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天才同士は惹かれ合う編
第九章の補足と訂正
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第九章の補足と訂正
第九章は過去最長の章となりました。
一章の中で100話越えすら初かもしれませんが、なんと九章は160話を越えてしまいました。
しかしこの章はこの物語の根幹部分であり、大変必要な章でしたので、それも仕方がありませんでした。
それでは今回も九章の始まりから、補足していきましょう。
▼九章は『煌聖の教団』の総帥であるミラの独白から始まりました。この章の幕間のタイトルは『ミラの悪夢』。
そのタイトルの言葉通りにミラがアレルバレルの世界で数千年ぶりに、エルシスの姿を見たと同時、彼の憧れであるエルシスと戦って、敗北をした時の事が夢に出てきたところから始まります。
彼は既にエルシスを越えているとばかりに思っていた為、あの敗北は彼に悪夢をみさせる程に影響を与えました。
それと同時に自分の理想の『魔』の体現者と思っていたエルシスは間違いなかったと、再確認出来た日でもあった為、実際は決して悪い事ばかりでも無かったかもしれませんが。そしてその事が気分を新たにさせる要因ともなり得ました。
大魔王ソフィを倒す為には、今のままではどう足掻いても勝てないと再確認し、もう一つのプランである『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を手に入れる為に、計画を前倒しする事となりました。
本来であればソフィをリラリオの世界へ跳ばす事さえ出来れば、計画は成功とされていました。そしてこの計画は、これから数千年後に行う計画だったのです。
しかしソフィがアレルバレルの世界に戻ってきた以上、そのソフィを倒して自分がアレルバレルの王となる為には『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』が必要となると理解させられたのです。
そして同盟を結んでいる大魔王ヌーと協力し、ダールの世界へと渡り歩いて行く事になります。
更にこの計画にはこれまで各章で名前だけはよく出てくる人物であった、大魔王フルーフが遂に捕らえられていた理由が明らかになります。
『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を手に入れる為に必要な事は、ダールの世界の危機を魔神達に認識させる事でした。
その為にミラは、その世界に生きる多くの者達の命を奪う必要がありました。しかしミラが襲ってしまえば、世界の危機を引き起こした存在として、ミラが魔神に殺されてしまう事になる為、彼は『煌聖の教団』の配下の信者に、この役目を押し付けました。
厳密には彼が襲わせたのではなく『煌聖の教団』の司令官であるルビリスが、そう指示をしたワケです。
『煌聖の教団』に属する者達は、全員が妄信的にミラを神と信じ込み崇拝している為、神の存在であるミラの役に立つのならばと、喜んで死を受け入れます。
『煌聖の教団』総帥であるミラの恐ろしいところは、アレルバレルの世界に生きる、他世界より強い者が多い筈の膨大な数の魔族達を洗脳して従わせ続けられた事でしょう。
彼のカリスマ性はとても恐ろしく、戦力値が500億を越えるような大魔王達に操る事を一切せずに自我を保ったままで、あっさりと自害させる程でした。
『煌聖の教団』を束ねる総帥。大賢者ミラは人間にして、大魔王ソフィとは似ても似つかぬ世界の支配をやり遂げる、可能性があった人間というわけです。
それはつまり大魔王ソフィという、存在が居ない時代であれば『アレルバレル』の支配者は大賢者『ミラ』の世界だった可能性もあります。
そんな彼は当初の計画通り、魔神を出現させる事に成功します。そしてこの魔神の出現に必要な多くの命を奪い、世界の危機を魔神達に、認識させる為に必要な行いで、彼のもう一つの計画であった『疑似的な永遠の命』を手にする方法が隠されていました。
――それは、彼の編み出した新魔法『仮初需生』でした。
(※『仮初需生』は他者の魂を生贄にし、仮初の命を創り出す禁忌の魔法です)。
人間の身でありながら、まさに神への挑戦というべき、この魔法を編み出した彼は、世界の危機を引き起こす為に、ダールの世界を死地へと変えた挙句、ダールの世界に生きる者達の魂を奪い、自分の疑似的な生命のストックへと作り替えます。
これにより数えきれない程の生命のストックを手にしたミラは、一つ目の計画の達成を大いに喜びました。そして多くの魂を入手した挙句に、当初の目的通りに魔神を出現させる事に成功します。
ここで次の計画に移り、現れた魔神からその神の技法を奪う事に着手していきます。
この時に必要な事は、世界の危機を引き起こした者を自分以外に仕向ける事だった為『|煌聖の教団《こうせいきょうだん』の信者にその役目を担わせた事で、第一段階は成功と言えたでしょう。
そして計画は第二段階に移っていく訳ですが、ここで必要な事は魔神の攻撃をその目に焼き付ける時間です。この役目は同盟を結んでいるヌーに、ミラはその役目を担わせました。
――まさにミラの読み通りに、計画は進んでいきます。
これで魔神の技を会得する為の時間を確保する事が出来た為、第三段階に計画は移す事が、可能となりました。次に必要なのが、大魔王フルーフの存在です。そしてこの時の為にミラは、フルーフを数千年前に洗脳して拉致したのです。
大魔王フルーフは新たな魔法を編み出す天才です。大賢者ミラは、フルーフがその『魔』の天才であり、大賢者エルシスに勝るとも劣らない素質・素養を即座に見抜いて洗脳を施して身柄を奪いました。
――全てはこの時の為です。
『アレルバレル』の世界からソフィを追い出す事に失敗した場合のセカンダリの計画。
正に今のこの状況で、魔神の技を『発動羅列』させる『新魔法』をフルーフに編み出させて、計画通りに魔神から『高密度エネルギー波』と『浄化の光』の二種類の魔神の技を魔法化にする事に成功します。
この魔神の技を魔法化する為には、その魔法を発動する為に必要な発動羅列化が、最重要の懸念材料でしたが、その問題は大魔王フルーフの新魔法によって解決する事が出来て、新たに生み出された魔法の『発動羅列』は、ミラの発動羅列を読み解く特異を使う事で、魔神の『高密度エネルギー波』と『浄化の光』を魔法化する事に成功します。
ここで重要な事は、安易に魔神の技を魔法化させる事では無く、発動羅列化させる事にありました。
それは何故なら、大魔王ヌーの存在があったからです。今は同盟を結んでいる間柄ですが、大魔王ヌーは配下ではありません。
この魔神の使う技を魔法化してしまうと、いつかミラを裏切ったときに、ヌーがこの『浄化の光』などの魔法を身につけて、ミラ達に災いを及ぼすかもしれないと、ミラは考えたのです。
しかしその懸念は『魔神』の技を発動羅列化させる事で解決します。
何故なら発動羅列であれば、表記させたときにヌーに盗み見られたとしても、彼は発動羅列を読み解く特異もその他一切の方法がない為です。
――更に偶然の副産物と呼べるもう一つの幸運がミラの手に渡ります。
それは『時魔法無効化』の会得です。
この三つ目の技は、先の二つの魔法に勝るとも劣らない重要な技となります。
そして後処理も念入りに行われました。世界の危機を引き起こした配下の信者を魔神に処理させる事で、全てが計画通りに終わりました。
まさに数千年に渡って考えに考えを重ねて、完成されたミラの計画は、全てが実を結んで彼に『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を会得させました。完全にミラの思い通りに計画は成ったというワケです。
全ての計画が完了し、ミラ達は『アレルバレル』の世界に戻ろうとしますが、ここでイレギュラーが起きました。
なんとこれまで数千年間洗脳が解けなかった筈の大魔王フルーフが、意識を取り戻そうとし始めたのです。
これはミラにとっても予想外な出来事でありました。そしてその所為で、計画に支障をきたし始めるのですが、魔神の力と疑似的な永遠の命を手にした事によって、この時のミラはあまり気にしませんでした。大きなリターンを手にしたのだから、少しのリスクは無ければおかしいとさえ彼は考えたのです。
――しかし彼の目論見は甘かったと、言わざるを得ないでしょう。
この大魔王フルーフは、あの大魔王ソフィが認めた友人にして『レパート』という『魔』に卓越した世界の魔族達を束ねる頂点に座する大魔王だったのですから。
そしてここからイザベラ城に幽閉される事となった、フルーフの脱出劇が始まります。目を覚まして曖昧ながらに記憶を取り戻したフルーフは、ダールの世界の元支配者であるイザベラの城に幽閉されました。
地下牢で目を覚ましたフルーフには、神聖魔法が施された枷をつけられていました。
この神聖魔法は、大賢者エルシスが編み出した魔法で『聖動捕縛』が付加されていました。
『聖動捕縛』は魔族に対して効果が増幅される特効の効力があります。その為、発動羅列を読み解けない上に、長い間意識がなかったフルーフにとって、この神聖魔法は新魔法である為、見た事も聞いた事もないものでありました。
見たことも無い新魔法に加えて、その効力が魔族を縛る事に特化した特効である以上、この枷を外して城を脱出する事など、どう考えても不可能だと普通ならば考えるでしょう。
しかしこのフルーフという魔族は、この状況下に置かれて、いつ処刑されてしまうかもわからないという状態で、新しい魔法の存在に目を輝かせて、ウキウキしながら解除をしようとします。
――『魔』に魅了された魔族は、誰もがやはりどこかが狂っているのでしょうか。
そして最初にフルーフが着手したのは、この神聖魔法の『発動羅列』の文字の配列と形でした。
発動羅列そのものをミラやエルシス達のように読み解けない彼は、この発動羅列の文字の配列と形を一文字、一文字”を記憶する事から始めようとします。
そこで役に立ったのが、強引にフルーフが編み出させられた『発動羅列』を表記させて『羅列化』させる新魔法です。
本来この魔法はミラが魔神の技を奪う為に編み出させられた魔法だったのですが、この強引に編み出させられた魔法によって、フルーフをこの危機的な状況から、脱出させる事に相成ったわけでございます。
しかしそれでもこの状況を打破するのは、雲を掴むような難易度でした。
それもその筈。この魔法を使う為には『金色の目』と『発動羅列化』の魔法を同時に使わなければならず、使おうとすると『聖動捕縛』が付加されている枷の効力が発動されて、フルーフの魔法を無効化させられてしまうからです。
魔瞳『金色の目』と『羅列化』の魔法を使う一回の猶予は、凡そ一秒程。
その一秒間で、羅列化させた文字の配列と形を頭に記憶していかないといけないのです。
発動羅列の文字が読めない以上、そのまま記憶していかなければならないのですが、その記憶がもしどこかで間違えていたならば、全てやり直しとなるわけです。
もし間違って覚えてしまったならば、どこを間違えているのかを一文字一文字、再び文字の配列と形を覚え直さないといけないのです。
それも発動できる時間は一秒しか猶予がない為、魔力を無駄に浪費させられながらどこが違うのかを一から洗い直すという苦行が起こり得るわけです。
更には全てが正しく文字の配列と形が記憶されたとしても、文字の配列だけでどの文字の部分が魔族に対して影響を及ぼすかを見極める必要があるのです。そして効力を理解出来たからといって、それで終わりではありません。そこから神聖魔法の『聖動捕縛』の解除の方法を考えないといけないワケです。発動羅列を読み解けたからといって、その神聖魔法を縛られている状態で解除するのに必要な『魔力』と『知識』を持っていなければ結局は元の木阿弥なのですから。
そしていつミラやヌーが、フルーフの様子を見に来るかもわからない状況なのです。そんな状況で『聖動捕縛』の解除を試みるフルーフ。
まさに絶望的な状況下の中で、フルーフは神聖魔法の解除を行い続けます。普通であれば泣きたくなるような状況に置いて、この作業を彼は満面の笑みで行い続けます。
彼の大好きな『魔』。それも見た事も聞いた事もない新魔法の解析です。最高の気分でワクワクしながら『聖動捕縛』を解除していきます。狂っていますね。
しかしウキウキ気分で神聖魔法の解析と解除を試みていく中で、フルーフはその満面の笑みが崩れて、無表情になっていきます。何故ならそんなフルーフから見て『聖動捕縛』には多くの選ぶ羅列基準に無駄が見られたからです。
確かにこのままでも魔族を縛る魔法の効力発動は、発揮可能なのですが、フルーフには理解が出来ない、発動羅列の組み立て方が多く見受けられており、もっと違う羅列を組み込むことで発動が、簡単に行える筈だと確信したのです。
どうしてここまで表現力がある者が、そういう発動羅列の繋げ方をするのかと、この魔法を創ったエルシスに不満を持ち始めてしまったのです。
(※この瞬間に至っては、エルシスより長く生きてきたフルーフの方が『魔』の研鑽の質が上だったという証明となります)。
この雲を掴むような難易度の中で、行われる解析と解除の間で、彼は新たにこの神聖魔法をベースにした別の神聖魔法を生み出します。
彼にとってはこの『聖動捕縛』には納得がいかず、もっと最適化された魔法になると判断した為であります。
本来、一刻も早く枷を解いて脱出をしなければらないという状況であるにも拘らず、彼はこの神聖魔法の更なる可能性を追求し始めたのです。
ここまでくるともう、彼は何がしたいのか分かりません。
自分の死すら新たな『魔』の発見の為には、比較に値しないという事なのかもしれません。そして遂にフルーフは僅かな時間の間に、エルシスの編み出した神聖魔法『聖動捕縛』の全ての効力を理解し、更にはその『聖動捕縛』の解除方法だけでは無く、この魔法よりも更に効果範囲の拡大、効果の増幅の再現をする新魔法を生み出す事に成功します。
これ以後、魔族を縛る『聖動捕縛』は、フルーフにとっては何の障害にはなりません。
―――フルーフにとって『聖動捕縛』は過去の魔法となりました。
あっさりと枷を外し終えたフルーフは、そのまま『聖動捕縛』の効力のある地下牢の扉をあっさりと解除し堂々と外に出るのでした。
▼フルーフと契約を行った神
さて、無事にエルシスの神聖魔法『聖動捕縛』の解析と解除を果たしたフルーフは、無事に地下牢から脱出を果たしました。
イザベラ城の地下から地上を目指して、堂々と歩いていくフルーフでしたが、もうすぐ地上という所で、気になる場所を城の中で見つけます。
その気になる場所には、多くのマジックアイテムが積み上げられていました。
元々イザベラがこの世界で収集していたアイテムや、ヌーやミラが教団の配下を使って集めたモノをこの場所に保管していたようです。
フルーフは『魔』に関する物であれば、魔法だけでは無く、マジックアイテムにも興味を持っています。どうやらフルーフが気に入った、マジックアイテムも複数あったようで、せっかく苦労をして牢を脱出したというのに、様子を見に行こうとしたヌー達に、脱獄した事がばれてしまいます。
結局フルーフは見つかってしまい、そのままヌー達と戦闘をする事となりました。
意識を取り戻しただけでも驚く事だというのに、どう考えても脱出が出来ない筈のフルーフが、普通に地下牢を抜けて、堂々とアイテムを物色していた事に、驚きを隠し切れないヌーとミラ。
しかし一度は捕縛する事に成功した魔族である為、彼らはフルーフを甘く見ていました。今回もあっさりと捕まえられるだろうと。
――だが、その二人の考えはあっさりと覆されます。
大魔王領域の最上位に居るフルーフは、金色のオーラを纏い戦いを選択します。
ヌーはあっさりと勝負を決めるつもりで戦おうとしますが、数千年前に戦った時には、使わなかったとある呪文をフルーフが使います。
――それが『死司降臨』という契約の呪文です。
この呪文で使役された死神は『死神皇』と呼ばれており、その名の通り死神を束ねる王です。
別の者と契約を結んだ上で使役させられている死神を除き、死神貴族といった上位死神を含めた『全死神』を従える存在であり、当然不死です。
死神貴族以上の『神位』を持つ死神特有の能力を持っており、その能力は黒いモヤを出現させて、対象者の命を奪う事が出来ます。
フルーフと戦った耐魔を誇る大賢者ミラでさえ『死神皇』の能力で一撃で絶命させられました。しかし『疑似的な永遠の命』を持つミラは、直ぐに蘇生をさせられてしまいます。
フルーフの目的は愛娘であるレアに会う事であった為、ミラと決着をつけずにそのまま『概念跳躍』を使ってその場から離脱しましたが、あのまま戦っていた場合、生命のストックがある限り何度も蘇るミラを前に、既に多くの魔力を消費していたフルーフは、魔力がそのまま枯渇して敗れてしまっていたでしょう。
