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ノックス編
808.青髪の美少年
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ソフィはヌーの傷を治した後、この後の行動指針を決めようとしたが、そこで森の木々にもたれ掛かるように倒れている男を見つけた。
「ひとまず、あの男が起きたら色々と聞かせてもらうとしようか」
ソフィが一番最初に襲ってきた二人組の片割れである剣士を見ながらそう言うと、ヌーはその時の戦闘を思い出して薄く笑った。
「そいつも『魔界』に居てもおかしくはない程だったが、貴様が相手では形無しだったな」
「確かにこやつは『二桁』に入れる程の実力はあったな。しかし先程の女の剣士は『序列部隊』の者達でさえ、苦労する程の実力者だった」
「ああ。それにもう一人の変な格好をした男。俺が油断をしていた所為もあるが、侮れない力を持っていやがるぞ」
『タクシン』と呼ばれていた男の事を話すヌーは、額に青筋を浮かべながらそう告げた。どうやら少し手を合わせた事で、相手の実力をある程度は理解出来たのだろう。ソフィはまだタクシンとやらとは戦ってはいない為、実際にどれ程の強さかは分かってはいない。しかしアレルバレルの世界でNo.2まで一度は登り詰めた目の前の大魔王の口振りにソフィは、高揚感に包まれるのだった。
「クックック……! そうかそうか。この世界にはもしかしたら『エルシス』より強い人間もいるかもしれぬな」
ヌーは無言でソフィの出した名の人間の事を思い浮かべる。
『煌聖の教団』の全てを司った総帥である大賢者『ミラ』が認めた存在にして、人間の身でありながら信じられない力を持つ男。
「また人間か。寿命が短い種族の癖しやがって、面倒な奴らが多い事よ」
その台詞はこの世界に生きる先程の人間達の事を言っていたのか、それとももう今は居ない大賢者ミラの事だったのか。含んだ物言いをする魔族『ヌー』であった。
「ようやくお主も人間の可能性を感じ始めたか。寿命が短いからこそ、彼らは我ら魔族以上に必死に研鑽を積む。あまり舐めてかかっておると、お主も喰われるぞ」
人間の話をしている今のソフィの蠱惑的な瞳を見て、ヌーにはとても冗談には聞こえなかった。
「ふんっ……。 貴様も俺を舐めるなよ? いずれは人間も魔族もそして『貴様』も俺に平伏せさせてやる」
ギラギラとした目つきをするヌーを見て、ソフィは逆に安堵するのだった。
(クックック、それでよい。何度挫折を繰り返してもいい。最後に立ち上がり、先を見据える者は必ず強くなれるのだからな)
ヌーを見て満足げに笑いながら、どこかリディアの考えに似通るものがあるなと、ソフィは考えるのだった。
……
……
……
そしてソフィ達がこの世界に来る少し前の事。ミカゲ達が『ケイノト』と呼んでいたところの『退魔組衆』が居る町からとある目的を持った集団が深い森の中を歩いていた。
「身を隠すならこの洞穴が誂え向きだろう」
差袴をはきながら『紅い狩衣』を着ている男がそう言うと、周りに居る数人の狐面をつけた者達はその場で足を止める。
ケイノトから西へ進んだ先にある森を抜けた場所であり、人里も近くにはない場所であった。
「それで『結界』はどうするんだい? 僕から見てもあの里に居た君たちの長は、非常に目聡いし侮れない。下手に結界で外界と隔てさせると直ぐにばれると思うけど」
この中で一人だけ狐の面をつけておらず、青く長い髪をした線が細く、見た目も年頃の若い女にしか見えない少年がそう言うと『紅い狩衣』を着けた男は口角を吊り上げながら笑う。
「流石は私が目を付けた麒麟児だな。世襲に拘る里の愚者達とは比べるのも烏滸がましい」
狐面を被っている多くの者達の中で、数人がその言葉にピクリと反応したが無言を貫いている。
「安心しろ。しばらくはここを拠点にするつもりだからな。大掛かりなものでは無く、意識を逸らす程度の結界しかはるつもりはない」
「あ、そう? まぁ君がそう言うなら問題は無いんだろう。別に見つかってもそうでなくても、僕はどっちでもいいんだけどね」
少年が投げやりな態度でそう言うと、周囲に居た者が我慢出来ずに声をあげる。
「貴様! 『イダラマ』様に対してのその態度は何だ! 目に余る物があるぞ!!」
耳に長いピアスをつけた男が声をあげて青髪の少年に注意をするが、青髪の少年は完全に無視を決め込んでいる。
「き、きさまぁ……」
長いピアスをつけた男は腰鞘に手を伸ばそうとするが、そこでようやく青髪の少年が刀に手を付けた男に視線を向ける。
しかし青髪の少年がそれ以上の行動をとる前に、長いピアスの男の隣に居た狐面をつけた背の高い男が、肩に手を置いて止める。
「やめておけ。今は彼も志を同じくとする同志なのだぞ」
置かれた手には力が込められており、ピアスの男がこれ以上騒ぎを起こそうとするなら本気で止めようとするだろう。それだけの意思を手から感じ取るのだった。
「ちっ!」
刀から手を離したピアス男は、舌打ちをしながら大男に渋々と従うのだった。
「別に僕は君たちと馴れ合うつもりは無いけどね。僕はイダラマと利害が一致しているから手を組んでいるだけだし」
再びピアス男を煽るようにそう口にする青髪の少年。ピアス男は青筋を立てるが、そこでようやく『イダラマ』と呼ばれた男が声を出した。
「分かっているさ『エヴィ殿』。お主の欲しがっている『転置宝玉』は、私の目的の役に立てばいくらでもくれてやる」
そう言って懐からソフィが『根源の玉』と呼んでいた輝く玉を取り出して、手の平の上で器用に転がして見せる。
「本当にそれを使えば、僕は元の世界に帰れるんだろうな?」
「もちろんだとも。これを使って別の世界へ行った者を俺はこの目で確かに見ている」
ニヤリと笑いながらそう告げるイダラマに、エヴィと呼ばれた青い髪の少年は頷く。
「それならいいんだ、僕は早くあの方の元に戻りたい。それしか方法が無いなら、キミの目的に付き合うよ」
エヴィと呼ばれた青髪の少年の言うあの方とは、奇しくもこの世界で再び巡り合う事になる魔族であり『アレルバレル』の世界を束ねる『大魔王』の事であった。
……
……
……
「ひとまず、あの男が起きたら色々と聞かせてもらうとしようか」
ソフィが一番最初に襲ってきた二人組の片割れである剣士を見ながらそう言うと、ヌーはその時の戦闘を思い出して薄く笑った。
「そいつも『魔界』に居てもおかしくはない程だったが、貴様が相手では形無しだったな」
「確かにこやつは『二桁』に入れる程の実力はあったな。しかし先程の女の剣士は『序列部隊』の者達でさえ、苦労する程の実力者だった」
「ああ。それにもう一人の変な格好をした男。俺が油断をしていた所為もあるが、侮れない力を持っていやがるぞ」
『タクシン』と呼ばれていた男の事を話すヌーは、額に青筋を浮かべながらそう告げた。どうやら少し手を合わせた事で、相手の実力をある程度は理解出来たのだろう。ソフィはまだタクシンとやらとは戦ってはいない為、実際にどれ程の強さかは分かってはいない。しかしアレルバレルの世界でNo.2まで一度は登り詰めた目の前の大魔王の口振りにソフィは、高揚感に包まれるのだった。
「クックック……! そうかそうか。この世界にはもしかしたら『エルシス』より強い人間もいるかもしれぬな」
ヌーは無言でソフィの出した名の人間の事を思い浮かべる。
『煌聖の教団』の全てを司った総帥である大賢者『ミラ』が認めた存在にして、人間の身でありながら信じられない力を持つ男。
「また人間か。寿命が短い種族の癖しやがって、面倒な奴らが多い事よ」
その台詞はこの世界に生きる先程の人間達の事を言っていたのか、それとももう今は居ない大賢者ミラの事だったのか。含んだ物言いをする魔族『ヌー』であった。
「ようやくお主も人間の可能性を感じ始めたか。寿命が短いからこそ、彼らは我ら魔族以上に必死に研鑽を積む。あまり舐めてかかっておると、お主も喰われるぞ」
人間の話をしている今のソフィの蠱惑的な瞳を見て、ヌーにはとても冗談には聞こえなかった。
「ふんっ……。 貴様も俺を舐めるなよ? いずれは人間も魔族もそして『貴様』も俺に平伏せさせてやる」
ギラギラとした目つきをするヌーを見て、ソフィは逆に安堵するのだった。
(クックック、それでよい。何度挫折を繰り返してもいい。最後に立ち上がり、先を見据える者は必ず強くなれるのだからな)
ヌーを見て満足げに笑いながら、どこかリディアの考えに似通るものがあるなと、ソフィは考えるのだった。
……
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そしてソフィ達がこの世界に来る少し前の事。ミカゲ達が『ケイノト』と呼んでいたところの『退魔組衆』が居る町からとある目的を持った集団が深い森の中を歩いていた。
「身を隠すならこの洞穴が誂え向きだろう」
差袴をはきながら『紅い狩衣』を着ている男がそう言うと、周りに居る数人の狐面をつけた者達はその場で足を止める。
ケイノトから西へ進んだ先にある森を抜けた場所であり、人里も近くにはない場所であった。
「それで『結界』はどうするんだい? 僕から見てもあの里に居た君たちの長は、非常に目聡いし侮れない。下手に結界で外界と隔てさせると直ぐにばれると思うけど」
この中で一人だけ狐の面をつけておらず、青く長い髪をした線が細く、見た目も年頃の若い女にしか見えない少年がそう言うと『紅い狩衣』を着けた男は口角を吊り上げながら笑う。
「流石は私が目を付けた麒麟児だな。世襲に拘る里の愚者達とは比べるのも烏滸がましい」
狐面を被っている多くの者達の中で、数人がその言葉にピクリと反応したが無言を貫いている。
「安心しろ。しばらくはここを拠点にするつもりだからな。大掛かりなものでは無く、意識を逸らす程度の結界しかはるつもりはない」
「あ、そう? まぁ君がそう言うなら問題は無いんだろう。別に見つかってもそうでなくても、僕はどっちでもいいんだけどね」
少年が投げやりな態度でそう言うと、周囲に居た者が我慢出来ずに声をあげる。
「貴様! 『イダラマ』様に対してのその態度は何だ! 目に余る物があるぞ!!」
耳に長いピアスをつけた男が声をあげて青髪の少年に注意をするが、青髪の少年は完全に無視を決め込んでいる。
「き、きさまぁ……」
長いピアスをつけた男は腰鞘に手を伸ばそうとするが、そこでようやく青髪の少年が刀に手を付けた男に視線を向ける。
しかし青髪の少年がそれ以上の行動をとる前に、長いピアスの男の隣に居た狐面をつけた背の高い男が、肩に手を置いて止める。
「やめておけ。今は彼も志を同じくとする同志なのだぞ」
置かれた手には力が込められており、ピアスの男がこれ以上騒ぎを起こそうとするなら本気で止めようとするだろう。それだけの意思を手から感じ取るのだった。
「ちっ!」
刀から手を離したピアス男は、舌打ちをしながら大男に渋々と従うのだった。
「別に僕は君たちと馴れ合うつもりは無いけどね。僕はイダラマと利害が一致しているから手を組んでいるだけだし」
再びピアス男を煽るようにそう口にする青髪の少年。ピアス男は青筋を立てるが、そこでようやく『イダラマ』と呼ばれた男が声を出した。
「分かっているさ『エヴィ殿』。お主の欲しがっている『転置宝玉』は、私の目的の役に立てばいくらでもくれてやる」
そう言って懐からソフィが『根源の玉』と呼んでいた輝く玉を取り出して、手の平の上で器用に転がして見せる。
「本当にそれを使えば、僕は元の世界に帰れるんだろうな?」
「もちろんだとも。これを使って別の世界へ行った者を俺はこの目で確かに見ている」
ニヤリと笑いながらそう告げるイダラマに、エヴィと呼ばれた青い髪の少年は頷く。
「それならいいんだ、僕は早くあの方の元に戻りたい。それしか方法が無いなら、キミの目的に付き合うよ」
エヴィと呼ばれた青髪の少年の言うあの方とは、奇しくもこの世界で再び巡り合う事になる魔族であり『アレルバレル』の世界を束ねる『大魔王』の事であった。
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