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伝説の大賢者編
473.別世界の化け物
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大賢者ミラは即座に戦闘態勢に入る。今までのようなある程度の力を抑えた戦い方ではなく、自分より格上と認めた者と戦う時のスタイルである。
金色のオーラを纏わせて先程シスが行ったように、神聖魔法で自身の防御力と攻撃力。それに速度等の強化を果たして、幾重にも『障壁』を自身に散りばめながら、左手と右手で別々の『魔法』の準備を行えるように『発動羅列』を生み出していく。
まさに彼の上空に居るシスと同じような戦闘スタイルである。それもその筈で大賢者ミラは、大賢者エルシスに憧れてそのエルシスを越える為に、数千年もの間生きてきたのである。戦闘スタイルが酷似しているのは無理もなかった。
そして今のミラは強敵の出現に驚いていた先程までの表情をしておらず、自分の渇望していた状況。もう二度と叶うと思っていなかった幻想が叶うかもしれないと考えて、これ以上の喜びはないといった表情だった。
(あの女はエルシスだ! 間違いない! あのエルシスが魔族となって、再びこの世に命の火を灯したのだ! ああ……。こんな日が来ることになるなんて!)
もはや今のミラは『九大魔王』の事や、件の『レア』や『ユファ』の事など頭から飛んでしまっている。
それどころかこの『組織』を作った理由である『ソフィ』の事さえ、今この時には頭の片隅に追いやられていた。
自分の生きる意味、自分の目標。どれだけ自分が強くなろうとも、比較の対象は既にこの世には居らず、ミラの中で神格化してしまった人間『エルシス』。そのエルシスが目の前に姿を見せたのだ。
大賢者ミラの頭の中は『今の自分がどれだけエルシスに近づけているのか』。
そして願わくば『エルシス』を越えていて欲しいという願望を胸に、この数百年、いや数千年感じる事がなかった程の高揚感を抱いている。
言い換えれば嬉しさと緊張で胸がドキドキして、楽しみで楽しみで仕方がないといった様子だった。
――神聖魔法、『聖者達の行軍』。
次の瞬間。意気揚々とミラはシスと同じく『魔法』で軍勢を作り始める。その数はシスに勝るとも劣らない。
シスと同じく白い装束に白い鎧を纏い、そして白い兜に包まれた長い槍や大きな剣を持った騎士の軍勢が『神聖魔法』によって、魔法陣を媒介に次々と出現し始めていく。
その自分と同じ『神聖魔法』で『幻朧の軍勢』を生み出していく様子を見た『シス』は『ミラ』に対して数秒程驚く様子を見せた。
だが、次の瞬間には笑みを浮かべて、そのミラを見下ろしながら手をひらひらと振り始める。
その様子に言葉をのせるとしたらこうであろうか。
『紛い物ではないと証明してみせろ』。
その挑発ともいえる仕草を見たミラもまた、口角を吊り上げて一気に魔力を高めると『軍勢』に攻撃命令を出すのだった。
そして聖者達が一斉に上空に居るシス達に向かって行く。それを見たシスも魔力を高めて、向かってくる聖者達を撃退させるかの如く、自身の軍勢をぶつける。
「……離れるぞ! 距離を取りつつも『金色の目』を怠るな。奴らがいつ攻撃をしてくるか分からぬ!」
「応!」
「分かりました!」
ディアトロスの言葉に対して、イリーガルとリーシャは頷きながら後退を始める。
ディアトロス達の移動を尻目に、シスは再び『発動羅列』を『アレルバレル』の世界の『理』を用いて刻み始める。
戦場は最早『九大魔王』対『組織』という構図から『シス』対『ミラ』の勝負へと切り替わった。
ルビリス達はミラの後ろ側へと移動するが、ハワードだけはまだ上空に残ったままどうするか思案していた。
(このまま司令官殿達のように下がるのもいいが、せっかくこの俺がここまで出向いたのだ。少しばかり運動させてもらおうか)
ハワードはそう考えると、オーラを纏わせ始めるのだった。
…………
「むっ! 来るぞ!」