しかしそう言った特殊な相手でない限りは、死神皇と契約を結んでいる時点で、フルーフは戦闘に於いて、かなり猛者の部類に入る事でしょう。
▼レアとの再会
リラリオの世界でようやくフルーフは、レアと再会する事が出来ました。
そして親に捨てられた事で、一度も親に褒められた事のないレアが、遂に再会したフルーフによくやったと褒められました。
数千年間という長い間、離れ離れになっていた親子がようやく再会出来たのです。
レアはようやく願望が叶い、親に褒められるという経験を得られて、もう死んでもいいと思えるほどに歓喜します。
そしてフルーフもまた、レアに友達と呼べる存在が出来ていた事を喜び、成長した娘をその目に焼き付ける事が出来て、幸福感を得る事が出来ました。
大魔王フルーフは自身の友人であるソフィが、レアと偶然知り合っていた事に驚きましたが、そのレアとの戦いの経験を経て、しっかりとレアを保護してくれていた事を知り、フルーフはソフィに対して、大きな借りが出来たと内心で思っています。
今後何かあれば、フルーフは彼の持つ力全てを以て大魔王ソフィの助けになる事でしょう。
▼『アサ』という世界
この世界は『アレルバレル』や『レパート』そして『ダール』といった世界とは違い、魔族が他種族よりも力が劣っている世界です。
魔族の平均的な戦力値は150万~200万程であり、過去に魔人族に滅ぼされた魔族の王でさえ、その戦力値は1000万程でした。
この世界に跳ばされたフルーフは、ソフィの配下であるエイネと合流する事になります。エイネはリーシャを守る為に『煌聖の教団』の幹部の手によって、この世界に跳ばされていました。
当然エイネ程の力があれば、あっさりとこの世界を支配出来る程の力を持っていましたが、エイネはこの世界の情勢を知った事で、目立つ事を避ける為『金色の目』を使って、魔人族の軍に潜伏して元の世界へ帰る方法を考えていましたが、そこで『概念跳躍』を使って、アサの世界へと跳んできたフルーフと再会し、事情を聞いた上でフルーフの魔力が戻り次第、アレルバレルの世界へと送ってもらう事になりました。
しかしタイミングが悪く、フルーフの魔力が戻る前に、エイネ達魔族が居る基地にイルベキアの龍族が攻め込んできます。
もうすぐこの世界から離れるエイネ達には、関わるつもりは無かったのですが、同胞であるこの世界の魔族が攻撃されそうになっているのを見て、エイネは仕方なく同胞を守る為に、攻めてきた龍族に攻撃を仕掛けます。
しかしこの時の事が原因で、魔人族のカストロL・K地域の指揮官を任せている『バルザー・レドニック』という魔人族がエイネの元へ訪ねてきます。
当初は龍族が攻めてきたときに基地と魔族を捨て駒にして去ろうと考えていた『バルザー』でしたが、攻めてきた龍族を何らかの方法で片づけたエイネに、何があったのかを聞き、そしてエイネが使えるようであれば盾にしようと目論みます。
この世界の魔族は、魔人族に隷属させられている為、バルザーはエイネに対しても、横柄な態度で絡んできます。
そしてエイネが龍族と戦った事を誤魔化そうとしましたが、結局バレてしまいます。
しかしその時にバルザーも魔族達から助けて欲しいという連絡が行っていたにも拘らず、バルザーはその言葉を無視して、龍族達から自分だけ逃げようとしていた事が明るみになり、最後はエイネに対して逆切れをするという展開になりましたが、そこで龍族を撃退出来たのはエイネが何かをしたか、もしくは指示を出したのだと告げて、そうでないなら魔族如きの雑魚が、龍族に適う筈がないと暴論を口にします。
エイネという存在は、同胞を蔑む事を一番嫌う魔族でした。結局は荒波を立てずに事を無かった事にしようとしていたエイネでしたが、魔族を馬鹿にしたバルザー達に手を出して、表舞台に出てしまう事になりました。
▼理想と現実
結局エイネはこの世界では出来るだけ、関わらずにいようと考えていたにも拘らず、魔人族に隷属させられていた魔族達を保護する為に、魔人族の王と話をします。
話し合いの末にエイネは自身の強さを誇示する事で、魔人族から魔族を保護する約束を取り付けますが、現在は龍族と魔人族の戦争中の為、今度は龍族の大陸に出向き、魔人族と龍族の戦争は勝手にすればいいが、魔族に手を出す事は止めろと、龍族の王に伝えに行こうとします。しかし当然の事ながら、龍族を束ねるスベイキアの国王イーサ龍王は、魔族如きが何を言っているのだと、一方的にエイネの提案は破棄されてしまいます。
またもや魔族を蔑むような発言を延々とされ続けたエイネは激昂してしまい、あろうことかイーサ龍王を、この世から消滅させてしまいます。この世界に関与する事を避けていた筈が、いつの間にか渦中の中心人物となってしまうのでした。
▼いち魔族の考える統治と支配
そしてアサ編の終盤。龍族と魔人族の戦争は終結しましたが、エイネは理想を現実にするのは、力有る者にとっては可能であるが、それ故に自身の定めた志はいとも容易くその方向性を捻じ曲げて、変貌させてしまうのだと気づいてしまうのでした。
自分程度の力でこれだけの事が出来るのであれば、更に強い自身の主であるソフィという魔族は、如何にして世界を視ているのだろうかと考え始めます。しかしそれを考えた時、エイネは一つの結論を出します。
――『自分は世界を調停する存在ではない』。
自在に世界の道標を決めることは出来るが、それに対しての責任を負うことは出来ない。起こしてしまった現実に後悔をしてもそれに対して出来る事はない。
しかし世界を一方向から多方向へと促す事の出来る存在なのだと悟るのでした。
単に世界の統治をしている者の配下としてではなく、その存在に自分がなった時、どう考えて行動を起こすべきなのか。それをこの世界で経験した事によって、エイネは主であるソフィの思想や行動を強く意識する事となるのでした。
このアサ編の総括となるのですが、一番書きたかった事は、このエイネの考える思想がテーマでした。
『九大魔王』というソフィの魔王軍の最高幹部ではありますが、これまではいち配下として主であるソフィが決めた事に対して、何も疑問を抱かずに、ただ単に従うだけだったエイネでしたが、この世界の経験を伴った事で自分で考えそして、数千年という世界の頂点に立ち続けたソフィという統治者は、一体どういう視点で世界を視てきたのだろうかと、興味を抱き始めました。
今後はこのエイネもまた、自分の主であるソフィの考えを自分事のように考えて、そしてソフィの考える統治を担う為の柱となっていく事でしょう。
▼煌聖の教団と大賢者ミラとの決着
さて、アサ編がエイネの成長と今後の展望の道標だったことに踏まえて、本編ではこの章でのメイン展開である『煌聖の教団』の総帥ミラとの因縁の戦いが行われました。
大賢者ミラはソフィが『プロローグ』で戦った勇者マリスを唆し、別世界へと転移させる為に、根源の玉というマジックアイテムを用いて、リラリオへ飛ばす計画を立てた張本人です。
それだけに留まらず、フルーフの愛娘であるレアや、ユファといった『概念跳躍』を使える者達を狙い、ソフィをアレルバレルの世界へと戻させないようにと何度も襲わせました。
自身が狙われるよりも仲間が狙われる事を何よりも嫌うソフィにとって、何度もレアを襲うように命じたミラや『煌聖の教団』は何よりも赦し難い『敵』です。
これまでミラはソフィを化け物と呼び、直接対決をする事を避けてきましたが『疑似的な永遠の命』と『魔神の技』。そして『時魔法無効化』という三つの力を得た事で、もうソフィと戦っても負けは無いだろうとまで考え始めるのでした。
しかしそれでも万全を期すために、まだ直接対決をするつもりがなかったミラは『煌聖の教団』の全軍を用いて『リラリオ』の世界に居るエルシスと、フルーフの二体を片付けてしまおうと考えます。
大魔王ソフィと戦っても負けは無いかもしれないが、このソフィの元に大魔王フルーフと、大賢者エルシスを一堂に会させる事で非常に厄介な事になると考えたのです。
しかし予想外にエルシスと、その本来の肉体の持ち主であるシスが強く、中々思い通りにいかずに、苦戦を強いられることになるミラでしたが、隙をつく事によって、遂にシスに大ダメージを与える事に成功します。
あと少しでシスを倒す事が出来る状況を作り上げたミラは、逸る気持ちを抑えてトドメをさそうとしますが、そこでこの世界には居ない筈の化け物と、遭遇してしまいました。
―――大魔王『ソフィ』の存在です。
アサの世界からリラリオの世界へ跳び、愛娘レアと再会を果たした後、フルーフはアレルバレルの世界へ向かいました。そしてそこでソフィとも再会を果たしたフルーフの手によって大魔王ソフィは再び、ミラの居るリラリオの世界へと、到達する事が出来たのです。
しかしこの時まだミラは強気でした。
『三色併用』を用いたシスや、あのエルシスを圧倒出来た自分の強さに自信を持った大賢者ミラは、あの化け物であるソフィを相手にしても、何百万、何千万程度の生命のストックを、消費する事にはなろうともいつかは勝てるだろうと考えたのです。
ダールの世界の多くの魂を生贄に、生命ストックを大量に作り出したミラは、まだまだ『疑似的な永遠の命』が残されていました。
その膨大な数は、数百万単位ではきかないほどでした。更にダールの魔神から奪った技である『浄化の光』は、神域魔法や神聖魔法の桁外れな攻撃力を上回る『魔神領域』と呼べる魔法です。
当然、魔神が使っていた技でしたので魔神域魔法なのは当然なのですが、更にダールの世界の魔神の『浄化の光』は、とても強力な部類に入ります。
まさにに神の一撃であるその『浄化の光』は、化け物であるソフィに、直撃する事になりました。
戦力値数百億の大勢の魔族達でさえ、一瞬で骨も残らず浄化される程の魔法です。その魔法がソフィに直撃してミラは勝ち誇ります。
本編では表記をしていませんでしたが、この時のミラの攻撃は、エルシスの数秒程しか持たない『金色』と『青』の二色の併用を纏った状態でさえ、まともに直撃すれば、浄化される程の一撃だったのです。
つまりは人間である筈のミラが放ったこの一撃は、並の『魔神級』の魔族を葬れる程の一撃だったという事です。流石に化け物であるソフィといっても、この一撃には耐えられる筈が無いとミラは確信しました。
満面の笑みを浮かべて勝ち誇るミラでしたが、滅する魔法の光が薄れていき影が見えたかと思えば、直撃した筈のソフィは無傷で立っていたのです。
そして更にミラを絶望のどん底へと落とす言葉をソフィは放ちます。
――『終わりならば殺すぞ』と。
この時のソフィはまだ、力の魔神に預けている力を取り戻していない状況だった為、まだ体は10歳程の少年の姿をしており、全く本気ではない状態です。
このリラリオの世界に居る時、何故か、本来の姿である青年の魔族の姿では無く、力を抑えられた状態になる為、ソフィは本来の実力とは比較にもならない程度でした。
しかしそれでも『魔神級』の魔族を屠る程の一撃を受けて尚、ソフィは無傷だったのです。
その状態であってもミラは、ソフィには勝てなかったでしょう。但し『疑似的な永遠の命』がある為に本編に比べては、少しくらいは延命は出来たかもしれません。
しかし敵を屠る為にソフィの取った行動は、力の魔神に預けている、全ての力の返却要求でした。
力の魔神はソフィの配下となる契約をしてからこれまで、一度たりとも全ての力の返却要求をされた事はありません。
魔神の顔から色が消えて無表情になり、契約者である絶対的強者であるソフィの言葉に素直に頷き、預けられている力の大半を返却します。みるみる内に魔力が高まっていく姿に、焦ったミラは再び本気で『浄化の光』を放ち続けます。
しかし先程のソフィが相手だったときでさえ、無傷だったのです。その先程のソフィの状態でさえ、比較出来ない程の本来の魔力を手にしたソフィを相手に、たかが魔神の『浄化の光』を放ったところでそれが何になるのでしょうか。
もはやオーラさえ纏わずにソフィは、冷酷な視線をミラに浴びせながら、全てを終わらせる魔法を放ちます。
大魔王『ソフィ』の代名詞と呼ばれる魔法『終焉』です。
傍から見れば突然ミラの体が痙攣を起こしたかの如く、それこそ大勢からマシンガンで撃ち続けられているかの如く見えたでしょう。ミラの身体が小刻みに振動を続けます。その一回一回の振動が、ミラから命が奪われていく証なのです。
『終焉』はソフィが願えば願う程、威力の上がる魔法ですが、この時に放たれた『終焉』によって、ミラは『疑似的な永遠の命』をわずかな時間に全て奪われて行きました。
この時のソフィの『終焉』であれば、たとえミラの生命のストックが、那由多の数を越えていようとも、その全ての生命を奪い続けたでしょう。それだけソフィのお前を殺すという感情がこもっていたのですから。
これもまた本編では表記していない事ですが、先程のミラの『浄化の光』が『魔神領域』に到達している魔法だったとするならば、当然この『終焉』もまた『魔神領域』に、到達している事は間違いありません。それも『浄化の光』などとは、殺傷力が違いすぎて比較にもならないでしょう。
仲間に手を出すという事は、相手が不死であろうとなかろうと、ソフィには関係がありません。
過去には不死である、力の魔神が何度も何度も殺し尽くされて、逆らう気概を全て奪われて、ソフィの強さに魅了されて配下にして欲しいと、頼み込んだ程なのです。
当然ソフィの仲間に危害を加えるというのであれば、ソフィが納得するまで殺戮が続けられる事は、覚悟しなければならないでしょう。
たかが不死と魔神の力の一端を手にしただけで大魔王ソフィに勝てると思い込んだ、大賢者は長きに渡って延命してきたその命に終わりを告げました。
▼ミラの身体
さて『煌聖の教団』と大賢者ミラとの決着をつけたソフィでしたが、周囲に現れた魑魅魍魎達に喰われて終わったと判断し、結末を見ずにその場から離れました。
しかし実はこの時『隠幕』を使って隠れてみていたある魔族が、ソフィの去った直後に絶命しているミラの身体に駆け寄り、周囲の魑魅魍魎達を消し飛ばしながらミラの身体を奪い取ります。
さて、これを行った魔族とは、一体何者なのでしょうか――?
……
……
……
第九章の補足と訂正は以上になります。皆様お久しぶりです。作者の『羽海汐遠』です。
もう本当に章が進む毎に次々と長くなっていっているように思います。実際に長くなっているのですが、それでも今回は度が過ぎましたね。九章は167話程あったようです。多分最長です。
しかし今回は明確にその理由があります。それは二つの重要な話を、一つの章で同時並行しようと考えた為です。
本当は今回をアサの世界編として、魔神の技を手にしたミラから脱出するフルーフまでを本編にして、そこからはアサの世界編で完結させようとしたのですが、流石にそれだとシスの覚醒や、レアとフルーフの再会等を考慮した場合、十章でも収まりがつかずに、ミラとの決着はさらに遠のいていきそうだと判断した為、九章で二つの展開を纏めるに至りました。
補足と訂正の方でも記載しましたが、アサ編はソフィの統治に関して、何も疑いを抱かずに主に従ってきた一体の魔族の配下が、自分で物事を考えて行動をし、そこでどういった結末を迎えるかを経験させておこうと考えた結果生み出された話です。
他者よりも強い力を持っていれば、自由自在に世界を動かす事は可能ですが、それ故に考えて行動を起こさなければ、あっさりと世界は崩壊してしまいます。
支配は力がある者であれば誰でも出来ますが、支配した後の世界を維持し統治する事の難しさ、それは単にエイネという『九大魔王』の力を持つエイネであっても世界を調停していく事は、不可能だという考えに至りました。
では、このアサの世界よりも複雑でより強い者達が集う『アレルバレル』の世界で数千年。統治を目指して行ってきた彼女の主は、一体どのような事を考えていたのだろう。それをエイネは今後考えるきっかけとなりました。
これまでとは違い、今後はソフィの行う世界の統治について、エイネも意識するようになり、これからはまたこれまでとは違った形でエイネはソフィの助けになる事でしょう。
そして図らずもソフィは、そんな貴重な配下を一体得たという事になります。今後の話の展開でエイネとの会話になった時に、今回の話を少し思い出して頂ければ幸いです。
九章ではリアルの私が少し大きな手術をして入院していた為、毎日投稿は出来ませんでしたが、今後も出来るだけ毎日投稿を意識して行っていきたいと思います。
まだまだ書き足りない事も多く、もっと書き続けていたい欲が再燃してしまいましたので。笑。
さて、次回から十章に入ります。
最後のミラの身体を奪った魔族はもう誰かというのはここまで見て頂いた方々ならば、誰か分かるとは思いますが、再び彼が登場する事になる予定です。
あくまで予定なので、また私の描きたい内容が上書きされてしまえばまた違った展開になるかもしれません。笑。
それでは第九章のあとがきはここまでにしたいと思います。
SNSや各サイトでの感想。誤字脱字報告をしていただいた方々、ありがとうございます!
