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序列部隊の選定編

734.成長する心と変わらぬ身長

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「それまでだ。その場から全員動くな」

 ブラストがBクラスの試験終了を告げると、リーシャはピタリと動きを止める。そしてBクラスの魔族達も悔しそうな顔を浮かべて立ち止まるのだった。

 僅か五分という試験の短さもあったが、まさかの合格者は0人だった。次はAクラスの試験が始まる為、リーシャは交代する為に『イリーガル』の元へと向かっていく。

 Bクラスの魔族達は『序列入り』という千載一遇の好機を前にして、あっさりとその好機を逃してしまった事に呆然と立ち尽くしていた。

 中でもBクラスの魔族同士で争っていた者達は、試験終了を告げるブラストの声の後、少ない時間を無下にしてしまった後悔が、ありありと表情からにじみ出ていた。

 リーシャを捕らえきれない事に焦りがあったのも確かだが、制限時間の少なさを理解していたのに何故自分達は争ってしまったのかと悔むのだった。

 そして争っていた者同士は試合の後になって、ようやく互いに慰め合うのだった。

 彼らとて元々は同じ中立を守るステアの組織の一員だった。敵ではない仲間であったはずなのに、目の前に垂らされた一本の好機の糸に翻弄されてしまい、争ってしまっただけなのである。

 しかしルールはルールであり、今回はBクラスの者達から序列入りは認められなかった。

 そしてその現実を目の当たりにした彼らは、落ち込んでだ後にリーシャの顔を見て、流石は大魔王ソフィ様がお認めになった『のだった。

 自分の元に近づいてきたリーシャの肩に手を置き、静かにブラストは声を掛けた。

「お疲れ」

「イリーガル様。やはりある程度は、合格者を出させた方が良かったでしょうか……?」

 現在の魔王軍は指揮官たちしか居らず、機能しているとは言い難い状態である。

 ここは暫定であっても『序列部隊』としてある程度彼らの中から選んで育成出来るように、合格者を出す方がよかったかもしれないと、リーシャは考えていたのだった。

「俺達は試験官の役割を忠実に果たせばいい。試験に合格出来なかったのは彼らの責任だ。お前がその後の事を決める必要はない」

 そう言ってイリーガルはAクラスの試験を始める為に、施設の中央へと向かっていくのだった。

 これまで何度も序列部隊の合否の試験官を務めてきた『イリーガル』の後ろ姿は、とても堂々としたものであった。

 合格者を決めるのは試験官では無く、試験を受ける者達であり、そこに責任は無いとイリーガルは言った。ならば下手に他の事を考えず、その言葉に頷き従うまでである。九大魔王のリーシャは、そう結論を出して堂々と胸を張るのだった。

 そんなリーシャの元にレアが近寄って来る。

「あ、レア……!」

「あれだけの魔族相手に誰一人として触らせないなんて、貴方は本当に、本当に凄くなったわよねぇ!」

「そう言ってもらえると嬉しいけどぉ、そうならざるを得なかったというかぁ……。あたしとエイネさんは、強くならないと生きてこれなかったからねぇ」

 大好きなレアに褒めてもらって嬉しいと思う反面。そのレアの言葉に集落でのバルドの裏切りから、これまでの過去の事を思い返して、少しだけ感傷的な気分になるリーシャだった。

(この子も成長したのよねぇ……。出会った頃は本当に子どもだったのに)

 そしてリーシャの視線を追いかけた先には、ミデェールと楽しそうに会話をしているエイネの顔があり、本当はあそこに行きたかったのかもしれないとレアは考えるのだった。

 何となくそこでレアは、昔のようにリーシャの頭を撫でようとするが、成長した今のリーシャの身長を見上げた事で出した手を引っ込め直すのだった。

(それはそうと、何で私は背が伸びないのかしらぁ?)

 三千年前の間で大人びた体つきになったリーシャと自分を見比べたレアは、口を尖らせながらそう考えるのだった。

 ……
 ……
 ……

 こうしてBクラスの試験が終わりを告げて、次はAクラスの試験が始まろうとしていた。

 今度の試験官もまたリーシャと同じく九大魔王であるイリーガル。

 対するAクラスの者達はBクラスより少ない人数だったが、先程のBクラスの戦い方を見ていたからか、全員が気を引き締め直しているように見えた。

 そして彼らAクラスの中心には、目を細めてイリーガルを見つめるステアの姿があるのだった。
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