520 / 1,985
闘技場編
508.出会ってしまった二人
しおりを挟む
出ていた露店で『リーシャ』に贈り物をした後、ソフィ達は闘技場がある場所へ到着するのだった。すでに『闘技場』の修復作業は完全に終わったようで、後はシチョウが再開を認めればいつでも開かれるような状況であった。
「しかし本当に素晴らしいな。これが『国王』と『民』が互いに同じ方向を向いておる結果か」
ソフィがそう呟いたのを聞いて、ディアトロスは成程となかりに頷いた。
(そう言う事か、確かに我らの世界では、難しい国造りの在り方じゃわい)
『智謀』ディアトロスは一を聞いて十を知るような人物である。
自分の主の先程の呟きを聞いて、その主がどういう事を考えているかを察するのだった。やがてソフィは闘技場を後にしようと背を向けた。
――その時だった。
「おい、そこの坊主。止まりやがれ」
ソフィはその声に足を止めて声の方を振り返った。
「?」
「坊主。何やら熱心に『闘技場』を見ていたが、お前も出場するつもりなのか?」
金髪の男がディアトロスやリーシャを無視して、明確にソフィだけを見つめながら口を開く。怪しい奴だなとソフィは思ったが、あえて素直に答える事にする。
「いや、我は出ぬよ。知り合いが出場するのでな、いつ頃開かれるかと様子を見ていたのだ」
配下とは言わずに知り合いという言葉を使いながら、怪しい男にそう返答すると、その言葉に納得したとばかりに頷く、金色の髪がボサボサの男だった。
「次の大会ではとある人間が勝ち上がり、闘技場を仕切ってやがる龍族を打ち倒す事になる。お前の知り合いとやらは、残念ながら無様に負けるだろうな」
髪がボサボサなのを除けば顔立ちの整っている男は、似合わぬ下卑た笑いをソフィ達に見せながらそう告げた。
「ほう? 龍族はこの世界を支配していたと聞いたが、そんな龍族を相手に人間が勝つとお主は言うのか?」
ソフィは男に素性を知られぬよう、深くローブを被りながら演技をするように弁を返す。
「そりゃ勝てるんじゃないか? 『龍』なんぞ空を群れて、飛んでるだけじゃねぇか」
キーリがもしここに居れば、大憤慨をしている事だろうなとソフィは、男を見ながらそう思うのだった。
「闘技場に出ているランクボスの龍族は始祖龍らしいが、それでも勝てるとお主は言うのか?」
ソフィが少し踏み込んで事細やかに話すと、金髪の男はソフィを見て再び嗤う。
「やけに詳しいじゃねぇか。どうやらお前で間違いなさそうだな」
金髪の男はそう言うと、ゆっくりとソフィに近づいてきた。
「どれ、少し試してやろう」
ソフィの近くまで来た後金髪の男は、鮮やかなエメラルドブルーの目を『金色』に変えた。
その瞬間――。
キィイインという音が辺りに響き渡ったかと思うと、ソフィを対象に男の『金色の目』は発動された。
しかし『金色の目』の効力がソフィに向かう直前、左右から男と同じ魔瞳『金色の目』が同時に発動されて、男の『金色の目』は相殺されるのだった。
「アンタ、いい加減にしなよ? 誰に向かって舐めた真似してるか、分かってんのぉ?」
「調子に乗るのはその辺にしておくがよいぞ? 若造」
金髪の男の『金色の目』を相殺したのは、ソフィではなく喧嘩を売ってきた男に対して苛立ちを見せる『リーシャ』と『ディアトロス』であった。
男はあっさりと目論みを妨害された事で、少し驚いた表情を浮かべていたが、やがてまた笑い始めた。
「そうか。やはりお前達がアイツの言っていた奴らか。これで確信できた」
金髪の男はそう言うと、もう用は済んだとばかりに背を向け始めた。
「ちょっとアンタ。この方に手を出そうとしておいて、このまま無事に逃げられると思ってんのぉ?」
リーシャは『紅』で両手に短剣を具現化を行うと、クルクルと器用に手の中で回し始める。金髪の男は足を止めてリーシャの方を振り向くと、邪悪な笑みをみせた。
次の瞬間、金髪の男の周りを『あらゆる色』のオーラが同時に出現して、即座に交ざり合っていく。
「何?」
ソフィが反応するが膨れ上がった男の戦力値に、闘争本能が呼び起こされたリーシャは、咄嗟に身体を突き動かされてしまう。
「うわあああ!」
リーシャの身体も『金色』が纏われたかと思うと、一瞬で金髪の男へ向かっていく。
金髪の男は『紅』で具現化した刀に金色を纏わせながら真っすぐに向かってきた、リーシャの短剣を受け止めると、両手を突き出して弾き返す。
「クカカカッ! まぁそう焦るなよ。今はまだその時じゃねぇよ」
金髪の男はそうリーシャに告げながら、視線をディアトロスに向け始める。
『ディアトロス』はリーシャが金髪の男に向かった瞬間に、直ぐに『極大魔法』を放つ為の『発動羅列』を刻み始めていた。そして既にいつでも準備させている『魔力』を使えば発動できる状態であったその『魔法』ではなく『魔力』を留める『スタック』に対して、彼の『魔力』が向けられた。
「むっ!?」
(魔法を発動させる準備が整った魔法陣を無視して、ワシの『スタック』を直接狙うとは!)
ディアトロスは暴発を防ぐ為に、使おうとしていた魔法を慌ててキャンセルする。
もしあと少し魔法をキャンセルするのが遅ければ、ここら一帯は吹き飛び『闘技場』の開催は更に遅れる事となっただろう。
「もうよい。主の名は何という?」
再び飛び掛かろうとしていたリーシャを止めたソフィは、金髪の男に名を尋ねる。
「俺の名は『レキ・ヴェイルゴーザ』だ。覚えておけ」
レキと名乗った金髪の男は、そのまま音も無く消えていった。
「『レキ』……か」
ソフィは先程まで立っていた『レキ』の場所を見つめながらそう呟くのだった。
……
……
……
「しかし本当に素晴らしいな。これが『国王』と『民』が互いに同じ方向を向いておる結果か」
ソフィがそう呟いたのを聞いて、ディアトロスは成程となかりに頷いた。
(そう言う事か、確かに我らの世界では、難しい国造りの在り方じゃわい)
『智謀』ディアトロスは一を聞いて十を知るような人物である。
自分の主の先程の呟きを聞いて、その主がどういう事を考えているかを察するのだった。やがてソフィは闘技場を後にしようと背を向けた。
――その時だった。
「おい、そこの坊主。止まりやがれ」
ソフィはその声に足を止めて声の方を振り返った。
「?」
「坊主。何やら熱心に『闘技場』を見ていたが、お前も出場するつもりなのか?」
金髪の男がディアトロスやリーシャを無視して、明確にソフィだけを見つめながら口を開く。怪しい奴だなとソフィは思ったが、あえて素直に答える事にする。
「いや、我は出ぬよ。知り合いが出場するのでな、いつ頃開かれるかと様子を見ていたのだ」
配下とは言わずに知り合いという言葉を使いながら、怪しい男にそう返答すると、その言葉に納得したとばかりに頷く、金色の髪がボサボサの男だった。
「次の大会ではとある人間が勝ち上がり、闘技場を仕切ってやがる龍族を打ち倒す事になる。お前の知り合いとやらは、残念ながら無様に負けるだろうな」
髪がボサボサなのを除けば顔立ちの整っている男は、似合わぬ下卑た笑いをソフィ達に見せながらそう告げた。
「ほう? 龍族はこの世界を支配していたと聞いたが、そんな龍族を相手に人間が勝つとお主は言うのか?」
ソフィは男に素性を知られぬよう、深くローブを被りながら演技をするように弁を返す。
「そりゃ勝てるんじゃないか? 『龍』なんぞ空を群れて、飛んでるだけじゃねぇか」
