上 下
828 / 1,915
ノックス編

813.VS動忍鬼2

しおりを挟む
 空から漆黒の大きな翼を羽ばたかせて大魔王が向かってくる。

動忍鬼どうにんき』は鬼としての本能で、襲い掛かる脅威を振り払う為に行動を開始する。空から落ちて来る『金色きんいろ』の光に向けて、両手で持った鉈に思いきり力を込めて振りかぶった。

「ああああっっ!!」

 対するソフィは上空から加速した速度そのままに、真正面からこちらに向けて鉈を振り回そうとする『動忍鬼どうにんき』に再生させた右手に『』を纏わせて突き出した。

 ――インパクトの瞬間。周囲に恐ろしい衝撃が駆け抜けていき、大地の裂けた箇所から亀裂が更に広がっていく。

 その中央に居る『ソフィ』と『動忍鬼』は凡そ2秒程ではあったが、力と力が拮抗して動かなかった。

動忍鬼どうにんき』はそのまま押し切れると判断したのか、口角を吊り上げて笑おうとする。

 ――が、しかし……。

(――素晴らしい……。もっと我を楽しませてくれ)

 聞こえなくなった筈のソフィからの『念話テレパシー』が、鮮烈に『動忍鬼どうにんき』の胸に、心に、耳に響いた気がした――。

「ぐおおああっ!?」

 ――次の瞬間。

 ソフィの周囲を纏うオーラが金色だけでは無く、鮮やかな『』が混ざり合い、魔力がさらに増幅される。一方から一気に力が膨れ上がり、拮抗していた力が極端に傾く。

 ドォンッ!! という衝撃音と共に、動忍鬼は吹き飛ばされていき、その身体で木々を次々と薙ぎ倒しながら森の中を突き進んでいく。もはや『加護の森』の一部は完全に更地と化していく。

 やがて『動忍鬼どうにんき』は、一際大きな樹に体がぶつかってその身体が止まった。そしてそのわずかな時間の後、大きな樹はベキベキと音を立てて真っ二つに折れるのだった。

 大きな樹だった木の根元で『動忍鬼』はがくりと首から地面に落ちていき、そして完全に気を失って倒れるのだった。

 …………

 ソフィはゆっくりと意識を失った『動忍鬼どうにんき』の元まで歩いてくる。目の前まで来た後、ゆっくりと『動忍鬼どうにんき』の身体を仰向けに寝かせる。

「うむ。命に別状は無い。それにどうやら、

 それならばと『ソフィ』は、そっと寝かせている『動忍鬼』に手を翳して魔法を唱えた。

 ――神聖魔法、『救済ヒルフェ』。

 温かな光が動忍鬼を包み込むと『動忍鬼どうにんき』の身体のいたるところに出来ていた、大小差のある傷が塞がっていく。

 今のソフィ程の魔力があれば、魂が残っている間であればだが肉体を修復し蘇生さえ可能とするだろう。

 …………

「うっ!」

 ゆっくりと目を覚ました『動忍鬼どうにんき』は、ぼんやりとした目で周りを見渡していたが、やがてそこに映る人影に視線が止まる。

「目を覚ましたか? 傷は治ったと思うが、気分はどうだ?」

「え?」

 まだ意識が混濁しているようで、自分がどうなったのかさえ分かっていない『動忍鬼どうにんき』。

 やがて意識が覚醒していき、自分の身に何があったのか思い出すと、その場で勢いよく立ち上がった。

「私、何でまだここに居るの? アイツに意識を奪われてまた暴れさせられた筈なのに……」

「話せそうなら、詳しく話してくれぬか? ここには我しか居らぬ」

 ソフィは少しだけ足を曲げて目線を『動忍鬼どうにんき』に合わせて優しくそう告げると、驚きながらも『動忍鬼どうにんき』はこくりと頷きを見せるのだった。

 ……
 ……
 ……

 一方その頃『動忍鬼どうにんき』が暴走したのを確認したタクシンは、鳥の足に捕まりながらケイノトと呼ばれる彼らの町へと向かう為に空を飛んでいた。

「捕えられなかったのは残念だが、ひとまずは厄介な者を片付けられたのは大きな功績だろう。この事を『』様に報告すれば、私はまた一つ認められる事だろう。ふふふ、この私が『退魔組』の『副頭領』と名乗れる日もそう遠くはあるまい?」

 空を飛びながら自分の素晴らしい未来を想像し、ニヤニヤと笑い始める『タクシン』だった。

 しかしその上機嫌のタクシンの背後からタクシンに向けて一筋の光が迫って来る。

「むっ!?」

 恐るべき速度で向かってくる光に気づき、タクシンは直ぐに『式』を消して空から落下しながら躱すと、器用に体を入れ替えて背後を見る。

 するとタクシンの後ろからこちらに向かって、グングンと迫って来る人影が見えた。

 タクシンは先程の二人組の一人が来たのを悟り、地に両手をついた後に体を起こして、大きく溜息を吐くのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...