上 下
679 / 1,915
九大魔王の護衛編

666.恐ろしき九大魔王たち

しおりを挟む
 イリーガルはリザートの目を見る。

 これまでのどこか怯えたような目から肝が据わったような目に変貌した事で、何かあると判断をする。しかし何かをされたとしてもやる事は変わらない。

 この場を受け持った以上は自分のやる事は敵の足止めに全力を注ぐまで。イリーガルは大刀を両手でぐっと握りしめて敵がどう動くかを見極める。

「行くぞ……!!」

 指揮官リザートがそう叫んだと同時に『煌聖の教団』の者達は一斉に『高速転移』を使い始める。

「…!」

 イリーガルは自分に襲い掛かって来るモノだと思い、一気に大刀を振り切った。

 その大刀の衝撃波によって多くの者達の首が吹き飛んだが、これまでと違い敵は動きを止めずに、一定の速度を持ったまま移動を開始し始める。

 イリーガルは阻止しようと縦横無尽に大刀を振り回し次々と敵の首をちぎっていく。
 しかしその大壁となっているイリーガルをなんとかすり抜けるようにして、次々と『煌聖の教団』の魔族達はこの場から離脱していく。

「くそっ!」

 流石にたった一人では全員を足止め出来ず、イリーガルはそれでも数百体の者達を屠っていく。

 その場にイリーガル以外の者達の首が飛び、残存する者が居なくなったのを確認し『イリーガル』は自分を追い越していった者達を追いかけるのであった。

「よし! お前達ばらけろ! ばらけながら飛んで行くんだ!!」

 リザートは『』の手から抜け出した事で慢心することなく、背後から迫って来るであろうイリーガルから、少しでも犠牲を押しとどめる為に指示を出す。

 すでにリザート達の肚は決まっている。

 自分が次の標的となって、首を飛ばされても構わない。重要な事は敵の戦力を少しでも削ぐ事。その後に自分が生き残れなくても構わない。

「行くぞぉおお!」

 リザート達は『高速転移』を使い『リーシャ』達にグングン迫る。

 中立の者達は隊列を崩さないように通常の速度で移動をしている為『高速転移』を使って移動をしているリザート達にあっさりと距離を殺されて迫られてしまう。

「見えた!」

 リザートとその『煌聖の教団』の本隊の魔族達は、次々と追いかけながら『スタック』を展開する。

 あらゆる場所に魔法陣が出現し、後先考えずに集団に向けて魔法をぶっ放すつもりであった。

「ふーん『イリーガル』様を出し抜くなんて中々やるわねぇ?」

 ――声が聞こえた。

 ――そして次の瞬間。

 前を飛んでいる集団の最後方に居る者達に向けて、魔法を発動させようとしていた者達の手が、一斉に切断される。

「なっ……!?」

 リザートは自分の魔法が発動されなかった事にまず驚いたが、その時点ではまだ自分の両手首が無くなっていることに気づけなかった。

 声を出してそして次に魔法を放とうとして、ようやく自身の手首が無くなっている事を把握する。

(一体何が!?)

 リザートが最後に思い浮かんだ言葉は、何が起きたか分からない疑問の言葉だった。

 次の瞬間には意識がなくなり、魂が『代替身体だいたいしんたい』に向かっていった。

 そして時を同じくして次々と『煌聖の教団』の魔族達の手、足、首が吹き飛ばされていく。

 中立の者達の集団の姿が目に映っているというのに、その誰もが攻撃をする事が出来ずに息絶えていく。

 ――影が動いていた。

 その影を認識することは出来るのだが、誰もがその正体に気づく前に死んでいく。

 ――その影の正体は『神速』のリーシャであった。

 彼女は『スタック』を使っている者達を次々と攻撃し、一体、また一体と敵を倒す毎に反動をつけながら速度を増していく。

 何体かの魔族の魔法が発動寸前までいき、魔法陣が回転しそうにはなっている。しかし魔法陣が回転を始める前に術者を切り刻んでいく。

 殺せば殺す程速度が増していく『神速』のリーシャはすでに、の魔族では止めようがない。

 時間を測るならば『イリーガル』が、一度に一斉の首を吹き飛ばすよりも、リーシャが一体一体屠っていく速度の方が速い程である。

 そして速いだけでは無く、一撃一撃が重い。あっさりと戦力値が500億を越える魔族の命を奪っていく。

 それでも『煌聖の教団』の者達は死を覚悟の上で、魔法を展開しようと次々『スタック』を始める。

 そんな彼らの背後から衝撃波が次々迫って来たかと思うと、首を刎ね飛ばされていく。

『処刑』のイリーガルが辿り着いたのである。

 前方は『神速』リーシャが。そして背後からは『処刑』イリーガルが――。

『九大魔王』の前衛を任されている両者は、普段から連携が実に良く取れていたが、その両者の阿吽の呼吸は、この場でも見せつけるように示されていた。

 もはや中位領域程度の大魔王では、いくら数がいようとも『九大魔王』達にとっては何も問題はない。

「ああああっっ!!」

 敵を屠る毎に速度を増していく『神速』は、敵が居なくなるまで止まる事は無い。

「うおおお!!」

 そして鬼のような形相で大刀を振り回しながら衝撃波をあらゆる方向へ飛ばしているイリーガルも、すでに数千体以上の魔族の首を刎ね飛ばしている。

 たった二名のソフィの配下の手によって数万といた大魔王達は、全滅を余儀なくされるのだった。

 そして誰も居なくなったのを確認したイリーガルは、恐ろしい形相で辺りを見回す『リーシャ』の肩に手を置いて落ち着かせるのだった。

 …………

「おいおいお前ら……。少しくらい残しておけよ……」

 ようやくステア達の元に辿り着いたブラストだったが、最後尾に向かったところ、その場所に居たのはリーシャとイリーガルのみだった。

 フラストレーションを発散しようと意気揚々とこの場に姿を見せたブラストは、舌打ちをしながら悔しそうに立ち尽くすのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...