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封印式神編
771.貴方の為に
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「……」
ソフィの話を聞いたリーネは絶句する。
この世界に再び戻ってきたソフィの顔を見た時から、リーネはソフィが何やら悩み事を抱いているのだろうなと直ぐに察していた。そして本人は言いたい事がある様な顔をしているというのに、どこか話すのを躊躇う様子だった。だからこそリーネは、自分からソフィに話があるんじゃないのかと、話しやすいように切り出した。
リーネは色々とソフィの話す内容を想像はしていたが、そのどれよりも違った内容であった。
確かにソフィは『煌聖の教団』の総帥であった『ミラ』という元人間を憎んでいた。ソフィ自身をアレルバレルから追放し、何も悪い事をしていないレアを二度も襲い傷つけようとした。更にはソフィの友人であるフルーフを拉致し、自分の願望の為に数千年間も自由を奪ったのだ。
――『敵』と認める事は何も可笑しくは無かった。
しかし今回の出来事が起きる前、三千前のアレルバレルの世界の『人間界』にて、私欲の限りを尽くした皇帝に代わる人間界の統治者として、ミラという存在が出てきた時、ソフィはこのミラに対して強く希望を見出したのである。
『魔界』側の『ロンダギルア』と『人間界』側の皇帝が手を組み大きな戦争を起こした後、再び『人間界』は、ソフィが手を尽くさなければ自滅の一途を辿り『種』としての滅亡が待っていただろう。
しかし『煌聖の教団』という集団を組織して、再び人間界に希望を齎した大賢者ミラはあっという間に、人間界を正常な状態へと立ち直らせた。
保険としてダイス王国の宰相にしていたディアトロスを通して、ミラの事を逐一調べさせたソフィは、ミラはカリスマ性に優れているという報告を聞き、他人を背負い人間界を導くに値する人物だとソフィは判断した。
更なる報告でソフィはミラから強い敵対心を持たれていると聞かされており、何故ミラが自分に対して、目の敵にしているのか迄は存ぜぬソフィだったが、どういう思想を抱いていたとしても人間界には彼が必要だとソフィは考えていた。
そして遂には皇帝が現れる以前の人間界のように、ソフィが干渉する事は少なくなった。ソフィは少しずつアレルバレルの世界に、真の平和が訪れるのだろうと信じられていった。
後はこれまでのように上手くソフィ達の魔王軍の手で魔界で争いを減らしていき、最終的に人間界を治める『煌聖の教団』の総帥であるミラと手を取り合い、アレルバレルの世界をこれまでの歴史にない平和を創る事をソフィは目指したのである。
今度こそソフィは大魔王『ダルダオス』の時代から続く争いの歴史に終止符を打ち、自分の与えられた役目を無事に遂げ終えられると安堵さえしていた。
――しかし、結果は見事に裏切られてしまった。
人間界を任せられると信じたミラのソフィに対しての負の感情は根深く、すでにソフィに対してのミラの思惑など何百年も前からディアトロス達から報告があったというのに、ソフィは世界の調停の前に、ミラの感情を軽んじて見てしまっていたのである。
人間界をミラという若者に任せて干渉を断った結果。多くの仲間を失い友人を奪われた挙句、自らもまた別世界へと跳ばされてしまった。自分の願った理想の平和は、打ち砕かれて歪んだ形で出来上がってしまった。これであればまだ皇帝以前のソフィが干渉していた『人間界』の方が、遥かにマシだったのである。
ミラを消し去った後にソフィは、また失望の海へと落とされてしまった。また元の木阿弥となり、一からのスタートであるがしかし、もう数十年や数百年の話ではないのだ。
ソフィはもうこのアレルバレルの世界の平和を『ダルダオス』が現れたあの日から考え続けて歪ではありながらも、守り続けて来たのである。
そんなソフィがミラという存在に見出した希望は、決して……決して小さいものではなかった。
気が遠くなる程の長い年月、期待していた事が全て白紙になった絶望は、他の存在であったならば、既に心が折れてしまっていても何もおかしくはないだろう。
――ソフィは確かに最強の戦闘能力を持つ大魔王である。
しかし決して勘違いしてはならない。
大魔王ソフィの心までは最強では無いという事を――。
幾万年という年月は最強の魔族でさえも鬱屈とさせてしまうのだった。
少し前にソフィが『アレルバレル』の世界で見上げた空の色と同じように、漆黒の色を心に描いてしまっていた。
…………
ソフィの心の吐露を言葉に出させた上に聞いてしまったリーネは、どう言えばいいか分からず、絶句してしまったのであった。
如何にソフィの味方でいようとしていてもリーネはまだ、十余年しか生きていない若い人間なのである。一万年以上世界を想い、平和に対し尽くして来た魔族を相手に軽はずみに言葉を投げ掛けていい訳がない。
リーネは何も言う事が出来ずに、ソフィの顔を見る事しか出来ないでいた。そんなリーネの視線にソフィは薄く笑みを浮かべた。
「すまぬなリーネよ。しかし今回ばかりはお前の顔を見ながら、我は話を聞いて欲しかったのだ……」
謝罪されたリーネの両目から涙が溢れて来る。最愛の夫が困っているというのに何も出来ない。
しかしそれでもだ。自分はソフィに選ばれたのだ。こんな大事な話を自分なんかの顔を見て、聞いて欲しいとソフィは言ってくれたのだ。
――決して誰にでも出来る話ではない筈だ! 彼は私を選んでくれたのだ!
