上 下
626 / 1,906
マジックアイテム編

613.意地

しおりを挟む
「よし。今の内に『概念跳躍アルム・ノーティア』を発動させるとしよう。そうだお主に伝えておかねばならぬのだがな『死神皇』よ。奴は条件下でのみ『態』になるようなのだ。注意しておいてくれ」

「――」(不死の人間か。面倒な存在だな)

『死神皇』は何事もなかったかのように、ミラに吹き飛ばされた身体が再生して現世に再び姿を見せながらそう言った。

 どうやら『』である証拠というべきか『』とはまた条件が違うようだが『』も際限がなく蘇る事が出来るようだ。

 フルーフは先程のように移動しながらではなく、万全の状態で『時魔法タイム・マジック』である『概念跳躍アルム・ノーティア』の『発動羅列』を読み上げる準備を始めた。

概念跳躍アルム・ノーティア』の『発動羅列』を読み終えると魔法陣が出現して『スタック』させていた魔力を魔法陣に乗せる事で魔法発動となる。そしてフルーフはその第一段階というべき『発動羅列』を読み上げ始めるのだった。

 フルーフの近くには復活した『死神皇』が立っている。同じ『』として『ミラ』という人間が、どうやって蘇生をするのか興味があるらしく、ゆっくりとした足取りで『ミラ』の死体の傍に近寄っていく。

 やがて青い光が『ミラ』の身体を包み込み始める。

「――」(フルーフよ。どうやらこの人間の蘇生が始まるようだ)

 フルーフは『死神皇』の言葉に反応するが『概念跳躍アルム・ノーティア』の発動を優先するのだった。

 フルーフはこれまでミラの元で操られていた間、幾度となくミラが蘇生をする瞬間を見届けてきた。ミラが息を吹き返すまでは、まだ少々時間がある。

 出来る事ならばミラが蘇る前に『概念跳躍アルム・ノーティア』の発動を果たして『アレルバレル』の世界へと向かいたいところである。

「よし、間に合った。これより詠唱を開始する」

概念跳躍アルム・ノーティア』の『発動羅列』を完成させたフルーフは、直ぐに詠唱を始めるが、そこでミラの両目が開いた。どうやらミラの『復活生成リザレクト』が発動し終えたようだった。

 しかしミラが身体を起こして『魔力』を整えようとした瞬間を見計らって再び『死神皇』が、ミラの胸元に黒いモヤを出現させる。

 ミラも『死神』が再びに出るという事を察知していたのか、直ぐにフルーフの妨害を始める。

 ――神域『時』魔法、『概念跳躍アルム・ノーティア』。

 ――神域『時』魔法、『時魔法・無効化タイムマギア・キャンセル』。

 次の瞬間『概念跳躍アルム・ノーティア』が発動して『時魔法タイム・マジック』の効果が伴って『ダール』の世界から大魔王『フルーフ』の姿が消えた。

 ミラの胸元の黒いモヤが広がり、再びミラは白目を剥いてその場に倒れた。どうやらフルーフの妨害にのみ集中して『死神皇』の攻撃に対しては何も抵抗をしなかったようで、再びミラはその場であっさりと絶命するのだった。

「――」(どうやら上手くいったようだな。では帰らせてもらうぞ。親愛なる大魔王フルーフ

 この世界の言語では現せない言葉を呟いた後に『死神皇』は、空間に亀裂を入れた後にその穴から幽世へと帰っていった。

 ――この場に残されたのは『』ミラの死体のみだった。

 ……
 ……
 ……

 イザベラ城で戦っていた『死神貴族』と『ヌー』だったが、こちらも雌雄を決しようとしていた。

「ガハ……ッ! く、クソッタレめがぁ……!」

』に、決して浅くない傷を負わされたヌーは徐々に自身が、瀕死状態になっていくのを感じとる。

 そしてそこへトドメとばかりに小柄な身体で大きな鎌を振りかぶりながら『死神貴族』は襲い掛かってくる。

 鎌は先程と同じく『黒いオーラ』で纏われており、もう一度あの鎌を受けるとヌーは死を体感する事になるだろうと判断する。そしてヌーは自分が負けるかもしれないと頭を過った瞬間。一つの想いが信念となって『ヌー』の全身を駆け巡った。

 ――『この俺が、!』

 なんとヌーは痛む傷口を無視して歯を食い縛り、右手を迫りくる『死神貴族』に向け始めた。

「この俺を舐めるんじゃねぇよっ!」

「――!」(そんな馬鹿な! し、信じられない!)

 小柄な身体をした『死神貴族』は『ダール』の世界に召喚された後でかと思うと、ヌーの行動に驚愕に目を見開きながら声をあげた。

 ――神域魔法、『エビル』。

「――!」(ひ、引き寄せられる!)

 攻撃態勢に入っていた『死神貴族』は、ヌーの渾身の固有魔法である『エビル』の闇に吸い込まれた後に、黒い空間に身体を支配されてそのまま消し潰されていった。

「ハァッ……、ハァッ……。ざまぁみやがれ……!」

 ヌーは自身の放った魔法によって消えていった『死神貴族』にそう吐き捨てた後に、目の焦点が合わなくなって意識を失い、そのまま前のめりに倒れるのであった。

 ……
 ……
 ……

 意識を失ったヌーの元に、再び先程の『桃色の髪をした小柄な身体の死神』が現れる。

 その『死神貴族』は大きな鎌を具現化させたかと思うと、ピタリと意識を失って倒れているヌー首元に得の大鎌を向け始めるのだった。

(……)

 その『死神貴族』が鎌を振り切れば、そのまま大魔王『ヌー』はあっさりと絶命するだろう。そして『代替身体』へと魂が向かう事になるが、そちらもこの『命』を司る『死神貴族』であれば、あっさりと魂を思いのままに奪う事も出来る。

 しかしその小柄な『死神貴族』はじっとヌーの顔を見たまま動かなかった。やがて具現化していた自分の身体よりも大きな鎌を消して笑みを浮かべるのだった。

(てめぇはこの『死神公爵』の『テア』様を下界の身の存在で退けてみせたんだ。今回は殺さずにおいてやるよ。次は絶対に私は負けない! 精々感謝しておけよ? 親愛なる大魔王)

 どうやらこの『桃色の小柄な身体をした死神』の名は『テア』というらしい。

 次の瞬間。この場に複数の『死神』が出現を始めた。

「――」

 そしてそのテアは自らの配下の死神達に意識を失っているヌーが目を覚ます直前まで守るように指示を出す。

「――」

 配下の死神達がテアに了解を示すように頭を下げると、テアは何もない空間に亀裂を入れて、そのまま音も無く幽世へと戻って行くのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...