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別世界の『理』編
446.二つの世界の魔法の理
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ソフィがサイヨウ・サガラと話を終えて屋敷に戻ると、リーネ達が出迎えてくれた。
まだレアは眠りについたままだと言うが、どうやら命に別状はなく安静にしていれば時期に目が覚めるだろう。
リビングで一通りリーネ達と話した後にソフィは、ブラストを連れて自室へと戻ってきた。話があると言われたブラストは、真剣な面持ちでソフィの言葉を待つ。
「ブラストよ、我は一刻も早くアレルバレルへ戻らねばならぬ」
「分かっております! 組織の連中はこの手で破壊せねばなりますまい」
「問題はどうやって『アレルバレル』の世界へ戻るかなのだがな……」
そこでソフィは大きく溜息を吐いた。
「違う世界の『理』を覚えて、フルーフの使う魔法を覚えるのが一番早いと思うがどうだ?」
ブラストは頷く。
「ユファですか?」
フルーフと同じ世界出身で『概念跳躍』を扱える者は、ソフィの配下に現在二人居る。
一人目は『フルーフ』から寵愛を受けて育ったフルーフの娘『レア』。そしてもう一人は『九大魔王』として、ソフィの配下となった『ユファ』である。
別の世界の『理』は、ある程度の波長が合う簡単な魔法であれば、僅かな期日で覚えられる事があるが『概念跳躍』は少なくとも数千年は覚えるのに、時間を要する程の『時魔法』であろう。
しかしそんなに時間を掛けてはいられない。
『アレルバレル』の世界では今もディアトロス達が組織の連中と戦い続けているだろう。
ソフィは死ぬ気で魔法を覚えるため、ユファとレアから直接『理』を学ぶ決心をするのだった。
「しかしこうなると分かっていれば、あの時のマジックアイテムを『イリーガル』達に渡さず、全て私が持っておくべきでした」
「何? お主をこの世界に飛ばしたマジックアイテムは、他にもまだあるのか?」
「ええ。ディアトロス殿を救い出す時に、城の一室に厳重に『結界』が張ってある部屋がありまして、そこに私をこの世界に跳ばしたマジックアイテムが『三つ』ほどありました」
「組織の者達が生み出したマジックアイテムなのかもしれぬな。それで残りは『ディアトロス』達が持っておるのか?」
「そうです。しかし皆効果は分かっては居ないでしょう」
分かっていればすぐに伝えて使わせるところだったが『念話』が通じない別世界ではどうする事も出来ない。
「それこそ『ユファ』に『アレルバレル』の世界へ跳んでもらって、ディアトロス殿達に伝えてもらうというのはどうでしょうか?」
「いや、それはだめだな『ディアトロス』程の魔王を捕まえる程の奴らだ。ユファやレアを単身で向かわせるのは危なすぎる」
「そうですね。しかしやはりそうなると『理』を理解せねばなりませんな」
ソフィは『理』を覚えるという発想は持っていたが、時間が掛かりすぎると諦めて他の選択肢を探っていたが、サイヨウが言っていた一つ一つの可能性を試すの言葉を受けて、実践しようと試みるのだった。
「明日一番に我は『ユファ』の居る『レイズ』魔国の方に向かうが、お主にその間この屋敷を頼みたいのだが……」
「勿論構いませんよ、ソフィ様! 万が一あの大魔王ヌーが来たとしても私が破壊して見せましょう」
「頼んだぞ」
「御意!」
…………
話し合いを終えた後、ブラストは自室へ戻っていった。
「簡単にはいかぬだろうが、何もしなければ始まらぬからな」
ソフィは『レパート』の『理』を覚える決心をするのだった。
次の日の朝。早速ソフィは『ユファ』に『念話』を飛ばして、時間を作ってもらい事情を話すのであった。
ユファはソフィの事情を聞いて、快く引き受けてくれた。そして現在はレイズ城の最上部にある『シス』の部屋に集まるのだった。
「いきなりですまなかったな」
ソフィはユファとシスにそう言うと、笑みを向けてくれた。
「気にしないで下さい。それにしてもあの子が襲われたというのは驚きました」
ソフィはユファに心配はないと前日に伝えておいたが、それでもユファはその場に居なかった事で悔しさを顔に滲ませていた。
「組織の者達はどうやら我が『アレルバレル 』へ戻るのを何としても防ぎたいようだな。そのためにお主やレアのように『概念跳躍』を使える者達を狙っていると我は思っている」
「成程。しかし『概念跳躍』は同じ『理』を扱う『レパート』の世界の私達でさえ覚えるのが難しい魔法です。
ソフィ様達『アレルバレル』の世界の方達が、私達の世界の『理』を覚える事は相当の時間を要すると思います」
ユファは本音をソフィに告げる。
「それも分かっておる。まずは一度『レパート』の理で簡単な魔法を使ってみてくれぬか?」
「ええ、分かりました」
そう言うと『ユファ』は『レパート』の『理』を使って、中級魔法の『炎の連矢』を発動させる。
ソフィは発動された魔法より、その前過程の『理』を生み出す刻印に注目する。
「全く字が読めぬ上に、費やす魔力から魔法の発動までが全然違うのだな」
「そうですね。魔力回路に魔力を供給する点までは同じなのですが、発動までの段階が違います」
「ふむ。続けてくれ」
ソフィの先を促す言葉を聞き、ユファは頷く。
「まず『魔法』を発動するための魔力回路に魔力を灯すイメージは変わりません」
そう言って再び右手に魔力を集約させて、ユファは魔力回路に魔力を灯し始める。
「この時点で魔力回路に魔力がある状態ですが、ここで『レパート』の『理』では、魔力を全身に行き渡らせず、先に頭に使う魔法を思い浮かべます」
「ふむ……」
この時点で『アレルバレル』の魔法の発動の仕方とは大きく変わっている。アレルバレルの世界の『理』では、魔力回路に魔力を灯した後に自身の周囲に供給した魔力を空気に交わらせて、魔法発動までの道筋を作る。
自身の魔力を魔法発動の潤滑油として扱い、周囲の空気と混ぜ合わせた後に全身に魔力を行渡らせて最後に使う魔法をイメージする。
順序が何から何まで違う上に、どうやら『レパート』の世界の『理』では、先に魔法を思い浮かべるため、魔力の維持をどの場所で待機させるかが難しい。
ここに火力増強などを目的とした『詠唱』を始めるとなると、魔力の行き場で更に悩む事になるだろう。
「頭にイメージした魔法を具現化させるため、魔力回路から魔力を少しずつ開放して自らの使う魔法のイメージを詠唱に乗せながら、全身に魔力を行渡らせます。そして魔法発動の準備が整った後に狙う箇所を見定めて放ちます!」
――中位魔法『炎の連矢』。
ユファは室内で放った炎の連矢を発動と同時にすぐに消し去る。
「ひとまず『レパート』の基本の『理』を使った魔法は、こういった発動の仕方となります」
ソフィはユファの言葉に、頷きを見せる。
聞いているだけであれば、そこまで難しくはなさそうに見えたためにソフィは、今度は自分が使うという合図をユファに送る。
「そうですね。ではまず私が『結界』を張りますので、結界内で超越までの魔法を色々試してみて下さい」
「うむ、分かった」
ソフィはユファに言われた通りに、レパートの世界の『理』の順序を口に出しながら発動してみせる。
「まず魔力回路に魔力を供給する。そして使う魔法を先に頭で思い浮かべ……」
しかしそこでソフィは無意識に魔力回路に供給した『魔力』を周囲の空気に交わらせてしまう。
――ユファはそこで誤りに気づいたが、都度訂正をせずにそのまま成り行きを見守る。
「そしてイメージした魔法を具現化させるため、魔力を開放して詠唱をしてそこで『スタック』させた我の魔力を魔法に乗せる……」
――中級魔法、『炎の連矢』。
ソフィの魔力によって生み出された魔法は、成功してユファの結界に閉ざされて消えた。
「むっ? 失敗か……」
魔法発動時の魔法陣の刻印は、アレルバレルの世界の『理』を用いた刻印だった。
「そうですね。失敗の原因は魔法を脳内で浮かべた後に、ソフィ様の『魔力』が周囲に漏れ出ていた事が原因で、レパートの『理』の条件より、アレルバレルの『理』の条件が優先されて発動されたようです」
同じ規模の魔法、同じ魔力で発動出来る同一魔法であっても『理』が違えば、その世界の特色が出て刻印に刻まれる。
『レパート』や『リラリオ』の世界であれば、中位魔法として発動される『炎の連矢』だったが、ソフィの発動した『炎の連矢』は、アレルバレルでいう『中級魔法』として発動されてしまった。
「何千年も無意識に魔法を使ってきた経験が邪魔をしておるな。簡単な仕組みだと思ったが、染みついた魔法発動を変えるのは難しい」
ソフィは『理』の違う魔法の発動が、予想以上に難しい事に気づき表情を曇らせる。
奇しくも今ソフィが悩んでいる事は、数千年前のレアが精霊族を滅ぼす前に悩んだ事であった。
この世界に生きる魔族達は、当然リラリオの精霊族の『理』でしか魔法を使う事が出来なかった。
だからこそ『精霊族』を滅ぼすとなると『理』そのものが消えてしまい、この世界では、魔法を使えなくなってしまうのと同義であった。
レアの世界の『理』を一から教えるには膨大な時間を要する。
だからこそ、過去のレアはこの世界の精霊族に報復をするか、それともこの世界の魔族達のために、精霊族を生かしておくかの二択に迫られてしまったのであった。
(※第330話『同胞の魔族の為に悩むレア』)
「そうなんですよね。一からその世界の魔法を覚えるのと、元々使っていた『理』とは別の『理』を使った魔法では全く別物となりますし、今はまだ簡単な魔法ですから、発動自体は練習すれば、すぐに扱えるようになるとは思いますが、これが『超越魔法』や『神域魔法』更には『時魔法』と難度が変わっていけば更に集中や意識が変わります」
戦闘中に使う魔法でなくても『理』が変わればこれ程難しいのだ。
相手が居て戦いの中で、知略や相手との距離感を測りながら、戦うともなれば『理』が違う世界の魔法はどれ程に難しいだろうか。
――ユファが『シス』を天才だと思う点の一つはここであった。
シスは戦闘中に無詠唱で複数の魔法を扱える。
それだけならば、膨大な魔力を持っている彼女だからこそ出来るのだと判断ができるが、実際にはそれだけではなく、その同時に複数の魔法を扱う時に、世界の違う『理』が交ざった魔法を、同時に扱っているのである。
――そんな事は如何に膨大な魔力を持つ魔族であっても難しい。
『最強』の大魔王であり、膨大な魔力を持つシスと比較しても遥かに上を行くソフィであっても、初めての試みからスタートする以上、慣れるのには時間が掛かる事は否めない。
「ユファよ、一度お主の『概念跳躍』を我らの世界の『理』で発動してみてくれぬか?」
ふとソフィはユファに『アレルバレル』の『理』を用いて発動して貰う事を思いつく。
「すみません、【概念跳躍】は『炎の連矢』のように簡単な魔法ではないために私では不可能です。フルーフ様が居れば『概念跳躍』の魔法を別世界の『理』用に作り替えて、一から『魔』の構築をし直す事が可能なのでしょうが『概念跳躍』を使える私でも流石に、別の『理』に置き換えて使う事は出来ません」
単に同じ魔法を別の世界の『理』で、発動するわけではないため、ユファにあっさりと難しいと告げられてしまうのだった。
「そうなのか。ではやはり我が『レパート』の『理』を覚えて順序良く覚えて行くしかないか」
「すみません。私がもっと強ければ……」
ソフィの期待に応えられなかったユファは俯きながら申し訳なさそうに謝罪する。
どうやらユファは自分が『九大魔王』としてもっと、相応しい力を有していれば『アレルバレル』に残っている仲間達に伝達に行けるのにと考えるのだった。
「何を言うか。決してお主のせいではないのだから、謝らなくてよい」
「はい……」
少しの沈黙の後に再びソフィ達は、魔法の練習に取り掛かるのであった。
……
……
……
初日の練習を終えたソフィとユファが屋敷へと戻っていった後、シスはユファの世界の『理』の説明を思い返しながら自身も魔法の練習をするのだった。
まだレアは眠りについたままだと言うが、どうやら命に別状はなく安静にしていれば時期に目が覚めるだろう。
リビングで一通りリーネ達と話した後にソフィは、ブラストを連れて自室へと戻ってきた。話があると言われたブラストは、真剣な面持ちでソフィの言葉を待つ。
「ブラストよ、我は一刻も早くアレルバレルへ戻らねばならぬ」
「分かっております! 組織の連中はこの手で破壊せねばなりますまい」
「問題はどうやって『アレルバレル』の世界へ戻るかなのだがな……」
そこでソフィは大きく溜息を吐いた。
「違う世界の『理』を覚えて、フルーフの使う魔法を覚えるのが一番早いと思うがどうだ?」
ブラストは頷く。
「ユファですか?」
フルーフと同じ世界出身で『概念跳躍』を扱える者は、ソフィの配下に現在二人居る。
一人目は『フルーフ』から寵愛を受けて育ったフルーフの娘『レア』。そしてもう一人は『九大魔王』として、ソフィの配下となった『ユファ』である。
別の世界の『理』は、ある程度の波長が合う簡単な魔法であれば、僅かな期日で覚えられる事があるが『概念跳躍』は少なくとも数千年は覚えるのに、時間を要する程の『時魔法』であろう。
しかしそんなに時間を掛けてはいられない。
『アレルバレル』の世界では今もディアトロス達が組織の連中と戦い続けているだろう。
ソフィは死ぬ気で魔法を覚えるため、ユファとレアから直接『理』を学ぶ決心をするのだった。
「しかしこうなると分かっていれば、あの時のマジックアイテムを『イリーガル』達に渡さず、全て私が持っておくべきでした」
「何? お主をこの世界に飛ばしたマジックアイテムは、他にもまだあるのか?」
「ええ。ディアトロス殿を救い出す時に、城の一室に厳重に『結界』が張ってある部屋がありまして、そこに私をこの世界に跳ばしたマジックアイテムが『三つ』ほどありました」
「組織の者達が生み出したマジックアイテムなのかもしれぬな。それで残りは『ディアトロス』達が持っておるのか?」
「そうです。しかし皆効果は分かっては居ないでしょう」
分かっていればすぐに伝えて使わせるところだったが『念話』が通じない別世界ではどうする事も出来ない。
「それこそ『ユファ』に『アレルバレル』の世界へ跳んでもらって、ディアトロス殿達に伝えてもらうというのはどうでしょうか?」
「いや、それはだめだな『ディアトロス』程の魔王を捕まえる程の奴らだ。ユファやレアを単身で向かわせるのは危なすぎる」
「そうですね。しかしやはりそうなると『理』を理解せねばなりませんな」
ソフィは『理』を覚えるという発想は持っていたが、時間が掛かりすぎると諦めて他の選択肢を探っていたが、サイヨウが言っていた一つ一つの可能性を試すの言葉を受けて、実践しようと試みるのだった。
「明日一番に我は『ユファ』の居る『レイズ』魔国の方に向かうが、お主にその間この屋敷を頼みたいのだが……」
「勿論構いませんよ、ソフィ様! 万が一あの大魔王ヌーが来たとしても私が破壊して見せましょう」
「頼んだぞ」
「御意!」
…………
話し合いを終えた後、ブラストは自室へ戻っていった。
「簡単にはいかぬだろうが、何もしなければ始まらぬからな」
ソフィは『レパート』の『理』を覚える決心をするのだった。
次の日の朝。早速ソフィは『ユファ』に『念話』を飛ばして、時間を作ってもらい事情を話すのであった。
ユファはソフィの事情を聞いて、快く引き受けてくれた。そして現在はレイズ城の最上部にある『シス』の部屋に集まるのだった。
「いきなりですまなかったな」
ソフィはユファとシスにそう言うと、笑みを向けてくれた。
「気にしないで下さい。それにしてもあの子が襲われたというのは驚きました」
ソフィはユファに心配はないと前日に伝えておいたが、それでもユファはその場に居なかった事で悔しさを顔に滲ませていた。
「組織の者達はどうやら我が『アレルバレル 』へ戻るのを何としても防ぎたいようだな。そのためにお主やレアのように『概念跳躍』を使える者達を狙っていると我は思っている」
「成程。しかし『概念跳躍』は同じ『理』を扱う『レパート』の世界の私達でさえ覚えるのが難しい魔法です。
ソフィ様達『アレルバレル』の世界の方達が、私達の世界の『理』を覚える事は相当の時間を要すると思います」
ユファは本音をソフィに告げる。
「それも分かっておる。まずは一度『レパート』の理で簡単な魔法を使ってみてくれぬか?」
「ええ、分かりました」
そう言うと『ユファ』は『レパート』の『理』を使って、中級魔法の『炎の連矢』を発動させる。
ソフィは発動された魔法より、その前過程の『理』を生み出す刻印に注目する。
「全く字が読めぬ上に、費やす魔力から魔法の発動までが全然違うのだな」
「そうですね。魔力回路に魔力を供給する点までは同じなのですが、発動までの段階が違います」
「ふむ。続けてくれ」
ソフィの先を促す言葉を聞き、ユファは頷く。
「まず『魔法』を発動するための魔力回路に魔力を灯すイメージは変わりません」
そう言って再び右手に魔力を集約させて、ユファは魔力回路に魔力を灯し始める。
「この時点で魔力回路に魔力がある状態ですが、ここで『レパート』の『理』では、魔力を全身に行き渡らせず、先に頭に使う魔法を思い浮かべます」
「ふむ……」
この時点で『アレルバレル』の魔法の発動の仕方とは大きく変わっている。アレルバレルの世界の『理』では、魔力回路に魔力を灯した後に自身の周囲に供給した魔力を空気に交わらせて、魔法発動までの道筋を作る。
自身の魔力を魔法発動の潤滑油として扱い、周囲の空気と混ぜ合わせた後に全身に魔力を行渡らせて最後に使う魔法をイメージする。
順序が何から何まで違う上に、どうやら『レパート』の世界の『理』では、先に魔法を思い浮かべるため、魔力の維持をどの場所で待機させるかが難しい。
ここに火力増強などを目的とした『詠唱』を始めるとなると、魔力の行き場で更に悩む事になるだろう。
「頭にイメージした魔法を具現化させるため、魔力回路から魔力を少しずつ開放して自らの使う魔法のイメージを詠唱に乗せながら、全身に魔力を行渡らせます。そして魔法発動の準備が整った後に狙う箇所を見定めて放ちます!」
――中位魔法『炎の連矢』。
ユファは室内で放った炎の連矢を発動と同時にすぐに消し去る。
「ひとまず『レパート』の基本の『理』を使った魔法は、こういった発動の仕方となります」
ソフィはユファの言葉に、頷きを見せる。
聞いているだけであれば、そこまで難しくはなさそうに見えたためにソフィは、今度は自分が使うという合図をユファに送る。
「そうですね。ではまず私が『結界』を張りますので、結界内で超越までの魔法を色々試してみて下さい」
「うむ、分かった」
ソフィはユファに言われた通りに、レパートの世界の『理』の順序を口に出しながら発動してみせる。
「まず魔力回路に魔力を供給する。そして使う魔法を先に頭で思い浮かべ……」
しかしそこでソフィは無意識に魔力回路に供給した『魔力』を周囲の空気に交わらせてしまう。
――ユファはそこで誤りに気づいたが、都度訂正をせずにそのまま成り行きを見守る。
「そしてイメージした魔法を具現化させるため、魔力を開放して詠唱をしてそこで『スタック』させた我の魔力を魔法に乗せる……」
――中級魔法、『炎の連矢』。
ソフィの魔力によって生み出された魔法は、成功してユファの結界に閉ざされて消えた。
「むっ? 失敗か……」
魔法発動時の魔法陣の刻印は、アレルバレルの世界の『理』を用いた刻印だった。
「そうですね。失敗の原因は魔法を脳内で浮かべた後に、ソフィ様の『魔力』が周囲に漏れ出ていた事が原因で、レパートの『理』の条件より、アレルバレルの『理』の条件が優先されて発動されたようです」
同じ規模の魔法、同じ魔力で発動出来る同一魔法であっても『理』が違えば、その世界の特色が出て刻印に刻まれる。
『レパート』や『リラリオ』の世界であれば、中位魔法として発動される『炎の連矢』だったが、ソフィの発動した『炎の連矢』は、アレルバレルでいう『中級魔法』として発動されてしまった。
「何千年も無意識に魔法を使ってきた経験が邪魔をしておるな。簡単な仕組みだと思ったが、染みついた魔法発動を変えるのは難しい」
ソフィは『理』の違う魔法の発動が、予想以上に難しい事に気づき表情を曇らせる。
奇しくも今ソフィが悩んでいる事は、数千年前のレアが精霊族を滅ぼす前に悩んだ事であった。
この世界に生きる魔族達は、当然リラリオの精霊族の『理』でしか魔法を使う事が出来なかった。
だからこそ『精霊族』を滅ぼすとなると『理』そのものが消えてしまい、この世界では、魔法を使えなくなってしまうのと同義であった。
レアの世界の『理』を一から教えるには膨大な時間を要する。
だからこそ、過去のレアはこの世界の精霊族に報復をするか、それともこの世界の魔族達のために、精霊族を生かしておくかの二択に迫られてしまったのであった。
(※第330話『同胞の魔族の為に悩むレア』)
「そうなんですよね。一からその世界の魔法を覚えるのと、元々使っていた『理』とは別の『理』を使った魔法では全く別物となりますし、今はまだ簡単な魔法ですから、発動自体は練習すれば、すぐに扱えるようになるとは思いますが、これが『超越魔法』や『神域魔法』更には『時魔法』と難度が変わっていけば更に集中や意識が変わります」
戦闘中に使う魔法でなくても『理』が変わればこれ程難しいのだ。
相手が居て戦いの中で、知略や相手との距離感を測りながら、戦うともなれば『理』が違う世界の魔法はどれ程に難しいだろうか。
――ユファが『シス』を天才だと思う点の一つはここであった。
シスは戦闘中に無詠唱で複数の魔法を扱える。
それだけならば、膨大な魔力を持っている彼女だからこそ出来るのだと判断ができるが、実際にはそれだけではなく、その同時に複数の魔法を扱う時に、世界の違う『理』が交ざった魔法を、同時に扱っているのである。
――そんな事は如何に膨大な魔力を持つ魔族であっても難しい。
『最強』の大魔王であり、膨大な魔力を持つシスと比較しても遥かに上を行くソフィであっても、初めての試みからスタートする以上、慣れるのには時間が掛かる事は否めない。
「ユファよ、一度お主の『概念跳躍』を我らの世界の『理』で発動してみてくれぬか?」
ふとソフィはユファに『アレルバレル』の『理』を用いて発動して貰う事を思いつく。
「すみません、【概念跳躍】は『炎の連矢』のように簡単な魔法ではないために私では不可能です。フルーフ様が居れば『概念跳躍』の魔法を別世界の『理』用に作り替えて、一から『魔』の構築をし直す事が可能なのでしょうが『概念跳躍』を使える私でも流石に、別の『理』に置き換えて使う事は出来ません」
単に同じ魔法を別の世界の『理』で、発動するわけではないため、ユファにあっさりと難しいと告げられてしまうのだった。
「そうなのか。ではやはり我が『レパート』の『理』を覚えて順序良く覚えて行くしかないか」
「すみません。私がもっと強ければ……」
ソフィの期待に応えられなかったユファは俯きながら申し訳なさそうに謝罪する。
どうやらユファは自分が『九大魔王』としてもっと、相応しい力を有していれば『アレルバレル』に残っている仲間達に伝達に行けるのにと考えるのだった。
「何を言うか。決してお主のせいではないのだから、謝らなくてよい」
「はい……」
少しの沈黙の後に再びソフィ達は、魔法の練習に取り掛かるのであった。
……
……
……
初日の練習を終えたソフィとユファが屋敷へと戻っていった後、シスはユファの世界の『理』の説明を思い返しながら自身も魔法の練習をするのだった。
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異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
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屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
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せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
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