上 下
388 / 1,906
煌聖教団誕生編

378.互いの主張のズレと噛み合わない話

しおりを挟む
「私が数十年程度でリーシャに抜かれると言ったわね? 確かに五歳にして『最上位魔族』の戦力値を持っているのは認めるけど、それでも百年に満たない時間で『』はおろか『青』すら得る事は難しいと思うけどぉ?」

 リラリオの世界では当然の事、更に魔族の全体のレベルが高い故郷の『レパート』の世界ですら、百歳程度の子供では『』に至るのは至難である。

 それを目の前のバルドは『に居るレアを見て越える可能性があると言うのである。

 苦労して真面目に研鑽を続けてきたレアにとっては、それは許しがたい侮辱である。たとえ冗談で言ったのだとしても決してレアは許せない。

「そんな小手先な技術を覚えるのであれば、確かに時間を要するでしょうが、単に強くなるだけならば、そんなものに頼らなくてもいいと思いますがね」

「貴方本気で言っているの? 『』以上の戦闘で『青』やそれ以上のオーラを使わずに戦うなんて自殺行為だと思うのだけど」

「もちろん最終的にはオーラを使って戦う事は当たり前になってくるでしょうが、それ以前の話ですよ」

「それは基本戦力値となる部分を上げろという話かしらぁ?」

 それくらいの事はレアでも理解している。

 レアは今更そんな基礎的な話に付き合いたくはないという気持ちを抱きながら、バルドに向けて反論しようとする。

「ふーむ……。貴方はどうやらばかりが先んじてを理解していないようですな」

 溜息を吐くバルドに、再びレアは苛立ちを覚える。

「では簡単な質問をしますが、貴方は相手が自分よりも少しでも戦力値が高いと思えば、すぐに逃げるのですかな?」

「相手が自分より強いと思うのであれば、相手より強くなるまでは戦いを挑まないわねぇ」

「なるほど。貴方はで育てられたようですな」

 強くなる為のイロハや魔法の類は、幼き頃からフルーフに全て学んできた。それを甘いと告げるバルドにレアは反感を覚えてしまう。

「貴方は強さ以前に、のですよ」

「な、なんですって?」

 ――戦力値や魔力以前の話である。

 それこそ戦闘の基本の部分を指摘されるレアであった。

「まぁそこまで凝り固まった成長をしてしまっている以上、矯正は相当に難しいでしょうがね。我らの世界では戦争が始まれば、死は常に身近にあるのですよ。相手が強いと思ったら一度身をひいてなどと、この『アレルバレル』はそんな甘い話が通じる世界ではない」

 戦力値が相手より低かろうが高かろうが、戦争になれば相手は待ってくれない。戦うしかないのだとバルドは言っているのである。

「相手より力が劣っていようが魔力が足りてなかろうが、一度戦闘が始まれば工夫をして相手に勝たなければ死が待っているのです」

 レアはバルドが言いたいことが、なんとなく分かってきた。

 つまり相手より強くなるまで待つのではなく、相手に襲われても対応できるような戦い方を覚えろとそう告げているのだろう。

「魔力が自分より高い者が極大魔法を使えば『青』も使えない魔族はどう工夫をしたところでどうしようもないと思うのだけどぉ?」

「確かにそこまで差があるのであれば仕方がないでしょうな。私が言いたいのは相手が魔法に長けているのであれば、魔法を使わせないようにする。相手が物理に長けているのであれば、それを考慮して、距離を取るといった戦い方を普段から身につけておく事が重要だと申しているのです。相手が自分より魔力が上だから勝てない。相手が自分より強いから仕方ないというのは、逃げでしかないでしょう?」

「駄目ね。貴方が何を言いたいのか、よく分からないわぁ。相手が自分より強ければ、相手より強くならないとダメという事ではないのぉ?」

「そうですよ? 私が言いたい事と貴方が言いたい事は最終的には同じ事なのですが、その行きつくまでの過程の話をしているのです」

「貴方の持論を聞いていると少し工夫をすれば勝てるような少し格上の相手でさえ、今のままでは勝てないから、確実に勝てるまでは戦わないようにしよう。そのよう逃げ腰でいるように思えるのですよ」

