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天才同士は惹かれ合う編
719.大魔王が与える圧
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「エイネ様。この方は一体……」
フィリーは突然現れたフルーフと親し気に話すエイネに尋ねると、エイネはフルーフの紹介を始めた。
「この方は私が仕える主と御友人の方で、とある世界の頂点に立たれている、大魔王フルーフ様よ」
「大魔王フルーフ様……」
ミデェールはフルーフの顔を見ながら、呆けた様子で名前を確かめていた。彼は金色を体現しているとはいっても、最近までは戦闘経験すら積んでこなかった魔族である。
当然『魔』に関する事や、相手の力量を測る『漏出』や『魔力感知』なども使えない為、一体どれ程の力量差なのかすら分かってはいなかった。
だがしかし、尊敬するエイネが『様』づけをしているところからして、只者では無い相手なのだと判断し、失礼のないようにと心がける二人であった。
「それでフルーフ様。こちらの世界に戻ってこられたという事は、無事にレアさんと……?」
「ああ。娘に会えた。それにソフィにもな」
「そ、そうですか! そうですか!」
エイネはフルーフが無事にレアに会えた事と、行方知れずとなっていた主にも会えたという事を聞き、二度の喜びに包まれたのだった。
「しかし驚かされたぞエイネ殿。お主にソフィと出会えたことを知らせて、驚かせてやろうと思っておったのに、まさかこの世界に戻ってきてみれば、情熱的な口づけを交わしておったのだからな。こっちが驚かされたぞ」
エイネはどうにか誤魔化そうと、考えていた事を再び蒸し返されて、再び顔を赤くしながら左手を額にあてて天を仰ぐように上を向くのだった。
「い……、いや、その……。何て言ったらいいのか……」
困ったように言葉を選び始めるエイネを見ていたフルーフだったが、視線を若い青年に移すと『ミデェール』はそんなフルーフに向けて言葉を紡いだ。
「初めましてフルーフ様、僕はこの世界の魔族でミデェールと言います。エイネ様には魔人族に従わされていた僕達を救い出してくださり、この世界でも不自由なく生きていけるように、道を示してくださいました」
「とても感謝しています!」
ミデェールの言葉に続くようにフィリーも声に出した。
「ふむ……」
フルーフは二人の言葉にしっかりと耳を傾ける。
「本来であれば『エイネ』様が作ってくださった居場所を大事にして、この世界で生きていく事が、僕たちのするべきことなのでしょうが、僕はこの方を愛してしまいました。離れたくないのです」
再びミデェールの告白を聞かされているエイネは、耳まで紅くしながらその顔を見られないように背けている。そんなエイネの様子にフルーフは小さく笑った。
「そうかそうか……。成程。事情はよく分かった」
そう言うとフルーフは目を一度だけ瞑り、そして開けた瞬間にミデェールを『金色の目』で睨む。
「!?」
次の瞬間、フルーフに睨まれたミデェールは全身が総毛だった。まるで心臓を鷲掴みにされているような気分を味わう。
「若い魔族よ、心して聞け。お主がこれから向かおうと言う世界は、常に今のような状態だ。一寸先は闇。次の瞬間には笑い合っていた仲間の首が飛んでいるかもしれない。常に死と隣り合わせであり文句など言う暇は無い。あの世界で生きて行こうというのであれば、常に自分を高め続けなければならない。それでもお主はエイネ殿についていきたいのだな?」
『魔瞳』である『金色の目』を受けた状態で、フルーフに睨まれているミデェールは全身が震えている。
殺すつもりはないとはいっても、大魔王最上位領域にして『レパート』の世界の支配者から本気で睨まれているのだ。
体現者とはいっても『上位魔族』程度でしかないミデェールには、堪えがたい状態と言えるだろう。
しかしそれでも……。
「貴方に僕の覚悟をお見せします! 必ず貴方よりも強くなって、エイネ様を守れる男になってみせます!!」
そう言い返すミデェールの目が紅く発光し始める。
この僅かなほんの僅かな時間の間に急成長を果たすミデェールは、この苦行に耐える事で『魔瞳』の一つ『紅い目』を会得するのだった。
最上位領域に居る大魔王のフルーフの目をまっすぐに見つめ返し、その覚悟の内を語るかのように、力強くミデェールの目は紅く輝いていた。
フルーフは先程まで震えていた『ミデェール』の手が震えなくなっているのを見た後、頷いて『金色の目』を解除した。
「エイネ殿。どうやらお主は相当に好かれておるようじゃ」
「そのようです。全くこんな私のどこがいいのか……」
そう言うエイネだったが、顔は嬉しそうに綻ばせている。
そして直接睨まれているわけでもない、女性の魔族のフィリーだったが、ミデェールの横で歯をカチカチと鳴らしながらそのまま卒倒しそうになっていた。
隣に居るフルーフが出していた重圧は、ミデェールだけではなく、この部屋全体に居る者にも影響を与えていた。それだけでは無く、直接睨まれていたミデェールは、そんな重圧の比では無かっただろう。そうだというのに『紅い目』を体現させた挙句に、大魔王フルーフに見事に言い返して見せた。
エイネはミデェールという男に感動し、そしてその心を奪われる事を良しと決めるのだった。
流石に気が抜けたのかそのままフラつき、倒れそうになるミデェールだったが、その彼を倒れないように、エイネは両手で支える。
「頼りにしてるからね。これから宜しく……ミデェール!」
こうしてまた一人、別世界から『アレルバレル』への世界へと、生涯を埋める覚悟を持った魔族が増えるのだった。
フィリーは突然現れたフルーフと親し気に話すエイネに尋ねると、エイネはフルーフの紹介を始めた。
「この方は私が仕える主と御友人の方で、とある世界の頂点に立たれている、大魔王フルーフ様よ」
「大魔王フルーフ様……」
ミデェールはフルーフの顔を見ながら、呆けた様子で名前を確かめていた。彼は金色を体現しているとはいっても、最近までは戦闘経験すら積んでこなかった魔族である。
当然『魔』に関する事や、相手の力量を測る『漏出』や『魔力感知』なども使えない為、一体どれ程の力量差なのかすら分かってはいなかった。
だがしかし、尊敬するエイネが『様』づけをしているところからして、只者では無い相手なのだと判断し、失礼のないようにと心がける二人であった。
「それでフルーフ様。こちらの世界に戻ってこられたという事は、無事にレアさんと……?」
「ああ。娘に会えた。それにソフィにもな」
「そ、そうですか! そうですか!」
エイネはフルーフが無事にレアに会えた事と、行方知れずとなっていた主にも会えたという事を聞き、二度の喜びに包まれたのだった。
「しかし驚かされたぞエイネ殿。お主にソフィと出会えたことを知らせて、驚かせてやろうと思っておったのに、まさかこの世界に戻ってきてみれば、情熱的な口づけを交わしておったのだからな。こっちが驚かされたぞ」
エイネはどうにか誤魔化そうと、考えていた事を再び蒸し返されて、再び顔を赤くしながら左手を額にあてて天を仰ぐように上を向くのだった。
「い……、いや、その……。何て言ったらいいのか……」
困ったように言葉を選び始めるエイネを見ていたフルーフだったが、視線を若い青年に移すと『ミデェール』はそんなフルーフに向けて言葉を紡いだ。
「初めましてフルーフ様、僕はこの世界の魔族でミデェールと言います。エイネ様には魔人族に従わされていた僕達を救い出してくださり、この世界でも不自由なく生きていけるように、道を示してくださいました」
「とても感謝しています!」
ミデェールの言葉に続くようにフィリーも声に出した。
「ふむ……」
フルーフは二人の言葉にしっかりと耳を傾ける。
「本来であれば『エイネ』様が作ってくださった居場所を大事にして、この世界で生きていく事が、僕たちのするべきことなのでしょうが、僕はこの方を愛してしまいました。離れたくないのです」
再びミデェールの告白を聞かされているエイネは、耳まで紅くしながらその顔を見られないように背けている。そんなエイネの様子にフルーフは小さく笑った。
「そうかそうか……。成程。事情はよく分かった」
そう言うとフルーフは目を一度だけ瞑り、そして開けた瞬間にミデェールを『金色の目』で睨む。
「!?」
次の瞬間、フルーフに睨まれたミデェールは全身が総毛だった。まるで心臓を鷲掴みにされているような気分を味わう。
「若い魔族よ、心して聞け。お主がこれから向かおうと言う世界は、常に今のような状態だ。一寸先は闇。次の瞬間には笑い合っていた仲間の首が飛んでいるかもしれない。常に死と隣り合わせであり文句など言う暇は無い。あの世界で生きて行こうというのであれば、常に自分を高め続けなければならない。それでもお主はエイネ殿についていきたいのだな?」
『魔瞳』である『金色の目』を受けた状態で、フルーフに睨まれているミデェールは全身が震えている。
殺すつもりはないとはいっても、大魔王最上位領域にして『レパート』の世界の支配者から本気で睨まれているのだ。
体現者とはいっても『上位魔族』程度でしかないミデェールには、堪えがたい状態と言えるだろう。
しかしそれでも……。
「貴方に僕の覚悟をお見せします! 必ず貴方よりも強くなって、エイネ様を守れる男になってみせます!!」
そう言い返すミデェールの目が紅く発光し始める。
この僅かなほんの僅かな時間の間に急成長を果たすミデェールは、この苦行に耐える事で『魔瞳』の一つ『紅い目』を会得するのだった。
最上位領域に居る大魔王のフルーフの目をまっすぐに見つめ返し、その覚悟の内を語るかのように、力強くミデェールの目は紅く輝いていた。
フルーフは先程まで震えていた『ミデェール』の手が震えなくなっているのを見た後、頷いて『金色の目』を解除した。
「エイネ殿。どうやらお主は相当に好かれておるようじゃ」
「そのようです。全くこんな私のどこがいいのか……」
そう言うエイネだったが、顔は嬉しそうに綻ばせている。
そして直接睨まれているわけでもない、女性の魔族のフィリーだったが、ミデェールの横で歯をカチカチと鳴らしながらそのまま卒倒しそうになっていた。
隣に居るフルーフが出していた重圧は、ミデェールだけではなく、この部屋全体に居る者にも影響を与えていた。それだけでは無く、直接睨まれていたミデェールは、そんな重圧の比では無かっただろう。そうだというのに『紅い目』を体現させた挙句に、大魔王フルーフに見事に言い返して見せた。
エイネはミデェールという男に感動し、そしてその心を奪われる事を良しと決めるのだった。
流石に気が抜けたのかそのままフラつき、倒れそうになるミデェールだったが、その彼を倒れないように、エイネは両手で支える。
「頼りにしてるからね。これから宜しく……ミデェール!」
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