キーリがもしここに居れば、大憤慨をしている事だろうなとソフィは、男を見ながらそう思うのだった。
「闘技場に出ているランクボスの龍族は始祖龍らしいが、それでも勝てるとお主は言うのか?」
ソフィが少し踏み込んで事細やかに話すと、金髪の男はソフィを見て再び嗤う。
「やけに詳しいじゃねぇか。どうやらお前で間違いなさそうだな」
金髪の男はそう言うと、ゆっくりとソフィに近づいてきた。
「どれ、少し試してやろう」
ソフィの近くまで来た後金髪の男は、鮮やかなエメラルドブルーの目を『金色』に変えた。
その瞬間――。
キィイインという音が辺りに響き渡ったかと思うと、ソフィを対象に男の『金色の目』は発動された。
しかし『金色の目』の効力がソフィに向かう直前、左右から男と同じ魔瞳『金色の目』が同時に発動されて、男の『金色の目』は相殺されるのだった。
「アンタ、いい加減にしなよ? 誰に向かって舐めた真似してるか、分かってんのぉ?」
「調子に乗るのはその辺にしておくがよいぞ? 若造」
金髪の男の『金色の目』を相殺したのは、ソフィではなく喧嘩を売ってきた男に対して苛立ちを見せる『リーシャ』と『ディアトロス』であった。
男はあっさりと目論みを妨害された事で、少し驚いた表情を浮かべていたが、やがてまた笑い始めた。
「そうか。やはりお前達がアイツの言っていた奴らか。これで確信できた」
金髪の男はそう言うと、もう用は済んだとばかりに背を向け始めた。
「ちょっとアンタ。この方に手を出そうとしておいて、このまま無事に逃げられると思ってんのぉ?」
リーシャは『紅』で両手に短剣を具現化を行うと、クルクルと器用に手の中で回し始める。金髪の男は足を止めてリーシャの方を振り向くと、邪悪な笑みをみせた。
次の瞬間、金髪の男の周りを『あらゆる色』のオーラが同時に出現して、即座に交ざり合っていく。
「何?」
ソフィが反応するが膨れ上がった男の戦力値に、闘争本能が呼び起こされたリーシャは、咄嗟に身体を突き動かされてしまう。
「うわあああ!」
リーシャの身体も『金色』が纏われたかと思うと、一瞬で金髪の男へ向かっていく。
金髪の男は『紅』で具現化した刀に金色を纏わせながら真っすぐに向かってきた、リーシャの短剣を受け止めると、両手を突き出して弾き返す。
「クカカカッ! まぁそう焦るなよ。今はまだその時じゃねぇよ」
金髪の男はそうリーシャに告げながら、視線をディアトロスに向け始める。
『ディアトロス』はリーシャが金髪の男に向かった瞬間に、直ぐに『極大魔法』を放つ為の『発動羅列』を刻み始めていた。そして既にいつでも準備させている『魔力』を使えば発動できる状態であったその『魔法』ではなく『魔力』を留める『スタック』に対して、彼の『魔力』が向けられた。
「むっ!?」
(魔法を発動させる準備が整った魔法陣を無視して、ワシの『スタック』を直接狙うとは!)
ディアトロスは暴発を防ぐ為に、使おうとしていた魔法を慌ててキャンセルする。
もしあと少し魔法をキャンセルするのが遅ければ、ここら一帯は吹き飛び『闘技場』の開催は更に遅れる事となっただろう。
「もうよい。主の名は何という?」
再び飛び掛かろうとしていたリーシャを止めたソフィは、金髪の男に名を尋ねる。
「俺の名は『レキ・ヴェイルゴーザ』だ。覚えておけ」
レキと名乗った金髪の男は、そのまま音も無く消えていった。
「『レキ』……か」
ソフィは先程まで立っていた『レキ』の場所を見つめながらそう呟くのだった。
……
……
……
0
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる