867 / 1,985
ケイノト編
852.不敵な笑み
しおりを挟む
エイジが玄関の戸を開け放つと長屋の前に三人の若衆が詰めかけていた。どうやら表通りの『退魔組』の退魔士たちのようであった。
「何だというのだ。全く騒々しい……」
エイジは先程のソフィ達と応対していた時とは、比べ物にならない程の不機嫌を全面に押し出した表情で戸を叩いていた『退魔組』の若衆達を睨みつける。
「うっ……! え、エイジ殿! 寝ておられる所を申し訳ない! 先程こちらで大きな衝撃音があったと報告があったのだが、な、何か聞いてはおられぬだろうか」
最初の勢いは何処へやら。退魔組の若衆達は『妖魔召士』のエイジの不機嫌な顔を見た途端に気圧されて、遠慮気味に尋ねてくるのだった。
「小生は何も知らぬ。お主らの頭領殿たちと、無駄に長い会議を終えて戻ってきて、ようやく寝床に着いた所だったのだ。そんなくだらん用件を言いに来ただけならばさっさと去れ」
そう言って強引に話を打ち切って、エイジが家に戻ろうとする。しかしそこで退魔組の若衆達の一人がぼそっと呟いた。
「くっ……! はぐれ者がいつまでも偉そうに……」
後ろ手に戸を閉めようとしていたエイジは、その言葉にピタリと動きを止めた。
「お、おい……!!」
「ば、馬鹿!」
退魔組の他の二人が先程呟いた者に注意をしようとしたが、その制止の言葉より先にエイジが動いた。
恐ろしい形相を浮かべたエイジは、早口で何かを詠唱し始めた。
その瞬間に暴言じみた言葉を吐き捨てた退魔組の若衆は、そのまま向かいの長屋に向かって一直線に吹き飛ばされていき、戸を突き破って家の中へ押し込まれて白目を剥きながら泡を吹いて気絶しているのが見えた。
「事情を深く知らぬ木っ端風情が、誰に向かってそんな口を利いている? 小生を舐めているなら殺すぞ……」
そう言い捨てた後、エイジがギロリと残った二人を睨みつけると、退魔組の二人は震えあがったかと思うとそのまま過呼吸を起こし始めた。
「若衆達の無礼は謝りますから……。そこまでにして頂けませんか?」
突然その声が聞こえたかと思うと、退魔組の若衆達の隣にエイジとは色が違う狩衣を着た少年が立っていた。
「お前は確か『特別退魔士』の『イバキ』だったか」
エイジがイバキの方を見てそう言うと、少年はニコリと笑って頭を軽く下げた。
「あーあ。こりゃあ酷い。この馬鹿、完全にのびてやがるわ」
そう言って先程エイジの手によって、向かいの長屋に吹き飛ばされた退魔士を両手で抱えながら、髪をオールバックにした体格のいい男がこちらに向かってくるのだった。
「今度はお主ら『特別退魔士』様のお目見えか。貴様らまさかとは思うが、小生達をもこの町から追い出そうって肚か?」
そう言うとイバキと呼ばれた少年は、困った表情を浮かべるのだった。
……
……
……
エイジの長屋の隠し部屋の中に身を潜めているソフィ達は、空いている戸の先から聞こえてくる声に顔を見合わせる。
「この声は先程の食事処に居たあやつらのようだな」
ソフィが小声でそう言うと、ヌーは微かに頷きを見せた。
「どうやらあの赤い奴が雑魚を吹き飛ばした事で、上役が警告に来たっていうところのようだな」
退魔組の若衆を雑魚呼ばわりするところは昔と変わっていないヌーだったが、その目は真剣そのものでいつでも飛び出せるように身構えている。
どうやら『魔力感知』か『漏出』のどちらを使ったかは分からないが、イバキ達の魔力値を覗き見たのだろう。決して低く見ていい相手では無いと、ヌーのその真剣な眼差しから見て感じ取るソフィだった。
……
……
……
「ん? 何か妙な気配を感じるね」
不敵な笑みを浮かべてエイジと対峙していたイバキがそう口にすると、彼はエイジの長屋をそっと覗こうとする。しかしその視線を遮るように、エイジは一歩横に移動して戸の前に立つ。
(結界を外側に向けている故、滅多なことをせぬ限りは中の様子は探れぬ筈だが、ソフィ殿たちが何か行ったか?)
