士ようましょうし』達の考えていた通り、屑のような考え方をする人間が増えたのも確かだがな」

 どうやらシュウという人間は、退魔組に恨みがあるのだろうか。エイジが退魔組の事に関して、フォローを入れようとした瞬間、間髪入れずに悪い点を補足するように告げてくるシュウであった。

「先程、ランクの事について聞いていたな……」

 少し場の空気が悪くなり始めた頃、切り替えるようにエイジが口を開いた。

「うむ。相手の強さの基準を示す数値なのだろうと予測は付くが、ランク『1』あたりでどれくらいの差が、あるのかは聞いておきたいところだ」

「この『ランク』の基準は、相当昔の人間が決めたもので今と少しだけ乖離している部分もあるが、それでも構わぬか?」

「ああ、大体のが分かれば十分だ」

 エイジの言葉に軽く首を縦に振るソフィであった。

 そしてどうやらヌーも興味があるようで、先程までよりも幾分こちらの会話に集中する姿勢を見せるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...