最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

文字の大きさ
上 下
437 / 1,966
ルードリヒ国王の指名依頼編

426.出発、ルードリヒ王国へ

しおりを挟む
 リマルカがソフィの屋敷に泊まった次の日の朝。ソフィがリビングに向かうと、もうリーネが朝食の準備をしていた。

「あら? もう起きてきたのね」

「うむ、今日はルードリヒへ向かう日なのでな」

「そうだったわね。それにしてもソフィを呼ぶために王様がギルドに指名依頼するなんてね。どういう内容なのか気になるわ」

 リーネは朝食をソフィの前に並べながら、ソフィの横に座る。

「ルードリヒの国王は『ヴェルマー』大陸のギルドの運営を行う上で、相当の出資をしてもらっておるしな。一度会って礼を言っておきたいとは思っていたから、まぁ今回はいい機会ではあったな」

「それも実はソフィに会うための口実だったりしてね」

「一国の国王がともあろう者が、いち冒険者のためにそこまでするとは思えぬが」

 ソフィがそう言うと、リーネは溜息を吐いた。

「分かってないわね。貴方は『ミールガルド』大陸の英雄で、この『ヴェルマー』大陸にある『ラルグ』という大国の国王なのよ? それにケビン王国から褒章を授かった貴方を見て、ルードリヒ王国としても貴方と何か繋がりを持っておきたいと考えるのは、当然のことだと思うけど」

 言い得て妙なリーネの言葉にソフィは黙って頷いた。

(そういえばそういうモノかもしれないな)

「まあ行ってみない事には分からぬが、そちらもブラスト達を頼むぞ?」

 ブラストがこの屋敷に暮らすようになってから、ソフィとリーネの言う事だけは聞いているが、それでもであるため、ソフィが不在の時は『リーネ』が手綱を握っていなければならなかった。

 リーネがソフィを愛しているという事に偽りはないが、そんな事は一度もブラストの前で告げた事はないにも拘らず、ブラストはリーネという人間を認めていた。

 どうやら過去のソフィを知るブラストにとって、ソフィが無意識にここまで気を許している『リーネ』という存在には、思うところがあったのだろう。

 ソフィもまたリーネとは添い遂げても構わないとは思っているために、ブラストがリーネを尊重している今の状況は決して悪くはなかった。

「ええ、あなたも気を付けて行ってきてね」

 そう言って横に居るソフィの頬に、キスをするリーネだった。

 ……
 ……
 ……

 その様子をこっそり廊下から覗いている者達が居た。

「ねぇねぇキーリ、今日もあの二人は朝からキスしてるよ」

「ああ。俺も一緒に住むようになってから何度か確認しているが、もうあの二人は夫婦みたいなもんだよな」

「もう結婚しちゃえばいいのにね」

 キーリとレアがひそひそとそんな事を話していると、背後から声が掛けられる。

「俺も賛成だ。ソフィ様にはあのようにしっかりしている『リーネ』さんのような女性が似合っている」

 そう言って二人の会話に参加するのは、大魔王『ブラスト』であった。

 ブラストがこの世界に来た直後は『ソフィ』に馴れ馴れしい態度で接していたリーネに複雑な感情を持っていたが、何よりもソフィの事を考えて行動をするリーネを毎日見ている内に、いつしかブラストは『人間』であるリーネを認めていた。

「あんたって本当に信じられないくらいに、ソフィ様の事を気に入っているわよね?」

 ソフィの事になれば目の色が変わるブラストに対してレアがそう告げると、彼は当然だとばかりに頷いた。

「俺はあの人にを救われたからな。あの方には生涯の忠誠を誓っている」

 レアはその言葉を聞いて、自分がフルーフ様に対して想っている感情に似ていると思った。

 そしてそんな近しい感情を持つブラストに、レアは少しだけ興味を持ち始めるのだった。

 ……
 ……
 ……

 ソフィの『高等移動呪文アポイント』によって、ユファとリマルカは一瞬でミールガルドの地『ケビン王国』付近の平地に降り立った。

 ルードリヒ王国に行った事がないソフィは、この場所か『グラン』か『サシス』といった場所に運ぶしかなかったのだった。

「あれだけ苦労した道のりが、ソフィの魔法では一瞬か。何だか同じ『魔法使い』として、俺は自信を失くしてしまうな……」

 リマルカはこんな移動魔法を当たり前のように使われたとあっては、とは、口が裂けても言えないなと肩をがっくりと落とすのであった。

「そんなことはないぞ、リマルカよ。我はお主の『風魔法』を対抗戦で見た時、お主には才があると考えたからな。強くなりたければ、お主は風の魔法に魔力を費やして研鑽を怠らぬことだな」

 まさかソフィが自分を褒めてくれるとは思っていなかったリマルカは、言いようのない興奮が自分の中に湧き立ってくるのだった。

「ソフィ様がいきなり褒める程なんてね。リマルカさんって言ったかしら? 貴方は今より絶対に強くなれるわよ。私も負けないようにしないと」

 そう言ってユファがリマルカにウインクをする。

「あ、ああ……! 二人ともありがとう。今より必ず強くなってみせると約束するよ!」

 ここまでのどんよりとした目ではなく、キラキラと輝かせながらAランク魔法使い『リマルカ』は、二人に何度も頷くのだった。

「うむ。楽しみにしておるぞ! しかしだからといって急激な無理はせぬようにな?」

「ああ、もちろんだ! しかしソフィ。どうしてルードリヒ王国ではなく、ケビン王国に来たのかを教えてもらってもいいか?」

「うむ。我は『ルードリヒ』王国へは行ったことがないからな。ひとまず『ミールガルド』大陸の知っている場所へ来たのだ」

「そういう事か。それならば徒歩だと少しばかりかかるが、このまま馬車便を探すか?」

「馬車便……? それは一体何なのですか?」

 ユファは馬車便を知らないため、その聞きなれない言葉に何かと尋ねるのだった。

「そういう商いをする者がいてな。御者に行先を告げれば、馬に乗せて運んでくれるのだ」

 ソフィが説明をすると、ユファは驚いた表情を浮かべる。

「なるほど。馬を使って人を運ぶというわけですか。しかしそれならば飛んで行った方が早いのでは?」

「うむ。しかしこの世界では人も中々空を飛ぶことが出来ぬのだ。だからこそ『リマルカ』は徒歩で我の所まできたのだしな」

「不思議な話ですよね。一般の人間は別にしても『魔法使い』達は魔法を使うだけの『魔力』は持ち合わせているのですから、しっかりと『魔力』をコントロールすれば空を飛べる筈なのですが」

 確かに『魔力』を使うという観点から見れば『魔法』を使うのも『浮遊』するのも当たり前のように両方使える魔族達からすれば、同じようなモノだと思えるために不思議に思うかもしれない。

 しかし人間達の意識の中の『魔法』は幼少期の教育の中で『四元素』の『ことわり』をある程度習うために、ある程度『魔力』を有している者達は、その精霊達の『ことわり』を用いて少しずつ大人になる過程で低位の魔法であれば直ぐに使えるようになるが、それはあくまで魔法書や題材となる教科書のようなモノをなぞって知識として取り入れて使っているだけに過ぎない。

 しかし『浮遊』は教科書や魔法書を暗記したりするだけで出来るモノではなく、自分の中に宿る『魔力」のコントロールを身体で覚えて行くしかなく、そういった訓練や研鑽を常に積み重ねていかなくてはならず、教科書を見ただけで空を飛べるような真似は不可能なのであった。

 魔法が使えるある程度『魔』を修めている『賢者』なりを指導者として雇い、幼少期から『義務』として、今後『ミールガルド』大陸で子供達が教わるような、そういった教育機関が作られるようになれば、誰もが『魔法』を扱う魔法使いのように『浮遊』を伴って空を飛べるようになる未来もくるかもしれないが、現状の『ミールガルド』大陸の人間の大人達は、そんな教育機関を作るようなつもりもなく、また考えついてすらいないであろう。

「さてリマルカよ。我がお主を運ぶから『ルードリヒ』王国を案内してくれるか?」

「ああ。それは構わないが、ここから結構離れているが大丈夫なのか?」

「安心するがよい。我の肩にしっかり掴まっておるのだ」

 こうしてソフィ達は『リマルカ』が方角を示したほうに、向かって『浮遊』を始めるのであった。

 ……
 ……
 ……

 そしてあっという間に『ケビン』王国から『ルードリヒ』王国領まで空を飛んで移動するソフィ達であった。

「ソフィ。停まってくれ! ここからはもうルードリヒ領だ」

「む、分かった。ユファよ降りるぞ」

「はい」

 地面に降り立った直後に、リマルカはその場で座り込む。

「お主、大丈夫か?」

「あ、ああ大丈夫だ。僅かな時間であれば少しだけ空に浮き上がる事は俺にも出来るんだが、まさかあんな速度で飛ばれるとは思わなかったのでな……」

 ソフィはリマルカを考慮してここまで速度を緩めて飛んでいたのだが、それでもリマルカにはまだ速く感じられた様子であった。

「本来『クッケ』の街から大きな山を越えてようやくここ『リルバーグ』に辿り着けるのだが、それでも『ケビン』王国からここまで『馬車便』であっても半月はかかるんだがな……」

 僅か数分でケビン王国領から、ルードリヒ王国領の『リルバーグ』まで来た事に驚くリマルカだった。

「ここが『リルバーグ』か。確かかつて『スイレン』が居た故郷だったか?」

「知っていたのか? 昔は影忍と呼ばれた者達の里だったのだがな。今では『ルードリヒ』王国領土の一つの町になっている」

「ここからはもう目と鼻の先に『ルードリヒ』王国の首都があるが、今日はここに泊まるか?」

 リマルカがそう提案するが、ソフィは少し考えた後に首を横に振るのだった。

「いや。我は出来れば今日中には『ルードリヒ』の国王に会っておきたいのだ」

「分かった。それならばもう行こうか。王国はもう少し先だ」

 リマルカがそう説明した時、ソフィとユファは同時に『クッケ』と『リルバーグの』境にある山の方角を見る。

「ん? 二人共急にどうしたんだ?」

 突然二人が同じ方角に視線を向けたので、リマルカもつられて山の方を見る。

「いや、何でもない」

「……」

「?」

 ソフィがユファを一瞥すると、ユファもソフィに頷きを見せるのだった。

「まぁ、何もないならいいんだけど、急に二人が同時に同じ方角を見たからびっくりしたぞ?」

「いやいやすまぬな。何やら勘違いだったようだ」

 どうやらそれ以上はこの話題をするつもりはないようで、ソフィは再び『浮遊』の準備を始めるのであった――。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...