また次回、第十章のあとがきでお会い出来る事を楽しみにしています! ここまで見て頂き、ありがとうございました。
作者:羽海汐遠。
第九章は過去最長の章となりました。
一章の中で100話越えすら初かもしれませんが、なんと九章は160話を越えてしまいました。
しかしこの章はこの物語の根幹部分であり、大変必要な章でしたので、それも仕方がありませんでした。
それでは今回も九章の始まりから、補足していきましょう。
▼九章は『煌聖の教団』の総帥であるミラの独白から始まりました。この章の幕間のタイトルは『ミラの悪夢』。
そのタイトルの言葉通りにミラがアレルバレルの世界で数千年ぶりに、エルシスの姿を見たと同時、彼の憧れであるエルシスと戦って、敗北をした時の事が夢に出てきたところから始まります。
彼は既にエルシスを越えているとばかりに思っていた為、あの敗北は彼に悪夢をみさせる程に影響を与えました。
それと同時に自分の理想の『魔』の体現者と思っていたエルシスは間違いなかったと、再確認出来た日でもあった為、実際は決して悪い事ばかりでも無かったかもしれませんが。そしてその事が気分を新たにさせる要因ともなり得ました。
大魔王ソフィを倒す為には、今のままではどう足掻いても勝てないと再確認し、もう一つのプランである『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を手に入れる為に、計画を前倒しする事となりました。
本来であればソフィをリラリオの世界へ跳ばす事さえ出来れば、計画は成功とされていました。そしてこの計画は、これから数千年後に行う計画だったのです。
しかしソフィがアレルバレルの世界に戻ってきた以上、そのソフィを倒して自分がアレルバレルの王となる為には『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』が必要となると理解させられたのです。
そして同盟を結んでいる大魔王ヌーと協力し、ダールの世界へと渡り歩いて行く事になります。
更にこの計画にはこれまで各章で名前だけはよく出てくる人物であった、大魔王フルーフが遂に捕らえられていた理由が明らかになります。
『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を手に入れる為に必要な事は、ダールの世界の危機を魔神達に認識させる事でした。
その為にミラは、その世界に生きる多くの者達の命を奪う必要がありました。しかしミラが襲ってしまえば、世界の危機を引き起こした存在として、ミラが魔神に殺されてしまう事になる為、彼は『煌聖の教団』の配下の信者に、この役目を押し付けました。
厳密には彼が襲わせたのではなく『煌聖の教団』の司令官であるルビリスが、そう指示をしたワケです。
『煌聖の教団』に属する者達は、全員が妄信的にミラを神と信じ込み崇拝している為、神の存在であるミラの役に立つのならばと、喜んで死を受け入れます。
『煌聖の教団』総帥であるミラの恐ろしいところは、アレルバレルの世界に生きる、他世界より強い者が多い筈の膨大な数の魔族達を洗脳して従わせ続けられた事でしょう。
彼のカリスマ性はとても恐ろしく、戦力値が500億を越えるような大魔王達に操る事を一切せずに自我を保ったままで、あっさりと自害させる程でした。
『煌聖の教団』を束ねる総帥。大賢者ミラは人間にして、大魔王ソフィとは似ても似つかぬ世界の支配をやり遂げる、可能性があった人間というわけです。
それはつまり大魔王ソフィという、存在が居ない時代であれば『アレルバレル』の支配者は大賢者『ミラ』の世界だった可能性もあります。
そんな彼は当初の計画通り、魔神を出現させる事に成功します。そしてこの魔神の出現に必要な多くの命を奪い、世界の危機を魔神達に、認識させる為に必要な行いで、彼のもう一つの計画であった『疑似的な永遠の命』を手にする方法が隠されていました。
――それは、彼の編み出した新魔法『仮初需生』でした。
(※『仮初需生』は他者の魂を生贄にし、仮初の命を創り出す禁忌の魔法です)。
人間の身でありながら、まさに神への挑戦というべき、この魔法を編み出した彼は、世界の危機を引き起こす為に、ダールの世界を死地へと変えた挙句、ダールの世界に生きる者達の魂を奪い、自分の疑似的な生命のストックへと作り替えます。
これにより数えきれない程の生命のストックを手にしたミラは、一つ目の計画の達成を大いに喜びました。そして多くの魂を入手した挙句に、当初の目的通りに魔神を出現させる事に成功します。
ここで次の計画に移り、現れた魔神からその神の技法を奪う事に着手していきます。
この時に必要な事は、世界の危機を引き起こした者を自分以外に仕向ける事だった為『|煌聖の教団《こうせいきょうだん』の信者にその役目を担わせた事で、第一段階は成功と言えたでしょう。
そして計画は第二段階に移っていく訳ですが、ここで必要な事は魔神の攻撃をその目に焼き付ける時間です。この役目は同盟を結んでいるヌーに、ミラはその役目を担わせました。
――まさにミラの読み通りに、計画は進んでいきます。
これで魔神の技を会得する為の時間を確保する事が出来た為、第三段階に計画は移す事が、可能となりました。次に必要なのが、大魔王フルーフの存在です。そしてこの時の為にミラは、フルーフを数千年前に洗脳して拉致したのです。
大魔王フルーフは新たな魔法を編み出す天才です。大賢者ミラは、フルーフがその『魔』の天才であり、大賢者エルシスに勝るとも劣らない素質・素養を即座に見抜いて洗脳を施して身柄を奪いました。
――全てはこの時の為です。
『アレルバレル』の世界からソフィを追い出す事に失敗した場合のセカンダリの計画。
正に今のこの状況で、魔神の技を『発動羅列』させる『新魔法』をフルーフに編み出させて、計画通りに魔神から『高密度エネルギー波』と『浄化の光』の二種類の魔神の技を魔法化にする事に成功します。
この魔神の技を魔法化する為には、その魔法を発動する為に必要な発動羅列化が、最重要の懸念材料でしたが、その問題は大魔王フルーフの新魔法によって解決する事が出来て、新たに生み出された魔法の『発動羅列』は、ミラの発動羅列を読み解く特異を使う事で、魔神の『高密度エネルギー波』と『浄化の光』を魔法化する事に成功します。
ここで重要な事は、安易に魔神の技を魔法化させる事では無く、発動羅列化させる事にありました。
それは何故なら、大魔王ヌーの存在があったからです。今は同盟を結んでいる間柄ですが、大魔王ヌーは配下ではありません。
この魔神の使う技を魔法化してしまうと、いつかミラを裏切ったときに、ヌーがこの『浄化の光』などの魔法を身につけて、ミラ達に災いを及ぼすかもしれないと、ミラは考えたのです。
しかしその懸念は『魔神』の技を発動羅列化させる事で解決します。
何故なら発動羅列であれば、表記させたときにヌーに盗み見られたとしても、彼は発動羅列を読み解く特異もその他一切の方法がない為です。
――更に偶然の副産物と呼べるもう一つの幸運がミラの手に渡ります。
それは『時魔法無効化』の会得です。
この三つ目の技は、先の二つの魔法に勝るとも劣らない重要な技となります。
そして後処理も念入りに行われました。世界の危機を引き起こした配下の信者を魔神に処理させる事で、全てが計画通りに終わりました。
まさに数千年に渡って考えに考えを重ねて、完成されたミラの計画は、全てが実を結んで彼に『疑似的な永遠の命』と『魔神の力』を会得させました。完全にミラの思い通りに計画は成ったというワケです。
全ての計画が完了し、ミラ達は『アレルバレル』の世界に戻ろうとしますが、ここでイレギュラーが起きました。
なんとこれまで数千年間洗脳が解けなかった筈の大魔王フルーフが、意識を取り戻そうとし始めたのです。
これはミラにとっても予想外な出来事でありました。そしてその所為で、計画に支障をきたし始めるのですが、魔神の力と疑似的な永遠の命を手にした事によって、この時のミラはあまり気にしませんでした。大きなリターンを手にしたのだから、少しのリスクは無ければおかしいとさえ彼は考えたのです。
――しかし彼の目論見は甘かったと、言わざるを得ないでしょう。
この大魔王フルーフは、あの大魔王ソフィが認めた友人にして『レパート』という『魔』に卓越した世界の魔族達を束ねる頂点に座する大魔王だったのですから。
そしてここからイザベラ城に幽閉される事となった、フルーフの脱出劇が始まります。目を覚まして曖昧ながらに記憶を取り戻したフルーフは、ダールの世界の元支配者であるイザベラの城に幽閉されました。
地下牢で目を覚ましたフルーフには、神聖魔法が施された枷をつけられていました。
この神聖魔法は、大賢者エルシスが編み出した魔法で『聖動捕縛』が付加されていました。
『聖動捕縛』は魔族に対して効果が増幅される特効の効力があります。その為、発動羅列を読み解けない上に、長い間意識がなかったフルーフにとって、この神聖魔法は新魔法である為、見た事も聞いた事もないものでありました。
見たことも無い新魔法に加えて、その効力が魔族を縛る事に特化した特効である以上、この枷を外して城を脱出する事など、どう考えても不可能だと普通ならば考えるでしょう。
しかしこのフルーフという魔族は、この状況下に置かれて、いつ処刑されてしまうかもわからないという状態で、新しい魔法の存在に目を輝かせて、ウキウキしながら解除をしようとします。
――『魔』に魅了された魔族は、誰もがやはりどこかが狂っているのでしょうか。
そして最初にフルーフが着手したのは、この神聖魔法の『発動羅列』の文字の配列と形でした。
発動羅列そのものをミラやエルシス達のように読み解けない彼は、この発動羅列の文字の配列と形を一文字、一文字”を記憶する事から始めようとします。
そこで役に立ったのが、強引にフルーフが編み出させられた『発動羅列』を表記させて『羅列化』させる新魔法です。
本来この魔法はミラが魔神の技を奪う為に編み出させられた魔法だったのですが、この強引に編み出させられた魔法によって、フルーフをこの危機的な状況から、脱出させる事に相成ったわけでございます。
しかしそれでもこの状況を打破するのは、雲を掴むような難易度でした。
それもその筈。この魔法を使う為には『金色の目』と『発動羅列化』の魔法を同時に使わなければならず、使おうとすると『聖動捕縛』が付加されている枷の効力が発動されて、フルーフの魔法を無効化させられてしまうからです。
魔瞳『金色の目』と『羅列化』の魔法を使う一回の猶予は、凡そ一秒程。
その一秒間で、羅列化させた文字の配列と形を頭に記憶していかないといけないのです。
発動羅列の文字が読めない以上、そのまま記憶していかなければならないのですが、その記憶がもしどこかで間違えていたならば、全てやり直しとなるわけです。
もし間違って覚えてしまったならば、どこを間違えているのかを一文字一文字、再び文字の配列と形を覚え直さないといけないのです。
それも発動できる時間は一秒しか猶予がない為、魔力を無駄に浪費させられながらどこが違うのかを一から洗い直すという苦行が起こり得るわけです。
更には全てが正しく文字の配列と形が記憶されたとしても、文字の配列だけでどの文字の部分が魔族に対して影響を及ぼすかを見極める必要があるのです。そして効力を理解出来たからといって、それで終わりではありません。そこから神聖魔法の『聖動捕縛』の解除の方法を考えないといけないワケです。発動羅列を読み解けたからといって、その神聖魔法を縛られている状態で解除するのに必要な『魔力』と『知識』を持っていなければ結局は元の木阿弥なのですから。
そしていつミラやヌーが、フルーフの様子を見に来るかもわからない状況なのです。そんな状況で『聖動捕縛』の解除を試みるフルーフ。
まさに絶望的な状況下の中で、フルーフは神聖魔法の解除を行い続けます。普通であれば泣きたくなるような状況に置いて、この作業を彼は満面の笑みで行い続けます。
彼の大好きな『魔』。それも見た事も聞いた事もない新魔法の解析です。最高の気分でワクワクしながら『聖動捕縛』を解除していきます。狂っていますね。
しかしウキウキ気分で神聖魔法の解析と解除を試みていく中で、フルーフはその満面の笑みが崩れて、無表情になっていきます。何故ならそんなフルーフから見て『聖動捕縛』には多くの選ぶ羅列基準に無駄が見られたからです。
確かにこのままでも魔族を縛る魔法の効力発動は、発揮可能なのですが、フルーフには理解が出来ない、発動羅列の組み立て方が多く見受けられており、もっと違う羅列を組み込むことで発動が、簡単に行える筈だと確信したのです。
どうしてここまで表現力がある者が、そういう発動羅列の繋げ方をするのかと、この魔法を創ったエルシスに不満を持ち始めてしまったのです。
(※この瞬間に至っては、エルシスより長く生きてきたフルーフの方が『魔』の研鑽の質が上だったという証明となります)。
この雲を掴むような難易度の中で、行われる解析と解除の間で、彼は新たにこの神聖魔法をベースにした別の神聖魔法を生み出します。
彼にとってはこの『聖動捕縛』には納得がいかず、もっと最適化された魔法になると判断した為であります。
本来、一刻も早く枷を解いて脱出をしなければらないという状況であるにも拘らず、彼はこの神聖魔法の更なる可能性を追求し始めたのです。
ここまでくるともう、彼は何がしたいのか分かりません。
自分の死すら新たな『魔』の発見の為には、比較に値しないという事なのかもしれません。そして遂にフルーフは僅かな時間の間に、エルシスの編み出した神聖魔法『聖動捕縛』の全ての効力を理解し、更にはその『聖動捕縛』の解除方法だけでは無く、この魔法よりも更に効果範囲の拡大、効果の増幅の再現をする新魔法を生み出す事に成功します。
これ以後、魔族を縛る『聖動捕縛』は、フルーフにとっては何の障害にはなりません。
―――フルーフにとって『聖動捕縛』は過去の魔法となりました。
あっさりと枷を外し終えたフルーフは、そのまま『聖動捕縛』の効力のある地下牢の扉をあっさりと解除し堂々と外に出るのでした。
▼フルーフと契約を行った神
さて、無事にエルシスの神聖魔法『聖動捕縛』の解析と解除を果たしたフルーフは、無事に地下牢から脱出を果たしました。
イザベラ城の地下から地上を目指して、堂々と歩いていくフルーフでしたが、もうすぐ地上という所で、気になる場所を城の中で見つけます。
その気になる場所には、多くのマジックアイテムが積み上げられていました。
元々イザベラがこの世界で収集していたアイテムや、ヌーやミラが教団の配下を使って集めたモノをこの場所に保管していたようです。
フルーフは『魔』に関する物であれば、魔法だけでは無く、マジックアイテムにも興味を持っています。どうやらフルーフが気に入った、マジックアイテムも複数あったようで、せっかく苦労をして牢を脱出したというのに、様子を見に行こうとしたヌー達に、脱獄した事がばれてしまいます。
結局フルーフは見つかってしまい、そのままヌー達と戦闘をする事となりました。
意識を取り戻しただけでも驚く事だというのに、どう考えても脱出が出来ない筈のフルーフが、普通に地下牢を抜けて、堂々とアイテムを物色していた事に、驚きを隠し切れないヌーとミラ。
しかし一度は捕縛する事に成功した魔族である為、彼らはフルーフを甘く見ていました。今回もあっさりと捕まえられるだろうと。
――だが、その二人の考えはあっさりと覆されます。
大魔王領域の最上位に居るフルーフは、金色のオーラを纏い戦いを選択します。
ヌーはあっさりと勝負を決めるつもりで戦おうとしますが、数千年前に戦った時には、使わなかったとある呪文をフルーフが使います。
――それが『死司降臨』という契約の呪文です。
この呪文で使役された死神は『死神皇』と呼ばれており、その名の通り死神を束ねる王です。
別の者と契約を結んだ上で使役させられている死神を除き、死神貴族といった上位死神を含めた『全死神』を従える存在であり、当然不死です。
死神貴族以上の『神位』を持つ死神特有の能力を持っており、その能力は黒いモヤを出現させて、対象者の命を奪う事が出来ます。
フルーフと戦った耐魔を誇る大賢者ミラでさえ『死神皇』の能力で一撃で絶命させられました。しかし『疑似的な永遠の命』を持つミラは、直ぐに蘇生をさせられてしまいます。
フルーフの目的は愛娘であるレアに会う事であった為、ミラと決着をつけずにそのまま『概念跳躍』を使ってその場から離脱しましたが、あのまま戦っていた場合、生命のストックがある限り何度も蘇るミラを前に、既に多くの魔力を消費していたフルーフは、魔力がそのまま枯渇して敗れてしまっていたでしょう。
しかしそう言った特殊な相手でない限りは、死神皇と契約を結んでいる時点で、フルーフは戦闘に於いて、かなり猛者の部類に入る事でしょう。
▼レアとの再会
リラリオの世界でようやくフルーフは、レアと再会する事が出来ました。
そして親に捨てられた事で、一度も親に褒められた事のないレアが、遂に再会したフルーフによくやったと褒められました。
数千年間という長い間、離れ離れになっていた親子がようやく再会出来たのです。
レアはようやく願望が叶い、親に褒められるという経験を得られて、もう死んでもいいと思えるほどに歓喜します。
そしてフルーフもまた、レアに友達と呼べる存在が出来ていた事を喜び、成長した娘をその目に焼き付ける事が出来て、幸福感を得る事が出来ました。
大魔王フルーフは自身の友人であるソフィが、レアと偶然知り合っていた事に驚きましたが、そのレアとの戦いの経験を経て、しっかりとレアを保護してくれていた事を知り、フルーフはソフィに対して、大きな借りが出来たと内心で思っています。
今後何かあれば、フルーフは彼の持つ力全てを以て大魔王ソフィの助けになる事でしょう。
▼『アサ』という世界
この世界は『アレルバレル』や『レパート』そして『ダール』といった世界とは違い、魔族が他種族よりも力が劣っている世界です。
魔族の平均的な戦力値は150万~200万程であり、過去に魔人族に滅ぼされた魔族の王でさえ、その戦力値は1000万程でした。
この世界に跳ばされたフルーフは、ソフィの配下であるエイネと合流する事になります。エイネはリーシャを守る為に『煌聖の教団』の幹部の手によって、この世界に跳ばされていました。
当然エイネ程の力があれば、あっさりとこの世界を支配出来る程の力を持っていましたが、エイネはこの世界の情勢を知った事で、目立つ事を避ける為『金色の目』を使って、魔人族の軍に潜伏して元の世界へ帰る方法を考えていましたが、そこで『概念跳躍』を使って、アサの世界へと跳んできたフルーフと再会し、事情を聞いた上でフルーフの魔力が戻り次第、アレルバレルの世界へと送ってもらう事になりました。
しかしタイミングが悪く、フルーフの魔力が戻る前に、エイネ達魔族が居る基地にイルベキアの龍族が攻め込んできます。
もうすぐこの世界から離れるエイネ達には、関わるつもりは無かったのですが、同胞であるこの世界の魔族が攻撃されそうになっているのを見て、エイネは仕方なく同胞を守る為に、攻めてきた龍族に攻撃を仕掛けます。
しかしこの時の事が原因で、魔人族のカストロL・K地域の指揮官を任せている『バルザー・レドニック』という魔人族がエイネの元へ訪ねてきます。
当初は龍族が攻めてきたときに基地と魔族を捨て駒にして去ろうと考えていた『バルザー』でしたが、攻めてきた龍族を何らかの方法で片づけたエイネに、何があったのかを聞き、そしてエイネが使えるようであれば盾にしようと目論みます。
この世界の魔族は、魔人族に隷属させられている為、バルザーはエイネに対しても、横柄な態度で絡んできます。
そしてエイネが龍族と戦った事を誤魔化そうとしましたが、結局バレてしまいます。
しかしその時にバルザーも魔族達から助けて欲しいという連絡が行っていたにも拘らず、バルザーはその言葉を無視して、龍族達から自分だけ逃げようとしていた事が明るみになり、最後はエイネに対して逆切れをするという展開になりましたが、そこで龍族を撃退出来たのはエイネが何かをしたか、もしくは指示を出したのだと告げて、そうでないなら魔族如きの雑魚が、龍族に適う筈がないと暴論を口にします。
エイネという存在は、同胞を蔑む事を一番嫌う魔族でした。結局は荒波を立てずに事を無かった事にしようとしていたエイネでしたが、魔族を馬鹿にしたバルザー達に手を出して、表舞台に出てしまう事になりました。
▼理想と現実
結局エイネはこの世界では出来るだけ、関わらずにいようと考えていたにも拘らず、魔人族に隷属させられていた魔族達を保護する為に、魔人族の王と話をします。
話し合いの末にエイネは自身の強さを誇示する事で、魔人族から魔族を保護する約束を取り付けますが、現在は龍族と魔人族の戦争中の為、今度は龍族の大陸に出向き、魔人族と龍族の戦争は勝手にすればいいが、魔族に手を出す事は止めろと、龍族の王に伝えに行こうとします。しかし当然の事ながら、龍族を束ねるスベイキアの国王イーサ龍王は、魔族如きが何を言っているのだと、一方的にエイネの提案は破棄されてしまいます。
またもや魔族を蔑むような発言を延々とされ続けたエイネは激昂してしまい、あろうことかイーサ龍王を、この世から消滅させてしまいます。この世界に関与する事を避けていた筈が、いつの間にか渦中の中心人物となってしまうのでした。
▼いち魔族の考える統治と支配
そしてアサ編の終盤。龍族と魔人族の戦争は終結しましたが、エイネは理想を現実にするのは、力有る者にとっては可能であるが、それ故に自身の定めた志はいとも容易くその方向性を捻じ曲げて、変貌させてしまうのだと気づいてしまうのでした。
自分程度の力でこれだけの事が出来るのであれば、更に強い自身の主であるソフィという魔族は、如何にして世界を視ているのだろうかと考え始めます。しかしそれを考えた時、エイネは一つの結論を出します。
――『自分は世界を調停する存在ではない』。
自在に世界の道標を決めることは出来るが、それに対しての責任を負うことは出来ない。起こしてしまった現実に後悔をしてもそれに対して出来る事はない。
しかし世界を一方向から多方向へと促す事の出来る存在なのだと悟るのでした。
単に世界の統治をしている者の配下としてではなく、その存在に自分がなった時、どう考えて行動を起こすべきなのか。それをこの世界で経験した事によって、エイネは主であるソフィの思想や行動を強く意識する事となるのでした。
このアサ編の総括となるのですが、一番書きたかった事は、このエイネの考える思想がテーマでした。
『九大魔王』というソフィの魔王軍の最高幹部ではありますが、これまではいち配下として主であるソフィが決めた事に対して、何も疑問を抱かずに、ただ単に従うだけだったエイネでしたが、この世界の経験を伴った事で自分で考えそして、数千年という世界の頂点に立ち続けたソフィという統治者は、一体どういう視点で世界を視てきたのだろうかと、興味を抱き始めました。
今後はこのエイネもまた、自分の主であるソフィの考えを自分事のように考えて、そしてソフィの考える統治を担う為の柱となっていく事でしょう。
▼煌聖の教団と大賢者ミラとの決着
さて、アサ編がエイネの成長と今後の展望の道標だったことに踏まえて、本編ではこの章でのメイン展開である『煌聖の教団』の総帥ミラとの因縁の戦いが行われました。
大賢者ミラはソフィが『プロローグ』で戦った勇者マリスを唆し、別世界へと転移させる為に、根源の玉というマジックアイテムを用いて、リラリオへ飛ばす計画を立てた張本人です。
それだけに留まらず、フルーフの愛娘であるレアや、ユファといった『概念跳躍』を使える者達を狙い、ソフィをアレルバレルの世界へと戻させないようにと何度も襲わせました。
自身が狙われるよりも仲間が狙われる事を何よりも嫌うソフィにとって、何度もレアを襲うように命じたミラや『煌聖の教団』は何よりも赦し難い『敵』です。
これまでミラはソフィを化け物と呼び、直接対決をする事を避けてきましたが『疑似的な永遠の命』と『魔神の技』。そして『時魔法無効化』という三つの力を得た事で、もうソフィと戦っても負けは無いだろうとまで考え始めるのでした。
しかしそれでも万全を期すために、まだ直接対決をするつもりがなかったミラは『煌聖の教団』の全軍を用いて『リラリオ』の世界に居るエルシスと、フルーフの二体を片付けてしまおうと考えます。
大魔王ソフィと戦っても負けは無いかもしれないが、このソフィの元に大魔王フルーフと、大賢者エルシスを一堂に会させる事で非常に厄介な事になると考えたのです。
しかし予想外にエルシスと、その本来の肉体の持ち主であるシスが強く、中々思い通りにいかずに、苦戦を強いられることになるミラでしたが、隙をつく事によって、遂にシスに大ダメージを与える事に成功します。
あと少しでシスを倒す事が出来る状況を作り上げたミラは、逸る気持ちを抑えてトドメをさそうとしますが、そこでこの世界には居ない筈の化け物と、遭遇してしまいました。
―――大魔王『ソフィ』の存在です。
アサの世界からリラリオの世界へ跳び、愛娘レアと再会を果たした後、フルーフはアレルバレルの世界へ向かいました。そしてそこでソフィとも再会を果たしたフルーフの手によって大魔王ソフィは再び、ミラの居るリラリオの世界へと、到達する事が出来たのです。
しかしこの時まだミラは強気でした。
