上 下
840 / 1,915
ノックス編

825.妖魔召士の町ケイノト

しおりを挟む
 その頃、タクシンに命令されたミカゲは自身の『式』である巨体な犬の背に、意識を失っているタシギを乗せながら全速力で駆けていく。目指している場所は、自分達の住む人間達の町『ケイノト』である。

 『ケイノト』はただの人里や町というワケでは無く、ミカゲやその同胞達である『退魔士』達が多く居る大きな町であり、ケイノトには『退魔組衆たいまぐみしゅう』が至る場所に詰めている。

 既に加護の森からはかなり離れており、ケイノトは目と鼻の先という所まで来ている。だが、ミカゲは何度も立ち止まると後ろを確認しながら、誰かがついてきていないかを確認している。

 タクシンという『退魔士』は『退魔組衆たいまぐみしゅう』の中でも指折りの魔力持ちで、上の方々から『特別退魔士とくたいま』と名乗るのを許される程の男であった。普段であれば妖魔を討伐する時にタクシンが居てくれれば、何も心配すること無く任せられるのだが、今回のあの『黒羽』を持つ人型の二人組だけは油断ならないとミカゲは考えていた。

 何やら黒羽達が『自分達は妖魔ではない』などと言っていた気もするが『擬鵺ぎぬえ』がやられた時の衝撃で、ミカゲの耳にはほとんど何も入ってはいなかった。

 ひとまず今のミカゲがやるべき事は、現在の『退魔組衆たいまぐみしゅう』を束ねる頭領と、その『退魔組衆たいまぐみしゅう』を創設した『妖魔召士ようましょうし』の長である『ゲンロク』に加護の森に現れた二人組の存在を伝える事である。

 タクシン様が二人組をそのまま倒してくれると信じてはいるが、ミカゲは嫌な予感から胸騒ぎを止められないでいるのだった。もう何度目になるだろうか。背後を気にしてしまってその場で振り向き確認する。

 その度に『式』も足を止めてしまうが、どうしてもミカゲは気になってしまうのだった。やがて森を抜け出してから数十分の時が経ち、ミカゲの視界に『ケイノト』の町の景色が見えた頃、ようやくミカゲは安堵の溜息を吐いた。

 ケイノトの入り口には、妖魔から町を守る門人の『中位退魔士』達が数人程立っていた。ミカゲとそのミカゲの『式』である犬に乗せられている『タシギ』の姿を確認した門人は、直ぐにこちらに向かって走って来る。

「み、ミカゲ様! それにタシギ様も!」

 慌ててこちらに走ってきた門人は三人。その内の一人が、驚いた様子で声を出した。

「お前達、すまないがすぐに中に入れてくれ」

 既にミカゲの『式』を飛ばした事で『退魔組たいまぐみ』の仲間達には、危機が迫っているという事は伝わっているだろうが、一体どういう規模なのかは伝えられてはいない。急いで何があったかを伝えなければならなかった。

「わ、分かりました! オイ、直ぐに開けろ!」

 門人の一人が声を掛けると町の入り口に居た別の門人は頷き、慌てて入り口の大きな扉を開き始めるのだった。

「しかしタシギ様程の方が、これ程の傷を負われるとは……。一体何があったのですか? ミカゲ様!」

「お前達にも事情は後で話す。それよりも今は早く退魔組に向かい、頭領のサテツ様のところに行かねばならない!」

 自分よりも立場が数段上のミカゲが慌てているのを見て、事情は分からないが余程のことなのだと判断した門人達はそれ以上は何も聞かず、直ぐに頷いて道を開けるのだった。

「いいか! 直ぐにここを通る事になるかもしれない。施錠をせずに扉をいつでも開けられるようにしておくのだ」

「わ、分かりました! ミカゲ様!」

 返事を聞かずにミカゲは走り出した。目的地はここから直ぐにある『ケイノト』の表通りにある屯所である。

 その屯所には同胞達である『退魔士たいまし』達が多く詰めており、目的の人物である『退魔組衆たいまぐみしゅう』の頭領である『サテツ』と呼ばれる『妖魔召士ようましょうし』がいるのである。

 ミカゲはまず先に自分の所属している退魔組衆の頭領である『サテツ』に事情を説明し、その後はサテツの方から『妖魔召士ようましょうしの里』にいる『妖魔召士』の長『ゲンロク』へと話を通してもらうつもりなのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...