先程、退魔組の若衆達が長屋を尋ねてきたとき、ソフィ達の存在を知らせたくない彼は、板を媒体にして結界を張り直したエイジだった。
エイジの張った『結界』はソフィ達に向けて使ったものとは違い、存在を稀薄にして人除けを行う類の結界であった。
この結界の内側であれば、余計な事をしない限り、外に居るイバキ達にバレる事はない筈だった。
しかしどうやらヌーが『魔力感知』や『漏出』といった相手の魔力を測る魔法をイバキ達に使った事で、目聡くイバキは気づいたようであった。
ヌーやフルーフの使う『隠幕』や、影忍の麒麟児である『リーネ』のような技術があれば、余程のことがない限り魔力を使っても彼らに感知されずに存在を消す事が可能であるが、どうやらエイジの結界の効力では、イバキクラスの退魔士であれば、一度違和感に気づいた事で存在を認識出来たようであった。
まだソフィ達が居る事がバレたワケでは無いだろうが、この違和感に捕らわれている状態のイバキに、
もう一度ソフィやヌーが『漏出』などを使えば、もう隠し通す事は出来ないだろう。
「そちらが実力行使に出るというのであれば、小生もこの『裏路地』に居る仲間達も黙っては居らぬ!!」
エイジは突然大きな声をあげながら『魔力』を開放し始める。
「!?」
その瞬間に『イバキ』は若衆二人の襟首を掴んで大きく背後へ跳躍する。そしてオールバックの男『スー』が『イバキ』の前方に立って戦闘態勢に入る。
イバキとスーの両者は完全に長屋の中に居るかもしれない存在を頭から消して、目の前の厄介な『妖魔召士』に視線を移すのだった。
「何だというのだ。全く騒々しい……」
エイジは先程のソフィ達と応対していた時とは、比べ物にならない程の不機嫌を全面に押し出した表情で戸を叩いていた『退魔組』の若衆達を睨みつける。
「うっ……! え、エイジ殿! 寝ておられる所を申し訳ない! 先程こちらで大きな衝撃音があったと報告があったのだが、な、何か聞いてはおられぬだろうか」
最初の勢いは何処へやら。退魔組の若衆達は『妖魔召士』のエイジの不機嫌な顔を見た途端に気圧されて、遠慮気味に尋ねてくるのだった。
「小生は何も知らぬ。お主らの頭領殿たちと、無駄に長い会議を終えて戻ってきて、ようやく寝床に着いた所だったのだ。そんなくだらん用件を言いに来ただけならばさっさと去れ」
そう言って強引に話を打ち切って、エイジが家に戻ろうとする。しかしそこで退魔組の若衆達の一人がぼそっと呟いた。
「くっ……! はぐれ者がいつまでも偉そうに……」
後ろ手に戸を閉めようとしていたエイジは、その言葉にピタリと動きを止めた。
「お、おい……!!」
「ば、馬鹿!」
退魔組の他の二人が先程呟いた者に注意をしようとしたが、その制止の言葉より先にエイジが動いた。
恐ろしい形相を浮かべたエイジは、早口で何かを詠唱し始めた。
その瞬間に暴言じみた言葉を吐き捨てた退魔組の若衆は、そのまま向かいの長屋に向かって一直線に吹き飛ばされていき、戸を突き破って家の中へ押し込まれて白目を剥きながら泡を吹いて気絶しているのが見えた。
「事情を深く知らぬ木っ端風情が、誰に向かってそんな口を利いている? 小生を舐めているなら殺すぞ……」
そう言い捨てた後、エイジがギロリと残った二人を睨みつけると、退魔組の二人は震えあがったかと思うとそのまま過呼吸を起こし始めた。
「若衆達の無礼は謝りますから……。そこまでにして頂けませんか?」
突然その声が聞こえたかと思うと、退魔組の若衆達の隣にエイジとは色が違う狩衣を着た少年が立っていた。
