上 下
723 / 1,915
消えた龍王編

710.希少な特異の体現者

しおりを挟む
「魔族……。まさかお前が?」

 ガウル龍王は金色を纏っているミデェールを見て眉を寄せる。

 イーサ龍王を倒した者は魔族だと聞いていたガウル龍王は、目の前の魔族がそうなのかと一瞬たじろぐ姿を見せた。

「お前がイーサ龍王を?」

「……イーサ龍王?」

 目の前の人型をしたガウル龍王の言葉を理解出来ていないミデェールは、オウム返しをするかの如くイーサに言葉を返す。

 互いに少しの間見つめ合った後、ガウルは笑い始めた。

「どうやらお前の事ではないようだな。焦らせやがって!」

 ガウル龍王はそう言うと『』を纏い始める。

 目の前の魔族が見かけた事のない『』を纏っているのを見て、多少の驚きはあったモノの、そこまでの脅威を感じる事が無かった為、ただの見掛け倒しだと判断したようだった。

「!」

 人型の姿の龍族のガウル龍王は、その右手にオーラを集約させたかと思うと、右手の鋭利で長い爪を剥き出しにして、ミデェールの首を狙い駆け出した。

(何だ? 止まっている……のか?)

 本来であれば今のガウル龍王は、ミデェールの目には止まらぬ程の速さで動いているのだが、今ミデェールの目には、ガウルがほとんど止まっているようなコマ送りのような動きで、動いているように見えるのだった。

(これ、躱してもいいのかな?)

 ミデェールを目掛けて邪悪な笑みを浮かべながら、右手を突き出して来るガウルを見て、ミデェールはそれを左へ避けた後、右手で拳を作った後に思いきりガウルに向けて振り切った。

「ガハッ……!?」

 ミデェールの拳がガウルに直撃した瞬間、再び時が戻ったかと思うとガウルはそのまま後ろへすっころんだ。

「な……! き、貴様何をした!?」

 ガウルは鼻を抑えながら慌てて立ち上がったかと思うと、ミデェールを驚愕の目で睨むのだった。

(一体何をされたというのだ……?)

 ガウルはスベイキアの龍兵である。コープパルス・ドラゴンが相手であっても、互角以上に渡り合う事が、出来る程のブルードラゴンという龍種の中では、最上位に位置する程の力量である。

 いくら見た事のないオーラを纏っているとはいっても、ただの魔族程度に遅れを取る事などありえない。

 そして今のガウルは間違いなく、目の前の魔族を殺そうとしたのである。そうだというのに、気が付けば自分は殴られて転ばされていた。

 再びミデェールを見る目が変わるガウル龍王であった。

(やはりこの魔族がイーサ龍王を? しかしどう見てもコイツの強さはだ……)

 戦力値を感知する事が出来る魔族と違い、龍族では明確な数値を表す事は出来ない。

 しかしそれでも目の前の魔族が、自分よりも強いとはどう見ても思えなかった。

 そしてガウルの思惑通り、ミデェールが実力的には目の前のガウルという龍族より強いワケでは無い。

 しかしそれは『魔力値』や『戦力値』という数値で表す事の出来るでのみ測った場合であった。

 ミデェールは既にこの世界の魔族では』の体現者なのである。

 生まれた瞬間に持つ者と持たざる者に別れる先天性の素質。

 いくら戦力値や魔力値が高くとも、を体現した者でしか持つ事の出来ない『』という秘められた力がある。

 当然の如くにも分かっているだけで、があり、発動羅列を読み解くモノや相手の能力をトレースできるモノといった、いわば戦闘に特化しているモノと、戦闘に直接関係の無いモノもある。

 そしてアサの世界出身の魔族『ミデェール』が体現した特異は、戦闘に特化しているモノであった。

 更に言えば戦闘に特化した特異の中でも、ミデェールが体現した特異は、に入る特異である。

 彼はまだ『金色の目ゴールド・アイ』という魔瞳を扱う事の出来ない魔族である。

 本来であれば特異は『金色の目ゴールド・アイ』を用いる事でその効力を発揮する事が可能となる。しかしミデェールの特異は『金色の目ゴールド・アイ』を用いずともその効力が、無自覚に発揮されている。

 つまり特別な事をせずとも、ミデェールは戦闘状態の時に、相手との戦力値差があろうとも行動速度を低下させたかの如く、ミデェールには相手の動きが、ゆっくりに見えるのであった。

 そしてまだ彼自身が気づいてはおらず指摘する者が現れなければ、今後彼が知り得る事すら適わない事だが『金色の目ゴールド・アイ』を用いる事でさらに特異は増幅され、その対象となった相手に対し、例えば神聖魔法や、何らかの速度上昇能力で、増幅された相手の速度を強制的に無効化する事を可能とする。

(※相手のバフ効力が失われるワケでは無く、効力が発揮されているにも拘らず、ミデェールにはその速度上昇状態でもゆっくりに見えるという事である)。

 あらゆる世界を見渡しても『』の数は少ない。

 そしてその少ない体現者の中でも、ミデェールが目覚めた特異は、戦闘特化の中では、非常に希少にしてのようであった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...