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愛娘を探して編

629.女帝の怒り

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 エイネがバルザーの提案に顎に手をあてながら考え込む仕草を見せた瞬間、バルザーはこっそりと右手を背中に隠した。

 そしてバルザーはこっそりと、人差し指と薬指を立てて、背後に居る彼の部下に、

 バルザーからの合図を受け取った魔人数体は『スクアード』を纏う事で、殺気を放出しながらエイネを囲むように連携を取りながら、上手くエイネの視界に入らないようにして捕縛にかかるのであった。

 バルザーは一瞬でエイネの周囲に近づいて見せた魔人達に笑みを送る。

 空からエイネの頭目掛けて手刀を振り下ろしながら落ちてくる者。地上を恐ろしく速い速度で走り、エイネの視界外から一気に攻撃をしようとする者。一斉に数体の『一流戦士』が、それぞれ動きを見せたのだった。

 どうやらこれは最初から決められた事であったようで、バルザーの指示によって、エイネが隙を見せた瞬間に攻撃する手筈だったようだ。

「愚かな……」

 次の瞬間。エイネに攻撃をしようとしていた『スクアード』を纏った『一流戦士』三体は、全員が同時にエイネの身体から出現した鎖によって、手、足、首を同時に拘束される。

「へ……?」

 驚愕に目を丸くしたバルザーはほうけた声を出す。完全にエイネの油断を誘った上で軍の手練れの『一流戦士』三体を同時に向かわせ裏をかいたというのに、今その精鋭の兵士は全員があっさりと、拘束されてしまったのだ。

 バルザーが驚くのも無理はなかった。

「言ったわよね? 私にと」

「ひっ……! う、うるさいっ! 『』が魔人様に逆らうのが悪いんだ!!」

 バルザーもまた『スクアード』を纏いながら目を紅くして、エイネに向かって攻撃をしようと一歩踏み出すのだった。

 ――その一歩が、大魔王『エイネ』の間合いを侵す事となった。

 先程までの澄んだ瞳をしていたエイネの目が、明確に『』を見る冷酷な瞳に変わっていく。

 ――絶技、『生命吸鎖ビュオス・クレヴォ・チェーン』。

 指揮官『バルザー』を含めた、四人の『一流戦士』は同時に『エイネ』の鎖に捕らえられる事となり、エイネの手が真横に振られた瞬間に鎖が発光したかと思えば、四人の胴体から首、手、足が引きちぎれて、首からは噴水のように血が噴き出すのだった。

 騙し打ちにあった事で、軍の精鋭達によって命を落とす筈だった一体の『魔族』が、逆に軍のいち指揮官を含めた『一流戦士』四体の命をあっさりと奪うのだった。

 事情を知らずに龍族と戦う為に、この場所に集められた軍の兵士達や、彼ら軍の最高司令官『トマス・ハーベル』は、一体何が起きたのか分からずがままに、この場所の空気を支配したエイネから、視線を外す事が出来ずにいた。

 鎖を操りながら冷酷な目を浮かべたエイネは、足元に転がってきたバルザーの首を凄い形相で睨んだかと思うと、

 その行為に再び兵士達は『恐怖』というものを味わう事となり、多くの者達がビクリと大袈裟に身体を震わせた。

 エイネからは明確な殺意が漏れ出ており、誰もエイネに話しかけることは出来ない。
 まさにこの世界では経験した事のない魔人達は、魔族の行きつく先『大魔王』が纏う『独特なオーラ』に圧倒される。

 ……
 ……
 ……

「どうやらお主の思う通りには、いかなかったようじゃな……」

 コテージの中から魔法でエイネ達の様子を窺っていたフルーフは、レアの魔力を探知しながらもエイネの表情を見て口を開くのだった。

「しかしそれにしても『金色』を纏っておらぬというのに、あやつは何と恐ろしい戦力値をしておるのじゃ……」

 現在エイネが纏っているオーラは『』と『』の『』である。

 しかし今のエイネの戦力値は『大魔王・最上位』と呼べるだけの実力を保持している。

』は『先天性の贈り物』と呼ぶべきものである為、如何に生を受けてから努力を重ねたとしても『金色』を体現する事は叶わない。

 しかし現実にエイネは『』を体現した者と遜色のない強さを持っているのである。

 ――果たしてどれだけの研鑽を積めば、この領域に到達できるというのであろうか。

 今でもソフィが率いる『魔王軍』の最高幹部である『九大魔王』に名を連ねている彼女だが『金色の体現者』である他の『九大魔王』と遜色のない力を有しているのである。

 では彼女がもし『金色の体現者』であったならば、彼女は『九大魔王』筆頭の『ディアトロス』よりも……と、そこまで考えたフルーフは、改めて彼女の評価を一段階あげるのだった。

 もしエイネが敵意を持って今纏っている魔力を魔人共に向けるだけで、その余波で全ての兵士が、気を失って倒れるだろう。

『魔』を極めた者としてフルーフは『エイネ』が今無意識に操っている『魔力コントロール』の完成度の高さに溜息を吐くのだった。

「『九大魔王』……か。『金色の体現者』が揃っているだけでも、何ととんでもない集団かと思っておったが、まさか『金色の体現者』でもない者がこれ程の強さだとはな。他の者達も『金色の体現者』に関係がなく、まさにこれ程に力を有しておるのだとしたらじゃが……。』。お主はワシが思っておるよりもだったのかもしれぬな」

 別世界で同じく魔王軍を率いていた者として大魔王フルーフは、上に立つ者はそれ相応の力が求められるという事を誰よりも知っている。上に立つ者が生半可な存在では率いていく事が出来ない。だが、大魔王ソフィという存在は、この魔王軍の体制を少なくとも千年以上を維持し続けているのだ。

 それがどれだけ想像を絶する偉業であるのか――。

『九大魔王』という『アレルバレル』の世界の大魔王達の存在は知ってはいたが、どれ程までの強さかまでは理解に及んでいなかったフルーフは、あんな領域に居る大魔王を数多く従える事の難しさを考えて苦笑いを浮かべながら、自身の友人の凄さを再認識するのであった。

 ……
 ……
 ……
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