上 下
770 / 1,915
新たな展望編

756.同じ感性

しおりを挟む
ではなくか」

 どうやら両国間での話合いはある程度、進んでいたのだろうとソフィは直ぐに悟る。

「ここまで来るまでにも相当に時間と努力を要しましたが、ようやく話合いの場が用意されただけで交流戦の事や、今後の展望については何も決まってはいません」

 しかし話が進まないのは仕方がないだろう。少し前まで戦争状態にあった大陸間同士なのだ。

 ソフィという存在が緩衝材の役割を務めた事で少しはプラスに働いてはいただろうが、それでもレルバノンの手腕があったからこその会議の場が用意出来たという事だろう。

 そしてせっかくの場を設ける事が出来たのだからレルバノンとしては、成功を収めたいと思う気持ちは分からなくはない。

「やはり我がこの世界に戻って来る事を誰かから聞いていたという事なのだな?」

「いえ、貴方がこの世界にいつ戻って来るかは分かりませんでした。貴方の屋敷のある『セグンス』に私の息のかかった部下を数人派遣し、貴方が戻ってきたら直ぐに伝えるようにと指示を出していたのです」

「お主。いつ戻って来るか分からぬというのに、そこまでしていたのか……」

 レルバノンが本気で人間達と親睦を深めたいと考えているという事だろう。そこまで聞かされたソフィは、自分が浮かんだ疑問を尋ねてみたくなった。

「レルバノンよ。お主がそこまでして『ミールガルド』大陸の人間達と、交流を図る理由は何なのだ?」

 この『リラリオ』の世界は『アレルバレル』の世界と情勢が酷似している。

『アレルバレル』ではかつての『』が行った戦争によって『人間界』を除いたほぼ全ての大陸が魔族達の住む大陸である。

 そしてこちらの世界も過去のレアの所業によって、龍族が復活した最近までは魔族と人間の大陸しか存在していなかった。

 簡単にいえば『リラリオ』の世界の『ヴェルマー』大陸が『アレルバレル』の世界での『魔界』であり『ミールガルド』大陸が『アレルバレル』の世界の『人間界』のようなものなのである。

 つまりこれだけの大陸であれば『ヴェルマー』大陸の各々の魔国だけで生活していく分には、全く問題が無い。過去とは違い現在は『三大魔国』とも同盟関係にあり戦争を行う事も無い。つまり『ヴェルマー』大陸だけで、自給自足の生活が完結できるのである。

 無理をして人間達の住む『ミールガルド』大陸と、交流するメリットが感じられないのである。

「そうですね。どうやら私も長くミールガルド大陸に居たものですから、どこか人間達を好きになってしまい、交流を続けていたいと、思ってしまったのかもしれません」

 そしてレルバノンは、視線でソフィに本質を語る様に見やる。

 ――『』 

 ――と。

「クックック、なるほどな」

 ソフィは自分とレルバノンがどこか似たような感性を持っているとは思っていたが、本質はやはりと感じるのであった。

 そしてまたソフィは自分が数多ある世界の中で、何故この世界に跳ばされたのかは分からないが、この世界の情勢もまた酷似している為、全くの偶然でこの世界に跳ばされたのではなく、何らかの理由で自分がこの世界に引き寄せられたのではないだろうかと考えるのであった。

「理由はある程度理解した。我に協力出来る事は協力しよう」

 ソフィがそう言うと、レルバノンは再び頭を下げる。

「感謝致します。ソフィ様」

 レルバノン魔国王がそう言うと、他の面々もソフィに頭を下げるのであった。

「しかし悪いが、

 ソフィの突然の言葉に、レルバノンは下げていた頭をあげる。

「どういう事でしょう?」

「我がこの世界に跳ばされた原因である『煌聖の教団こうせいきょうだん』の事は知っているな?」

「もちろんですよ。をこの『ヴェルマー』大陸でなさっていたのです。事情はある程度調べてありますし、理解もしています」

「そうか。では話を続けるが、その『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者によって、我の仲間が我と同じように別世界へ散り散りに跳ばされていたのだが、その中の一体が見つかりそうなのだ」

 頭の聡いレルバノンは、それだけの言葉で全てを理解し、そしてタイミングが悪い時に話を持ち掛けてしまったと後悔するのだった。

「そうだったのですね……。分かりました。ではソフィ様のお仲間を見つけられた後、もう一度お話をさせて頂いても構いませんか?」

 ソフィもまたレルバノンが、こちらの意図を汲み取ってくれたのだと理解する。

「すまぬな、だが最大限の協力はしよう。悪いが少しの間待っていて欲しい」

「ありがとうございます。ではその時の為にレイズ魔国からミールガルドのギルドへと冒険者を派遣し、ある程度は話を進めておきます」

「そうだな。派遣するギルドなどがまだ決まっていないのであれば、我が懇意にしているギルドを紹介するがどうする?」

「宜しいのですか? しかし出来ればなのですが『ケビン』王国側の冒険者ギルドが好ましいのですが」

 レルバノンは元々『ルードリヒ』王国よりも『ケビン』王国の貴族たちと個人的な交流がある為、ケビン王国領の冒険者ギルドの方が、話を通しやすいと考えていたのだろう。

「ああ、それならば問題は無い。我の紹介しようとしていたギルドは『ケビン』王国側だからな」

「成程。それならば是非宜しくお願いしたいと思います」

「うむ! ではまた話をしたらお主に伝えよう」

「宜しくお願いします」

 突然のレルバノンの招致だったが、無事に用件は片付いたようであった。
 会議が終了し『レヴトン』や『ゲバドン』達が、いつもの業務に戻る為に部屋を出て行った。

 この場に残ったのがレルバノンとソフィだけになった時、静かにレルバノンはソフィの元へゆっくりと近づき、そしてそのソフィにこっそりと小声で話しかける。

「別件なのですが、ソフィ様の耳に入れておきたい事があります」

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...