525 / 1,989
闘技場編
513.互いに認める者同士
しおりを挟む
「さて、本番ですね」
闘技場の中にある選手用の控室でラルフは瞑想をしていたが、やがて眼を開けてそう呟く。新しく出来た闘技場はランクに分かれて、控室も多く用意されているが個室という訳ではない。
しかし現在この選手控室にはラルフしか居ない。その理由として今回は、エキシビションマッチの為にリディアは別のランクが使う控室を使っているからである。
今回のようなエキシビションで戦う者同士が、試合前から同じ部屋というのもどうかという考えを持つ闘技場の直接の運営をしている『トウジン』魔国のNo.5である『シェラリク・トールス』の計らいであった。
広い選手控室の中でラルフは、目標としていたリディアの姿を思い浮かべる。
ミールガルド大陸に居る時からリディアの名声は轟いていたが、魔族達が多く蔓延るこのヴェルマー大陸でさえ、すでにリディアの人気は高い。
大陸中から集まる闘技場で前人未踏のランクBに最初に到達した人間として、多くの魔族達に知らしめたからである。
それだけに留まらず、前回のランクBボスである『レイズ』魔国のNo.2である『ユファ・フィクス』を相手に敗北はしたが、善戦をしたという事もこれだけの人気を得るには十分だったのだろう。
ラルフ自身もリディアは目標として尊敬している一人であった。しかしそのリディアが放った前回の言葉は、ラルフにはとても許容出来る言葉ではなかった。
その理由として元々ラルフの師が、ユファという事もあったが、前回の大会で、ユファに負けているにも拘らずリディアの言葉にあった『今さら魔王程度など俺の敵にはならない』というこの言葉にラルフは頭にきたのである。
リディアがユファに勝利を収めたのであれば、こういう言葉を吐かれても仕方がないと思うが、負けているにも拘らず、勝利した相手を敬わずに眼中に無いとばかりの発言が、ラルフは許せなかったのである。
勿論リディアの言葉は、ユファ個人に対して言った訳ではないだろうが、ラルフはそんな事よりもソフィ様やキーリさんに挑もうというのならば、まずユファさんに再戦を申し込むのが筋だろうと、そう考えて憤慨しているのだった。
だが、こういう感情を持つこと自体に、リディアが彼の中で大きな存在だったという事であり、自身の尊敬するリディアという剣士に失望感を抱き、その事に対しての怒りが大半を占めているのだとラルフ自身は気づいてはいないのだった。
しかし理由はどうあれ許せないという気持ちを抱いたラルフは、自身の鬱憤を晴らす為に『ミールガルド』大陸の『最強の剣士』に挑むのであった。
……
……
……
本来はランクBの選手達に宛がわれる選手控室の中でリディアは、椅子に腰掛けながらじっと入り口の扉を見つめていた。彼が今考えている事は、これから戦うラルフの事でもいずれ斬るつもりであるソフィの事でもなかった。
「世の中は本当に広いな。俺の知らない世界がいくつも存在している」
その呟きは実際に別にある『世界』の事を指しているワケではなかった。
彼自身が持っていた力を彼自身が今まで知らなかったというのに、あの『レキ・ヴェイルゴーザ』という魔族の男は、リディアの持つ力に驚きもせずにあっさりと、その『力』の使い方さえ教えてきた。
そしてリディアにとってのこの新たな境地と呼べる『力』は、彼より強い者達なら誰もが知っていて当たり前のように使っているのだろう。
そんな事をリディアは今まで知らず、今までミールガルド大陸という小さい世界で他者から、最強の剣士と持て囃されて『俺には敵が居ない』と心の底から思っていたのである。
――これは何と滑稽な事だろうか?
なんとかリディアはレキとの研鑽の中で、みっともなさを感じながらも挫けずに力をつけて行ったが、今回の闘技場への参加はいわば、そんなみっともないという気持ちを自身で払拭したいという強い気持ちの表れであった。
そしてリディアはようやく『上』を見上げる事を知ったのだと、他の誰でもない『ソフィ』に知って欲しかったのである。
まるで子供が抱くような考えだが、彼にとっては重要な事なのである。少しばかり強引で必死なリディアの訴えを聞いたソフィはリディアの願い通り、彼の成長を見に来てくれると言ってくれた。
しかし何を勘違いしたのか、言葉選びが悪かったのだろうが隣に居たアイツは俺に殺意を向けてきた。
どうやらあの『ユファ』という女を軽視されたのだと、アイツは勘違いをしたのだろう。
「馬鹿馬鹿しい。あの女も『上』を知る魔族だ。尊敬することはあっても、この俺があの女を軽視する筈がないだろうに」
誰も聞いていない控室で本音を漏らすリディアだった。
しかし本音がどうであってもこうなってしまった以上は『ラルフ』との戦いを避ける訳にもいかない。それにアイツが自分を目標にしている事は知っている。それならば今のアイツの力量を知るには丁度いい機会だろう。
「俺を目標にするのは勝手だが、死ぬ気でついてこなければ置いていくぞ『ラルフ』」
静かに金色のオーラを纏いながら、認めた元殺し屋の名を呼ぶリディアであった。
闘技場の中にある選手用の控室でラルフは瞑想をしていたが、やがて眼を開けてそう呟く。新しく出来た闘技場はランクに分かれて、控室も多く用意されているが個室という訳ではない。
しかし現在この選手控室にはラルフしか居ない。その理由として今回は、エキシビションマッチの為にリディアは別のランクが使う控室を使っているからである。
今回のようなエキシビションで戦う者同士が、試合前から同じ部屋というのもどうかという考えを持つ闘技場の直接の運営をしている『トウジン』魔国のNo.5である『シェラリク・トールス』の計らいであった。
広い選手控室の中でラルフは、目標としていたリディアの姿を思い浮かべる。
ミールガルド大陸に居る時からリディアの名声は轟いていたが、魔族達が多く蔓延るこのヴェルマー大陸でさえ、すでにリディアの人気は高い。
大陸中から集まる闘技場で前人未踏のランクBに最初に到達した人間として、多くの魔族達に知らしめたからである。
それだけに留まらず、前回のランクBボスである『レイズ』魔国のNo.2である『ユファ・フィクス』を相手に敗北はしたが、善戦をしたという事もこれだけの人気を得るには十分だったのだろう。
ラルフ自身もリディアは目標として尊敬している一人であった。しかしそのリディアが放った前回の言葉は、ラルフにはとても許容出来る言葉ではなかった。
その理由として元々ラルフの師が、ユファという事もあったが、前回の大会で、ユファに負けているにも拘らずリディアの言葉にあった『今さら魔王程度など俺の敵にはならない』というこの言葉にラルフは頭にきたのである。
リディアがユファに勝利を収めたのであれば、こういう言葉を吐かれても仕方がないと思うが、負けているにも拘らず、勝利した相手を敬わずに眼中に無いとばかりの発言が、ラルフは許せなかったのである。
勿論リディアの言葉は、ユファ個人に対して言った訳ではないだろうが、ラルフはそんな事よりもソフィ様やキーリさんに挑もうというのならば、まずユファさんに再戦を申し込むのが筋だろうと、そう考えて憤慨しているのだった。
だが、こういう感情を持つこと自体に、リディアが彼の中で大きな存在だったという事であり、自身の尊敬するリディアという剣士に失望感を抱き、その事に対しての怒りが大半を占めているのだとラルフ自身は気づいてはいないのだった。
しかし理由はどうあれ許せないという気持ちを抱いたラルフは、自身の鬱憤を晴らす為に『ミールガルド』大陸の『最強の剣士』に挑むのであった。
……
……
……
本来はランクBの選手達に宛がわれる選手控室の中でリディアは、椅子に腰掛けながらじっと入り口の扉を見つめていた。彼が今考えている事は、これから戦うラルフの事でもいずれ斬るつもりであるソフィの事でもなかった。
「世の中は本当に広いな。俺の知らない世界がいくつも存在している」
その呟きは実際に別にある『世界』の事を指しているワケではなかった。
彼自身が持っていた力を彼自身が今まで知らなかったというのに、あの『レキ・ヴェイルゴーザ』という魔族の男は、リディアの持つ力に驚きもせずにあっさりと、その『力』の使い方さえ教えてきた。
そしてリディアにとってのこの新たな境地と呼べる『力』は、彼より強い者達なら誰もが知っていて当たり前のように使っているのだろう。
そんな事をリディアは今まで知らず、今までミールガルド大陸という小さい世界で他者から、最強の剣士と持て囃されて『俺には敵が居ない』と心の底から思っていたのである。
――これは何と滑稽な事だろうか?
なんとかリディアはレキとの研鑽の中で、みっともなさを感じながらも挫けずに力をつけて行ったが、今回の闘技場への参加はいわば、そんなみっともないという気持ちを自身で払拭したいという強い気持ちの表れであった。
そしてリディアはようやく『上』を見上げる事を知ったのだと、他の誰でもない『ソフィ』に知って欲しかったのである。
まるで子供が抱くような考えだが、彼にとっては重要な事なのである。少しばかり強引で必死なリディアの訴えを聞いたソフィはリディアの願い通り、彼の成長を見に来てくれると言ってくれた。
しかし何を勘違いしたのか、言葉選びが悪かったのだろうが隣に居たアイツは俺に殺意を向けてきた。
どうやらあの『ユファ』という女を軽視されたのだと、アイツは勘違いをしたのだろう。
「馬鹿馬鹿しい。あの女も『上』を知る魔族だ。尊敬することはあっても、この俺があの女を軽視する筈がないだろうに」
誰も聞いていない控室で本音を漏らすリディアだった。
しかし本音がどうであってもこうなってしまった以上は『ラルフ』との戦いを避ける訳にもいかない。それにアイツが自分を目標にしている事は知っている。それならば今のアイツの力量を知るには丁度いい機会だろう。
「俺を目標にするのは勝手だが、死ぬ気でついてこなければ置いていくぞ『ラルフ』」
静かに金色のオーラを纏いながら、認めた元殺し屋の名を呼ぶリディアであった。
0
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる