最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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リラリオの原初の魔族編

531.死線

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 トウジン魔国にある『闘技場』の医務室で眠っていたキーリは、ゆっくりと目を覚ました。

 何故自分はこんな所で眠っていたのかと眉を寄せながら身体を起こす。

 ベッドの横の椅子でレアは規則的な寝息を立てていた。それを見たキーリはゆっくりと今日の出来事を思い出していった。

「そうか。俺アイツに油断して、試合に負けちまったんだ」

 寝ているレアしか居ない医務室で、誰にも聞かせるつもりなく呟くキーリだった。

 ――しかし、そのキーリの独り言には返事があった。

「ふん。今頃目を覚ましてお前は何を言っていやがる? お前が俺に負けたのは、実力だろうが」

 どうやらタイミング悪くこの医務室に戻ってきた者達が数人いたようだった。その中にはキーリと戦った張本人である『リディア』も居た。

「なっ……! 何でお前がここに居るんだ!? 俺を嘲笑いにきやがったのか!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげるキーリに、寝ていたレアはびっくりして目を覚ます。

「え! なっ、何!?」

「あ……」

 寝ていたレアを起こしてしまったキーリは、ばつが悪そうにリディアから視線を外して申し訳なさそうにレアを見る。

「まぁ、今回は俺が勝ったが、貴様が俺を侮る事なく本気でやっていれば、勝負は分からなかっただろう。人間が相手だからといって舐めぬ事だな」

 その言葉を残してリディアは、部屋を出て行こうと出口へ向けて歩き始めた。

「おい人間。俺に『』からといって調子に乗るなよ? あんな程度でソフィ様に近づけたと思っているなら大間違いだからな!」

 キーリは自身が『』と認めながら、去っていくリディアの背中にそう告げると、リディアはぴたりと足を止めてキーリに振り返った。

「馬鹿を言うなよ。そんな勘違いをする程に俺はめでたくはない。が見えてすらいないのは承知しているさ」

 そう言い残して今度こそ『リディア』は部屋を出ていくのだった。

「全く、もう少し仲良く出来ないのかしらね」

 入れ替わるようにユファが、医務室に入ってきて溜息を吐くのだった。

 ……
 ……
 ……

「あの野郎もレキもこのまま追っているだけでは追いつけない……。そんな事は言われなくても俺が一番理解してんだよ……!」

 医務室を立ち去ったリディアは、そのまま苛立ち混じりに独り言ちながら、足早に闘技場の出口に向かうのだった。

 ――しかしその出口までの長い廊下で一体の魔族とすれ違う。

「お前は確か『レイズ』魔国の女王の『シス』とか言ったか?」

 リディアの目の前で止まったシスだが、普段の彼女とは違う空気を漂わせながら、リディアを見て嬉しそうに見て笑った。

「何だ? 何がおかしい?」

 リディアは少し不機嫌になりながら、シスに向けて強めに言葉を放つ。

「君の選択は正しいよ。ソフィを追っていけば君は絶対に強くなれるからね。それは他の誰でもないボクが保証しよう」

 そう言って見る者を安心させるような微笑みを『』はリディアに向けるのだった。

「な、何?」

 この場に居る『レイズ』魔国の女王である筈のシスとは、どこか違う事を理解したリディアは、訝しげにエルシスの顔を覗き込むのだった。

「君はまるで炎のように熱く、そして力強い『オーラ』を纏っているね? 彼が君の事を気に入った理由がボクにも良くわかるよ」

「お前は、一体何者なんだ?」

 リディアは右手を刀の柄に置きながら、抜刀の構えをとる。

 その瞬間――。

『リディア』は唐突に正面から背に掛けて、何か良く分からないものが通り過ぎて行ったのを感じ取った。そのよく分からないものを理解する余裕は無く、リディアは脂汗を流しながらも視線だけはシスから外さなかった。

「ボクは『エルシス』。君と同じさ」

 ――エルシスと名乗った『レイズ』魔国の女王が何をしたのか分からない。

 しかしリディアの前に居る『化け物』が、指一本動かせない状況を作った事は間違いがなかった。

 黙ってエルシスと名乗る目の前の存在を睨む事しか、出来ないリディアだった。

「君、強くなりたいなら下手な事をせず、自分を信じた道を行きなさい。目の前に転がっている『力』に頼って強くなろうとすれば、君はきっと後悔するよ?」

 エルシスの目が『金色』に光り始めたかと思うと、そうリディアに告げるのだった。

「大丈夫。君は強くなれる。いつかこんなボクの『力』なんて、あっさりと解く事が出来る程にね」

 そういってエルシスが再び微笑むと『リディア』の硬直が解けて、自由に動けるようになった。

「俺より強い貴様が言うのだから本当なのだろうが、その忠告に聞くとして俺はどうすれば強くなれるというのだ?」

 ソフィの強さに近づくためにミールガルド大陸を離れて、ヴェルマー大陸に渡ってきた。しかし確かに強くはなっただろうが、その『』は更に遠のいたように感じられた。こんな風に焦るなと言われてありがたい忠告をされようとも、リディアにはそんなモノで誤魔化されていられる時間はなかった。

「このままレキの元に居るなというのであれば、お前が俺を強くしろ!」

 リディアは口に出してから、激しく後悔をするのだった。

(クソッ……! 俺は一体何を言っているんだ!)

 エルシスはリディアの言葉を受けて悩む素振りを見せた。そしてその後に何処か虚空を見つめるような、そのような視線を見せながら『エルシス』は再び口を開く。

「これはまいったね。本当にいいのかい? 分かったよ。

 どこか嬉しそうな表情を浮かべながら、エルシスはリディアを見ずに何やら独り言を言っている。

「誰と喋っていやがる?」

 事情をよく知らないリディアは、一体何を一人で言っているんだとシスを睨みつける。

「しょうがないね。君ほどの強い『』を持つ者を『』の道へと向かわせるのは忍びないしね」

 溜息を吐くシスの顔をしたエルシスは、しかしどこか嬉しそうな声色で口を開く。

「君、ついておいで? 少しだけ面倒を見てあげよう」

 こうしてシスの姿をしたエルシスは、闘技場の出口へと『リディア』を引き連れて向かうのだった。

 ……
 ……
 ……
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