最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
749 / 1,982
序列部隊の選定編

735.Aクラスの試験開始

しおりを挟む
「それでは、試験開始だ!」

 再びブラストが試合開始の合図を出すとAクラスの試験は開始された。しかしBクラスの者達とは違い、試合開始と同時に動き出して向かっていくものは居なかった。

 だが、その代わりに全員がオーラを纏い、彼らはステアの周囲に集まったかと思うと、防御を固め始めるのだった。元々Aクラスに居る者達はステアの周囲に居た者達であった。つまり彼らはBクラスの者達のように組織の者達から身を守る為に、比較的に最近になって集まったというワケでは無く、元々中立の組織の中でステアの側近と言える者達だったのだろう。

 そしてその中心人物はこの『魔界』の一つのオアシスとして君臨する事を目的とした、『ステア』であった。

 これまで『煌聖の教団こうせいきょうだん』の強引な勧誘にも靡かず、頑なに中立を保ち続けて来たステアは、彼ら側近達からの信望も厚いようだった。

「いいか? 試験に合格する為には、殿に一撃を入れなければならない。序列入りというモノに拘らなくても構わないが、我々中立であった者達が誰一人として合格が出来ないという結果だけは出来るだけ避けておきたい。AとBクラスを含めて誰一人として合格出来ないとなれば、

「確かに……。我々もある程度は役に立つというところを見せておきたいところですね。分かりました、ではステア殿に一撃を託すとして我々はそのフォローをさせていただきます」

 側近達から返ってきた言葉にステアは頷くが、そこで少しだけ訂正を入れる。

「私が一撃を入れる為にお前達の助力は必要だが、何も一撃を入れる役割が私だけと決める必要はない。臨機応変にイリーガル殿の攻撃を躱しつつ、全員で協力して全員で一撃を入れる努力をするのだ。イリーガル殿に傷をつけた時点で、だと思え」

「分かりました!」

 試合の開始から数分が経ったが彼らはぼそぼそと何かを話し合っているだけで、攻めて来る気配が無い。しかしそれでもイリーガルは『』を纏いながら右手を背中の大刀にあてて構えをとり続けている。

「……」

 Aクラスの者達も戦力値はBクラスの魔族達とは比べ物にならない。

煌聖の教団こうせいきょうだん』の本隊に居ても可笑しくはない程の強さを持つ者も少なからずいる。

 そしてその中心に居るステアは、先程のクラス分けの時に見せた力の片鱗を見るに戦力値が1000億を越える『大魔王最上位』領域に匹敵しているだろう。ステアが動けば周囲に固まっている魔族達も一斉に動く。そうなれば『』を纏っているのイリーガルといえども気は抜けない。

 当然『』を纏えば、一切の全ての心配は取り除かれるだろうが、今度は仲間である魔王軍所属となった彼らAクラスの魔族達に、冗談では済まない怪我を負わせてしまう可能性がある。

 その懸念を考えてイリーガルは、出来るだけ手加減をできる程度に、戦力値コントロールに力を入れた上で『』を纏い続けるのだった。

 そしてイリーガルとステアが互いに視線を交差させた瞬間。ステアの周囲に居た魔族達が、一斉にイリーガルに向かっていった。

 …………

「む、動いたか……」

 Aクラスの試験に注目していたソフィは、Aクラスの魔族達がイリーガルに向かったのを見て、そう言葉に出した。

 Aクラスの魔族達は『高速転移』を使いながらイリーガルの周囲をかく乱するように動いていた。イリーガルはそんな彼らを一瞥したが、攻撃の意思を感じられなかった為、彼らに対しての防衛手段はとらず視線を再びステアに向ける。

 しかしすでに先程までの位置にステアは居ない。彼らが動いたと同時にステアも静かに移動していたのだろう。

 イリーガルは仕方なくステアに対して『魔力探知』を行うが、ステアの魔力を探知出来なかった。

「何?」

 イリーガルは完全にステアを見失ってしまった。

 そこへイリーガルの背後から『隠幕ハイド・カーテン』を纏ったステアが顔を見せる。

「卑怯だとは言わないで下さいよ? イリーガル殿!」

 そして背後からイリーガルに向けて、ステアが攻撃を繰り出してきた。ステアの得物は脇差程の長さの所謂『』だった。

「む……っ!」

 イリーガルは何とか体を捻って、背後からのステアの一撃を躱して見せる。

「今だお前達! イリーガル殿はバランスを崩したぞ!」

 ステアはそう叫ぶと周囲を動き回っていたAクラスの者達が、イリーガルに斬りかかってくるのだった。

「!?」

 イリーガルはステアの攻撃を強引にかわした事で身体が泳いでしまっているが、その態勢のままで背中から大刀を引き抜いた。

 ――次の瞬間。

「ウオオオッ!!」

 型も何もなくイリーガルは強引に大刀を横凪ぎに振り切った。イリーガルに迫っていたAクラスの魔族達は、イリーガルに攻撃を仕掛けようとしていたが、イリーガルのをまともに受けてしまい慌ててその場から離脱した。

 『』を纏っていない現在のイリーガルでさえ、戦力値コントロールによって戦力値は1000億に近い。

 ステアであればイリーガルの殺気にも対応出来ただろうが、他の魔族には逃げるのが精一杯だった。

 それでもイリーガルの殺気を浴びて即座に回避行動をとれたこと自体が褒められた事だろう。

 結局イリーガルが強引に振った事により出来た三日月型の衝撃波は、Aクラスの魔族達に避けられた後に施設の端の方まで飛んでいき、ブラストの張っている結界の壁まで辿り着いて、結界とせめぎ合っていたが、結界に打ち消されてやがて消えた。

「いやはやこれがイリーガル殿か……! とんでもありませんな」

 いつの間にか再びイリーガルから離れた場所に移動していたステアは、イリーガルの一撃を見て汗を流した。

 それでもステアは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の追手から守ってくれた時に、イリーガルの本当の一撃を見ている為、今回のは本気でも何でも無い一撃だという事は知っている。

 しかしそれでもAクラスの魔族達に怖気を走らせる程の『九大魔王』である『イリーガル』の一撃を見て、改めてとんでもないモノだと『ステア』は言葉を漏らすのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね

たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」 「お父様!何故ですの!」 「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」 「お兄様!それは!」 「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」 こうして私は王女の身分を剥奪されました。 眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

処理中です...