そして顔を背けてベッドから降りようとするソフィをリーネは、背後から思い切り抱きしめて、そのまま再びソフィをベッドの中へ引きずり込むのだった。
ソフィの話を聞いたリーネは絶句する。
この世界に再び戻ってきたソフィの顔を見た時から、リーネはソフィが何やら悩み事を抱いているのだろうなと直ぐに察していた。そして本人は言いたい事がある様な顔をしているというのに、どこか話すのを躊躇う様子だった。だからこそリーネは、自分からソフィに話があるんじゃないのかと、話しやすいように切り出した。
リーネは色々とソフィの話す内容を想像はしていたが、そのどれよりも違った内容であった。
確かにソフィは『煌聖の教団』の総帥であった『ミラ』という元人間を憎んでいた。ソフィ自身をアレルバレルから追放し、何も悪い事をしていないレアを二度も襲い傷つけようとした。更にはソフィの友人であるフルーフを拉致し、自分の願望の為に数千年間も自由を奪ったのだ。
――『敵』と認める事は何も可笑しくは無かった。
しかし今回の出来事が起きる前、三千前のアレルバレルの世界の『人間界』にて、私欲の限りを尽くした皇帝に代わる人間界の統治者として、ミラという存在が出てきた時、ソフィはこのミラに対して強く希望を見出したのである。
『魔界』側の『ロンダギルア』と『人間界』側の皇帝が手を組み大きな戦争を起こした後、再び『人間界』は、ソフィが手を尽くさなければ自滅の一途を辿り『種』としての滅亡が待っていただろう。
しかし『煌聖の教団』という集団を組織して、再び人間界に希望を齎した大賢者ミラはあっという間に、人間界を正常な状態へと立ち直らせた。
保険としてダイス王国の宰相にしていたディアトロスを通して、ミラの事を逐一調べさせたソフィは、ミラはカリスマ性に優れているという報告を聞き、他人を背負い人間界を導くに値する人物だとソフィは判断した。
更なる報告でソフィはミラから強い敵対心を持たれていると聞かされており、何故ミラが自分に対して、目の敵にしているのか迄は存ぜぬソフィだったが、どういう思想を抱いていたとしても人間界には彼が必要だとソフィは考えていた。
そして遂には皇帝が現れる以前の人間界のように、ソフィが干渉する事は少なくなった。ソフィは少しずつアレルバレルの世界に、真の平和が訪れるのだろうと信じられていった。
後はこれまでのように上手くソフィ達の魔王軍の手で魔界で争いを減らしていき、最終的に人間界を治める『煌聖の教団』の総帥であるミラと手を取り合い、アレルバレルの世界をこれまでの歴史にない平和を創る事をソフィは目指したのである。
今度こそソフィは大魔王『ダルダオス』の時代から続く争いの歴史に終止符を打ち、自分の与えられた役目を無事に遂げ終えられると安堵さえしていた。
――しかし、結果は見事に裏切られてしまった。
人間界を任せられると信じたミラのソフィに対しての負の感情は根深く、すでにソフィに対してのミラの思惑など何百年も前からディアトロス達から報告があったというのに、ソフィは世界の調停の前に、ミラの感情を軽んじて見てしまっていたのである。
人間界をミラという若者に任せて干渉を断った結果。多くの仲間を失い友人を奪われた挙句、自らもまた別世界へと跳ばされてしまった。自分の願った理想の平和は、打ち砕かれて歪んだ形で出来上がってしまった。これであればまだ皇帝以前のソフィが干渉していた『人間界』の方が、遥かにマシだったのである。
ミラを消し去った後にソフィは、また失望の海へと落とされてしまった。また元の木阿弥となり、一からのスタートであるがしかし、もう数十年や数百年の話ではないのだ。
ソフィはもうこのアレルバレルの世界の平和を『ダルダオス』が現れたあの日から考え続けて歪ではありながらも、守り続けて来たのである。
そんなソフィがミラという存在に見出した希望は、決して……決して小さいものではなかった。
気が遠くなる程の長い年月、期待していた事が全て白紙になった絶望は、他の存在であったならば、既に心が折れてしまっていても何もおかしくはないだろう。
――ソフィは確かに最強の戦闘能力を持つ大魔王である。
しかし決して勘違いしてはならない。
大魔王ソフィの心までは最強では無いという事を――。
幾万年という年月は最強の魔族でさえも鬱屈とさせてしまうのだった。
少し前にソフィが『アレルバレル』の世界で見上げた空の色と同じように、漆黒の色を心に描いてしまっていた。
…………
ソフィの心の吐露を言葉に出させた上に聞いてしまったリーネは、どう言えばいいか分からず、絶句してしまったのであった。
如何にソフィの味方でいようとしていてもリーネはまだ、十余年しか生きていない若い人間なのである。一万年以上世界を想い、平和に対し尽くして来た魔族を相手に軽はずみに言葉を投げ掛けていい訳がない。
リーネは何も言う事が出来ずに、ソフィの顔を見る事しか出来ないでいた。そんなリーネの視線にソフィは薄く笑みを浮かべた。
「すまぬなリーネよ。しかし今回ばかりはお前の顔を見ながら、我は話を聞いて欲しかったのだ……」
謝罪されたリーネの両目から涙が溢れて来る。最愛の夫が困っているというのに何も出来ない。
しかしそれでもだ。自分はソフィに選ばれたのだ。こんな大事な話を自分なんかの顔を見て、聞いて欲しいとソフィは言ってくれたのだ。
――決して誰にでも出来る話ではない筈だ! 彼は私を選んでくれたのだ!
そして顔を背けてベッドから降りようとするソフィをリーネは、背後から思い切り抱きしめて、そのまま再びソフィをベッドの中へ引きずり込むのだった。
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