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プロポーズ編

487.談合

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 大賢者ミラは大魔王シス達との死闘の後に『アレルバレル』の世界ではなく、現在の『組織』の本拠地がある『ダール』の世界へ跳んできていた。

 シスという魔族が如何なる方法で『エルシス』と同じ『魔法』を扱うに至ったのか。それはミラにも分からないが、もうアレルバレルの世界は彼らにとって、安住の地とは呼べなくなってしまった。

 シスがその気になれば、あの戦いの最後に『ディアトロス』達を跳ばした時のように、多人数の『世界間転移』も可能だろう。

 つまりいつでもあの化け物が『アレルバレル』の世界へと戻ってくるという事に他ならない。

 まさか数千年掛けてようやく成功に至った大魔王ソフィ追放計画が、こんな形で頓挫することになろうとはミラは思いもしなかった。この『ダール』の世界は、過去の『リラリオ』の世界のように、種族によって大陸が分かれている。

 表向きはまだ『組織』入りした大魔王『イザベラ』が、この世界を支配しているという事になっている。しかしその大魔王『イザベラ』はすでにこの世を去っており、今玉座に座って笑みを浮かべている存在は『ルビリス』が作り出した影武者である。

 実際にこの世界を裏から支配しているのは大魔王『ヌー』であり、そして『組織』の総帥『ミラ』でもある。ただ『ミラ』は最高幹部が支配している別世界にも足を運んでいるために、この『ダール』の世界の真の支配者は『ヌー』と呼んでも差し支えないだろう。

 そしてそんなミラは身体を休めた後に、ヌーの居城へ再び足を踏み入れるのだった。

 …………

「入るぞ。ヌー」

 ミラが中に入るとヌーは嫌そうな表情を浮かべながら、椅子に座ったまま舌打ちをしてみせる。
 そんな態度を見せるヌーに、ミラはお構いなしに長いテーブルに向かい合って座る。

「おい。貴様の言った通りにすれば、上手く行くのではなかったのか?」

 想定していた通り、開口一番にミラに向けて嫌味を言い放つヌーに、ミラは苦笑いを浮かべて見せる。

「悪かったな。それと今回は助かったぞ、これはその礼だ。受け取っておいてくれ」

 そう言ってミラはテーブルの上に貴重そうな『マジックアイテム』の数々を載せていき、魔法でヌーの前へ献上するように移動させられる。

「これは『根源の玉』か。悪くはない」

 テーブルの上のアイテムを一瞥して笑みを浮かべた後に、そう言って懐にしまい込んでいくヌーであった。

「だが、俺がお前達と協力関係を築いているのは、使だと、そう思っているからだという事を忘れるなよ?」

 本来ヌーは『アレルバレル』の世界で、ソフィに次ぐ程の強さを持つ大魔王であり、すでに『ダール』の世界を含めて多くの世界を束ねている存在である。

 同じくあらゆる世界を支配している大魔王は、ミラの組織にも確かに居る。

 ――『ハワード』や『セルバス』といった魔族もそんな連中である。

 しかし、同じ一つの世界の支配者ではあるといっても、ヌーの支配している世界と、ハワード達が支配している世界に生きる魔族達の強さは桁が違う。

 世界を束ねている者同士とはいっても、ヌーからしてみれば『セルバス』や『ハワード』などは程の差があるのである。

 最近『リラリオ』の世界で大魔王『ソフィ』に敗れたところではあるが、それでも大魔王『ヌー』であれば、別世界の支配者であった『セルバス』と『ハワード』という大魔王を同時に相手にしても余裕を持って倒しきる程の差があるのだった。

 そんなヌーが『組織』と共闘を許しているのは、ミラという使える奴が居たからである。
 組織の中でミラだけが今後もとして、自分の役に立つ者だと認めたからこそ、この同盟は成り立っているという事なのである。

 そしてその同盟の目的であるソフィの追放と、ヌー自身をさらに強くしてやると豪語したミラの言葉を信じて彼はミラに協力をしてきた。

 ――しかし先日そんなミラは、ヌーとの約束を守り切れずに『死』を受け入れようとしていた。

 それはヌーにとっては、だと感じたのである。

 本来のヌーの性格であれば、有無を言わさずにミラを処刑して『組織』そのものを抹消する事も吝かではなかった。

 だが、一度はミラの能力を認めたヌーは思い直して、こうして話があると告げてきたミラに、もう一度だけ機会を与える事にして面会を許したのだった。

 稀有な『マジックアイテム』をこうして多く寄こして機嫌を取ろうとしたのだろうが、話の展開次第では、ヌーはこの場でミラに『死』を与えるつもりでもあった。

 そんなヌーを前にしてミラは飄々とした態度で、いつものように余裕を見せていた。

「それで? あんなことがあった後に俺に会いたいというくらいだ。何か考えがあって来たのだろう? さっさと言いやがれ」

 横柄な態度をとるヌーに少し眉を寄せたミラだが、すぐに表情を戻しながら口を開く。

「私はあの大魔王ソフィを別世界へ跳ばした後、長年を掛けてを、完成させようとしていたのだがな。その計画を前倒しにすることにしたよ」

 その計画は何だとばかりにヌーは、視線でミラを問いかける。



「な、何だと……?」

 ――『魔神』。

 世界の危機を察知した時に姿をそのに現わすといわれている『魔』を司る神である。

「あの化け物が『魔神』を従わせているのは知っているだろう?」

 ミラの言葉にヌーは頷いて見せる。

「しかしどうやって、魔神を出現させるというのだ?」

「魔神を出現させるのはそう難しい事ではない。私の『復活生成リザレクト』を使うために必要な『仮初需生テンポラーヴォ』の規模をだけで、十分にを及ぼすだろうからな」

 ミラはヌーの質問にあっさりと応えて見せるのだった。


(※『仮初需生テンポラーヴォ』は大きな魔力を持つ他者の『魂』を生贄にして、仮初の『命』を創り出す禁忌の魔法である)。

(※『復活生成リザレクト』は、仮初需生で創り出した『命』を自身の本来の『命』の代わりに消費させる事を可能とする魔法である)。

 ミラが『死』の概念をなくして『不死』と呼ばれる理由はコレに該当する。彼が持つ『生命回路』と呼ばれる物に他者から奪った命をストックさせておき、自身が『死』を迎える瞬間にそのストックした仮初の命を使って、再び再生を可能としているのである。

(奪った相手の年齢に関係なく、ミラはどの『命』も一律に扱う事が出来るため、彼自身はその命が尽きるまで本来の彼の寿命が減る事はなく、また年を取る事もない)。

 生命回路は彼の魔力に依存しているために、彼の素の魔力が高くなればなるほど『ストック』が出来る量は増えていく。

(現在の大賢者『ミラ』の生命回路に保存できる『命』は、限りなく無限に近いものとなっている)。

「つまりお前の『魔法』で世界に生きる者達の『命』を奪って『魔神』にお前を『』をもたらす存在と認識させるというわけか」

 ヌーの言葉に笑みを浮かべながら頷くミラだった。

「貴様は『魔族』以上に自分勝手で、最悪な部類の人間で間違いないな」

 極悪非道と他者に言われる程の魔族。大魔王ヌーからそう言われたミラは、堪えきれないとばかりに大笑いを始めるのだった。

「だが、上手く行き魔神が出現したとして、その先はどうするつもりなのだ?」

「決まっているだろう? 大魔王ソフィは魔神を出現させた後に魔神と戦い勝利して従わせている」

 つまりミラも出現させた魔神を、自らに従わせようというのだろう。しかし魔神は『魔』を司る戦闘の神であるため、一筋縄でいくとは思えなかった。

「私には『死』の概念がないのだ。大魔王ソフィのような『魂』を直接奪うような事が出来る輩でない限り、私に敗北はない」

 確かに『魔神』は『死神』のように『魂』を直接狩り取るような神ではないために、いくら強いとはいっても死ぬことのないミラにとっては、まだ戦える相手と言えるかもしれない。

 それでも今までしなかったのは、万が一という事がある為だったのだろうが、最早『ソフィ』や『シス』といった存在が『世界間移動』を可能とした以上、ミラは計画を前倒しにせざるを得なくなったのだろう。

 ――しかしヌーにはまだ謎が残っていた。

 すでに『力の魔神』と呼ばれる魔神はソフィと戦い、敗北を喫して従わされているのだ。再び上手く魔神を出現させて、従わせられたとしてもその『魔神』がソフィより強いとは限らない。ミラはヌーの視線から、彼が考えている疑問を悟りにやりと笑う。

「お前が考えている通り、魔神であっても絶対にあの化け物に勝てるという保証はないさ」

「では、どうするというのだ?」

「そもそも私の目的は『魔神』をと戦わせる事ではない。そんな事よりも『死』の概念を完全に克服すれば、後はどうにでもなるという事だ」

 いつものように要領の得ない話し方をして、こちらにわざと考えさせるような言い方をするミラに苛立ちを見せるヌーであった。

「改めて話を進めさせてもらうがヌーよ。このまま私に手を貸してくれないか? 魔神を従わせる事が出来れば、今度はお前の力になると約束しよう」

「いいだろう。どうせこのままでは、あの『化け物』を倒すことは出来ないだろうからな。お前が有用であり続ける限りは精々利用してやろう」

「ふっ……。この私にそんな口を利ける存在は、もうお前くらいしか残っていないな」

 ミラの言葉を聴いて鋭利な牙を見せつける大魔王ヌーであった。

 ――こうして二人は再び『同盟』を結び直す事に相成ったのだった。
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