「お前は確か『特別退魔士』の『イバキ』だったか」
エイジがイバキの方を見てそう言うと、少年はニコリと笑って頭を軽く下げた。
「あーあ。こりゃあ酷い。この馬鹿、完全にのびてやがるわ」
そう言って先程エイジの手によって、向かいの長屋に吹き飛ばされた退魔士を両手で抱えながら、髪をオールバックにした体格のいい男がこちらに向かってくるのだった。
「今度はお主ら『特別退魔士』様のお目見えか。貴様らまさかとは思うが、小生達をもこの町から追い出そうって肚か?」
そう言うとイバキと呼ばれた少年は、困った表情を浮かべるのだった。
……
……
……
エイジの長屋の隠し部屋の中に身を潜めているソフィ達は、空いている戸の先から聞こえてくる声に顔を見合わせる。
「この声は先程の食事処に居たあやつらのようだな」
ソフィが小声でそう言うと、ヌーは微かに頷きを見せた。
「どうやらあの赤い奴が雑魚を吹き飛ばした事で、上役が警告に来たっていうところのようだな」
退魔組の若衆を雑魚呼ばわりするところは昔と変わっていないヌーだったが、その目は真剣そのものでいつでも飛び出せるように身構えている。
どうやら『魔力感知』か『漏出』のどちらを使ったかは分からないが、イバキ達の魔力値を覗き見たのだろう。決して低く見ていい相手では無いと、ヌーのその真剣な眼差しから見て感じ取るソフィだった。
……
……
……
「ん? 何か妙な気配を感じるね」
不敵な笑みを浮かべてエイジと対峙していたイバキがそう口にすると、彼はエイジの長屋をそっと覗こうとする。しかしその視線を遮るように、エイジは一歩横に移動して戸の前に立つ。
(結界を外側に向けている故、滅多なことをせぬ限りは中の様子は探れぬ筈だが、ソフィ殿たちが何か行ったか?)
先程、退魔組の若衆達が長屋を尋ねてきたとき、ソフィ達の存在を知らせたくない彼は、板を媒体にして結界を張り直したエイジだった。
エイジの張った『結界』はソフィ達に向けて使ったものとは違い、存在を稀薄にして人除けを行う類の結界であった。
この結界の内側であれば、余計な事をしない限り、外に居るイバキ達にバレる事はない筈だった。
しかしどうやらヌーが『魔力感知』や『漏出』といった相手の魔力を測る魔法をイバキ達に使った事で、目聡くイバキは気づいたようであった。
ヌーやフルーフの使う『隠幕』や、影忍の麒麟児である『リーネ』のような技術があれば、余程のことがない限り魔力を使っても彼らに感知されずに存在を消す事が可能であるが、どうやらエイジの結界の効力では、イバキクラスの退魔士であれば、一度違和感に気づいた事で存在を認識出来たようであった。
まだソフィ達が居る事がバレたワケでは無いだろうが、この違和感に捕らわれている状態のイバキに、
もう一度ソフィやヌーが『漏出』などを使えば、もう隠し通す事は出来ないだろう。
「そちらが実力行使に出るというのであれば、小生もこの『裏路地』に居る仲間達も黙っては居らぬ!!」
エイジは突然大きな声をあげながら『魔力』を開放し始める。
「!?」
その瞬間に『イバキ』は若衆二人の襟首を掴んで大きく背後へ跳躍する。そしてオールバックの男『スー』が『イバキ』の前方に立って戦闘態勢に入る。
イバキとスーの両者は完全に長屋の中に居るかもしれない存在を頭から消して、目の前の厄介な『妖魔召士』に視線を移すのだった。
0
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる