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ミューテリアの願い編
745.世界の安寧を考えた行動
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精霊達に連れられて森の中へと入るソフィだったが、少し前に来た時よりも森の中は魔力が充満していた。
まだ精霊族が多く生き残っていた頃に、その精霊達の住処へソフィが行った時が思い起こされるかのような、そんな感覚をソフィは感じるのだった。
そして森の中でひらけた場所に出た時、一際大きな樹を目の当たりにし、その前には美麗と呼ぶに相応しい顔立ちをしている精霊達の女王『ミューテリア』が、その樹に寄り添い立っていた。
「ソフィを連れてきてくれてありがとう。お前達、ご苦労様」
精霊達はミューテリアの方へと向かっていき、褒められた事で嬉しそうな声をあげていた。そして再びソフィの元に戻ってくると、そのソフィに笑みを向けながら消えていった。
どうやら精霊達もソフィと再会した事が余程嬉しかったのだろう。精霊達はまたソフィと会える事を願って、挨拶をして消えていったようだ。
ソフィもまた精霊達に笑みを返した後、ゆっくりとミューテリアの方へ歩いていく。
「よく来てくれたわね。ソフィ」
近づいてくるソフィを見て微笑みながら口を開く『精霊女王』の『ミューテリア』だった。
「うむ、遅れてすまなかった。この前の話の続きだな?」
ソフィがそう言うと、儚げな表情を浮かべながらミューテリアは頷いた。
ある程度の事情は少し前に魔王城の前で聞いてはいたが、あの時はステア達が『組織』の者達に追われていた為に、そちらを優先する為に話は途中で終わってしまったのである。
どうやらミューテリアは組織の件が落ち着いた事で話の続きをソフィとしたかったらしい。
「ええ……。妾たち精霊族は大魔王ソフィを中心とした魔族達と共存をしていると、人間界の人間達に公表しようと思うの」
この世界は『魔界』と『人間界』に分かれている。
現在人間界では大魔王ソフィが長きに渡って、アレルバレルの世界の全てを支配して私利私欲の限りを尽くしていると『煌聖の教団』達の長期に渡る『洗脳』という名の『教え』によって信じ込まされている。
この教えは既に三千年近く前から人間界で行われている。
ダイス王国だけではなく、人間の住む大陸の至る所で『煌聖の教団』達による教会が立っており、そこで総帥であるミラが人間の身でありながら、神である『現人神』だと教え込まれている。
――ミラの教えこそが世界の真実。
人間界に魔界の魔族達が攻め込んでこないのは『現人神』であらせられるミラの威光と、その神の使いである精霊達の加護があるからだと数千年前から人間達の間で、教えは広められていたのであった。
人間の寿命は短く自分の親やその更に親となる者達が、先祖代々このミラの教えに従ってきた以上、誰もミラの言葉に疑いを持たずに信じ込まされてきた。
精霊達を従える精霊女王ミューテリアは、表向きはそんな人間達の為にひと芝居を打ち『精霊は煌聖の教団と協力し、大魔王を魔界へ封じ込めている』。
そして封じ込めるだけではなく、そんな大魔王達と戦う為に立ち上がった勇気ある人間。勇者に精霊女王の加護を与えて戦い続けているという具合に、これまでは人間界に教えられていた。
――しかし実際は違う。
今やこの世界のほとんどを掌握しているのは『煌聖の教団』であり、大魔王であるソフィは中央大陸にて、精霊達を保護してくれていたのである。
芝居とはいってもそんな保護をしてくれている恩人であるソフィが、敵のように仕向けられる事に、精霊女王ミューテリアは頭を痛めていた。
本当は悪いのはソフィではなく、貴方たちが信仰しているミラなのだとミューテリアは公表してしまいたかったのである。
しかしその事を止めたのは他でも無いソフィであった。三千年という長い年月『煌聖の教団』が与えた影響は大きすぎた。
今では魔界だけではなく人間でさえ至る所に『煌聖の教団』の教えを伝える神殿や教会が建っている。
下手に真実を伝える事で人間達は信じている物の根底が覆ってしまい、人間界全ての者達に混乱を与えてしまう。そうなれば何を信じていいのか分からなくなった人間達が、どういった行動に出るか。その予想は難しくはない。
当然ここまでになるまで放置していたソフィも考えモノではあると言えるが、それはソフィにとっても人間を想うが故の行動であった。
彼は心優しき者ではあるが、決して人間ではない。魔族である以上は下手な干渉をする事で、人間達の自主性を奪いたくはないと考えていたのである。
あくまで自分は魔族なのだから、同じ人間であるミラが主導出来るのならば、自分達を必要悪としながらであっても、上手く人間を良き方向へ導いてくれるのならばそれもまた世界には、必要な事であるのかもしれない。そう結論付けた時期があったのである。
――世界を統治する為には、それもまた必要な事であるとソフィは考えたのである。
自分が物語の主人公なのだと勘違いして自分の気分が良くなる事ばかりを考えていては、真の意味で世界を平和にすることは出来ない。
そう思ってこれまでは『人間界』に居る人間と同じ人間である、ミラの手腕を認めながらも行いを放置してきていたのである。
当然ソフィの右腕と呼べる魔族ディアトロスを王国の大臣に潜り込ませて、これまで通りに、保険は掛けてきてはいたが、まさかミラがここでここまで魔族に対して反旗を翻して、自分がアレルバレルの世界の王になる為に『煌聖の教団』を使って行動するとは思わなかった。
そもそも数千年前に起きた『第一次魔界全土戦争』の時点でミラはソフィの存在を知って、このままでは野望を叶えられないと教団を立ち上げたのではあるが、ソフィは魔界の安寧を優先して魔族達が勝手に動かぬようにと、そちらに意識を割いていた為、大賢者ミラの野望や、今回のような行動に出る事など予想も出来ようがなかったのである。
しかし結果論ではあるがこうなってしまったのであれば、ミューテリアの考えをこれ以上は抑制するのも違うだろう。
既に『煌聖の教団』も壊滅して、その組織の総帥であるミラもこの世を去っているのである。
『煌聖の教団』が出来る前のそれこそミラが現れる前の世界情勢の仕方に戻す必要性があり、再びソフィが表立ってこの世界を導いて行かねばならないだろう。
一難去ってまた一難とはいうが、これは一難の中に連立していた問題である為、まだその一難は去ってはいなかったと、言わざるを得ない。
再びソフィは『精霊女王』を前にして、考える事は多いなとばかりに、溜息を吐くのだった。
……
……
……
まだ精霊族が多く生き残っていた頃に、その精霊達の住処へソフィが行った時が思い起こされるかのような、そんな感覚をソフィは感じるのだった。
そして森の中でひらけた場所に出た時、一際大きな樹を目の当たりにし、その前には美麗と呼ぶに相応しい顔立ちをしている精霊達の女王『ミューテリア』が、その樹に寄り添い立っていた。
「ソフィを連れてきてくれてありがとう。お前達、ご苦労様」
精霊達はミューテリアの方へと向かっていき、褒められた事で嬉しそうな声をあげていた。そして再びソフィの元に戻ってくると、そのソフィに笑みを向けながら消えていった。
どうやら精霊達もソフィと再会した事が余程嬉しかったのだろう。精霊達はまたソフィと会える事を願って、挨拶をして消えていったようだ。
ソフィもまた精霊達に笑みを返した後、ゆっくりとミューテリアの方へ歩いていく。
「よく来てくれたわね。ソフィ」
近づいてくるソフィを見て微笑みながら口を開く『精霊女王』の『ミューテリア』だった。
「うむ、遅れてすまなかった。この前の話の続きだな?」
ソフィがそう言うと、儚げな表情を浮かべながらミューテリアは頷いた。
ある程度の事情は少し前に魔王城の前で聞いてはいたが、あの時はステア達が『組織』の者達に追われていた為に、そちらを優先する為に話は途中で終わってしまったのである。
どうやらミューテリアは組織の件が落ち着いた事で話の続きをソフィとしたかったらしい。
「ええ……。妾たち精霊族は大魔王ソフィを中心とした魔族達と共存をしていると、人間界の人間達に公表しようと思うの」
この世界は『魔界』と『人間界』に分かれている。
現在人間界では大魔王ソフィが長きに渡って、アレルバレルの世界の全てを支配して私利私欲の限りを尽くしていると『煌聖の教団』達の長期に渡る『洗脳』という名の『教え』によって信じ込まされている。
この教えは既に三千年近く前から人間界で行われている。
ダイス王国だけではなく、人間の住む大陸の至る所で『煌聖の教団』達による教会が立っており、そこで総帥であるミラが人間の身でありながら、神である『現人神』だと教え込まれている。
――ミラの教えこそが世界の真実。
人間界に魔界の魔族達が攻め込んでこないのは『現人神』であらせられるミラの威光と、その神の使いである精霊達の加護があるからだと数千年前から人間達の間で、教えは広められていたのであった。
人間の寿命は短く自分の親やその更に親となる者達が、先祖代々このミラの教えに従ってきた以上、誰もミラの言葉に疑いを持たずに信じ込まされてきた。
精霊達を従える精霊女王ミューテリアは、表向きはそんな人間達の為にひと芝居を打ち『精霊は煌聖の教団と協力し、大魔王を魔界へ封じ込めている』。
そして封じ込めるだけではなく、そんな大魔王達と戦う為に立ち上がった勇気ある人間。勇者に精霊女王の加護を与えて戦い続けているという具合に、これまでは人間界に教えられていた。
――しかし実際は違う。
今やこの世界のほとんどを掌握しているのは『煌聖の教団』であり、大魔王であるソフィは中央大陸にて、精霊達を保護してくれていたのである。
芝居とはいってもそんな保護をしてくれている恩人であるソフィが、敵のように仕向けられる事に、精霊女王ミューテリアは頭を痛めていた。
本当は悪いのはソフィではなく、貴方たちが信仰しているミラなのだとミューテリアは公表してしまいたかったのである。
しかしその事を止めたのは他でも無いソフィであった。三千年という長い年月『煌聖の教団』が与えた影響は大きすぎた。
今では魔界だけではなく人間でさえ至る所に『煌聖の教団』の教えを伝える神殿や教会が建っている。
下手に真実を伝える事で人間達は信じている物の根底が覆ってしまい、人間界全ての者達に混乱を与えてしまう。そうなれば何を信じていいのか分からなくなった人間達が、どういった行動に出るか。その予想は難しくはない。
当然ここまでになるまで放置していたソフィも考えモノではあると言えるが、それはソフィにとっても人間を想うが故の行動であった。
彼は心優しき者ではあるが、決して人間ではない。魔族である以上は下手な干渉をする事で、人間達の自主性を奪いたくはないと考えていたのである。
あくまで自分は魔族なのだから、同じ人間であるミラが主導出来るのならば、自分達を必要悪としながらであっても、上手く人間を良き方向へ導いてくれるのならばそれもまた世界には、必要な事であるのかもしれない。そう結論付けた時期があったのである。
――世界を統治する為には、それもまた必要な事であるとソフィは考えたのである。
自分が物語の主人公なのだと勘違いして自分の気分が良くなる事ばかりを考えていては、真の意味で世界を平和にすることは出来ない。
そう思ってこれまでは『人間界』に居る人間と同じ人間である、ミラの手腕を認めながらも行いを放置してきていたのである。
当然ソフィの右腕と呼べる魔族ディアトロスを王国の大臣に潜り込ませて、これまで通りに、保険は掛けてきてはいたが、まさかミラがここでここまで魔族に対して反旗を翻して、自分がアレルバレルの世界の王になる為に『煌聖の教団』を使って行動するとは思わなかった。
そもそも数千年前に起きた『第一次魔界全土戦争』の時点でミラはソフィの存在を知って、このままでは野望を叶えられないと教団を立ち上げたのではあるが、ソフィは魔界の安寧を優先して魔族達が勝手に動かぬようにと、そちらに意識を割いていた為、大賢者ミラの野望や、今回のような行動に出る事など予想も出来ようがなかったのである。
しかし結果論ではあるがこうなってしまったのであれば、ミューテリアの考えをこれ以上は抑制するのも違うだろう。
既に『煌聖の教団』も壊滅して、その組織の総帥であるミラもこの世を去っているのである。
『煌聖の教団』が出来る前のそれこそミラが現れる前の世界情勢の仕方に戻す必要性があり、再びソフィが表立ってこの世界を導いて行かねばならないだろう。
一難去ってまた一難とはいうが、これは一難の中に連立していた問題である為、まだその一難は去ってはいなかったと、言わざるを得ない。
再びソフィは『精霊女王』を前にして、考える事は多いなとばかりに、溜息を吐くのだった。
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