最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
520 / 1,966
闘技場編

508.出会ってしまった二人

しおりを挟む
 出ていた露店で『リーシャ』に贈り物をした後、ソフィ達は闘技場がある場所へ到着するのだった。すでに『闘技場』の修復作業は完全に終わったようで、後はシチョウが再開を認めればいつでも開かれるような状況であった。

「しかし本当に素晴らしいな。これが『国王』と『民』が互いに同じ方向を向いておる結果か」

 ソフィがそう呟いたのを聞いて、ディアトロスは成程となかりに頷いた。

(そう言う事か、確かに我らの世界では、難しいじゃわい)

『智謀』ディアトロスは一を聞いて十を知るような人物である。

 自分の主の先程の呟きを聞いて、その主がどういう事を考えているかを察するのだった。やがてソフィは闘技場を後にしようと背を向けた。

 ――その時だった。

「おい、そこの坊主。止まりやがれ」

 ソフィはその声に足を止めて声の方を振り返った。

「?」

「坊主。何やら熱心に『闘技場』を見ていたが、お前も出場するつもりなのか?」

 金髪の男がディアトロスやリーシャを無視して、明確にソフィだけを見つめながら口を開く。怪しい奴だなとソフィは思ったが、あえて素直に答える事にする。

「いや、我は出ぬよ。知り合いが出場するのでな、いつ頃開かれるかと様子を見ていたのだ」

 配下とは言わずに知り合いという言葉を使いながら、怪しい男にそう返答すると、その言葉に納得したとばかりに頷く、金色の髪がボサボサの男だった。

「次の大会ではとある人間が勝ち上がり、闘技場を仕切ってやがる龍族を打ち倒す事になる。とやらは、残念ながら無様に負けるだろうな」

 髪がボサボサなのを除けば顔立ちの整っている男は、似合わぬ下卑た笑いをソフィ達に見せながらそう告げた。

「ほう? 龍族はこの世界を支配していたと聞いたが、そんな龍族を相手に人間が勝つとお主は言うのか?」

 ソフィは男に素性を知られぬよう、深くローブを被りながら演技をするように弁を返す。

「そりゃ勝てるんじゃないか? 『

 キーリがもしここに居れば、大憤慨をしている事だろうなとソフィは、男を見ながらそう思うのだった。

「闘技場に出ているランクボスの龍族は始祖龍らしいが、それでも勝てるとお主は言うのか?」

 ソフィが少し踏み込んで事細やかに話すと、金髪の男はソフィを見て再び嗤う。

「やけに詳しいじゃねぇか。どうやら

 金髪の男はそう言うと、ゆっくりとソフィに近づいてきた。

「どれ、少し試してやろう」

 ソフィの近くまで来た後金髪の男は、鮮やかなエメラルドブルーの目を『金色』に変えた。

 その瞬間――。

 キィイインという音が辺りに響き渡ったかと思うと、ソフィを対象に男の『金色の目ゴールド・アイ』は発動された。

 しかし『金色の目ゴールド・アイ』の効力がソフィに向かう直前、左右から男と同じ魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』が同時に発動されて、男の『金色の目ゴールド・アイ』は相殺されるのだった。

「アンタ、いい加減にしなよ? 誰に向かって舐めた真似してるか、分かってんのぉ?」

「調子に乗るのはその辺にしておくがよいぞ? 若造」

 金髪の男の『金色の目ゴールド・アイ』を相殺したのは、ソフィではなく喧嘩を売ってきた男に対して苛立ちを見せる『リーシャ』と『ディアトロス』であった。

 男はあっさりと目論みを妨害された事で、少し驚いた表情を浮かべていたが、やがてまた笑い始めた。

「そうか。やはりお前達がアイツの言っていた奴らか。これで確信できた」

 金髪の男はそう言うと、もう用は済んだとばかりに背を向け始めた。

「ちょっとアンタ。この方に手を出そうとしておいて、このまま無事に逃げられると思ってんのぉ?」

 リーシャは『』で両手に短剣を具現化を行うと、クルクルと器用に手の中で回し始める。金髪の男は足を止めてリーシャの方を振り向くと、邪悪な笑みをみせた。

 次の瞬間、金髪の男の周りを『』のオーラが同時に出現して、即座に交ざり合っていく。

「何?」

 ソフィが反応するが膨れ上がった男の戦力値に、闘争本能が呼び起こされたリーシャは、咄嗟に身体を突き動かされてしまう。

「うわあああ!」

 リーシャの身体も『金色』が纏われたかと思うと、一瞬で金髪の男へ向かっていく。

 金髪の男は『』で具現化した刀に金色を纏わせながら真っすぐに向かってきた、リーシャの短剣を受け止めると、両手を突き出して弾き返す。

「クカカカッ! まぁそう焦るなよ。今はまだその時じゃねぇよ」

 金髪の男はそうリーシャに告げながら、視線をディアトロスに向け始める。

『ディアトロス』はリーシャが金髪の男に向かった瞬間に、直ぐに『極大魔法』を放つ為の『発動羅列』を刻み始めていた。そして既にいつでも準備させている『魔力』を使えば発動できる状態であったその『魔法』ではなく『魔力』を留める『スタック』に対して、彼の『魔力』が向けられた。

「むっ!?」

(魔法を発動させる準備が整った魔法陣を無視して、ワシの『スタック』を直接狙うとは!)

 ディアトロスは暴発を防ぐ為に、使おうとしていた魔法を慌ててキャンセルする。

 もしあと少し魔法をキャンセルするのが遅ければ、ここら一帯は吹き飛び『闘技場』の開催は更に遅れる事となっただろう。

「もうよい。主の名は何という?」

 再び飛び掛かろうとしていたリーシャを止めたソフィは、金髪の男に名を尋ねる。

「俺の名は『レキ・ヴェイルゴーザ』だ。覚えておけ」

 レキと名乗った金髪の男は、そのまま音も無く消えていった。

「『レキ』……か」

 ソフィは先程まで立っていた『レキ』の場所を見つめながらそう呟くのだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...