最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

封印式神編

796.魔人の力の開花

「！」

「どうやら力・に思い当たったようだぞ？」

　リディアの困惑している様子にフルーフは、横に並び立っているエルシスにそっと呟く。

「思い描けたようだね？　今度はその想像を絶する程の力が、自分以外の誰かにぶつけられているところを想像してみてくれるかな」

　リディアは言われた通り、鬼女の『紅羽くれは』があの刀の力で襲い掛かっているところを想像する。

「キミの中で描いた想像の登場人物はどうなった？」

「頭上から振り下ろされて頭が潰されたな……」

　リディアの言葉に隣で聞いていたレアは『想像力が豊かなのねぇ』と呟きながら感心をする。

「キミが想像したその恐・ろ・し・い・程・の・強・さ・の『力』が与える被害影響、それを理解出来たなら、今度はその襲い掛かった想像の人物を自分に置き換えてみて考えて欲しい」

　鬼女の『紅羽くれは』がどれ程の強さかは、戦っている自分がよく理解はしている。しかし『紅羽くれは』が放つ程の力をリディアは持ってはいない。だが、先程思い浮かんだ被害者の頭が潰されるところは思い出せる。

　そのおかげでリディアは『紅羽くれはの持っていた刀』が、その力の象徴であると考える事が、客観的に想像する事が出来るのだった。

「自分が想像出来る恐怖のその力を別・の・物・に・置・き・換・え・る・事・が・出・来・た・。そしてその力が第三者に与えて生じる被害も想像出来た。ではその置き換えた、想・像・を・絶・す・る・力・を自分が使っているところを想像するんだ」

　リディアはエルシスに言われた通り、その想像を絶する力『紅羽くれは』から『翠虎明保能すいこあけぼの』へと移行させる事が出来た。更には想像を絶する力を持つ武器である『翠虎明保能すいこあけぼの』の持ち手を自分だと想像する事が出来た。

　そしてその持っている『翠虎明保能すいこあけぼの』で振り下ろした事によって、想像上の存在が頭から潰れるところまでをワンセットで思い描く事が出来るのだった。

「その暴力的なまでの『力』を自分が使うところを想像出来たなら、今度はその『力』の行く先を再び自分に照準が当たるように想像してみるといい。先程までより具体的に生じる被害。つまり自身が与えられる被害が想像出来る筈だ」

　隣で聞いていたフルーフやレアも、エルシスの説明を聞いて直ぐに意味を理解して、ほぼ同時に感心するのだった。

　最初にリディアが恐ろしいと思える力の正体に鬼女の『紅羽くれは』を代入させた。

　紅羽は直近で一番リディアが恐ろしいと心身で感じさせる者だった為、連想はそこまで難しくはなかった。そして『力』の依り代となる物を『翠虎明保能すいこあけぼの』に置換させた後、自身以外にその『翠虎明保能すいこあけぼの』の放つ一撃によって、頭を潰されたというイメージを浮かばせる。

　つまりその力が物量に与えられる事象をリディアに考えさせたワケである。

　そしてそれは同時に金色の体現の感覚を覚えていないリディアに、鬼女『紅羽くれは』という存在の力をそっくりそのまま、自分の力に置き換えた後、生じる被害を理解した自身にぶつけることで、金色の体現の元となる自身の存在となる結晶を握り潰す。という感覚をそのまま応用する事が出来たわけである。

　その力が具体的にどのような物かは『紅羽くれは』と対峙したリディアはよく理解出来ている。そしてその紅羽の力を『翠虎明保能すいこあけぼの』に一度置き換える事によって、今度はその『翠虎明保能すいこあけぼの』の力を自身の力として正しく想像する事が出来た。最後に他人が潰されるところを自身に置き換える事で客観的に捉える事が出来た。

　文頭にあるように『紅羽くれは』と対峙した事があるリディアだからこそ、紅羽の与える攻撃力から第三者の頭が潰される程の被害を連想する事が出来た。つまり正しくその想像を絶するという力を自分の放ったものとして代入出来たワケである。

　理論的にはフルーフの告げた自身を客観的に捉えながら『魔』では無く『力』の依り代となる物を連想し、自身の身体に宿らせるようにイメージし『イメージした自分』を生み出した後、そのイメージした物を両手で握り潰すように意識を集約させるという事を代案を使いリディアに理解させられた筈である。

　後は本当にフルーフが言う通りに『スクアード』という能力が体現出来る方法が正しければ、リディアがこの理論の理解が行き着く事で無事に『スクアード』を体現させる事が出来る筈である。

「……」

　リディアは目を瞑りながら考え始める。すると先程は自身に『金色きんいろ』を覆わせていたオーラが手に集約されていく。

　しかしいつもの金色のオーラによって創成錬成された『金色の二刀の刀』ではなく、一刀の紅い刀がリディアの右手に創成されたのだった。

　いつもの二振りの刀では無く、生み出されたのは一本の紅い刀。しかし特筆すべきは刀の方では無く、持ち手であるリディアの方だった。

　リディアの周囲には、金色のオーラが体現されているのだが、そのリディアの目は『紅色』に変貌している。

「むっ……！」

　フルーフはすぐさまレアの前へと転移し魔力を高める。

「大丈夫だよフルーフ。こうなる事は予測していたからね、既に周囲に結界を張ってあるよ」

「えっ……？　えっ？」

　何が起きたか分からないレアだったが、突然目の前に自分を守るように立つフルーフと、その前に緑色の膜のような『結界』がレアやラルフ達を覆うように纏われている事にようやく気付くのだった。

「素晴らしい……」

　意識せずにソフィはリディアを『漏出サーチ』で見ながら興奮気味にそう呟いた。

　今のリディアは先程までのリディアとは、比較にもならない程に周囲に圧を発していた。

「これは想像以上だったね、今の段階でここまで強くなるか」

「ふむ、魔人の秘術と呼べる技に先天性の金色を体現しておるのだ。それにしても人間にしておくのは勿体ないな」

「おや？　それは人間を馬鹿にしているのかな？」

「クックック、いやすまぬすまぬ。そういえばお主も元々は人間だったか」

　フルーフとエルシスはリディアの急激な成長を肴に掛け合いを饒舌に行うのだった。