806 / 1,915
封印式神編
792.期待に応える事の出来る喜び
しおりを挟む
試合が決する前にラルフがとった行動は至極簡単な事だった。
朱火の左手指を潰した事後に、顎を狙うフリを見せながら行動選択を決定付けさせて、足を防御に使わせる。
四肢の内、左手と右足を固定させた事で朱火の攻撃行動を阻止したラルフは、そこからようやく攻撃に全ての意識を向けるのだった。
朱火の反撃がない状態に持っていたラルフはまず、人差し指を折った後の朱火の左手首を右手で掴みあげながら手前に引き、首の後ろをみえるように動かした後に、意識を失わせるために頸椎を思いきり左肘で突き入れながら右膝で朱火の鳩尾を思いきり蹴り上げる。
まだ意識を保っているかもしれないと、ラルフは手を止める事は無く、顔を空に向けてがら空きとなった顎に、再びユファからの直伝技である掌底で思いきりぶちかました。
最後にラルフは虚ろな目を浮かべている朱火のその目に指を突き入れて眼球を潰す事で、更に有利に持っていこうかと頭を過ったが、朱火の意識が完全に無い事を確認した為、そのまま何もせずに地面に倒れる事を許したのだった。
結局朱火は戦闘が始まってからラルフに対して何もできず、完封という形で勝利を収めたラルフは、ソフィ達を驚かせるのだった。
戦闘経験を含めた戦力値上では朱火の方がラルフより高かったが、相手を壊して戦闘不能にするという事も『基本研鑽演義』に加えるとするならば、ラルフの方が朱火の方が、戦闘面で一枚上手だったという事だろう。
朱火の治療が終わった後、サイヨウは朱火を札に戻そうとしたが、朱火は待って欲しいと両手をサイヨウに向けながら立ち上がり、ゆっくりとした足取りで自分の意識を奪って勝利した男の元へ向かった。
自分の目の前で足を止めて狐の妖魔は無言でラルフを見る。怒っている様子でも無く、確固たる決意を持ったような視線でラルフを見ている。その様子にラルフは、視線を合わせながら首を少し傾げて『何か御用ですか?』と声なき声で朱火に尋ねる。
「お前の強さに感服した。私は妖狐『朱火』と言う。お前の名前も教えてくれ」
「私は『ラルフ・アンデルセン』と言います」
ラルフは真っすぐに自分を見てくる朱火を見返していたが、やがて自分の名を告げた。
「ラルフ……。そうか、ラルフか。名を教えてくれて感謝する」
そう言ってラルフの前に手を出してくる。数秒程その手を見つめていたが、やがてラルフも手を前に出すと、朱火は差し出されたラルフの手を握り、ぎゅっと掴む。
「私はお前を気に入った。またやろう」
「気に入られる要素が何処にあったのかは分かりませんが、貴方と戦う事はとてもいい経験になります。こちらこそ宜しくお願いします」
そう言い返したラルフの言葉に満足したのか、朱火は満面の笑みを浮かべた後、ラルフの手を離した。
「うむ、次は私が勝たせてもらう! ではまたな、ラルフ」
そう言って朱火はラルフに手を上げて挨拶をした後に、サイヨウの元まで歩いていき、式神の札へと戻されていった。
「クックック、素晴らしかったぞラルフよ」
ラルフが振り返るとそこには主であるソフィが立っていて、嬉しそうな笑みを見せながら拍手をしているのだった。
「お主をエルザと戦わせた頃とは、比べ物にならない成長を遂げたな。やはり我が見込んだ通りの人間だった」
「ありがとうございます! 更なる研鑽を積み、貴方のお傍に居られるように、これからも修行に励ませていただきます」
その言葉に再び満足そうに笑い頷くソフィだった。
主であるソフィに褒められた事が余程嬉しかったのだろう。いつもより饒舌に話すラルフであった。
『煌聖の教団』の魔族達は、とても強く今の力量ではとても相手にはならず、ラルフは自身の身を案じられて『アレルバレル』の世界から『リラリオ』の世界へと送り返された時、配下としてとても悔しい思いをしていた。
リディアの言う上と呼ばれるような連中にはまだとても敵わないが、それでも力の使い方を教えてくれているユファや、サイヨウの『式神』達との実戦で、ようやく自分が強くなれている事が実感出来た。
あの時、リディアの言葉を信じて腐らずやってきてよかったと、心の底から思うラルフであった。
……
……