 戦力値や魔力の数値で判断してしまっており、互角の戦いであっても数値で判断してしまい、大局を見過ごすとバルドは言いたいのだった。

「そうだとしてもね。それが数十年でリーシャが私に勝てるようになるという理由には、どうも結びつかないんだけど。戦力値が10億に近い今の私に、たった戦力値が1000万程度のあの子が、本当に貴方はこの短い期間で追いつけると思っているのかしら?」

「戦力値は追いつけないでしょうな。しかし戦闘で貴方に勝つ事は、不可能ではないと思います」

 互いの主張の論点がズレているために、両者の間で

 ――戦力値で追いつけないのに、戦闘になってどうやって勝てるというのだろうか?

 如何に策を弄したところで、強い力を持つ者に弱い者が勝てる筈がない。そのトータルを明確な数値で表す事が出来るのが『戦力値』の筈なのである。

 だが、目の前のバルドはその『戦力値』で負けている者が、戦闘で勝つことは不可能ではないと告げている。

 ――今のレアは全く理解が出来なかった。

「レアさん。一度エイネと戦ってみてはくれませんか? 私の言いたい事はそれで伝わると思います」

「ええ。それは構わないけど『エイネ』ではなくて、直接あなたが教えてくれないのかしら?」

 貴方バルドじかに教えてくれたらいいのにとばかりに、レアがそう告げるとバルドは嘲笑する。

「先程も言いましたがね。私が言いたいのはあくまでも戦闘の心構えの事なのですよ。私とあなたほどの差があれば、それはもう。そこは貴方の持論のように強くなるまで逃げるか、逃げられなければ戦って死ぬしかないでしょうな」

 バルドが言いたいのは相手の戦力値が少しでも自分より高ければ、相手より強くなるまで戦わないレアの特徴を指摘しており、その戦い方では僅差の相手と戦う場合の戦闘経験の差で不利になると言いたいのである。

 何もレアの言葉を全て否定しているわけではなく、レアとバルド程の差があればそれはもう戦いにすらならないために、差が少しでも縮まるまで強くなるしかない。そこではレアの持論は間違ってはいないのである。

 あくまで自分より少し上の相手と戦う場合でも圧倒的な差がある場合でも同じように、確実に勝てると判断するまで戦いを避けるという、そのレアの心構えを考え直させようというのであった。

 細かい事だと思うかもしれないが、その心構え一つで常に戦争があらゆるところで起きるこの『アレルバレル』の世界では、とても重要な事であり、更に言えばフルーフを追うとなれば、それを熟知している『組織』の者達と遅かれ早かれ戦う事となる。

 当然そんな事になればではどうにもならず、レアが八方塞がりになる未来がバルドにはあっさりと予想できたのであった。

「分かったわ。エイネと戦えばいいのね? そこで私がエイネと戦って勝てば『フルーフ』様を追いかけるために、貴方に色々と知っている事を話してもらいたいのだけど? それはいいかしらぁ?」

 レアはバルドのという言葉を逆手にとって、更にフルーフの情報を引き合いに交渉に出るのだった。

 相手の話に乗る代わりにこっちにも旨味が欲しいとばかりに、いつの間にか等価交換のような話に持っていくレアであった。

 話をすり替えていつの間にか相手にその気にさせるのが、非常に得意なレア特有の交渉術である。

 その本筋を理解しているバルドだったが、そのレアの企みを知った上で頷くバルドだった。

「ええ。それで構わぬよ。エイネに勝てる事があればワシはもう何も言わぬ。ワシが知っている事は貴方に全て話しましょう」

 バルドは余程の自信があるようで、それがレアは気に入らなかった。

「言ったわね? 屋敷で戦った時の力は全く本気ではなかったのよぉ? 私の本気の力を知ったらあなたは今までの発言を後悔することになるわよぉ!」

 レアの言葉に最後まで笑いを浮かべているバルドだった。

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...