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伝説の大賢者編

470.さながらそれは、かの大賢者の如く

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「さて、お前がどうやって『神聖魔法』を使ったかは分からないが、その魔法は軽はずみに使ってよいものではないのだ。一体どれ程に崇高で……」

 ブツブツと大賢者ミラは、神聖魔法や大賢者『エルシス』の事を語り始める。

 大魔王『ヌー』がこの場に居れば『』とでも呟くところであろう。

 最初はしっかりと聞いていたシスだったが、のだろう。シスは欠伸《あくび》をし始める。

 自分の話に夢中でずっと『魔法』について語り続けている『ミラ』を無視して、シスはこの場に現れた『ハワード』という大魔王の方を見始めていた。

 シスからの視線を感じ取ったハワードは、シスを見てぺろりと舌なめずりを始める。

「お前達はあの魔族達を相手にしていろ。俺は少しあの女に用がある」

 勝手な事を言い始めたハワードに、ルビリスは口を出す。

「何を勝手なことを言っているのですか? あの女性はミラ様が相手をなさると仰っていたでしょう?」

「そうだぞハワード。お前まさかとは思うが、ミラ様の獲物を掻っ攫うつもりじゃないだろうな?」

 ハワードは両者から攻められて舌打ちをする。

「そんなつもりはない。ちっ! 仕方がないな。さっさと上に居る奴らを葬るとしよう」

 ハワードは舌打ちをしながらそう言うと『オーラ』を開放し始めた。

 ハワードが金色のオーラに包まれ始めた頃、リベイルとルビリスも同じく『金色』を纏い始めた。

 …………

「三体とも当然のように『』か。さてどうするか」

 先程の魔法でまだ魔力が回復していないディアトロスはそう口にすると、イリーガルが大刀を持つ手に力を込めて一歩前に出る。

「俺がアイツら三体を相手にする。リーシャはディアトロス殿の魔力が戻るまで護衛をしろ」

 リーシャが驚いた表情を浮かべる。

「ちょ、ちょっと待ってください! イリーガル様がおひとりでの相手をするっていうんですか? 流石にそれは……」

 九大魔王の中でも上位に位置する強さを持つ『イリーガル』とはいっても、相手は『金色の体現者』が三体。その中でも最後に姿を見せた『ハワード』という大魔王に至っては、先程リーシャが葬った『セルバス』よりも、戦力値と魔力値が大きく感じられる。

 流石のイリーガルであっても、あの三体を同時に相手にするのは難しいだろう。

 リーシャがどうしようかと悩んでいると、ミラと何か喋っていた筈の『シス』がこちらに向かって『転移』してきた。

(※厳密にはミラが一人で喋っていた)。

 ディアトロスを見て静かに笑うシスを見て、ディアトロスは口を開く。

「お主もワシらと共闘して、あやつらの相手をしてくれるというのか?」

 シスは言葉を出すつもりがないのか、そのまま首を縦に振って『ディアトロス』を見て微笑む。何故口を開かないのかと思ったが、どうやら今このシスという魔族は本来の彼女ではなく、彼女の中に潜在するが、表に出てきているような状態なのだろうと『ディアトロス』は悟る。

 ディアトロスは多くの魔族や人間をその目で見てきた事で、こういった手合いを多く見てきた。

 普段とは違う精神が人格を持ち、本人の体に同居するかのように突如現れて見せたり、普段温厚な者が暴力的になるのも人格が入れ替わった状態であったりする。シスの場合もそういうものに類似している。

 つまりは似たような何かなのだろうと、ディアトロスはそう割り切る事にした。

 魔力が枯渇しかかっている今、少しでも強い者が味方で居てくれたほうが有難い。ディアトロスはそう思うことにして、目の前に居るシスを仲間だと認識するのだった。

「では『シス』とやら……」

 シスはディアトロスの言葉に耳を傾ける。

「悪いがワシの作戦に協力してくれるか? ワシを信じて、ワシの言う通りに動いてもらいたい」

 そう告げるディアトロスは『魔王軍』No.2として、ソフィの信頼する片腕としての立場で口を開いた。

 ディアトロスの言葉を受けたシスは頷きを見せる。どうやらシスは『ディアトロス』が思い上がりでイニシアティブを取りたがっているのではなく、自身の役割を理解した上で告げた言葉なのだと認識したようだった。

「イリーガル、リーシャよ お主達もそれでよいな?」

「ええ、勿論ですよ。ディアトロス殿に従いましょう」

「まさか魔王軍でも九大魔王でもない『レア』の知り合いと手を組んで戦うとは思わなかったわねぇ」

 イリーガルもリーシャも反対の意思はないようで、素直に頷いて見せるのだった。

 …………

 そこでようやく大賢者ミラは、目の前で自分の崇高たる言葉を聞いていた筈のシスが、自分を無視して移動していた事を知った。

「おいおい……。私が話をしているのを無視して、お前は一体そこで何をしている!!」

『神聖魔法』について語っていたミラは、突如怒り狂ったかと思うと、シスに対して恐ろしい程の殺意を向けるのだった。

 その殺意を一身に受けて尚、シスは心地がいいとばかりに笑い、眼下に居るミラに人差し指を向けたかと思うと、ゆっくりと自分に指を差すのだった。

 ――

 ――彼女はそう挑発をしているのだった。

「やれやれ、お姉さんも大した度胸だよねぇ」

 直接ミラの殺意を向けられたワケではないリーシャでさえ、ミラの

「あの若造は、間違いなく奴らの中で一番面倒じゃ。無理して戦う必要はないのだぞ? シスとや、ら?」

 口を出しながら作戦を頭で考えていたディアトロスは、シスを見て驚愕に目を丸くする。

 シスは『金色のオーラ』を纏ったあとに、更にかつての『使

 ――神聖魔法、『聖なる護守アミナ』。
 ――神聖魔法、『滾る戦の要アグレセス』。
 ――神聖魔法、『妖精の施翼フェイサー』。

 無詠唱であっさりと三つの『神聖魔法』を使って自身を強化して見せた後、更にその効力はシスだけではなく、この場に居るディアトロス、イリーガル、リーシャへも効力をもたらす。

 それだけでに留まらずに左手と右手で全く別の『ことわり』を形成し始めて行く。これは何かを使おうとしているのではなく『智謀』の大魔王『ディアトロス』の繰り出す指示に対応するべくその準備を始めた証であり、どんな難題でも構わずに言えという意思表示でもあった。

 ディアトロスですら見た事もない程の、滑らかな『魔』のコントロール。大魔王シスはその神髄をあっさりと見せつけた。

 敵が動き始めたのを見たシスは、ゆっくりと背後に居るディアトロスに目を向ける。その眼差しはこう告げているようだった。

 ――

 ……
 ……
 ……
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