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闘技場編

516.目標の存在

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 シーカの合図でリング上に担架を持った救護職員が複数入ってくる。そのまま医務室へ運び込もうとする救護職員をユファは留める。

「そのままゆっくりと地面に担架を置いて! 後は私が治すから、この場から離れなさい!」

 鬼気迫る程のユファの表情を見た、救護職員達は頷きながら慌てて離れた。

「やれやれ、だ」

 ぼそりとユファには聞こえない程の声で、その様子を見ていたリディアは呟くのだった。

 ……
 ……
 ……

「言っちゃ悪いが、差がありすぎたな」

 ラルフの試合を観客席で見ていたキーリが、溜息交じりにそう口にする。

「今の試合をラルフが勝つには、試合開始コールの一瞬。最初のあの一撃だけで、仕留める以外に方法はなかったわねぇ?」

 キーリに返事をするように、隣に居るレアはそう告げた。

「確かに一瞬見せた迷いの所為もあるだろうが、それを抜きにしても、たとえ最初の攻撃が上手く嵌っていても試合を決めるまでには行かなかったと思うぜ?」

 あのまま上手くいっていたとしても、リディアの首を絞め落とせたかと言われると『金色』での力の上昇率を踏まえると、あれだけの速度であっても難しかっただろうと『キーリ』は考えるのだった。

「次はキーリ。貴方がリディアとやるんでしょぉ? 『全力』でやらないと負けるかもね?」

 レアは片目を閉じながら、キーリを見ながらそう言うとキーリは笑う。

「レア。あんまりこのを舐めるなよ?」

 椅子から立ち上がるとキーリは、そのままどこかへ立ち去っていった。

「しかし人間ってここまで強くなるものなのかしらぁ? 今のラルフの居る領域ですら私には驚きなのだけど、リディアって子はどこか、をしてるわねぇ」

(それに何か懐かしい感覚をあの子から覚えるのよねぇ。この世界で彼とどこかで会っていたのかしらぁ?)

 それはリディア自身ではなく、彼の中に宿る魔人の血。祖父にあたる魔人『ラクス』の面影を感じているのだが、その事にレアはまだ知るよしもなかった。

 ……
 ……
 ……

「やはり奴はすでに『金色』を自分のモノに出来ていたか」

 ソフィは特別室からリングの上に居る『リディア』を見下ろしながらそう言葉を漏らす。

「おいおい。人間はいつから、ここまでやるようになったんだ?」

 シチョウは勝者となったリディアではなく、ユファに治療されている『ラルフ』を見ながらそう言った。

 負けたラルフであっても魔族である『シチョウ』を遥かに上回る速さと強さだった。ほんの少し前まで人間は、魔族には到底適わぬ脆弱な種族だとされていた。

 前ラルグ魔国王『シーマ』が『ヴェルマー』大陸の王となった頃までは、戦力値が3000万を越える『最上位魔族』が一体でも居れば『ミールガルド』大陸を制圧出来ると言われていたのである。

 それが今ではどうだ。あのあっさりと倒されたラルフでさえ、戦力値は悠々とを越える程の強さだった。そのラルフをあっさりと倒した『リディア』は如何ほどなのか――。

 シチョウがそう考えていると横に居る『ソフィ』が再び口を開いた。

「あやつは我に『魔王』程度は相手にならぬと告げてきたが、確かに今の『金色』を纏う奴程の『力』があればとても大言壮語とは言えぬな」

「おいおい。魔王すらこの数千年はこの世界で姿を現した事は無かった筈なんだが……」

 シチョウは『一体、で何が起きているのだ』と頭を悩ませるのだった。

 ……
 ……
 ……

 ラルフ対リディアの試合はリディアの勝利で終わり、リディアに怪我は見られない為、当初の予定通り、数時間後に連戦となる『エキシビションマッチ』が行われる事となった。

 エキシビションマッチ第二戦目は『リディア』とランクボスである龍族『キーリ』との試合である。

 そしてその旨をリングに上がった実況アナウンサーから知らされると、観客席は大いに盛り上がりを見せた。そしてそのアナウンスは、治療中に意識を取り戻したラルフの耳にも届いていた。

「私は負けたのですね。すみませんユファさん。あれだけ面倒を見て頂いたのに、結局は何もできませんでした……」

 担架の上で横たわりながら、今も治癒の魔法を使ってくれているユファに告げる。

「負けた事は受け止めなさい。だけど、何も出来なかったわけではないわよ? その証拠にあいつは、最初何も使わずに貴方と戦った。だけどそのままだと負けると判断したからこそ、あいつは『使

 ――「『よくやったわ。強くなったわね』」。

 ユファは心の底からそう言っているのだと、ラルフにも伝わってきた。

「ありがとうございます。一から出直しですね」

 敗北をしたラルフだったがもう大丈夫だろう。

 ――『目標』が在り続ける限り、ラルフは更に強くなろうと邁進まいしんする筈なのだから。

 リディアはリング上でに、薄く笑みを浮かべながらリングを後にするのだった。
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