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封印式神編

782.優しい世界

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「ソフィ殿が魔力を込めて記録したその『転置宝玉てんちほうぎょく』を使えば、いつでも記録した世界へ向かう事が出来る。しかし一度使えばその時点で、宝玉は砕け散るから気を付けられよ」

「つまりサイヨウ、我以外の者でもこの記録した『転置宝玉てんちほうぎょく』とやらを使えば、アレルバレルの世界へ行く事が可能なのか?」

「結論から言えば可能だが、少し『転置宝玉てんちほうぎょく』の使用には難点があってな。その場に居る者の中で『』が、優先されて指定場所へ飛ばされるのだ。もし他の者に使わせたいと思うのであれば、その者を一人にして使用させるがよかろう」

 ソフィはサイヨウの言葉で『アレルバレル』の世界の勇者だった、マリス達のパーティメンバーの事を思い出すのだった。

(成程、そう言う事だったか。勇者にリルトとか呼ばれておった魔法使いが、この根源の玉……もとい、転置宝玉てんちほうぎょくを使った時に、我があの場所で魔力が一番多かったから、この世界へ跳ばされたという事だったのか) 

 勇者たちのパーティが魔王城へ向かえば大魔王であるソフィは、勇者マリスに興味を持ち確実に戦うとミラは理解していたのだろう。そこでこの転置宝玉てんちほうぎょくをマリス達に使わせる事で、ソフィをリラリオの世界へと跳ばす事が出来る。

 この転置宝玉てんちほうぎょくという『マジックアイテム』の使用効果を知らなければ、確かに別世界へ跳ばされる事を避ける手立てがない。大賢者ミラはソフィの性格をよく知った上で、自分は安全な場所に居ながらにして、脅威を取り除く事が出来る方法を思いついたのだから流石と言わざるを得ないだろう。

 長く年齢を重ねて人読みに長けた彼だからこそ、出来る芸当だったのだろう。
 念入りに考え抜かれた作戦の前にソフィは、今更ながらにして面倒な相手だったと思わされるのだった。

「お主には感謝するぞ。ようやく我がこの世界に来る事となった原因を突き止める事が出来た」

「役に立てたようで何よりだ」

「サイヨウ。この宝玉もお主に渡しておこう」

 そう言って灰色では無く先程の『アレルバレル』の世界を登録した『転置宝玉てんちほうぎょく』をサイヨウに渡すソフィだった。

「良いのか? 何かあった時に持っておいた方が良いと思うが」

 ソフィはサイヨウの言葉に首を振る。

「お主には本当に感謝しておるのだ。お主にラルフやリディア、それに屋敷の我の配下達も鍛えてもらっていると聞いた。更にそこに居るシスの中に宿っておるしな」

「大したことはしておらぬが……。分かった、有難く貰っておこう」

「うむ。これから我は『アレルバレル』とは別の世界へ配下を助けに行く為、直ぐには歓待も出来ぬが、お主には必ず我の城へ案内しよう」

 ソフィはそっとサイヨウに手を差し出す。そしてサイヨウはそのソフィの手を握り、二人は握手を交わすのだった。

 サイヨウを見るソフィの目は優しく、フルーフやエルシスのようなをするのだった。

 『シス』や『ユファ』。それに『ラルフ』もまた、そんな二人の握手を見ながら優し気に微笑むのだった。

「お主が戻る頃までには、リディア殿とラルフ殿を見違える程に強くしておくと約束しよう」

「うむ、頼んだぞサイヨウ!」

 そう言った後にソフィは、ちらりと背後に居るラルフを一瞥する。

「!」

 ソフィの視線はまるで『お主にも期待しているぞ』と告げているのだとラルフはそう解釈して、真剣な視線でソフィを見つめ返すのだった。

「よし。ではそろそろ、レアの様子を見に行くとするかな」

 そう言ってソフィは立ち上がり、リディアと一緒に居るレアの元へ戻るのだった。

 ……
 ……
 ……

 その頃ようやく落ち着いたレアは、再びリディアの頭を撫でまわしていた。

「ヨシヨシ! ふふ、あんたとシスちゃんは、私がうんっと可愛がってあげるからねぇ? 何かあったら私を頼りなさいよぉ?」

「よせ、俺はそういうのは好きじゃない」

 しかし背伸びをしながらリディアの頭を撫でているレアの手を振り払うでもなく、むしろ中腰になってされるがままを良しとするようにしているリディアだった。

 どうやらリディアは、レアを自分の先祖の大事な知り合いだったという事もあり、身内のような存在だと認めたようであった。

 そしてレアもまた『大事』なラクスの『大事』な子孫であるリディアに情が深まり、子供が居るわけでもないのに、リディアに対して母性が芽生えたようであった。

 リディアを優し気に見つめながら、頭を撫で続けるレアを見て、横で見ていたキーリは、目に涙を浮かべる。

(……お前はこれまでの分も幸せにならないといけないんだ。これからも俺が守ってやるから安心しろよ!)

 過去のレアを実際に見てきたキーリは、レアの身の上話を知った上で、今こうしてラクスという存在の子孫を可愛がる姿に、彼女なりに思うところがあったのだろう。両手で涙を拭いながら、再び決心を胸にするキーリだった。
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