505 / 1,966
プロポーズ編
493.弟子としての矜持
しおりを挟む
ユファは公務を終えてようやく休み始めたシスを労い、飲み物でも持ってくると一言残して部屋を出た。
しかし理由は別にもあり、それは先程からレイズ城の最上階。シスの部屋以外には、執務室しかないその部屋の前でずっと待っていた『ラルフ』の魔力を感知したために、自分に用があるのだろうとユファは部屋を抜けてきたのであった。
「どうやら待たせたようね。それで私に用かしら?」
ラルフにそう告げるユファの顔を見ながら、ラルフは口を開いた。
「ユファさん、忙しいのは分かりますが、貴方に折り入って相談があってここに来ました」
「ちょっとそこで待ってなさい」
真剣な表情でそう告げるラルフの言葉を聞いたユファは、目を一度閉じた後に踵を返してシスの部屋に戻っていった。
そして数分後再びラルフの前に姿を見せたユファは、ラルフについておいでと一言告げてレイズ城を出て、ベア達が居た街のはずれにある拠点までラルフを連れて向かうのだった。
「さて、ここなら他の人達に聞かれる事もないでしょうし、貴方の悩みを聞いてあげるわ」
そういうとユファは話して見なさいとばかりに、手を前に出して掌をこちらに向けた。
「今日ソフィ様と共に、トウジン魔国に向かったのですがね」
「へえ? あそこも今は修復作業に追われている筈だったと思うけれど」
「ええ。ですがほとんど修繕作業は終わり、闘技場もギルドも近々再開される予定だそうです」
「本当なの? あそこは昔から仲間意識が強く、国や同胞達の為なら死に物狂いで活動するからまぁ、分からないでもないけど。それでも尋常じゃない早さね……」
『レパート』の世界の魔法を使って修繕をするユファ達より、早く復興作業を終えようという彼らに、感服するユファであったが、ラルフの顔を見てどうやらこの話の先に何かあったのだろうとあたりをつける。
「闘技場の様子を見ていた私たちの元に、あの剣士が居たのです」
あの剣士という言葉だけで、一度手を合わせたユファはすぐにピンとくるのだった。
「成程ね」
可愛い弟子がこんな顔をする理由が分かった気がしたユファだったが、まだ結論を出さずにラルフの口から言葉を待つ。
「あの男は闘技場へ参加するようでして、あのキーリさんと戦うつもりでした。ソフィ様がキーリさんはそこらの魔王よりも強いと仰るとあの男は今更魔王程度相手にしても仕方ないと言い放ったのです!」
(ああ、なるほどね。この子が怒っている理由は私か)
ラルフは人間で魔族ではないため、リディアが告げた『魔王』程度を相手にしても仕方がないという言葉の意味を前回戦った私に向けたものだと受け取ったのだろう。
(それでこの子は、私の為に怒ってくれているのね)
ユファはラルフの気持ちを知り、心が温かくなっていくのを感じた。
「ねぇ? 貴方から見て私はもうあの男には適わないと思う?」
「そ、そんな事はありません! ユファさんどころかまだ私でも届く相手だと……。思っています」
どうやら本心ではもしかしたらと思っているわけね。ユファはラルフの言葉に騙されてやろうと思い、頷きを見せるのだった。
「あの子とは一度戦ってみて分かったけどシスと同じくらい。いやそれ以上に潜在的な力を持っているのは認めなきゃいけない」
前の闘技場での時でさえ、リディアは『金色のオーラ』を纏いそうになっていた。金色のオーラは先天性の資質がなければ、いくら修行や研鑽を積もうとも会得することは出来ない。
ユファは二色の併用の会得までは相成ったが、残念ながら金色の体現者にはなれなかった。
今はまだベースの部分の魔力や戦力は私の方が高いだろうが、リディアが『金色のオーラ』を自在に操れるようになっているのであれば、ユファはもう勝てないだろう。
悔しいがそれは覆す事が出来ない事実であり『金色の体現者』とは、それだけ凄い才能の塊を持つ者であり、持たざる者では余程のことが無い限りどうすることも出来ない。
そうでなくともソフィ様が認めたあの男は、金色の有無に関わらずどんどん強くなっていただろう。ユファはあのリディアという男が、思い上がりで『キーリ』に、挑戦しようとしているわけではなく、客観的に自分を見直して勝てると判断している程に、強くなっているのかもしれない。
「ユファさん。一度本気で手合わせをお願いできませんか?」
ラルフの向上心のある言葉と、今の熱意はとても嬉しく思う。しかし今の弟子の力では、この『ラルフ』の力では元々の戦力値で劣る上に『金色のオーラ』を纏うリディアには勝つ事は出来ないだろう。
――だが、それでもここまで本気の弟子に諦めろと告げる口を私は持ち合わせてはいなかった。
「いいわよ! しっかり足掻いて見せなさい『ラルフ』!」
拠点の広い平地の上で周りに誰も居ない事を確認したユファは『魔力』を開放し始めるのだった。
しかし理由は別にもあり、それは先程からレイズ城の最上階。シスの部屋以外には、執務室しかないその部屋の前でずっと待っていた『ラルフ』の魔力を感知したために、自分に用があるのだろうとユファは部屋を抜けてきたのであった。
「どうやら待たせたようね。それで私に用かしら?」
ラルフにそう告げるユファの顔を見ながら、ラルフは口を開いた。
「ユファさん、忙しいのは分かりますが、貴方に折り入って相談があってここに来ました」
「ちょっとそこで待ってなさい」
真剣な表情でそう告げるラルフの言葉を聞いたユファは、目を一度閉じた後に踵を返してシスの部屋に戻っていった。
そして数分後再びラルフの前に姿を見せたユファは、ラルフについておいでと一言告げてレイズ城を出て、ベア達が居た街のはずれにある拠点までラルフを連れて向かうのだった。
「さて、ここなら他の人達に聞かれる事もないでしょうし、貴方の悩みを聞いてあげるわ」
そういうとユファは話して見なさいとばかりに、手を前に出して掌をこちらに向けた。
「今日ソフィ様と共に、トウジン魔国に向かったのですがね」
「へえ? あそこも今は修復作業に追われている筈だったと思うけれど」
「ええ。ですがほとんど修繕作業は終わり、闘技場もギルドも近々再開される予定だそうです」
「本当なの? あそこは昔から仲間意識が強く、国や同胞達の為なら死に物狂いで活動するからまぁ、分からないでもないけど。それでも尋常じゃない早さね……」
『レパート』の世界の魔法を使って修繕をするユファ達より、早く復興作業を終えようという彼らに、感服するユファであったが、ラルフの顔を見てどうやらこの話の先に何かあったのだろうとあたりをつける。
「闘技場の様子を見ていた私たちの元に、あの剣士が居たのです」
あの剣士という言葉だけで、一度手を合わせたユファはすぐにピンとくるのだった。
「成程ね」
可愛い弟子がこんな顔をする理由が分かった気がしたユファだったが、まだ結論を出さずにラルフの口から言葉を待つ。
「あの男は闘技場へ参加するようでして、あのキーリさんと戦うつもりでした。ソフィ様がキーリさんはそこらの魔王よりも強いと仰るとあの男は今更魔王程度相手にしても仕方ないと言い放ったのです!」
(ああ、なるほどね。この子が怒っている理由は私か)
ラルフは人間で魔族ではないため、リディアが告げた『魔王』程度を相手にしても仕方がないという言葉の意味を前回戦った私に向けたものだと受け取ったのだろう。
(それでこの子は、私の為に怒ってくれているのね)
ユファはラルフの気持ちを知り、心が温かくなっていくのを感じた。
「ねぇ? 貴方から見て私はもうあの男には適わないと思う?」
「そ、そんな事はありません! ユファさんどころかまだ私でも届く相手だと……。思っています」
どうやら本心ではもしかしたらと思っているわけね。ユファはラルフの言葉に騙されてやろうと思い、頷きを見せるのだった。
「あの子とは一度戦ってみて分かったけどシスと同じくらい。いやそれ以上に潜在的な力を持っているのは認めなきゃいけない」
前の闘技場での時でさえ、リディアは『金色のオーラ』を纏いそうになっていた。金色のオーラは先天性の資質がなければ、いくら修行や研鑽を積もうとも会得することは出来ない。
ユファは二色の併用の会得までは相成ったが、残念ながら金色の体現者にはなれなかった。
今はまだベースの部分の魔力や戦力は私の方が高いだろうが、リディアが『金色のオーラ』を自在に操れるようになっているのであれば、ユファはもう勝てないだろう。
悔しいがそれは覆す事が出来ない事実であり『金色の体現者』とは、それだけ凄い才能の塊を持つ者であり、持たざる者では余程のことが無い限りどうすることも出来ない。
そうでなくともソフィ様が認めたあの男は、金色の有無に関わらずどんどん強くなっていただろう。ユファはあのリディアという男が、思い上がりで『キーリ』に、挑戦しようとしているわけではなく、客観的に自分を見直して勝てると判断している程に、強くなっているのかもしれない。
「ユファさん。一度本気で手合わせをお願いできませんか?」
ラルフの向上心のある言葉と、今の熱意はとても嬉しく思う。しかし今の弟子の力では、この『ラルフ』の力では元々の戦力値で劣る上に『金色のオーラ』を纏うリディアには勝つ事は出来ないだろう。
――だが、それでもここまで本気の弟子に諦めろと告げる口を私は持ち合わせてはいなかった。
「いいわよ! しっかり足掻いて見せなさい『ラルフ』!」
拠点の広い平地の上で周りに誰も居ない事を確認したユファは『魔力』を開放し始めるのだった。
0
お気に入りに追加
437
あなたにおすすめの小説

俺だけ2つスキルを持っていたので異端認定されました
七鳳
ファンタジー
いいね&お気に入り登録&感想頂けると励みになります。
世界には生まれた瞬間に 「1人1つのオリジナルスキル」 が与えられる。
それが、この世界の 絶対のルール だった。
そんな中で主人公だけがスキルを2つ持ってしまっていた。
異端認定された主人公は様々な苦難を乗り越えながら、世界に復讐を決意する。
※1話毎の文字数少なめで、不定期で更新の予定です。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる