上 下
550 / 1,906
リラリオの故郷編

538.露店の盛んな町

しおりを挟む
 グランの門番たちに門を開けてもらい、ソフィ達はようやく見慣れたグランの町の風景を目の当たりにする。

「おお……! 中はあまり変わっておらぬな。しかし人が増えたか?」

 森の方からグランの町に入ったソフィ達だが、こちら側からみても昔に比べて行き交う人々が、ソフィ達の居た頃よりも多くなっているように感じられた。

 そして『グランの名物』ともいえる膨大な数の露店が立ち並んでいた。人が二人分通れる通路を挟んで左右に露店があるのだが、ここから中央にある冒険者ギルドの場所までずらりと並んでいるのである。

 ソフィとリーネは横並びに露店の間を進んでいく。元々ここに住んでいたリーネは感慨深いものがあるのか、商品棚を見るというよりは見知った商人が居ないかどうかを見るように、露店主の顔を見ているようだった。

「お、おい! ソフィ、ソフィじゃないか?」

 そこへレグランの実がないかを探していたソフィに見知った者から声が掛けられるのだった。

「む? おお! 『』ではないか!」

 ソフィに声を掛けてきたのは、いつもソフィに『レグランの実』を売っていたあの露店主おやじだった。

「久しぶりじゃないか! お前いつ戻ってきたんだ? 会いたかったぞ!」

「うむ。先程こっちについたところだ。おやじも元気だったか?」

 矢継ぎ早におやじに話しかけられるソフィだったが、やはりソフィも会いたいと思っていたのだろう。嬉しそうにおやじに言葉を返しながら笑みを浮かべる。ソフィのその様子に横で二人の会話を聞くリーネも嬉しそうに微笑むのだった。

「かーっ! お前さんが来るってわかってたらもっと『レグランの実』を仕入れておいてやったのによ! 今はこれだけしかねぇが、ほらっ! もってけ!」

 そう言って露店主のおやじは、ソフィに一山の『レグランの実』を差し出すのだった。

「おお! すまぬな! 早速一つもらってもよいか?」

「ああ、それはもうお前にやるから。好きなだけ食え食え」

 顔を綻ばせながらソフィは、レグランの実を小さな口で頬張るのだった。

 ソフィがレグランの実を食べる姿を頷きながら見ていたおやじだったが、そこでずっとソフィの様子を見ていたリーネに話しかける。

「リーネちゃんも久しぶりだな。ソフィと一緒に大陸を渡ったと聞いていたが、今はソフィとでも暮らしているのか?」

 おやじはニヤニヤと笑いながらリーネにそう言ってくる。リーネはおやじがからかっているのだと直ぐに気づき、薄く笑いながら口を開いた。

「お久しぶりね。露店のおじさん? ソフィはもう私の旦那様だから、当然一緒の屋敷に住んでいるわよ?」

「え?」

 おやじはきょとんとした表情を浮かべていたが、レグランの実を食べ続けているソフィに視線を移した。

「む? どうしたおやじ」

「お、おい! ソフィ。嬢ちゃんの言葉は本当なのか?」

「ん? 一緒に暮らしているという話か?」

「あ、ああ。それにお前が旦那って……」

「ああ、リーネは我が娶ったぞ」

 堂々と言い放つソフィに再びおやじは目を丸くするのだった。

「娶ったってお前。お前まだ10歳くらいだって言ってただろう?」

 ソフィは何を言っているのかと思ったが、そういえばここに来た時に『おやじ』に冒険者ギルドに加入する試験の話を聞いた時に年齢を言っていなかったかと思い直して、今更説明するのもおかしいかと、黙ったままにする事にした。

「それがどうかしたのか?」

「いや、どうかしたかって。お前……」

 露店のおやじはソフィを心配して色々と考え始める。普通であれば子供の戯言だと本気にするわけもないが、このソフィは普通の子供ではない。

 あの『勲章ランクA』の中でも最強と名高い剣士『リディア』を倒した程の実力を持っていて『ヴェルマー』大陸の魔族達からこの大陸を救った英雄である。

 更に言えばその魔族が犇めく『ヴェルマー』大陸の中にあるなのである。そして噂によればソフィはこの大陸の『ケビン』王国と『ルードリヒ』王国のどちらとも同盟関係にあると聞いたことがある。

 経済的に何も問題は無く、大陸間を挟んだ他国とも良好な関係を確立している。それに王族ともなればソフィ程の年齢であっても、婚約関係はおかしくはないのかもしれない。

(あれ? 何も問題はないのか? いや、し、しかし……)

 露店のおやじはソフィに現実の厳しさを教えようと考えたが、色々と説教の材料が頭に浮かんでは消えていく。結局おやじがついて出た言葉は――。

「ほ、本当にソフィは、?」

 おやじから出て来た言葉は、結局そんな当たり前の言葉だった――。

「ああ、当然だ。リーネには

 ――断言であった。

 それが当然であるかのように、何の迷いもなくソフィは断言する。

 一時の気の迷いや、子供が簡単に決めた約束を口にするのとは違う。ソフィの今の言葉を聞いた者は、誰であっても信じさせられる程の『』があった。

「そ、そうか……。お前が言うなら、確かに心配はないな」

 自分の子供くらいの年齢のソフィだが、もう露店のおやじはソフィを子ども扱いなど出来なかった。まるで自分よりも遥か年上でこの世の全てを知り尽くしているような、妙な説得力を持った老人に見えてしまったからである。

 実際にはソフィは『露店商おやじ』よりも遥かに年上で、こんな子供の見た目になっていなければ、そもそも最初から子ども扱いはされなかっただろうが、ようやくこの見た目であっても『露店商おやじ』はソフィの存在感を理解したようである。

「よ、よし……! そうと分かればお前さん達には、良い物をやろう!」

 露店商おやじはそう言うと、自分の荷物に手を伸ばして何かを探し始めた。

「お! あったあった。ソフィ手を出せ」

 何やら自分の荷物を調べていたおやじは、何かを手に持ってソフィに渡そうとするのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...