……
朱火の左手指を潰した事後に、顎を狙うフリを見せながら行動選択を決定付けさせて、足を防御に使わせる。
四肢の内、左手と右足を固定させた事で朱火の攻撃行動を阻止したラルフは、そこからようやく攻撃に全ての意識を向けるのだった。
朱火の反撃がない状態に持っていたラルフはまず、人差し指を折った後の朱火の左手首を右手で掴みあげながら手前に引き、首の後ろをみえるように動かした後に、意識を失わせるために頸椎を思いきり左肘で突き入れながら右膝で朱火の鳩尾を思いきり蹴り上げる。
まだ意識を保っているかもしれないと、ラルフは手を止める事は無く、顔を空に向けてがら空きとなった顎に、再びユファからの直伝技である掌底で思いきりぶちかました。
最後にラルフは虚ろな目を浮かべている朱火のその目に指を突き入れて眼球を潰す事で、更に有利に持っていこうかと頭を過ったが、朱火の意識が完全に無い事を確認した為、そのまま何もせずに地面に倒れる事を許したのだった。
結局朱火は戦闘が始まってからラルフに対して何もできず、完封という形で勝利を収めたラルフは、ソフィ達を驚かせるのだった。
戦闘経験を含めた戦力値上では朱火の方がラルフより高かったが、相手を壊して戦闘不能にするという事も『基本研鑽演義』に加えるとするならば、ラルフの方が朱火の方が、戦闘面で一枚上手だったという事だろう。
朱火の治療が終わった後、サイヨウは朱火を札に戻そうとしたが、朱火は待って欲しいと両手をサイヨウに向けながら立ち上がり、ゆっくりとした足取りで自分の意識を奪って勝利した男の元へ向かった。
自分の目の前で足を止めて狐の妖魔は無言でラルフを見る。怒っている様子でも無く、確固たる決意を持ったような視線でラルフを見ている。その様子にラルフは、視線を合わせながら首を少し傾げて『何か御用ですか?』と声なき声で朱火に尋ねる。
「お前の強さに感服した。私は妖狐『朱火』と言う。お前の名前も教えてくれ」
「私は『ラルフ・アンデルセン』と言います」
ラルフは真っすぐに自分を見てくる朱火を見返していたが、やがて自分の名を告げた。
「ラルフ……。そうか、ラルフか。名を教えてくれて感謝する」
そう言ってラルフの前に手を出してくる。数秒程その手を見つめていたが、やがてラルフも手を前に出すと、朱火は差し出されたラルフの手を握り、ぎゅっと掴む。
「私はお前を気に入った。またやろう」
「気に入られる要素が何処にあったのかは分かりませんが、貴方と戦う事はとてもいい経験になります。こちらこそ宜しくお願いします」
そう言い返したラルフの言葉に満足したのか、朱火は満面の笑みを浮かべた後、ラルフの手を離した。
「うむ、次は私が勝たせてもらう! ではまたな、ラルフ」
そう言って朱火はラルフに手を上げて挨拶をした後に、サイヨウの元まで歩いていき、式神の札へと戻されていった。
「クックック、素晴らしかったぞラルフよ」
ラルフが振り返るとそこには主であるソフィが立っていて、嬉しそうな笑みを見せながら拍手をしているのだった。
「お主をエルザと戦わせた頃とは、比べ物にならない成長を遂げたな。やはり我が見込んだ通りの人間だった」
「ありがとうございます! 更なる研鑽を積み、貴方のお傍に居られるように、これからも修行に励ませていただきます」
その言葉に再び満足そうに笑い頷くソフィだった。
主であるソフィに褒められた事が余程嬉しかったのだろう。いつもより饒舌に話すラルフであった。
『煌聖の教団』の魔族達は、とても強く今の力量ではとても相手にはならず、ラルフは自身の身を案じられて『アレルバレル』の世界から『リラリオ』の世界へと送り返された時、配下としてとても悔しい思いをしていた。
リディアの言う上と呼ばれるような連中にはまだとても敵わないが、それでも力の使い方を教えてくれているユファや、サイヨウの『式神』達との実戦で、ようやく自分が強くなれている事が実感出来た。
あの時、リディアの言葉を信じて腐らずやってきてよかったと、心の底から思うラルフであった。
……
……
……
0
お気に入りに追加
424
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる