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序列部隊の選定編
737.選定試験の合否
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普段真剣勝負以外では見せないイリーガルの今の顔つきは、相手を認めた時に見せる彼の本気度を表している。
たかが序列入りを決める選定程度で、その顔を見る機会が生まれた事で、リーシャは興奮からか持っている短剣をクルクルと手の中で器用に回し始める。
「ほう? 金色の体現者が相手ではないというのに、あやつがあんな顔をするのは珍しいな」
ソフィもまた自身の信頼する配下の覚悟を決めた表情に対してそう呟くのだった。
「確実に『序列一桁』に入る程の力量ですからね。ここ数千年の間の選定では、ピカイチの実力では無いでしょうか」
ソフィの呟きにそう答えるエイネの目が金色になっている。
どうやら彼女は話をしながら、逐一ステアとイリーガルの両名に対して『漏出』で戦力値を測っているようであった。
当然イリーガルは『二色の併用』のみしか使っていない為、彼の本来の戦力値のMAXである1600億を越えているという事は無い。
それでも現在のイリーガルの正確な戦力値は978億。選定を行うだけの試験では、過去にない程の力を引き出されていた。
戦場となっている結界の内側では、イリーガルの戦闘態勢の重圧にAクラスの魔族達が動く事すらままならない状態となっていた。しかしそうなってしまっていても無理はない。
現在のイリーガルを相手にする事は戦力値上では『煌聖の教団』でいえば『ルビリス』という組織を纏められる司令官クラスである。
選定に残る為にはこのイリーガルに、一太刀浴びせて傷をつけなければならず、かなりの難易度となっているだろう。
このAクラスの試験に合格する事は序列入りは間違いは無く、それどころか『序列一桁』に選出されても可笑しくはない程である。
因みに三千年前に『煌聖の教団』に居た『リガイダー』を破り『序列一桁の第九位』になる事をソフィから許された『カルデア・フォーミュラ』の総戦力値は、当時で240億程であった(※第400話 『新たな九大魔王の誕生』)。
そんなイリーガルの重圧を感じたステアは、これまでのように軽々しくイリーガルの間合いには向かわず、隙を窺うように小太刀を構えながらイリーガルを見る。
ステアの周りに居る者達や、イリーガルの間合いのギリギリの範囲外で、ステアが動くのを待つ魔族達にも緊張が走る。
彼らは自分勝手には動かずにステアが動いて欲しいと思える行動をとる為に、必死にステアとイリーガルの両名に対して目まぐるしく視線を移し続けている。
長きに渡り中立のメンバーとして、ステアに従っていた彼らAクラスの魔族達はすでに、ステアを指揮官として戦場で命を預けられる程、全幅の信頼を寄せているのであった。
そしてイリーガルとステアの両名が互いに構えをとって少しの時間を要した頃、唐突に試合は動くのだった。小太刀を握りしめたステアが一層刀にオーラを集約し始めたかと思うと、イリーガルの真正面から突っ込んでいき小太刀を振り下ろす。
イリーガルもまたオーラを集約させた大刀で迎え撃とうとするが、そこで手元が唐突に爆発を起こした。
「!?」
イリーガルに向けてAクラスの魔族達が、極大魔法を一点に集約させて爆発させたのである。
この極大魔法『万物の爆発』は、イリーガルにダメージを与える事を目的としたワケでは無く、イリーガルに迫るステアの太刀筋を覆い隠す事を目的とした、所謂ブラインド効果を狙ったのである。
更にその生じたブラインド効果を利用したAクラスの魔族達は、一斉にイリーガルの懐へと飛び込んでいく。
しかしイリーガルもまた慌てる事無く、見えなくなった前を見据えたまま、即座に『漏出』を使って真上から小太刀を振り下ろして、迫ってきているステアに大刀を合わせる。
そしてステアの小太刀と『イリーガル』の大刀の切先が互いの刃に擦れると、そのまま両者は鍔迫り合いを始めた。
両手は得物を握りしめたままのイリーガルだが、イリーガルに向けて近づいて来る別の魔族に対しては、足で魔族の鳩尾を思い切り蹴り飛ばした。
そしてその反動を利用してイリーガルは、一度刀を引いてステアの重心を傾かせる。
拮抗していた力関係が崩れた所為でそのままステアは、勢いよく前のめりになったかと思うと、再びイリーガルは、横一文字に大刀を振りきろうとする。
ステアは前方へと泳いでいる体のままで、必死に『金色の目』を使ってイリーガルを見ると、僅かではあるが振り切ろうとしていた手が一瞬だけ硬直し、コンマ数秒の猶予が与えられた。
そのわずかな時間を利用して態勢を戻したステアは、強引に頭を下げてイリーガルの全力で振り切った大刀を躱して見せるのだった。
そしてがら空きとなったイリーガルに向けて近づいていた魔族達が、一斉にイリーガルに飛び掛かっていく。
「うおおおっっ!!」
しかし空振りした勢いそのままに、イリーガルは大刀を持った手を止めず、そのまま体をクルリと一回転させたかと思うと迫ってきていた魔族達に向けて大刀を振り回す。数体の魔族はその風圧のおかげで切先が体にあたる事はなく、吹き飛ばされていった。
だが、イリーガルの狙いは風圧で吹き飛んで行く魔族達では無く、一刃目を躱して見せたステアにのみに絞っていた。
頭を下げて躱していたステアは、小太刀で隙だらけになっているであろう筈のイリーガルに追撃をしようとしていたが、身体を一回転させることで、そのまま隙を可能な限りなくしたイリーガルの刀と、再びステアの小太刀が、カキィンという音を立てながらぶつかり合う。
イリーガルにはまだ金色という力が残されてはいるが、それを除けば九大魔王であるイリーガルとステアは拮抗する者同士、正に互角と言えるのだった。
「うおおおおっっ!!」
「ぐ……、ぐぐぐっ!」
再び鍔迫り合いとなった両者だったが、そこに一体の魔族が唐突にイリーガルの真横に現れる。
「!?」
突然現れたその魔族は隙だらけとなっているイリーガルを一瞥すると、冷静に自分の仕事を遂行する。
イリーガルの肩口を目掛けて思いきり蹴り飛ばすと、そのまま再び姿を消した。
「な……っ!?」
ガクンっと大刀を持つ手が揺れ動く。
どうやらイリーガルは肩を強く蹴られた事で筋肉の伸張が起こってしまったようである。そうなれば当然、大刀を持つ両手にも影響は起こる。
そして鍔迫り合いをしていたステアは、仲間のアシストを好機と踏んでわざと小太刀を引いて、先程のイリーガルがしてみせたように相手の重心を傾かせた。
ステアは小太刀を逆手に持ち、そのまま体が前のめりになった、イリーガルの顔を斬りつけようとする。体の重心が傾いた状態ではあるが、それでも意地かイリーガルは大刀を思いきり振り上げた。
―――そして、決着の時が来た。
イリーガルの大刀はステアの左手を肩口から吹き飛ばしたが、ステアの右手に持つ小太刀は、イリーガルの右頬に確かな傷をつけて見せるのだった。
「それまでだ! イリーガルの顔に傷を確認。選定試験は終了だ!」
強引にブラストが試験終了の言葉を告げると、直ぐにステアの吹き飛んだ手首を掴みあげて、そのままステアの治療を始めるのだった。
結合治療はユファが得意とする回復施術の一つだが、どうやらこの場ではブラストが行うようだった。
「見事だった」
イリーガルは座ってブラストの治療を受けるステアを見下ろしながら、静かにそう告げるのだった。
「ありがとうございます。ですが試験に合格出来たのは、私の力だけではありませんよ?」
そう言うと何もない空間から先程と同じように唐突に姿を見せる者が居た。
「よくやってくれたな『ベイク』」
「お役に立てたようで光栄です」
ベイクと呼ばれた魔族もまたAクラスの魔族であり、どうやら古くからこのステアの片腕のようであった。
【種族:魔族 名前:ベイク 魔力値:2200万 戦力値:547億】。
……
……
……
「最後は素晴らしい連携だったが、まさか勝敗を分けたとも言えるあの魔族が使った魔法が、ワシの『隠幕』の魔法だとはな。実に光栄な事よ……!」
Aクラスの試験を観戦していたフルーフは、見応えのある試合の最後にまさか教えたワケでは無いのに、自身の魔法を使ってくれたことで嬉しそうにそう言って頷くのだった。
……
……
……
「クックック、素晴らしいではないか! なあエイネよ?」
「はい。彼はある種完成された存在のようですね。本人の慧眼、行動力、配下からの信頼。どれをとっても序列部隊に相応しい力を持っているかと存じます」
エイネは冷静にステアを分析した上で『合格』だと暗に告げるソフィに同意をするのだった。
……
……
……
たかが序列入りを決める選定程度で、その顔を見る機会が生まれた事で、リーシャは興奮からか持っている短剣をクルクルと手の中で器用に回し始める。
「ほう? 金色の体現者が相手ではないというのに、あやつがあんな顔をするのは珍しいな」
ソフィもまた自身の信頼する配下の覚悟を決めた表情に対してそう呟くのだった。
「確実に『序列一桁』に入る程の力量ですからね。ここ数千年の間の選定では、ピカイチの実力では無いでしょうか」
ソフィの呟きにそう答えるエイネの目が金色になっている。
どうやら彼女は話をしながら、逐一ステアとイリーガルの両名に対して『漏出』で戦力値を測っているようであった。
当然イリーガルは『二色の併用』のみしか使っていない為、彼の本来の戦力値のMAXである1600億を越えているという事は無い。
それでも現在のイリーガルの正確な戦力値は978億。選定を行うだけの試験では、過去にない程の力を引き出されていた。
戦場となっている結界の内側では、イリーガルの戦闘態勢の重圧にAクラスの魔族達が動く事すらままならない状態となっていた。しかしそうなってしまっていても無理はない。
現在のイリーガルを相手にする事は戦力値上では『煌聖の教団』でいえば『ルビリス』という組織を纏められる司令官クラスである。
選定に残る為にはこのイリーガルに、一太刀浴びせて傷をつけなければならず、かなりの難易度となっているだろう。
このAクラスの試験に合格する事は序列入りは間違いは無く、それどころか『序列一桁』に選出されても可笑しくはない程である。
因みに三千年前に『煌聖の教団』に居た『リガイダー』を破り『序列一桁の第九位』になる事をソフィから許された『カルデア・フォーミュラ』の総戦力値は、当時で240億程であった(※第400話 『新たな九大魔王の誕生』)。
そんなイリーガルの重圧を感じたステアは、これまでのように軽々しくイリーガルの間合いには向かわず、隙を窺うように小太刀を構えながらイリーガルを見る。
ステアの周りに居る者達や、イリーガルの間合いのギリギリの範囲外で、ステアが動くのを待つ魔族達にも緊張が走る。
彼らは自分勝手には動かずにステアが動いて欲しいと思える行動をとる為に、必死にステアとイリーガルの両名に対して目まぐるしく視線を移し続けている。
長きに渡り中立のメンバーとして、ステアに従っていた彼らAクラスの魔族達はすでに、ステアを指揮官として戦場で命を預けられる程、全幅の信頼を寄せているのであった。
そしてイリーガルとステアの両名が互いに構えをとって少しの時間を要した頃、唐突に試合は動くのだった。小太刀を握りしめたステアが一層刀にオーラを集約し始めたかと思うと、イリーガルの真正面から突っ込んでいき小太刀を振り下ろす。
イリーガルもまたオーラを集約させた大刀で迎え撃とうとするが、そこで手元が唐突に爆発を起こした。
「!?」
イリーガルに向けてAクラスの魔族達が、極大魔法を一点に集約させて爆発させたのである。
この極大魔法『万物の爆発』は、イリーガルにダメージを与える事を目的としたワケでは無く、イリーガルに迫るステアの太刀筋を覆い隠す事を目的とした、所謂ブラインド効果を狙ったのである。
更にその生じたブラインド効果を利用したAクラスの魔族達は、一斉にイリーガルの懐へと飛び込んでいく。
しかしイリーガルもまた慌てる事無く、見えなくなった前を見据えたまま、即座に『漏出』を使って真上から小太刀を振り下ろして、迫ってきているステアに大刀を合わせる。
そしてステアの小太刀と『イリーガル』の大刀の切先が互いの刃に擦れると、そのまま両者は鍔迫り合いを始めた。
両手は得物を握りしめたままのイリーガルだが、イリーガルに向けて近づいて来る別の魔族に対しては、足で魔族の鳩尾を思い切り蹴り飛ばした。
そしてその反動を利用してイリーガルは、一度刀を引いてステアの重心を傾かせる。
拮抗していた力関係が崩れた所為でそのままステアは、勢いよく前のめりになったかと思うと、再びイリーガルは、横一文字に大刀を振りきろうとする。
ステアは前方へと泳いでいる体のままで、必死に『金色の目』を使ってイリーガルを見ると、僅かではあるが振り切ろうとしていた手が一瞬だけ硬直し、コンマ数秒の猶予が与えられた。
そのわずかな時間を利用して態勢を戻したステアは、強引に頭を下げてイリーガルの全力で振り切った大刀を躱して見せるのだった。
そしてがら空きとなったイリーガルに向けて近づいていた魔族達が、一斉にイリーガルに飛び掛かっていく。
「うおおおっっ!!」
しかし空振りした勢いそのままに、イリーガルは大刀を持った手を止めず、そのまま体をクルリと一回転させたかと思うと迫ってきていた魔族達に向けて大刀を振り回す。数体の魔族はその風圧のおかげで切先が体にあたる事はなく、吹き飛ばされていった。
だが、イリーガルの狙いは風圧で吹き飛んで行く魔族達では無く、一刃目を躱して見せたステアにのみに絞っていた。
頭を下げて躱していたステアは、小太刀で隙だらけになっているであろう筈のイリーガルに追撃をしようとしていたが、身体を一回転させることで、そのまま隙を可能な限りなくしたイリーガルの刀と、再びステアの小太刀が、カキィンという音を立てながらぶつかり合う。
イリーガルにはまだ金色という力が残されてはいるが、それを除けば九大魔王であるイリーガルとステアは拮抗する者同士、正に互角と言えるのだった。
「うおおおおっっ!!」
「ぐ……、ぐぐぐっ!」
再び鍔迫り合いとなった両者だったが、そこに一体の魔族が唐突にイリーガルの真横に現れる。
「!?」
突然現れたその魔族は隙だらけとなっているイリーガルを一瞥すると、冷静に自分の仕事を遂行する。
イリーガルの肩口を目掛けて思いきり蹴り飛ばすと、そのまま再び姿を消した。
「な……っ!?」
ガクンっと大刀を持つ手が揺れ動く。
どうやらイリーガルは肩を強く蹴られた事で筋肉の伸張が起こってしまったようである。そうなれば当然、大刀を持つ両手にも影響は起こる。
そして鍔迫り合いをしていたステアは、仲間のアシストを好機と踏んでわざと小太刀を引いて、先程のイリーガルがしてみせたように相手の重心を傾かせた。
ステアは小太刀を逆手に持ち、そのまま体が前のめりになった、イリーガルの顔を斬りつけようとする。体の重心が傾いた状態ではあるが、それでも意地かイリーガルは大刀を思いきり振り上げた。
―――そして、決着の時が来た。
イリーガルの大刀はステアの左手を肩口から吹き飛ばしたが、ステアの右手に持つ小太刀は、イリーガルの右頬に確かな傷をつけて見せるのだった。
「それまでだ! イリーガルの顔に傷を確認。選定試験は終了だ!」
強引にブラストが試験終了の言葉を告げると、直ぐにステアの吹き飛んだ手首を掴みあげて、そのままステアの治療を始めるのだった。
結合治療はユファが得意とする回復施術の一つだが、どうやらこの場ではブラストが行うようだった。
「見事だった」
イリーガルは座ってブラストの治療を受けるステアを見下ろしながら、静かにそう告げるのだった。
「ありがとうございます。ですが試験に合格出来たのは、私の力だけではありませんよ?」
そう言うと何もない空間から先程と同じように唐突に姿を見せる者が居た。
「よくやってくれたな『ベイク』」
「お役に立てたようで光栄です」
ベイクと呼ばれた魔族もまたAクラスの魔族であり、どうやら古くからこのステアの片腕のようであった。
【種族:魔族 名前:ベイク 魔力値:2200万 戦力値:547億】。
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「最後は素晴らしい連携だったが、まさか勝敗を分けたとも言えるあの魔族が使った魔法が、ワシの『隠幕』の魔法だとはな。実に光栄な事よ……!」
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「クックック、素晴らしいではないか! なあエイネよ?」
「はい。彼はある種完成された存在のようですね。本人の慧眼、行動力、配下からの信頼。どれをとっても序列部隊に相応しい力を持っているかと存じます」
エイネは冷静にステアを分析した上で『合格』だと暗に告げるソフィに同意をするのだった。
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