最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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大魔王シスVS大賢者ミラ編

685.魔神級の領域

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「クカカカッ!! おいおい、何だあの人間は!?」

 大魔王レキは当初あの『』を纏ったリラリオの魔族が、どのように敵を圧倒するかを楽しみにしていた。

 しかし蓋を開けてみれば、ここまではあの人間が不思議な力を駆使して圧倒している。

 その不思議な力の一つには、彼が過去にリラリオの世界で数万年以上前に戦った、リラリオの世界の『魔神』が使っていた『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』を用いている。

 魔神と戦った事のあるレキにとって、あの技が如何に面倒で強いかを理解していた。

 そしてそんな魔神の技をただの人間が使っているのである。愉快痛快と言った様子でレキは、この勝負を最高の余興にしているのだった。

「最高に楽しいじゃねーか! クカカカッ! あの体は俺が必ず手に入れてやる」

 この勝負の結末を見届ける事にしたレキは、その場で腕を組んで二人を遠くから眺めるのだった。

 ……
 ……
 ……

 大魔王シスは大賢者ミラの攻撃に振り回されて防御をする事を強いられている。

 如何にミラが使う魔神の技が強いかを示されていた。更にミラはレーザーだけではなく、防衛手段もかなり多彩である。自身の周囲に数多くの『スタック』の準備があり、自身には『障壁』や『絶対防御アブソリ・デファンス』を張っている。

 大魔王ソフィを『』としていただけあって、生半可な強さではないといえる。

 このミラであれば、かつての人間だった頃のエルシスと戦ったとしてもいい勝負が出来たかもしれない。

 大魔王シスは自身の頬を滴る血を手で拭う。先程のレーザーによってできた傷であった。

 手についた血をぺろりと舐めると、シスの目が金色へと変わった。どうやら防御にのみ徹していても、埒があかないと判断したのだろう。

 シスの戦闘態勢のスタイルが変わり、自身に『妖精の施翼フェイサー』を使い始めた。リスクを承知で攻撃に転じるつもりであった。

 今のシスは『』を使っている為、攻撃力や防御力はかなりの上昇を果たしている。更に速度を向上させる事で相手の懐にさえ入ってしまえばシスのものである。

 ミラも障壁や『絶対防御アブソリ・デファンス』等で防御を固めてはいるが、今のシスとは圧倒的な戦力値差がある。一度の攻撃でも防ぎきれなければ、シスに勝機がおとずれるのであった。

 そしてシスは空から地上へ降り立ったかと思うと足に力を込めて一気に大地を蹴った。空に居るミラに向かって飛翔をしたかと思うと、更に『高速転移』を使って加速する。

 ――もはやそれはだった。

『高速転移』はその速度と引き換えに、突然曲がったりすることは出来ない。しかしそんなモノは関係がなかった。

』を纏っている大魔王シスの速度は、通常状態であっても異常な速度が出せる。更にその上に『妖精の施翼フェイサー』を使った状態で『高速転移』を使っているのである。

「!」

 常識を超える大魔王の速度は流石に想像以上だったのか、一瞬で間合いにはいられてしまって『スタック』していた魔法を使う暇すら与えられなかった。

 目の前に迫ったシスの右手が、ブレて残像が一瞬映ったかと思うとミラはその場から吹き飛ばされた。パキンッパキンと障壁が割られる音が耳に届く頃には顔に痛みが走っていた。

 そして背後から鈍い痛みが感じられたかと思うと真上に突き上げられた。どうやら右手で殴り飛ばされたミラは、更に背後から蹴り上げられたようだった。あまりの速度で移動させられて、その目を開ける事が出来ない。空気の抵抗は想像を絶するモノであったようだ。

 なんとか薄目で前が見えたが、なんと雲の上からシスが自分に向かって迫ってきていた。

(こ、これでは攻撃が出来ない……!)

 次の瞬間、真上からシスが全体重をかけた膝を落としてくる。その膝蹴りはミラの鳩尾を的確に貫く。

「!?」

 声すら出せずに悶絶しながら地面に向かって叩きつけられそうになる。

絶対防御アブソリ・デファンス』の効果がなければ今ので死んでいただろう。

 蹴り飛ばされて地面に向かっていくミラは、真上から何かが光っているのが見えた。

 ――神域魔法、『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』。

 ――神域魔法、『天雷一閃ルフト・ブリッツ』。

 一緒に空から落ちながら『高速転移』を使いながら100%の魔力コントロールを用いた神域魔法の同時無詠唱。

 地面に叩きつけられたミラに向かって一筋の閃光が降り注いだ。

 更にその直後、極大魔法『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』によって陸ごと消滅する程の大爆発を起こす。

「ガアアアッ!」

 ――大魔王シスが吼えた。

『魔神級』の領域に達しているシスの連続攻撃に、流石のミラも意識が遠のく。

 どうやら死が迫っているようであった。

 ……
 ……
 ……

「今の連携は素晴らしく良かった。流石にこの俺であっても、完全に回避するのは難しいだろうな」

 レキは爆発の瞬間に大空へと移動を開始する。

 この身体の元の持ち主の魔法、『隠幕ハイド・カーテン』を使っている為、戦っている二人もこちらには気づいていないようだった。

 レキは今の『代替身体』の身体で、あの『』を使っている『に、どこまでやれるかを分析するのだった。

「まぁ、まだその時ではないな。それより流石にあの人間は死んだか?」

 シスの攻撃によってヴェルマー大陸のミラの居た辺りの陸地は既に無くなっており、ミラの姿がなかった。

 あの魔族の蹴りで地面に落とされた時点で、絶命していてもおかしくはないが、その後の雷と爆発で身体がバラバラになっているだろう。

 あれで生きてピンピンしていたら、流石に人間ではないとレキは判断するのだった。
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