851 / 1,906
ケイノト編
836.ソフィ、知見を広める
しおりを挟む
「しかしこれは凄い町並みだな」
ソフィがそう言いながら立ち止まると、ヌーやテアもその場で同じように足を止めて辺りを見渡す。門を潜ってからこれまで道路の頭上には提灯が飾ってあり、その提灯はこの場から見える道路の先まで途切れず続いていた。この表通りはソフィ達三人が横並びに並んで歩いていてもまだまだ横幅に余裕があり、前から歩いてくる町人たちとすれ違える程に広い。そしてそのソフィ達の通っている道路を挟んで両脇には長屋が立ち並んでいる。
長屋と長屋の間にはひっそりと裏道へと通じる路地も見えるが、この表通りとは違いここから見えるその路地は薄暗く、あまり入りたいとは思えない場所に感じられた。
「アレルバレルとも違うし、リラリオで見てきた人間の町とも違うな」
ソフィがそう言いながら再び通りを歩く者達を見渡す。町人の多くの者達が腰に刀を差しているのが見える。驚く事に中には女性や年端も行かぬような子も刀を差しているのである。
勿論、町を歩く者達全員がという事では無いのだが、これまでの世界では、あまり見た事の無い光景であった。
そして町人の中には差袴をはきながら狩衣を着ている者達もそこそこ多く見受けられた。ソフィはその町人を見て『加護の森』と呼ばれていた森で、ソフィ達が襲ってきた連中の中にもこの格好の者が居た事を思い出す。
(……こやつらもただの町人では無く、有事の際には戦闘を行える者達なのだろうか)
ソフィはそっとすれ違った狩衣を着ている男に『漏出』を使おうと魔力回路に魔力を灯そうとした。
――その瞬間、ソフィに視線を送る者達が数人現れた。
更には先程の薄暗い長屋の裏路地の方から、明確に殺意のような物が感じられた。
「おいソフィ。この場で面倒事は御免だぞ」
「すまぬ」
ソフィはヌーに視線を向けずに言葉だけで謝罪すると、直ぐに『スタック』をしようとしていた魔力を消す。
すると何事も無かったかのようにギラついた視線が消えて、路地の方からも何も無かったかの如く殺意は消えた。あれだけの殺意や視線を感じられたというのに、誰も騒がずそして誰もが何事も無かったかのように振る舞い、立ち止まった者達も歩き始めて行った。そのまるで異様な光景に、ソフィは眉を寄せるのだった。
「一体どう言う事なのだ? あれ程の殺意を向けてくるものが、こんなにあっさりと?」
一悶着あっても可笑しくない程の出来事があったというのに何事も無く過ぎ去っていく、あまりの不自然な光景を前に、ソフィは驚きを隠し切れずに口に出してしまうのだった。
「考えられるのはこれが奴等の日常茶飯事という事だな。お前はあまり別世界というものを知らないだろうが、自分の常識が通用しない世界というものは、大小含めて何処の世界にもあるものだ」
自分の世界の常識が別世界でも同じだとは限らないと、ヌーはソフィに言いたかったようである。
「いや、しかし解せぬな。先程我らに意識を向けた者達は、今はもう完全に我達を意識の埒外に置いておる。少しも警戒する素振りも見せぬなど、そんな事が考えられるのか?」
「だからそれが既成観念だと言ってるだろ。お前が信じられないと思う事がこの世界では当たり前の出来事で、てめぇが普段当たり前に思っていることが、この世界では信じられない事だったりするんだよ」
ソフィはヌーの言葉を受けて、信じられない物を見るような目でヌーの顔を見るのだった。
(先程まで分かり合えそうな気がしていたこやつが、今では全く別の生き物に見える)
ソフィは内心で、これが別世界を渡り歩いてきた経験者なのかと、この状況に直ぐに順応し是認したヌーに驚くのであった。
「だが、気を抜くなよソフィ。何事も無い様に見せかけて実はこちらの隙を窺っているとも考えられる」
(雑魚しかいねぇ程度の低い世界ならどうでもいいと思える事だが、この世界の人間は侮る事は許されねぇ)
既にタクシンという男と戦ったヌーは、この世界の人間を侮っていい事は何も無いと、そう理解を示したようであった。
「成程、別世界についてはお主の方が詳しいのは間違いない。ここは一つそういうものだと新たな認識を持つとしようか」
ソフィは先程の経験とヌーの言葉に、新たに知見を広める事となった。
ソフィがそう言いながら立ち止まると、ヌーやテアもその場で同じように足を止めて辺りを見渡す。門を潜ってからこれまで道路の頭上には提灯が飾ってあり、その提灯はこの場から見える道路の先まで途切れず続いていた。この表通りはソフィ達三人が横並びに並んで歩いていてもまだまだ横幅に余裕があり、前から歩いてくる町人たちとすれ違える程に広い。そしてそのソフィ達の通っている道路を挟んで両脇には長屋が立ち並んでいる。
長屋と長屋の間にはひっそりと裏道へと通じる路地も見えるが、この表通りとは違いここから見えるその路地は薄暗く、あまり入りたいとは思えない場所に感じられた。
「アレルバレルとも違うし、リラリオで見てきた人間の町とも違うな」
ソフィがそう言いながら再び通りを歩く者達を見渡す。町人の多くの者達が腰に刀を差しているのが見える。驚く事に中には女性や年端も行かぬような子も刀を差しているのである。
勿論、町を歩く者達全員がという事では無いのだが、これまでの世界では、あまり見た事の無い光景であった。
そして町人の中には差袴をはきながら狩衣を着ている者達もそこそこ多く見受けられた。ソフィはその町人を見て『加護の森』と呼ばれていた森で、ソフィ達が襲ってきた連中の中にもこの格好の者が居た事を思い出す。
(……こやつらもただの町人では無く、有事の際には戦闘を行える者達なのだろうか)
ソフィはそっとすれ違った狩衣を着ている男に『漏出』を使おうと魔力回路に魔力を灯そうとした。
――その瞬間、ソフィに視線を送る者達が数人現れた。
更には先程の薄暗い長屋の裏路地の方から、明確に殺意のような物が感じられた。
「おいソフィ。この場で面倒事は御免だぞ」
「すまぬ」
ソフィはヌーに視線を向けずに言葉だけで謝罪すると、直ぐに『スタック』をしようとしていた魔力を消す。
すると何事も無かったかのようにギラついた視線が消えて、路地の方からも何も無かったかの如く殺意は消えた。あれだけの殺意や視線を感じられたというのに、誰も騒がずそして誰もが何事も無かったかのように振る舞い、立ち止まった者達も歩き始めて行った。そのまるで異様な光景に、ソフィは眉を寄せるのだった。
「一体どう言う事なのだ? あれ程の殺意を向けてくるものが、こんなにあっさりと?」
一悶着あっても可笑しくない程の出来事があったというのに何事も無く過ぎ去っていく、あまりの不自然な光景を前に、ソフィは驚きを隠し切れずに口に出してしまうのだった。
「考えられるのはこれが奴等の日常茶飯事という事だな。お前はあまり別世界というものを知らないだろうが、自分の常識が通用しない世界というものは、大小含めて何処の世界にもあるものだ」
自分の世界の常識が別世界でも同じだとは限らないと、ヌーはソフィに言いたかったようである。
「いや、しかし解せぬな。先程我らに意識を向けた者達は、今はもう完全に我達を意識の埒外に置いておる。少しも警戒する素振りも見せぬなど、そんな事が考えられるのか?」
「だからそれが既成観念だと言ってるだろ。お前が信じられないと思う事がこの世界では当たり前の出来事で、てめぇが普段当たり前に思っていることが、この世界では信じられない事だったりするんだよ」
ソフィはヌーの言葉を受けて、信じられない物を見るような目でヌーの顔を見るのだった。
(先程まで分かり合えそうな気がしていたこやつが、今では全く別の生き物に見える)
ソフィは内心で、これが別世界を渡り歩いてきた経験者なのかと、この状況に直ぐに順応し是認したヌーに驚くのであった。
「だが、気を抜くなよソフィ。何事も無い様に見せかけて実はこちらの隙を窺っているとも考えられる」
(雑魚しかいねぇ程度の低い世界ならどうでもいいと思える事だが、この世界の人間は侮る事は許されねぇ)
既にタクシンという男と戦ったヌーは、この世界の人間を侮っていい事は何も無いと、そう理解を示したようであった。
「成程、別世界についてはお主の方が詳しいのは間違いない。ここは一つそういうものだと新たな認識を持つとしようか」
ソフィは先程の経験とヌーの言葉に、新たに知見を広める事となった。
0
お気に入りに追加
421
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる