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闘技場編
518.エキシビション二戦目
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闘技場の職員に案内されたキーリは、リングの在る屋外に姿を見せた。すでにリディアはリングの上に立っていた。
キーリがリディアの戦いぶりを見たのは前回の闘技場だった。当時ランクBのボスであった『ユファ』と戦い、敗北を喫したリディアだったが『金色のオーラ』の体現の片鱗を見せた人間はこれからの躍進を感じさせる程の逸材だと、あの時にキーリは確信するに至った。
リングに上がる寸前にキーリは、リング上のリディアに視線を送る。ロープを背にしながら鞘に収まっている刀の柄部分を左手で這わせてリディアは、キーリを見つめ返している。
「……」
「……」
――互いに言葉はなかった。
そしてキーリは深呼吸をした後に、意を決して『リディア』の居る『リング』に上がるのだった。
……
……
……
「ああ。こりゃ懐かしいな。こいつは確かにあの時代に居た龍族だ」
観客席で空席となった前の席に足を投げ出しながら、リング上に上がったキーリを見て『レキ』はそう呟くのだった。
マナーの悪い座り方をしているレキに注意する者は居ない。それどころかレキの周囲の観客達は、レキの存在など見えていないかのように、皆一様に虚空を見つめていた。
「人間が龍族を倒せばそれなりに盛り上がるだろうがな? さてどうなる」
レキは心底楽しそうにリング上の二人に視線を注ぐのだった。
……
……
……
「どうやら間に合ったようだな」
「うわああっ!?」
特別室でシチョウがリング上を見下ろしていると、突如ソフィが『転移』でシチョウの隣に姿を見せた為に、彼は驚いて椅子から転げ落ちそうになるのだった。
「お、驚かすなよソフィ……ッ! アイゲンも刀から手を離せ!」
「す、すみません!」
ソフィの突然の登場で驚いたのはシチョウだけではなく、護衛を務めるアイゲンもまた王を守る為に咄嗟に刀を抜こうとするのだった。
「いやいやすまぬな。もう歩いてきてはもう間に合わぬだろうと思ってな」
ソフィは素直に謝罪を告げるのだった。
「全くもう……!」
溜息を吐きながら『シチョウ』は頭を掻くのだった。
「で? 試合前にどこに行っていたんだ?」
「ああ。少し確認をしておきたいことがあってな」
――『それはお前の配下の試合より重要な事なのか』とシチョウは思ったが、どうやらソフィの真剣な表情を見て、実際に言葉にする事をやめるのだった。
「そうか……。おっと、そろそろ始まるようだぞ」
リングの上では先程上がってきた『キーリ』と、先に上がっていた『リディア』がリングの中央に寄ってきていた。そして両者の間に立つように『エキシビションマッチ』の決勝の審判を務める『トウジン』魔国の魔族がルールの説明を始めていた。
リディアとキーリの身長差は相当なもので、両者が並ぶとまるで子供と大人が相対しているようにも見えるのだった。しかしキーリは気後れする事もなく、リディアの前で腕を組みながら堂々と構える。審判が隣でルールを説明しているが、両者の視線は互いの顔に集中しており、すでに両者の頭の中ではどう相手と戦うかを考えているようだった。
「それでは両者、一度下がって……!」
ルールの説明を終えた審判は『キーリ』と『リディア』を一度下がらせて、試合開始のコールの準備を始める。互いに距離をとった後に審判は、手をあげて試合開始のコールを告げるのだった。
「それでは……、エキシビションマッチの決勝戦! 試合開始!」
コールが行われた直後に『リディア』は右手で、刀の柄目貫をなぞりながら前傾姿勢をとる。どうやらキーリが攻撃動作に移る瞬間に斬り掛かるつもりのようである。ゆっくりとリディアは『金色のオーラ』を纏いながらその一瞬を今か今かと待ち控える。対するキーリはそんなリディアの狙いを外すつもりなのか、全く動かずに先程のルール説明を聞いていた時と同じように腕を組んで仁王立ちを続けていた。
……
……
……
「ねぇ? どっちが先に動くかしらねぇ?」
レアは観客席の隣に居るリーシャに問いかける。
「あのリディアって人は私とスタイルが似てる気がする。キーリ姉さんが動く隙、もしくは相手の攻撃に合わせて斬り掛かるつもりよ」
ソフィの配下の二人は『シチョウ』に特別室で見る事を勧められたが、臨場感を味わいたいリーシャが、観客席を希望した為に、特別に屋外の最前列の席を用意されたのだった。そしてその最前席に座った二人は、試合の中でどちらが先に動くかを話し合うのだった。
「カウンターを狙っているという事ね? じゃあキーリはゆっくり動いてリディアに神経を使わせた方がいいわねぇ」
「そうね。でもこういうスタイルをとる奴は、相手の隙を狙う事に慣れている筈。数分程度じゃ、苦にも思わないでしょうねぇ?」
試合開始のコールからずっとリディアは、キーリの全ての動きを見逃すまいと集中していた。恐ろしい集中力を見せるリディアの様子は、例え雨が降ってこようともピタリと動かずに、今の態勢を保ち続けるだろう。
……
……
……
「どうやら俺が動くまで待つつもりだな? 面白い。では誘いに乗ってやろうか?」
『緑のオーラ』を纏いながら『キーリ』は笑みを浮かべてそう言った。そしてキーリは小柄な体を自ら押し出すかの如く、リディアに攻撃を仕掛ける為に動いた。
――その次の瞬間だった。
「『居合』……」
リディアは目にも止まらぬ速さで柄を掴んでいた右手で刀を抜刀したかと思うと、動きを見せたキーリの元に一瞬で辿り着く。
「おっと!?」
一瞬で距離感を狂わせられたキーリは、攻撃にも防御にも中途半端な態勢のまま、迫りくるリディアの刀を見て舌打ちをする。
キーリをこの一撃で仕留める事は出来ないだろうと踏んでの一撃かもしれないが、そのリディアの放った水平斬りは、試合の『ルール』を完全に無視したかの如く、首を一刀両断にするかの如く斬り放たれた。
リディアに攻撃を仕掛けるつもりだった為、空中で中途半端な速度だったキーリは、小柄な身体を利用するように首を下げて、何とかリディアの水平斬りを潜って躱してみせるのだった。
そして今度はこちらの番だとばかりにキーリは、地面を左手で叩いて右足を突き上げる。対するリディアは先程の水平斬りを躱された後、手を止めずにそのまま勢いを残して刀を返して刀を持つ右手を半回転させながら左手で刀の柄を持ち、下から攻撃を繰り出してきたキーリ目掛けて両手で持った刀で斬り下ろす。
――「袈裟斬り」
ドン・ピシャリという言葉が似合うような。まさにタイミングが噛み合った攻撃を仕掛けてくる。既に攻撃動作に入ってしまっている為に真下から蹴り上げてしまっているキーリは、そのリディアの攻撃を躱す事が出来ない。
『動作』『威圧』『所作』。その全てが一朝一夕では身に付かない程の完璧な一連の流れを見せるリディアだった。
「チッ……!!」
キーリは器用に脚の踵で『リディア』の刀の刃先の横手を蹴り飛ばして、強引に刀の切先をズラす。そして刀に込められたリディアの力を利用して宙返りをしながら、危険域を脱する事に成功してみせる。まるで『ラルフ』の体捌きをなぞるかの如く、器用に身体を利用してキーリは戦うのだった。
「やれやれ。あっさりと躱してみせたか。流石だな? 『龍族の王』」
自分の間合いの中に入ってきた獲物が無傷で脱された事で、リディアは不満そうにそう呟き、そして再び納刀したかと思うと、試合の始まりの時のように居合抜刀の構えに戻るのだった。
――元の場所に戻ったキーリは溜息を吐いた。
(予想以上の速さだな。あれじゃ先手を取ろうと動いても、常にジリ貧にされちまう)
余裕たっぷりだった表情を引き締め直したキーリは、リディアを強敵と認め直すのだった。
……
……
……
キーリがリディアの戦いぶりを見たのは前回の闘技場だった。当時ランクBのボスであった『ユファ』と戦い、敗北を喫したリディアだったが『金色のオーラ』の体現の片鱗を見せた人間はこれからの躍進を感じさせる程の逸材だと、あの時にキーリは確信するに至った。
リングに上がる寸前にキーリは、リング上のリディアに視線を送る。ロープを背にしながら鞘に収まっている刀の柄部分を左手で這わせてリディアは、キーリを見つめ返している。
「……」
「……」
――互いに言葉はなかった。
そしてキーリは深呼吸をした後に、意を決して『リディア』の居る『リング』に上がるのだった。
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「ああ。こりゃ懐かしいな。こいつは確かにあの時代に居た龍族だ」
観客席で空席となった前の席に足を投げ出しながら、リング上に上がったキーリを見て『レキ』はそう呟くのだった。
マナーの悪い座り方をしているレキに注意する者は居ない。それどころかレキの周囲の観客達は、レキの存在など見えていないかのように、皆一様に虚空を見つめていた。
「人間が龍族を倒せばそれなりに盛り上がるだろうがな? さてどうなる」
レキは心底楽しそうにリング上の二人に視線を注ぐのだった。
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「どうやら間に合ったようだな」
「うわああっ!?」
特別室でシチョウがリング上を見下ろしていると、突如ソフィが『転移』でシチョウの隣に姿を見せた為に、彼は驚いて椅子から転げ落ちそうになるのだった。
「お、驚かすなよソフィ……ッ! アイゲンも刀から手を離せ!」
「す、すみません!」
ソフィの突然の登場で驚いたのはシチョウだけではなく、護衛を務めるアイゲンもまた王を守る為に咄嗟に刀を抜こうとするのだった。
「いやいやすまぬな。もう歩いてきてはもう間に合わぬだろうと思ってな」
ソフィは素直に謝罪を告げるのだった。
「全くもう……!」
溜息を吐きながら『シチョウ』は頭を掻くのだった。
「で? 試合前にどこに行っていたんだ?」
「ああ。少し確認をしておきたいことがあってな」
――『それはお前の配下の試合より重要な事なのか』とシチョウは思ったが、どうやらソフィの真剣な表情を見て、実際に言葉にする事をやめるのだった。
「そうか……。おっと、そろそろ始まるようだぞ」
リングの上では先程上がってきた『キーリ』と、先に上がっていた『リディア』がリングの中央に寄ってきていた。そして両者の間に立つように『エキシビションマッチ』の決勝の審判を務める『トウジン』魔国の魔族がルールの説明を始めていた。
リディアとキーリの身長差は相当なもので、両者が並ぶとまるで子供と大人が相対しているようにも見えるのだった。しかしキーリは気後れする事もなく、リディアの前で腕を組みながら堂々と構える。審判が隣でルールを説明しているが、両者の視線は互いの顔に集中しており、すでに両者の頭の中ではどう相手と戦うかを考えているようだった。
「それでは両者、一度下がって……!」
ルールの説明を終えた審判は『キーリ』と『リディア』を一度下がらせて、試合開始のコールの準備を始める。互いに距離をとった後に審判は、手をあげて試合開始のコールを告げるのだった。
「それでは……、エキシビションマッチの決勝戦! 試合開始!」
コールが行われた直後に『リディア』は右手で、刀の柄目貫をなぞりながら前傾姿勢をとる。どうやらキーリが攻撃動作に移る瞬間に斬り掛かるつもりのようである。ゆっくりとリディアは『金色のオーラ』を纏いながらその一瞬を今か今かと待ち控える。対するキーリはそんなリディアの狙いを外すつもりなのか、全く動かずに先程のルール説明を聞いていた時と同じように腕を組んで仁王立ちを続けていた。
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「ねぇ? どっちが先に動くかしらねぇ?」
レアは観客席の隣に居るリーシャに問いかける。
「あのリディアって人は私とスタイルが似てる気がする。キーリ姉さんが動く隙、もしくは相手の攻撃に合わせて斬り掛かるつもりよ」
ソフィの配下の二人は『シチョウ』に特別室で見る事を勧められたが、臨場感を味わいたいリーシャが、観客席を希望した為に、特別に屋外の最前列の席を用意されたのだった。そしてその最前席に座った二人は、試合の中でどちらが先に動くかを話し合うのだった。
「カウンターを狙っているという事ね? じゃあキーリはゆっくり動いてリディアに神経を使わせた方がいいわねぇ」
「そうね。でもこういうスタイルをとる奴は、相手の隙を狙う事に慣れている筈。数分程度じゃ、苦にも思わないでしょうねぇ?」
試合開始のコールからずっとリディアは、キーリの全ての動きを見逃すまいと集中していた。恐ろしい集中力を見せるリディアの様子は、例え雨が降ってこようともピタリと動かずに、今の態勢を保ち続けるだろう。
……
……
……
「どうやら俺が動くまで待つつもりだな? 面白い。では誘いに乗ってやろうか?」
『緑のオーラ』を纏いながら『キーリ』は笑みを浮かべてそう言った。そしてキーリは小柄な体を自ら押し出すかの如く、リディアに攻撃を仕掛ける為に動いた。
――その次の瞬間だった。
「『居合』……」
リディアは目にも止まらぬ速さで柄を掴んでいた右手で刀を抜刀したかと思うと、動きを見せたキーリの元に一瞬で辿り着く。
「おっと!?」
一瞬で距離感を狂わせられたキーリは、攻撃にも防御にも中途半端な態勢のまま、迫りくるリディアの刀を見て舌打ちをする。
キーリをこの一撃で仕留める事は出来ないだろうと踏んでの一撃かもしれないが、そのリディアの放った水平斬りは、試合の『ルール』を完全に無視したかの如く、首を一刀両断にするかの如く斬り放たれた。
リディアに攻撃を仕掛けるつもりだった為、空中で中途半端な速度だったキーリは、小柄な身体を利用するように首を下げて、何とかリディアの水平斬りを潜って躱してみせるのだった。
そして今度はこちらの番だとばかりにキーリは、地面を左手で叩いて右足を突き上げる。対するリディアは先程の水平斬りを躱された後、手を止めずにそのまま勢いを残して刀を返して刀を持つ右手を半回転させながら左手で刀の柄を持ち、下から攻撃を繰り出してきたキーリ目掛けて両手で持った刀で斬り下ろす。
――「袈裟斬り」
ドン・ピシャリという言葉が似合うような。まさにタイミングが噛み合った攻撃を仕掛けてくる。既に攻撃動作に入ってしまっている為に真下から蹴り上げてしまっているキーリは、そのリディアの攻撃を躱す事が出来ない。
『動作』『威圧』『所作』。その全てが一朝一夕では身に付かない程の完璧な一連の流れを見せるリディアだった。
「チッ……!!」
キーリは器用に脚の踵で『リディア』の刀の刃先の横手を蹴り飛ばして、強引に刀の切先をズラす。そして刀に込められたリディアの力を利用して宙返りをしながら、危険域を脱する事に成功してみせる。まるで『ラルフ』の体捌きをなぞるかの如く、器用に身体を利用してキーリは戦うのだった。
「やれやれ。あっさりと躱してみせたか。流石だな? 『龍族の王』」
自分の間合いの中に入ってきた獲物が無傷で脱された事で、リディアは不満そうにそう呟き、そして再び納刀したかと思うと、試合の始まりの時のように居合抜刀の構えに戻るのだった。
――元の場所に戻ったキーリは溜息を吐いた。
(予想以上の速さだな。あれじゃ先手を取ろうと動いても、常にジリ貧にされちまう)
余裕たっぷりだった表情を引き締め直したキーリは、リディアを強敵と認め直すのだった。
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