最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
822 / 1,966
ノックス編

807.特別退魔士のタクシン

しおりを挟む
 巨体の鬼は自分の攻撃が防がれると思っていなかった。それ故に自分の攻撃を受け止めている魔神に唸り声をあげながら威嚇を行う。

「力の魔神よ。守ってくれた事には感謝をするぞ。だが、すまぬが我はもっと楽しみたいのだ」

「――」(あら、うふふ。それはごめんなさいね、ソフィ)

 ソフィにそう言われた『力の魔神』は恍惚の表情を浮かべると、鬼の棍棒を防いでいる手と逆の手に魔力を込めて一気に放つ。

「グルァァアッ!」

 魔神の『魔力圧』を一身に浴びた鬼はそのまま吹き飛んで行った。

「――」(でも貴方への脅威を取り除くのは譲れないわ)

 そういった後の魔神は差し出がましい事をせずに見ています。と言いたげにニコニコと笑いながらソフィに頭を下げるのだった。

「うむ。しかしあれも魔物では無いのだろうな。まるで『』の『』を見ているようだ」

 ソフィはこのノックスの世界へ来る前のリラリオでの世界で、リディアやラルフの修行を見てくれていたサイヨウの『式』を思い出しながら、その名を口に出すのだった。

 …………

「確実に奴を仕留めておかねばなるまい」

 意識を失っているタシギを抱えながらタクシンは、先程までいた『加護の森』から少し離れた更地でそう呟くと、大きな鳥の『式』にここまで運ばせていたミカゲを地面に降ろさせる。

 ドサリっと音を立てて地面に落ちたミカゲは、呻き声をあげ始めた。

「おい、ミカゲ。そろそろ目を覚ませ」

「ううっ、ここは……? わ、私は一体……」

 ミカゲはタクシンの声に目を覚ました後、横になっていた状態から上体を起こして自分の両手を見ながらそう呟いた。

「ようやく起きたか、ミカゲ。起きたところで悪いが、お前の知っている事情を詳しく話せ」

「!」

 一体何の事かと考えたミカゲだったが、直ぐに何があったかを思い出し、その場で立ち上がった。

「タクシン様! 二体の恐ろしい力を持った妖魔が加護の森に現れたのです! 退魔組衆の同志達は妖魔にやられて、私の護衛である剣士の『シクウ』もやられてあの場に……」

「『シクウ』? あの場にまだいたのか……」

 あの黒い羽が生えた見た目は人間の青年から気を失わされた『タシギ』を救う事を優先した為、タクシンは『式』で『霊鬼れいき』を呼び出して放った。目論見通りにタシギをこうして回収する事が出来たが、まだ目の前に居る『ミカゲ』の護衛があの場に残っているとは思っていなかった。

「分かった、どちらにせよもう一度あの場に向かうつもりだった。私が回収しておくからお前はすぐにこの事を『退魔組』に居るサテツ様とイツキに伝えろ」

「分かりました。にお気を付けください。あやつは危険すぎます。私の『擬鵺ぎぬえ』もやられてしまいました」

 ミカゲの言葉に眉を寄せるタクシンだったが、先程のタシギの様子から真実だろうと頷くのだった。

「『霊鬼れいき』では長くは持たぬだろうな……。とりあえず、もうお前は行け」

 タクシンの言葉にまだ『擬鵺ぎぬえ』の話をしようとしたミカゲだったが、その口を閉じて頷くのだった。

「それではお気を付けください、タクシン様!」

 狐の面を被り直したミカゲは、その場から音も無く消え去るのだった。

「『擬鵺ぎぬえ』はである『ぬえ』とは似ても似つかぬが、それでも『ぬえ』の名に相応しく呪詛を使う妖魔だ。術で『式』をとはいっても『擬鵺ぎぬえ』がやられるのであれば、少々私だけでは厳しいやもしれぬな」

『退魔組』では『特別退魔士とくたいま』と呼ばれている『タクシン』は、そう呟きながら気を引き締め直し、先程の『』へと戻るのであった。

 ……
 ……
 ……

 その頃『加護の森』でタクシンの残していった『式』の『霊鬼れいき』を倒したソフィは『タクシン』にやられて傷ついていたヌーに治療を施していた。

「どうだ? マシになっただろう」

「ふんっ! 礼は言わんが楽にはなった」

 ソフィの『救済ヒルフェ』によって体力を回復させたヌーは、そっぽを向きながらそう言うのだった。

 ソフィはそのヌーの様子に笑いながら先程の女剣士と、狐面をつけた男について話始める。

「奴等は人間だと言っていたが、この世界では人間達がかなり強いようだな」

「らしいな……。クソッ! セルバスの野郎め。良く調べもせずに俺に見栄を張っていやがったな」

 遠くを見ながら舌打ちをするヌーであった。

 大魔王セルバスからは『ノックスの世界は次に狙っている世界で、手中に収める予定である』と教えられていた。しかし先程戦った者達の力量を見る限り『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大幹部とはいっても『セルバス』では、この『ノックス』の世界は到底支配出来るような

 さっきの連中がこの世界では、どれ程のランクなのかは分からないが、少なくともこの世界は侮っていい世界ではない。下手をすれば大魔王がひしめくアレルバレルの世界よりも、すら秘めている。

 確かに数多ある世界ではその可能性も無いとは言えないであろうが、これまでヌーやミラが率いていた『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達が渡り歩いてきた世界では『アレルバレル』以上のランクの世界は見ることが無かった為、この『ノックス』という世界は少々面倒な世界かもしれないと判断し始める。

(さっさとこの世界から離れた方がいいかもしれんな)

 フルーフという厄介な大魔王との約束を破り、今後彼を敵に回す事を考えたとしても、、この世界から去る方も視野に入れたほうがいいかもしれないと大魔王ヌーは考えるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔
ファンタジー
【あらすじ】 「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」  孫龍信(そん・りゅうしん)にそう告げたのは、先代当主の弟の孫笑山(そん・しょうざん)だった。  数年前に先代当主とその息子を盗賊団たちの魔の手から救った龍信は、自分の名前と道士であること以外の記憶を無くしていたにもかかわらず、大富豪の孫家の屋敷に食客として迎え入れられていた。  それは人柄だけでなく、常人をはるかに超える武術の腕前ゆえにであった。  ところが先代当主とその息子が事故で亡くなったことにより、龍信はこの屋敷に置いておく理由は無いと新たに当主となった笑山に追放されてしまう。  その後、野良道士となった龍信は異国からきた金毛剣女ことアリシアと出会うことで人生が一変する。  とある目的のためにこの華秦国へとやってきたアリシア。  そんなアリシアの道士としての試験に付き添ったりすることで、龍信はアリシアの正体やこの国に来た理由を知って感銘を受け、その目的を達成させるために龍信はアリシアと一緒に旅をすることを決意する。  またアリシアと出会ったことで龍信も自分の記憶を取り戻し、自分の長剣が普通の剣ではないことと、自分自身もまた普通の人間ではないことを思い出す。  そして龍信とアリシアは旅先で薬士の春花も仲間に加え、様々な人間に感謝されるような行動をする反面、悪意ある人間からの妨害なども受けるが、それらの人物はすべて相応の報いを受けることとなる。  笑山もまた同じだった。  それどころか自分の欲望のために龍信を屋敷から追放した笑山は、落ちぶれるどころか人間として最悪の末路を辿ることとなる。  一方の龍信はアリシアのこの国に来た目的に心から協力することで、巡り巡って皇帝にすらも認められるほど成り上がっていく。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...