『三色併用』を用いたシスや、あのエルシスを圧倒出来た自分の強さに自信を持った大賢者ミラは、あの化け物であるソフィを相手にしても、何百万、何千万程度の生命のストックを、消費する事にはなろうともいつかは勝てるだろうと考えたのです。
ダールの世界の多くの魂を生贄に、生命ストックを大量に作り出したミラは、まだまだ『疑似的な永遠の命』が残されていました。
その膨大な数は、数百万単位ではきかないほどでした。更にダールの魔神から奪った技である『浄化の光』は、神域魔法や神聖魔法の桁外れな攻撃力を上回る『魔神領域』と呼べる魔法です。
当然、魔神が使っていた技でしたので魔神域魔法なのは当然なのですが、更にダールの世界の魔神の『浄化の光』は、とても強力な部類に入ります。
まさにに神の一撃であるその『浄化の光』は、化け物であるソフィに、直撃する事になりました。
戦力値数百億の大勢の魔族達でさえ、一瞬で骨も残らず浄化される程の魔法です。その魔法がソフィに直撃してミラは勝ち誇ります。
本編では表記をしていませんでしたが、この時のミラの攻撃は、エルシスの数秒程しか持たない『金色』と『青』の二色の併用を纏った状態でさえ、まともに直撃すれば、浄化される程の一撃だったのです。
つまりは人間である筈のミラが放ったこの一撃は、並の『魔神級』の魔族を葬れる程の一撃だったという事です。流石に化け物であるソフィといっても、この一撃には耐えられる筈が無いとミラは確信しました。
満面の笑みを浮かべて勝ち誇るミラでしたが、滅する魔法の光が薄れていき影が見えたかと思えば、直撃した筈のソフィは無傷で立っていたのです。
そして更にミラを絶望のどん底へと落とす言葉をソフィは放ちます。
――『終わりならば殺すぞ』と。
この時のソフィはまだ、力の魔神に預けている力を取り戻していない状況だった為、まだ体は10歳程の少年の姿をしており、全く本気ではない状態です。
このリラリオの世界に居る時、何故か、本来の姿である青年の魔族の姿では無く、力を抑えられた状態になる為、ソフィは本来の実力とは比較にもならない程度でした。
しかしそれでも『魔神級』の魔族を屠る程の一撃を受けて尚、ソフィは無傷だったのです。
その状態であってもミラは、ソフィには勝てなかったでしょう。但し『疑似的な永遠の命』がある為に本編に比べては、少しくらいは延命は出来たかもしれません。
しかし敵を屠る為にソフィの取った行動は、力の魔神に預けている、全ての力の返却要求でした。
力の魔神はソフィの配下となる契約をしてからこれまで、一度たりとも全ての力の返却要求をされた事はありません。
魔神の顔から色が消えて無表情になり、契約者である絶対的強者であるソフィの言葉に素直に頷き、預けられている力の大半を返却します。みるみる内に魔力が高まっていく姿に、焦ったミラは再び本気で『浄化の光』を放ち続けます。
しかし先程のソフィが相手だったときでさえ、無傷だったのです。その先程のソフィの状態でさえ、比較出来ない程の本来の魔力を手にしたソフィを相手に、たかが魔神の『浄化の光』を放ったところでそれが何になるのでしょうか。
もはやオーラさえ纏わずにソフィは、冷酷な視線をミラに浴びせながら、全てを終わらせる魔法を放ちます。
大魔王『ソフィ』の代名詞と呼ばれる魔法『終焉』です。
傍から見れば突然ミラの体が痙攣を起こしたかの如く、それこそ大勢からマシンガンで撃ち続けられているかの如く見えたでしょう。ミラの身体が小刻みに振動を続けます。その一回一回の振動が、ミラから命が奪われていく証なのです。
『終焉』はソフィが願えば願う程、威力の上がる魔法ですが、この時に放たれた『終焉』によって、ミラは『疑似的な永遠の命』をわずかな時間に全て奪われて行きました。
この時のソフィの『終焉』であれば、たとえミラの生命のストックが、那由多の数を越えていようとも、その全ての生命を奪い続けたでしょう。それだけソフィのお前を殺すという感情がこもっていたのですから。
これもまた本編では表記していない事ですが、先程のミラの『浄化の光』が『魔神領域』に到達している魔法だったとするならば、当然この『終焉』もまた『魔神領域』に、到達している事は間違いありません。それも『浄化の光』などとは、殺傷力が違いすぎて比較にもならないでしょう。
仲間に手を出すという事は、相手が不死であろうとなかろうと、ソフィには関係がありません。
過去には不死である、力の魔神が何度も何度も殺し尽くされて、逆らう気概を全て奪われて、ソフィの強さに魅了されて配下にして欲しいと、頼み込んだ程なのです。
当然ソフィの仲間に危害を加えるというのであれば、ソフィが納得するまで殺戮が続けられる事は、覚悟しなければならないでしょう。
たかが不死と魔神の力の一端を手にしただけで大魔王ソフィに勝てると思い込んだ、大賢者は長きに渡って延命してきたその命に終わりを告げました。
▼ミラの身体
さて『煌聖の教団』と大賢者ミラとの決着をつけたソフィでしたが、周囲に現れた魑魅魍魎達に喰われて終わったと判断し、結末を見ずにその場から離れました。
しかし実はこの時『隠幕』を使って隠れてみていたある魔族が、ソフィの去った直後に絶命しているミラの身体に駆け寄り、周囲の魑魅魍魎達を消し飛ばしながらミラの身体を奪い取ります。
さて、これを行った魔族とは、一体何者なのでしょうか――?
……
……
……
第九章の補足と訂正は以上になります。皆様お久しぶりです。作者の『羽海汐遠』です。
もう本当に章が進む毎に次々と長くなっていっているように思います。実際に長くなっているのですが、それでも今回は度が過ぎましたね。九章は167話程あったようです。多分最長です。
しかし今回は明確にその理由があります。それは二つの重要な話を、一つの章で同時並行しようと考えた為です。
本当は今回をアサの世界編として、魔神の技を手にしたミラから脱出するフルーフまでを本編にして、そこからはアサの世界編で完結させようとしたのですが、流石にそれだとシスの覚醒や、レアとフルーフの再会等を考慮した場合、十章でも収まりがつかずに、ミラとの決着はさらに遠のいていきそうだと判断した為、九章で二つの展開を纏めるに至りました。
補足と訂正の方でも記載しましたが、アサ編はソフィの統治に関して、何も疑いを抱かずに主に従ってきた一体の魔族の配下が、自分で物事を考えて行動をし、そこでどういった結末を迎えるかを経験させておこうと考えた結果生み出された話です。
他者よりも強い力を持っていれば、自由自在に世界を動かす事は可能ですが、それ故に考えて行動を起こさなければ、あっさりと世界は崩壊してしまいます。
支配は力がある者であれば誰でも出来ますが、支配した後の世界を維持し統治する事の難しさ、それは単にエイネという『九大魔王』の力を持つエイネであっても世界を調停していく事は、不可能だという考えに至りました。
では、このアサの世界よりも複雑でより強い者達が集う『アレルバレル』の世界で数千年。統治を目指して行ってきた彼女の主は、一体どのような事を考えていたのだろう。それをエイネは今後考えるきっかけとなりました。
これまでとは違い、今後はソフィの行う世界の統治について、エイネも意識するようになり、これからはまたこれまでとは違った形でエイネはソフィの助けになる事でしょう。
そして図らずもソフィは、そんな貴重な配下を一体得たという事になります。今後の話の展開でエイネとの会話になった時に、今回の話を少し思い出して頂ければ幸いです。
九章ではリアルの私が少し大きな手術をして入院していた為、毎日投稿は出来ませんでしたが、今後も出来るだけ毎日投稿を意識して行っていきたいと思います。
まだまだ書き足りない事も多く、もっと書き続けていたい欲が再燃してしまいましたので。笑。
さて、次回から十章に入ります。
最後のミラの身体を奪った魔族はもう誰かというのはここまで見て頂いた方々ならば、誰か分かるとは思いますが、再び彼が登場する事になる予定です。
あくまで予定なので、また私の描きたい内容が上書きされてしまえばまた違った展開になるかもしれません。笑。
それでは第九章のあとがきはここまでにしたいと思います。
SNSや各サイトでの感想。誤字脱字報告をしていただいた方々、ありがとうございます!
また次回、第十章のあとがきでお会い出来る事を楽しみにしています! ここまで見て頂き、ありがとうございました。
作者:羽海汐遠。
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