上 下
484 / 1,906
伝説の大賢者編

473.別世界の化け物

しおりを挟む
 大賢者ミラは即座に戦闘態勢に入る。今までのようなある程度の力を抑えた戦い方ではなく、と戦う時のスタイルである。

 金色のオーラを纏わせて先程シスが行ったように、神聖魔法で自身の防御力と攻撃力。それに速度等の強化を果たして、幾重にも『障壁』を自身に散りばめながら、左手と右手で別々の『魔法』の準備を行えるように『発動羅列』を生み出していく。

 まさに彼の上空に居るシスと同じような戦闘スタイルである。それもその筈で大賢者ミラは、大賢者エルシスに憧れてそのエルシスを越える為に、数千年もの間生きてきたのである。戦闘スタイルが酷似しているのは無理もなかった。

 そして今のミラは強敵の出現に驚いていた先程までの表情をしておらず、自分の渇望していた状況。もう二度と叶うと思っていなかった幻想が叶うかもしれないと考えて、これ以上の喜びはないといった表情だった。

(あの女はエルシスだ! 間違いない! あのエルシスが魔族となって、再びこの世に命の火を灯したのだ! ああ……。こんな日が来ることになるなんて!)

 もはや今のミラは『九大魔王』の事や、件の『レア』や『ユファ』の事など頭から飛んでしまっている。

 それどころかこの『組織』を作った理由である『』の事さえ、今この時には頭の片隅に追いやられていた。

 自分の生きる意味、自分の目標。どれだけ自分が強くなろうとも、比較の対象は既にこの世には居らず、ミラの中で神格化してしまった人間『エルシス』。そのエルシスが目の前に姿を見せたのだ。

 大賢者ミラの頭の中は『』。

 そして願わくば『エルシス』を越えていて欲しいという願望を胸に、この数百年、いや数千年感じる事がなかった程の高揚感を抱いている。

 言い換えれば嬉しさと緊張で胸がドキドキして、楽しみで楽しみで仕方がないといった様子だった。

 ――神聖魔法、『聖者達の行軍マーチオブ・セイント』。

 次の瞬間。意気揚々とミラはシスと同じく『魔法』で軍勢を作り始める。その数はシスに勝るとも劣らない。

 シスと同じく白い装束に白い鎧を纏い、そして白い兜に包まれた長い槍や大きな剣を持った騎士の軍勢が『神聖魔法』によって、魔法陣を媒介に次々と出現し始めていく。

 その自分と同じ『神聖魔法』で『幻朧の軍勢』を生み出していく様子を見た『シス』は『ミラ』に対して数秒程驚く様子を見せた。

 だが、次の瞬間には笑みを浮かべて、そのミラを見下ろしながら手をひらひらと振り始める。

 その様子に言葉をのせるとしたらこうであろうか。

』。

 その挑発ともいえる仕草を見たミラもまた、口角を吊り上げて一気に魔力を高めると『軍勢』に攻撃命令を出すのだった。

 そして聖者達が一斉に上空に居るシス達に向かって行く。それを見たシスも魔力を高めて、向かってくる聖者達を撃退させるかの如く、自身の軍勢をぶつける。

「……離れるぞ! 距離を取りつつも『金色の目ゴールド・アイ』を怠るな。奴らがいつ攻撃をしてくるか分からぬ!」

「応!」

「分かりました!」

 ディアトロスの言葉に対して、イリーガルとリーシャは頷きながら後退を始める。

 ディアトロス達の移動を尻目に、シスは再び『発動羅列』を『アレルバレル』の世界の『ことわり』を用いて刻み始める。

 戦場は最早『九大魔王』対『組織』という構図から『シス』対『ミラ』の勝負へと切り替わった。

 ルビリス達はミラの後ろ側へと移動するが、ハワードだけはまだ上空に残ったままどうするか思案していた。

(このまま司令官殿達のように下がるのもいいが、せっかくこの俺がここまで出向いたのだ。少しばかり運動させてもらおうか)

 ハワードはそう考えると、オーラを纏わせ始めるのだった。

 …………

「むっ! 来るぞ!」

 ディアトロスはオーラを纏い始めた『ハワード』を睨みながら声をあげる。

 シスはミラと対峙しながらも『ディアトロス』達に対しても意識を向けていたが、予想以上にミラの『神聖魔法』が形を成しており『終焉エンド』と『聖者達の行軍マーチオブセイント』という、高レベル域の『魔法』を『同時発動』していることで、直ぐには助けに行くのは不可能だと理解した。

 大魔王シスの中に居る者程の領域に立つ者は、一瞬の思考で取捨選択を決めるために、少しでも無理だと判断した場合はあっさりと選択肢を絞り込む。

 この場合では『シス』の中で優先順位は『ミラ』と断定した上で、ハワードの対処はイリーガルという大男と、先程の戦力を見せつけたリーシャの力を分析して、生き残る確率は十分の数値を持っていると判断した。

 つまりシスは先程のディアトロスの言葉に合った通りに前衛役に徹して、一番脅威である大賢者『ミラ』とやらを何とかする事に注視するのだった。

 ミラは『聖者達の行軍マーチオブセイント』を発動させながら、空いている手で『結界』の再構築に取り掛かる。

 こうしている間にもシスの『終焉エンド』が、少しずつ彼らの魂を奪わんとばかりに迫ってきているからである。

「我々もミラ様に守ってもらうばかりではなく、結界を多重に張ってしまいましょう!」

 リベイルは『金色のオーラ』を再び纏い始めながらそう告げる。

 総帥であるミラが『結界』を張ろうとしているのを見たことで、少しでも負担を軽くしようと考えてのリベイルの発言のようだった。

 ――しかし。

「いや。どうやらそれは適わなそうですよ、リベイルさん……」

 ルビリスは諦観の念を込めながら言葉を漏らすのだった。

 リベイルが『オーラ』を纏った瞬間、強い頭痛がリベイルを襲い立っていられなくなる。

「なっ……!?」

 その場で頭を押さえて蹲るリベイルを見て『やはりか』とばかりに、横に居るルビリスは苦い表情を浮かべるのだった。

 ルビリスの視線の先に居る

 どうやらシスは魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』だけで、これだけ離れた距離を更に結界を突き抜けて、リベイルを無力化してみせたようである。

 そんな事は余程の戦力差がなければ不可能な事であり、リベイルは組織の最高幹部に位置する魔族で、の上位に位置する存在である。

 だがそれでもルビリスの視線の先に居る『大魔王』は、そのリベイルを遥かに凌駕する存在なのだろう。

 ルビリスは現在も自分達の周囲の魂を狩り取ろうとする『死』の気配の接近を感じている。あの最初の段階で『終焉エンド』を唱えられた時点で、自分達は気付くべきだった。

 この場にミラを除いた自分達では、あの『』には、決して手を出してはいけなかったのだと。

(あの魔族は『リラリオ』の世界出身でしたか。部下に任せずに私が注意して見張っておけば、もしかするとあの方をミラ様のこの組織に、迎え入れる事が出来たのかもしれませんね)

 ルビリスはまだあの大魔王『シス』という存在が、どういったモノかを知らないために、見当違いの勘違いをしており、この『アレルバレル』の世界以外にも決して侮ってはいけない魔族。と同じような『化け物』が存在していたのだと考えるのだった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...