最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

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闘技場編

513.互いに認める者同士

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「さて、本番ですね」

 闘技場の中にある選手用の控室でラルフは瞑想をしていたが、やがて眼を開けてそう呟く。新しく出来た闘技場はランクに分かれて、控室も多く用意されているが個室という訳ではない。

 しかし現在この選手控室にはラルフしか居ない。その理由として今回は、エキシビションマッチの為にリディアは別のランクが使う控室を使っているからである。

 今回のようなエキシビションで戦う者同士が、試合前から同じ部屋というのもどうかという考えを持つ闘技場の直接の運営をしている『トウジン』魔国のNo.5である『シェラリク・トールス』の計らいであった。

 広い選手控室の中でラルフは、目標としていたリディアの姿を思い浮かべる。

 ミールガルド大陸に居る時からリディアの名声は轟いていたが、魔族達が多く蔓延るこのヴェルマー大陸でさえ、すでにリディアの人気は高い。

 大陸中から集まる闘技場で前人未踏のランクBにとして、多くの魔族達に知らしめたからである。

 それだけに留まらず、前回のランクBボスである『レイズ』魔国のNo.2である『ユファ・フィクス』を相手に敗北はしたが、善戦をしたという事もこれだけの人気を得るには十分だったのだろう。

 ラルフ自身もリディアは目標として尊敬している一人であった。しかしそのリディアが放った前回の言葉は、ラルフにはとても許容出来る言葉ではなかった。

 その理由として元々ラルフの師が、ユファという事もあったが、前回の大会で、リディアの言葉にあった『今さら魔王程度など俺の敵にはならない』というこの言葉にラルフは頭にきたのである。

 リディアがユファに勝利を収めたのであれば、こういう言葉を吐かれても仕方がないと思うが、、勝利した相手を敬わずにとばかりの発言が、ラルフは許せなかったのである。

 勿論リディアの言葉は、個人に対して言った訳ではないだろうが、ラルフはそんな事よりもソフィ様やキーリさんに挑もうというのならば、まずユファさんに再戦を申し込むのが筋だろうと、そう考えて憤慨しているのだった。

 だが、こういう感情を持つこと自体に、リディアが彼の中で大きな存在だったという事であり、自身の尊敬するリディアという剣士に失望感を抱き、その事に対しての怒りが大半を占めているのだとラルフ自身は気づいてはいないのだった。

 しかし理由はどうあれ許せないという気持ちを抱いたラルフは、自身の鬱憤を晴らす為に『ミールガルド』大陸の『最強の剣士』に挑むのであった。

 ……
 ……
 ……

 本来はランクBの選手達に宛がわれる選手控室の中でリディアは、椅子に腰掛けながらじっと入り口の扉を見つめていた。彼が今考えている事は、これから戦うラルフの事でもいずれ斬るつもりであるソフィの事でもなかった。

「世の中は本当に広いな。俺の知らない世界がいくつも存在している」

 その呟きは実際に別にある『』の事を指しているワケではなかった。

 彼自身が持っていた力を彼自身が今まで知らなかったというのに、あの『レキ・ヴェイルゴーザ』という魔族の男は、リディアの持つ力に驚きもせずにあっさりと、その『』の使い方さえ教えてきた。

 そしてリディアにとってのこのと呼べる『力』は、彼より強い者達なら誰もが知っていて当たり前のように使っているのだろう。

 そんな事をリディアは今まで知らず、今までミールガルド大陸という小さい世界で他者から、最強の剣士と持て囃されて『』と心の底から思っていたのである。

 ――これは何と滑稽な事だろうか?

 なんとかリディアはレキとの研鑽の中で、みっともなさを感じながらも挫けずに力をつけて行ったが、今回の闘技場への参加はいわば、そんなという気持ちを自身で払拭したいという強い気持ちの表れであった。

 そしてリディアはようやく『上』を見上げる事を知ったのだと、他の誰でもない『ソフィ』に知って欲しかったのである。

 まるで子供が抱くような考えだが、彼にとっては重要な事なのである。少しばかり強引で必死なリディアの訴えを聞いたソフィはリディアの願い通り、彼の成長を見に来てくれると言ってくれた。

 しかし何を勘違いしたのか、言葉選びが悪かったのだろうが隣に居たアイツラルフは俺に殺意を向けてきた。

 どうやらあの『ユファ』という女を軽視されたのだと、

「馬鹿馬鹿しい。あの女も『上』を知る魔族だ。尊敬することはあっても、この俺があの女を軽視する筈がないだろうに」

 誰も聞いていない控室で本音を漏らすリディアだった。

 しかし本音がどうであってもこうなってしまった以上は『ラルフ』との戦いを避ける訳にもいかない。それにアイツが自分を目標にしている事は知っている。それならば今のアイツの力量を知るには丁度いい機会だろう。

「俺を目標にするのは勝手だが、死ぬ気でついてこなければ置いていくぞ『』」

 静かに金色のオーラを纏いながら、を呼ぶリディアであった。
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