ディアトロスはオーラを纏い始めた『ハワード』を睨みながら声をあげる。
シスはミラと対峙しながらも『ディアトロス』達に対しても意識を向けていたが、予想以上にミラの『神聖魔法』が形を成しており『終焉』と『聖者達の行軍』という、高レベル域の『魔法』を『同時発動』していることで、直ぐには助けに行くのは不可能だと理解した。
大魔王シスの中に居る者程の領域に立つ者は、一瞬の思考で取捨選択を決めるために、少しでも無理だと判断した場合はあっさりと選択肢を絞り込む。
この場合では『シス』の中で優先順位は『ミラ』と断定した上で、ハワードの対処はイリーガルという大男と、先程の戦力を見せつけたリーシャの力を分析して、生き残る確率は十分の数値を持っていると判断した。
つまりシスは先程のディアトロスの言葉に合った通りに前衛役に徹して、一番脅威である大賢者『ミラ』とやらを何とかする事に注視するのだった。
ミラは『聖者達の行軍』を発動させながら、空いている手で『結界』の再構築に取り掛かる。
こうしている間にもシスの『終焉』が、少しずつ彼らの魂を奪わんとばかりに迫ってきているからである。
「我々もミラ様に守ってもらうばかりではなく、結界を多重に張ってしまいましょう!」
リベイルは『金色のオーラ』を再び纏い始めながらそう告げる。
総帥であるミラが『結界』を張ろうとしているのを見たことで、少しでも負担を軽くしようと考えてのリベイルの発言のようだった。
――しかし。
「いや。どうやらそれは適わなそうですよ、リベイルさん……」
ルビリスは諦観の念を込めながら言葉を漏らすのだった。
リベイルが『オーラ』を纏った瞬間、強い頭痛がリベイルを襲い立っていられなくなる。
「なっ……!?」
その場で頭を押さえて蹲るリベイルを見て『やはりか』とばかりに、横に居るルビリスは苦い表情を浮かべるのだった。
ルビリスの視線の先に居る大魔王シスがこちらに目を向けていた。
どうやらシスは魔瞳『金色の目』だけで、これだけ離れた距離を更に結界を突き抜けて、リベイルを無力化してみせたようである。
そんな事は余程の戦力差がなければ不可能な事であり、リベイルは組織の最高幹部に位置する魔族で、大魔王領域の上位に位置する存在である。
だがそれでもルビリスの視線の先に居る『大魔王』は、そのリベイルを遥かに凌駕する存在なのだろう。
ルビリスは現在も自分達の周囲の魂を狩り取ろうとする『死』の気配の接近を感じている。あの最初の段階で『終焉』を唱えられた時点で、自分達は気付くべきだった。
この場にミラを除いた自分達では、あの『化け物』には、決して手を出してはいけなかったのだと。
(あの魔族は『リラリオ』の世界出身でしたか。部下に任せずに私が注意して見張っておけば、もしかするとあの方をミラ様のこの組織に、迎え入れる事が出来たのかもしれませんね)
ルビリスはまだあの大魔王『シス』という存在が、どういったモノかを知らないために、見当違いの勘違いをしており、この『アレルバレル』の世界以外にも決して侮ってはいけない魔族。大魔王ソフィと同じような『化け物』が存在していたのだと考えるのだった。
金色のオーラを纏わせて先程シスが行ったように、神聖魔法で自身の防御力と攻撃力。それに速度等の強化を果たして、幾重にも『障壁』を自身に散りばめながら、左手と右手で別々の『魔法』の準備を行えるように『発動羅列』を生み出していく。
まさに彼の上空に居るシスと同じような戦闘スタイルである。それもその筈で大賢者ミラは、大賢者エルシスに憧れてそのエルシスを越える為に、数千年もの間生きてきたのである。戦闘スタイルが酷似しているのは無理もなかった。
そして今のミラは強敵の出現に驚いていた先程までの表情をしておらず、自分の渇望していた状況。もう二度と叶うと思っていなかった幻想が叶うかもしれないと考えて、これ以上の喜びはないといった表情だった。
(あの女はエルシスだ! 間違いない! あのエルシスが魔族となって、再びこの世に命の火を灯したのだ! ああ……。こんな日が来ることになるなんて!)
もはや今のミラは『九大魔王』の事や、件の『レア』や『ユファ』の事など頭から飛んでしまっている。
それどころかこの『組織』を作った理由である『ソフィ』の事さえ、今この時には頭の片隅に追いやられていた。
自分の生きる意味、自分の目標。どれだけ自分が強くなろうとも、比較の対象は既にこの世には居らず、ミラの中で神格化してしまった人間『エルシス』。そのエルシスが目の前に姿を見せたのだ。
大賢者ミラの頭の中は『今の自分がどれだけエルシスに近づけているのか』。
そして願わくば『エルシス』を越えていて欲しいという願望を胸に、この数百年、いや数千年感じる事がなかった程の高揚感を抱いている。
言い換えれば嬉しさと緊張で胸がドキドキして、楽しみで楽しみで仕方がないといった様子だった。
――神聖魔法、『聖者達の行軍』。
次の瞬間。意気揚々とミラはシスと同じく『魔法』で軍勢を作り始める。その数はシスに勝るとも劣らない。
シスと同じく白い装束に白い鎧を纏い、そして白い兜に包まれた長い槍や大きな剣を持った騎士の軍勢が『神聖魔法』によって、魔法陣を媒介に次々と出現し始めていく。
その自分と同じ『神聖魔法』で『幻朧の軍勢』を生み出していく様子を見た『シス』は『ミラ』に対して数秒程驚く様子を見せた。
だが、次の瞬間には笑みを浮かべて、そのミラを見下ろしながら手をひらひらと振り始める。
その様子に言葉をのせるとしたらこうであろうか。
『紛い物ではないと証明してみせろ』。
その挑発ともいえる仕草を見たミラもまた、口角を吊り上げて一気に魔力を高めると『軍勢』に攻撃命令を出すのだった。
そして聖者達が一斉に上空に居るシス達に向かって行く。それを見たシスも魔力を高めて、向かってくる聖者達を撃退させるかの如く、自身の軍勢をぶつける。
「……離れるぞ! 距離を取りつつも『金色の目』を怠るな。奴らがいつ攻撃をしてくるか分からぬ!」
「応!」
「分かりました!」
ディアトロスの言葉に対して、イリーガルとリーシャは頷きながら後退を始める。
ディアトロス達の移動を尻目に、シスは再び『発動羅列』を『アレルバレル』の世界の『理』を用いて刻み始める。
戦場は最早『九大魔王』対『組織』という構図から『シス』対『ミラ』の勝負へと切り替わった。
ルビリス達はミラの後ろ側へと移動するが、ハワードだけはまだ上空に残ったままどうするか思案していた。
(このまま司令官殿達のように下がるのもいいが、せっかくこの俺がここまで出向いたのだ。少しばかり運動させてもらおうか)
ハワードはそう考えると、オーラを纏わせ始めるのだった。
…………
「むっ! 来るぞ!」
ディアトロスはオーラを纏い始めた『ハワード』を睨みながら声をあげる。
シスはミラと対峙しながらも『ディアトロス』達に対しても意識を向けていたが、予想以上にミラの『神聖魔法』が形を成しており『終焉』と『聖者達の行軍』という、高レベル域の『魔法』を『同時発動』していることで、直ぐには助けに行くのは不可能だと理解した。
大魔王シスの中に居る者程の領域に立つ者は、一瞬の思考で取捨選択を決めるために、少しでも無理だと判断した場合はあっさりと選択肢を絞り込む。
この場合では『シス』の中で優先順位は『ミラ』と断定した上で、ハワードの対処はイリーガルという大男と、先程の戦力を見せつけたリーシャの力を分析して、生き残る確率は十分の数値を持っていると判断した。
つまりシスは先程のディアトロスの言葉に合った通りに前衛役に徹して、一番脅威である大賢者『ミラ』とやらを何とかする事に注視するのだった。
ミラは『聖者達の行軍』を発動させながら、空いている手で『結界』の再構築に取り掛かる。
こうしている間にもシスの『終焉』が、少しずつ彼らの魂を奪わんとばかりに迫ってきているからである。
「我々もミラ様に守ってもらうばかりではなく、結界を多重に張ってしまいましょう!」
リベイルは『金色のオーラ』を再び纏い始めながらそう告げる。
総帥であるミラが『結界』を張ろうとしているのを見たことで、少しでも負担を軽くしようと考えてのリベイルの発言のようだった。
――しかし。
「いや。どうやらそれは適わなそうですよ、リベイルさん……」
ルビリスは諦観の念を込めながら言葉を漏らすのだった。
リベイルが『オーラ』を纏った瞬間、強い頭痛がリベイルを襲い立っていられなくなる。
「なっ……!?」
その場で頭を押さえて蹲るリベイルを見て『やはりか』とばかりに、横に居るルビリスは苦い表情を浮かべるのだった。
ルビリスの視線の先に居る大魔王シスがこちらに目を向けていた。
どうやらシスは魔瞳『金色の目』だけで、これだけ離れた距離を更に結界を突き抜けて、リベイルを無力化してみせたようである。
そんな事は余程の戦力差がなければ不可能な事であり、リベイルは組織の最高幹部に位置する魔族で、大魔王領域の上位に位置する存在である。
だがそれでもルビリスの視線の先に居る『大魔王』は、そのリベイルを遥かに凌駕する存在なのだろう。
ルビリスは現在も自分達の周囲の魂を狩り取ろうとする『死』の気配の接近を感じている。あの最初の段階で『終焉』を唱えられた時点で、自分達は気付くべきだった。
この場にミラを除いた自分達では、あの『化け物』には、決して手を出してはいけなかったのだと。
(あの魔族は『リラリオ』の世界出身でしたか。部下に任せずに私が注意して見張っておけば、もしかするとあの方をミラ様のこの組織に、迎え入れる事が出来たのかもしれませんね)
ルビリスはまだあの大魔王『シス』という存在が、どういったモノかを知らないために、見当違いの勘違いをしており、この『アレルバレル』の世界以外にも決して侮ってはいけない魔族。大魔王ソフィと同じような『化け物』が存在していたのだと考えるのだった。
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